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三章『世界旅行編』
第二十話『旅行へ出発』
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* (ホアイダ視点) *
今日は七月十七日、春休み三日目だ。
そして、母リリィ.ルト.ユスティシーの誕生日である。
昨夜、母が眠ったあと、私と父で誕生日パーティーの準備はほとんど終わらせた。
あとは飾りをし、ケーキを仕上げるだけなのだ。
午後5時まで、父が母を連れて買い物に行っている。
5時まで残り10分、準備万端だ。
「ホアイダ!入っても大丈夫か?」
買い物から帰ってきた父が、窓からひょっこり顔を出し、小さな声で言った。
「いつでも大丈夫です」
「分かった」
父が外で待っている母を迎えに行き、すぐに玄関のドアが開いた。
「ただいま――」
一本のクラッカーの紐を引っ張ると、天井、床、椅子、ポム吉の口に配置しておいたクッラカー計20本が同時に音を立てて爆ぜた。
「わあ!びっくりした~」
「「誕生日おめでとう!」」
足の悪い母は、父に手を借りて、玄関から出て来た。
クラッカーに驚くも、すぐに「ふふッ」と嬉しそうに笑う。
それを見た父は、笑顔で私に視線を送った。
「ありがとう二人とも」
「じゃあ、ご馳走にしようかッ」
その日の夜は楽しかった。
大きなマルゲリータピザが二つ、こんがりと焼かれた鳥の丸焼き、綺麗に並んだ多種多様なサンドイッチ、野菜と彩り良く並べられたローストビーフ、濃厚なカルボナーラ、日本では見ないような肉厚ある白いソーセージ、食べきれないご馳走だ。
おまけにケーキもあるのだ。
「ほんと美味しいわ!二人で作ったの?」
「はい。お父様と私で徹夜で作りました」
「ケーキに関してはホアイダ一人で作ったもんな」
「流石ホアイダだわ!」
「へへッ」
いつも部屋や寝たきりか、居間で座りっきりの母にとっては、今日はとても刺激のある素敵な一日だった。
言葉で言わなくても、表情がそれを語っている。
父も、母の様子を見て満足している。
「そういえば、明日よね?友達と旅行しに行くの」
「はい。明日の昼に出発です」
既に、父も母も、私がマレフィクスと旅行に行くことに了承してくれている。
「いーいホアイダ?生きて帰ること、これだけは約束して。国によっては、いつ命を落としてもおかしくない場所がいっぱいあるからね」
「分かっています。必ず帰ってきます」
旅行に行く理由、その一番の理由はマレフィクスと旅行に行きたいという単純な理由だ。
だが、それと同じくらい重視している理由がある。
それは、マレフィクスの監視だ。
マレフィクスがもし、エアスト村を壊滅させた『べゼ』だった場合、マレフィクスが何かを企んでいるからだ。
何か起こる前に、私が阻止しなくてはならない。
それに、マレフィクスはSランク冒険者エリオットと二人で、あのボーン.アダラを撃破している。
あれから、こっそりボーン.アダラの死体と戦いがあった場所を調べたが、不思議なことがあった。
不思議その一、洞窟に居たスライム。
スライムは基本平原に居る魔物であり、あの洞窟で発見されたことはない。
最初は、マレフィクスの能力で作られたスライムかと思ったが、あの日はマレフィクスの初クエスト。
平原に行ったことなんてないはずだし、エリオットの能力でもないことは調べが付いてる。
幼少期にスライムを見たことがあるのか分からないが、少し不可解だ。
不思議その二、洞窟にあった複数の大きな岩。
話によれば、ボーン.アダラの目覚めにより、洞窟が崩れたらしい。
そして、ボーン.アダラの居た洞窟の最下層には、大人より一回り大きい岩が計27個落ちていた。
誰もが、崩れ落ちた瓦礫だと思うだろうが、洞窟の岩や壁とは原料が違った。
つまり、27個の岩は、洞窟内にあった物では無かったのだ。
そして、さらに驚愕したのは、その岩の形、大きさ、原料、素材、全てがエアスト村に落ちていた岩と一致したことだ。
鳥肌が立った。
エアスト村の生き残り、ボーン.アダラの洞窟に居た者、どちらもマレフィクスだ。
岩があった地面は、村も洞窟も両方、岩が落とされたかのようにへっこんでいたことから、岩を落とす能力か魔法だろう。
