離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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五章『悪の組織編』

第四十九話『社交界』後編

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 * * * * *

 最後の敵がマレフィクスを人質に取った。
 アリアとヴァルターは、そんな敵を前に迂闊に動けない。

「一階に繋がる階段を通れるようにしろ。鉄の塊が邪魔で出れん」

 敵は階段に張り付いている鉄の塊を見ながら言った。

「あぁ?舐めてんの?」
「俺の目的は生きて帰ること。この城から出してくれたならこいつを殺さない。もう貴族共の護衛が無意味なことは分かってる。分かったなら鉄をどうにかしろ!」

 敵は少し強気になって怒鳴る。

「どうしますか?マレフィクス様」
「こいつを逃がすようなことがあったなら、君ら二人を殺す。それを踏まえ、好きに選びな」
「……それ本気ですか?」
「本気」

 アリアは目の前の敵への怒りでいっぱいだが、ヴァルターはマレフィクスの発言で頭がいっぱいと言う感じだ。

 ――この状況でなぜ自分を危険にする?何を優先してるのか全然分からない……この方は、完全にイカれてる。

 内心、慌てふためいていた。
 それは自分の命が欲しいとか、失敗をしたくないとかそういう自己を大切にする気持ちではなく、マレフィクスが何を考えてるか分からないからだ。

「イカれてますね」

 思わず口に出た。

「早くしろボゲ共!!」

 敵が怒鳴った瞬間、マレフィクスの背後の死体から出た血がナイフに変わる。
 そのナイフは、アリアとヴァルターからしか見えていない。
 敵の不意をついて、ナイフが敵の首を切った。

「くっ!ナイフ!?」
「今だヴァルター!奴を消すのよ!!」

 敵は首と口から血を吹き出す。
 同時に、ヴァルターが敵に向かって走る。

「てめえら!!もうこいつを殺す!こいつはおしまいだァァ!」
「やばい!早くヴァルター!」

 敵がマレフィクスに向けていた拳銃の引き金を引いた。
 ヴァルターは敵に触れれる距離だったが、引き金が引かれた今、取った行動は違った。
 マレフィクスと銃口の間に手を入れ、放たれた弾丸を消したのだ。

「痛てぇ……」

 同時にアリアが弾丸を放ち、敵が血を吹いて死ぬ。
 二階に居た敵が全て死んだ。

「良いコンビネーション。二人共流石だね」

 マレフィクスは危険に晒されていたのにも関わらず、ニコニコと可愛らしい笑顔を見せていた。
 まるで、この状況を楽しんでいたかのようだ。

「マレフィクス様の腕が折れてるじゃない!?このカス!このゲス!このブス!」

 アリアは死んだ敵の死体をナイフで何回も刺している。

「マレフィクス様……なぜあの状況で自分を危険に晒したのですか?一体何を考えていたのですか?」
「君の成長を見たかった……実際、今君は成長した。何かを乗り越えるってのは心地が良いだろ?」
「……あまり私を困らせないで下さい。私が弾丸を消してなかったら、貴方どうしていたのですか?」
「死んでいたね」

 マレフィクスのその言葉は、ヴァルターを感化させた。
 まだほんの少し、マレフィクスという存在を理解していなかったヴァルターは、その存在が偉大で素晴らしいと感じた。

 ――会ったばかりのなんの実績もない私を……信じたというのか?一歩間違えれば死んでいたというのに……この方は今まで会った人間の中で最も邪悪だが……最も信頼出来る。

 ヴァルターは確信した。
 自分がマレフィクスに仕える為だけに生まれてきたということを。
 その確信は、そう信じたいとか、そう思えば幸せだとかではなく、思い込みに近い確信だった。

「一階の奴ら始末しに行くよ……ほらアリア、あんまりそれで遊ぶと匂い取れなくなるよ?」
「だってこいつ、マレフィクス様の腕折ったのですよ?許せません」
「そいつに構うな……その分損するからさ」
「そう言うなら……分かりました」

 アリアは少し口を尖らせ、いじけた様子で大階段を塞ぐ鉄を血に戻す。

 *(マレフィクス視点)*

 派手に殺ったが、一階のホールの連中はきっと気付いていないだろう。
 一階は二階以上に騒がしいパーティをしているから、少し騒がしいで済むはすだ。

「アリア、そっちから行かないよ」

 一階に繋がる大階段へ足を運んだアリアを引き止める。

「えっ、じゃあどうやって一階に?」
「ヴァルター、君の能力は地面や床のような無尽蔵に広がる物も一瞬で消せる?」
「いいえ。触った長さで範囲が決まりますね。一瞬なら少し、長めなら広く消せます」