べゼがマレフィクスじゃなくとも、べゼはこの力があると考えていいだろう。
マレフィクスが何者だろうと、疑いが深くなったのは確かだ。
疑いが深い以上、マレフィクスを野放しにする訳にはいかない。
今回の旅行で確信を持てれば良いのだが……。
出来れば、無実であって欲しい……友達のままでいたい。
* (マレフィクス視点)*
世界旅行に行こうと決心したのは、ギルドに登録する前のことだ。
そう、あれは確か六月当初のこと。
「ほ~ん、能力公開してる奴結構居るな」
この世界にも芸能人のような存在が居る。
映画という文化があるので、役者がハリウッドスターのようになるのは必然なことかもしれない。
その芸能人のような有名な人の中には、名前や年齢を公開するように、能力を公開している者も居る。
そして、ネットサイト『シノミリア』の中にも能力を公開している奴が何人も居る。
中には能力を商売にしている奴も大勢居る。
その中で僕が目を付けた奴。
そいつの能力こそ、僕が欲しい能力なのだ。
アカウント名『運び屋フォリア』、フォロワー8千人、顔は公開済み。
能力は『行ったことある場所に転移する能力』
この能力を使い、世界中で人間タクシーのようなことをしている。
住んでいる国は世界番号11『ニューデリー』。
しかし、地域や住所までは分からない。
ここからは個人メールで、仕事の依頼をして誘い込むしかないだろう。
* * *
七月十八日、時刻は12時。
「行ってきます、セスターさん」
「気を付けるんじゃぞ」
「はーい」
大きな荷物を背負い、ご機嫌で家を飛び出す。
天気は晴天で、出発に適した空だ。
この都市の入口は、東西南北、全部で四つある。
その一つである南の入口の門には、既にホアイダが来ていた。
荷物を背負い、相棒であるポム吉を手に持ち、恋してるような表情で空を眺めている。
「あっ!おはようございますマレフィクス」
こちらに気付いたようだ。
「おはよう」
「良い天気ですね」
「だね。僕にピッタリ」
「ふふッ」
ホアイダは、日に日に笑顔を見せるようになってきている。
今のように、まったく面白くないことも、軽く笑う。
「じゃあ、行くか」
「行く前に教えてくださいよ、旅行のルートを」
「南にある港まで行き、そこから船で魔の土地を目指す。詳しくは船で話すから、それまで楽しみにしてて」
「分かりました。楽しみにしてますよ」
僕らは、門から出てメディウムを後にすると、南に向かってしばらく歩いた。
数十分後、完全にメディウムから離れたのを確認し、足を止めた。
「どうしました?」
「歩いて港まで行くのには一日近く掛かってしまう。だが、馬なら22時に着くことができる。それに、歩きでは疲れ切ってしまう」
「まぁ、そうですが……馬なんて居ませんよ」
「作るんだよ」
僕はそう言って、荷物から大きな布を二つ取り出した。
その大きな布は一瞬で姿形を変え、馬二頭に化ける。
「なるほど、能力で……。ですが、私馬に乗ったことなんてありませんよ……。とても乗れるとは思えないのですが」
「簡単だ、姿勢を意識するんだよ。ほら、手伝うから乗ってみろ」
「わぁ!?いきなりは怖いです!ちょっと!」
僕の服を羽根に変え、ゆっくりと飛びながらホアイダを持ち上げて、ホアイダを馬の背中に乗っける。
ホアイダはビクついて、降りたそうにしている。
「恐怖を悟られるな。頭、肩、お尻、踵が一直線の姿勢を意識し、リラックスしろ。そして、自分が主人だという自覚を持て。ほら!馬に合わせず、馬を操れ!しっかりとつま先使え!」
馬が歩き始め、ホアイダが大きく揺れ、馬もホアイダも不安そうにする。
お互い、特にホアイダが慌てふためき、完全にパニックになっている。
「あぁ!?ちょっと!勝手に歩いてます!?止まってくださいよぉ!あっ!」
「あっ」
挙句の果て、馬に振り落とされ、頭から砂地に落下した。
ホアイダは涙目になり、今にも泣きだしそうな赤子のような表情になる。
「うぅ……」
「あーあー……泣かないでよ。泣いたら殴るからね」
「もっ、もう馬は嫌です」
「分かったよ。一頭には荷物を、もう一頭に僕ら二人一緒に乗ろう」
ホアイダは頭を押さえ、涙目になりながら僕の方を下から見上げた。
僕はため息を付き、馬に荷物を乗っけて、仕方なく医療道具を取り出す。
この旅行で心配事があるとすれば、ホアイダが付いてけるか……それだけだ。
今日は七月十七日、春休み三日目だ。
そして、母リリィ.ルト.ユスティシーの誕生日である。
昨夜、母が眠ったあと、私と父で誕生日パーティーの準備はほとんど終わらせた。
あとは飾りをし、ケーキを仕上げるだけなのだ。
午後5時まで、父が母を連れて買い物に行っている。
5時まで残り10分、準備万端だ。
「ホアイダ!入っても大丈夫か?」
買い物から帰ってきた父が、窓からひょっこり顔を出し、小さな声で言った。
「いつでも大丈夫です」
「分かった」
父が外で待っている母を迎えに行き、すぐに玄関のドアが開いた。
「ただいま――」
一本のクラッカーの紐を引っ張ると、天井、床、椅子、ポム吉の口に配置しておいたクッラカー計20本が同時に音を立てて爆ぜた。
「わあ!びっくりした~」
「「誕生日おめでとう!」」
足の悪い母は、父に手を借りて、玄関から出て来た。
クラッカーに驚くも、すぐに「ふふッ」と嬉しそうに笑う。
それを見た父は、笑顔で私に視線を送った。
「ありがとう二人とも」
「じゃあ、ご馳走にしようかッ」
その日の夜は楽しかった。
大きなマルゲリータピザが二つ、こんがりと焼かれた鳥の丸焼き、綺麗に並んだ多種多様なサンドイッチ、野菜と彩り良く並べられたローストビーフ、濃厚なカルボナーラ、日本では見ないような肉厚ある白いソーセージ、食べきれないご馳走だ。
おまけにケーキもあるのだ。
「ほんと美味しいわ!二人で作ったの?」
「はい。お父様と私で徹夜で作りました」
「ケーキに関してはホアイダ一人で作ったもんな」
「流石ホアイダだわ!」
「へへッ」
いつも部屋や寝たきりか、居間で座りっきりの母にとっては、今日はとても刺激のある素敵な一日だった。
言葉で言わなくても、表情がそれを語っている。
父も、母の様子を見て満足している。
「そういえば、明日よね?友達と旅行しに行くの」
「はい。明日の昼に出発です」
既に、父も母も、私がマレフィクスと旅行に行くことに了承してくれている。
「いーいホアイダ?生きて帰ること、これだけは約束して。国によっては、いつ命を落としてもおかしくない場所がいっぱいあるからね」
「分かっています。必ず帰ってきます」
旅行に行く理由、その一番の理由はマレフィクスと旅行に行きたいという単純な理由だ。
だが、それと同じくらい重視している理由がある。
それは、マレフィクスの監視だ。
マレフィクスがもし、エアスト村を壊滅させた『べゼ』だった場合、マレフィクスが何かを企んでいるからだ。
何か起こる前に、私が阻止しなくてはならない。
それに、マレフィクスはSランク冒険者エリオットと二人で、あのボーン.アダラを撃破している。
あれから、こっそりボーン.アダラの死体と戦いがあった場所を調べたが、不思議なことがあった。
不思議その一、洞窟に居たスライム。
スライムは基本平原に居る魔物であり、あの洞窟で発見されたことはない。
最初は、マレフィクスの能力で作られたスライムかと思ったが、あの日はマレフィクスの初クエスト。
平原に行ったことなんてないはずだし、エリオットの能力でもないことは調べが付いてる。
幼少期にスライムを見たことがあるのか分からないが、少し不可解だ。
不思議その二、洞窟にあった複数の大きな岩。
話によれば、ボーン.アダラの目覚めにより、洞窟が崩れたらしい。
そして、ボーン.アダラの居た洞窟の最下層には、大人より一回り大きい岩が計27個落ちていた。
誰もが、崩れ落ちた瓦礫だと思うだろうが、洞窟の岩や壁とは原料が違った。
つまり、27個の岩は、洞窟内にあった物では無かったのだ。
そして、さらに驚愕したのは、その岩の形、大きさ、原料、素材、全てがエアスト村に落ちていた岩と一致したことだ。
鳥肌が立った。
エアスト村の生き残り、ボーン.アダラの洞窟に居た者、どちらもマレフィクスだ。
岩があった地面は、村も洞窟も両方、岩が落とされたかのようにへっこんでいたことから、岩を落とす能力か魔法だろう。
べゼがマレフィクスじゃなくとも、べゼはこの力があると考えていいだろう。
マレフィクスが何者だろうと、疑いが深くなったのは確かだ。
疑いが深い以上、マレフィクスを野放しにする訳にはいかない。