 ヴェンディと同様、ヴァルターの能力は触れた長さで地面や床を消すらしい。
 人や物を消すのとは、少し条件が変わってくる。

「この下のホール。ここを少し、人一人分消して」

 ヴァルターは、僕が指定した場所の床を円形に消した。
 空いた床から見えるのは、人々が呑気にダンスをしている光景だった。

「最後の仕上げだ……行くよ」

 穴から一階に降り、大勢居る人々を拳銃で丁寧に打ち殺す。
 パーティ会場は一瞬にして血で染まり、悲鳴と混乱が漂った。

「きゃぁぁぁぁ!!」
「逃げろぉ!!」

 人々は出口に向かって逃げようとする。
 だが、逃げ惑う人々を阻むかのように、死体から出た大量の血が扉を塞いだ。
 その血は一瞬にして鉄に変わり、出口を閉ざしてしまう。

「フォティア.ラナ」

 出口に群がる人々を燃やし、抵抗する者を次々と打ち殺す。
 それは、アリアもヴァルターも同様。
 アリアは氷の魔法と能力で作ったナイフを駆使し、ヴァルターは風の魔法と能力を駆使して人々を虐殺する。

 何十人と居た上流階級の人々は、数分もしない間に死んだ。
 息をしているものは誰一人居ない。
 あるのは、血に染った死体と静寂さだけだ。

「うぅ……」

 死体を虚ろの目で見ていたヴァルターが、具合悪そうに口元を抑えた。
 今にも吐きそうですって感じだ。

「ヴァルター、死体の処理よろしく。アリアは、血の処理ね」
「はーい」
「……分かりっ、ました」

 ヴァルターの能力で死体を、アリアの能力で血を一滴残らずになくした。
 アリアは、鉄で出来たベゼの銅像を作り上げる。

「何で僕の銅像?」
「血を何に変えようか迷いまして……それでベゼ様の銅像を作りました」
「こんなに細かく鉄に変えれるのか……凄いな」

 マレフィクスの顔じゃなくてベゼの顔の銅像だから、この場に置いても問題はないだろう。

「おぉ?豪華な料理が並んでるね。皆で食卓でも囲もうか」
「良いですね」

 ほとんどのテーブルがひっくり返り、料理が床にぶちまけていたが、一つだけ無事なテーブルがあった。
 バイキング形式で料理が用意されている。
 僕らは席に着き、自分の皿に好きな分好きな料理を運んだ。

「どう?」
「美味しいです」

 アリアが美味しそうにハンバーグを食べる。

「ヴァルターは?人を殺して食べる食事はどうだい?」
「……人を殺して食べる食事自体は酷い味です。ですが……能力を思う存分使い、誰かの為に働いた後に食べる食事は……最高ですね」
「それは良かった」

 ヴァルターから恐怖を取り除くという今回の目的、達成だ。
 恐怖を取り除いただけでなく、僕への信頼と忠誠心が絶対的なものとなった。
 彼は、苦しみと戦うただの人間から、僕の忠実な駒に成り代わった。
 こうやって、信頼出来る有能な部下は作られていく。

「二人共分かるかい?本当の安心ってのは、永遠の安心ではないのだ。不安を乗り越えた後の絶対的な安心のことを言うの……今この状況がいい例だ」
「もしかして……ずっと私を試していました?」
「そう言えば皆何点だった?」
「無視ですか。私は最下位ですよ……見張り七人、一般十二人」

 何点と言うのは、最初に言っていた点数の勝負のことだ。
 僕らは何人殺したか、誰を殺したかで点数を競っていた。

「アリアは?」
「……確か、見張り十一、一般三十くらい?」
「こりゃアリアの優勝だね。僕は見張り八、一般四十一。見張りが一つ5点で、一般が1点だから僕の負け」
「じゃあ、私優勝?やったァァー!」

 アリアが無邪気に喜ぶ。
 しかし、仲間内のゲームだから大して悔しくはない。

「命令の内容は?考えたかい?」
「ヴァルターは私に永遠に服従!マレフィクス様は私に……私に――」

 勢いの良かったアリアが、恥ずかしそうにモジモジし始めた。
 言うのを躊躇っているような態度だ。

「モジモジしないの。ハッキリ言いな」
「はっ、ハグして下さい……」

 アリアの目的は愛を知ること――愛すること。
 ハグを通して愛を知りたがっているのかもしれない。

「そんなこと?それならほら……来なさい」
「えへへっ」

 最初にアリアに会った時も、ハグと言う名の戦術を使った。
 こいつは、初対面の相手を部下にしたい時、かなり便利な行為だ。
 ハグというのはストレスが解消されるらしいし、人にとっては愛情表現の一つだ。

「温かい」

 アリアはそう言って僕に抱き着くが、やっぱり僕は何も感じない。
 愛情とか友情とか理解出来ない。
 僕が人間の見た目をした悪魔だから、理解出来ないのかもしれない。
 もしそうだとしたら、凄く有難い。
 こんなつまらなそうな感情や行為、知りたくもないからね。
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