今回の旅行で確信を持てれば良いのだが……。
出来れば、無実であって欲しい……友達のままでいたい。
* (マレフィクス視点)*
世界旅行に行こうと決心したのは、ギルドに登録する前のことだ。
そう、あれは確か六月当初のこと。
「ほ~ん、能力公開してる奴結構居るな」
この世界にも芸能人のような存在が居る。
映画という文化があるので、役者がハリウッドスターのようになるのは必然なことかもしれない。
その芸能人のような有名な人の中には、名前や年齢を公開するように、能力を公開している者も居る。
そして、ネットサイト『シノミリア』の中にも能力を公開している奴が何人も居る。
中には能力を商売にしている奴も大勢居る。
その中で僕が目を付けた奴。
そいつの能力こそ、僕が欲しい能力なのだ。
アカウント名『運び屋フォリア』、フォロワー8千人、顔は公開済み。
能力は『行ったことある場所に転移する能力』
この能力を使い、世界中で人間タクシーのようなことをしている。
住んでいる国は世界番号11『ニューデリー』。
しかし、地域や住所までは分からない。
ここからは個人メールで、仕事の依頼をして誘い込むしかないだろう。
* * *
七月十八日、時刻は12時。
「行ってきます、セスターさん」
「気を付けるんじゃぞ」
「はーい」
大きな荷物を背負い、ご機嫌で家を飛び出す。
天気は晴天で、出発に適した空だ。
この都市の入口は、東西南北、全部で四つある。
その一つである南の入口の門には、既にホアイダが来ていた。
荷物を背負い、相棒であるポム吉を手に持ち、恋してるような表情で空を眺めている。
「あっ!おはようございますマレフィクス」
こちらに気付いたようだ。
「おはよう」
「良い天気ですね」
「だね。僕にピッタリ」
「ふふッ」
ホアイダは、日に日に笑顔を見せるようになってきている。
今のように、まったく面白くないことも、軽く笑う。
「じゃあ、行くか」
「行く前に教えてくださいよ、旅行のルートを」
「南にある港まで行き、そこから船で魔の土地を目指す。詳しくは船で話すから、それまで楽しみにしてて」
「分かりました。楽しみにしてますよ」
僕らは、門から出てメディウムを後にすると、南に向かってしばらく歩いた。
数十分後、完全にメディウムから離れたのを確認し、足を止めた。
「どうしました?」
「歩いて港まで行くのには一日近く掛かってしまう。だが、馬なら22時に着くことができる。それに、歩きでは疲れ切ってしまう」
「まぁ、そうですが……馬なんて居ませんよ」
「作るんだよ」
僕はそう言って、荷物から大きな布を二つ取り出した。
その大きな布は一瞬で姿形を変え、馬二頭に化ける。
「なるほど、能力で……。ですが、私馬に乗ったことなんてありませんよ……。とても乗れるとは思えないのですが」
「簡単だ、姿勢を意識するんだよ。ほら、手伝うから乗ってみろ」
「わぁ!?いきなりは怖いです!ちょっと!」
僕の服を羽根に変え、ゆっくりと飛びながらホアイダを持ち上げて、ホアイダを馬の背中に乗っける。
ホアイダはビクついて、降りたそうにしている。
「恐怖を悟られるな。頭、肩、お尻、踵が一直線の姿勢を意識し、リラックスしろ。そして、自分が主人だという自覚を持て。ほら!馬に合わせず、馬を操れ!しっかりとつま先使え!」
馬が歩き始め、ホアイダが大きく揺れ、馬もホアイダも不安そうにする。
お互い、特にホアイダが慌てふためき、完全にパニックになっている。
「あぁ!?ちょっと!勝手に歩いてます!?止まってくださいよぉ!あっ!」
「あっ」
挙句の果て、馬に振り落とされ、頭から砂地に落下した。
ホアイダは涙目になり、今にも泣きだしそうな赤子のような表情になる。
「うぅ……」
「あーあー……泣かないでよ。泣いたら殴るからね」
「もっ、もう馬は嫌です」
「分かったよ。一頭には荷物を、もう一頭に僕ら二人一緒に乗ろう」
ホアイダは頭を押さえ、涙目になりながら僕の方を下から見上げた。
僕はため息を付き、馬に荷物を乗っけて、仕方なく医療道具を取り出す。
この旅行で心配事があるとすれば、ホアイダが付いてけるか……それだけだ。
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