離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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五章『悪の組織編』

第四十八話『社交界』前編

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 社交界が行われている建物内は賑やかだった。
 そこはお城のような場所で、庭も広く、黒服の見張りが何人か居る。

「こっち!」

 庭に居た見張りにバレないように近付き、関節技で首の骨を丁寧に折る。

「まず庭の見張りを皆殺っちゃうよ」
「了解」

 ヴァルターが死体に数秒触ると、身に付けていた服もろとも、マジックのように一瞬で消えた。

「ナイス」

 しかしヴァルターは、浮かない顔をしており、死体を消した手を震わせている。
 死体とはいえ、人を消してしまったことには罪悪感があるようだ。

「怯えるな」
「えっ?」
「自分の力を誇れ。自分の能力を僕の為に使っている自分自身を誇れ。赤の他人の目に怯えて能力を制御している君より、僕の為に能力をフル活用している君の方が魅力的だよ」
「……ありがとう、ございます」

 ヴァルターの震えが収まり、浮かない顔も徐々に冷静な表情になっていく。

「アリアそっち」
「了解」
「ヴァルターはあっち」
「分かりました」

 一分もしないうちに、庭に居た見張りを全員片付けた。
 死体はヴァルターの能力で消え、証拠は一切ない。

 一階のトイレの窓から入り、城への侵入が成功する。
 トイレのドアを開け、人に見られていないかを確認して、堂々とホールに向かう。

 ホールでは、既に上流階級の人々が食事やダンスを楽しんでいる。
 僕らはその中に混じっていく。

「坊っちゃま、お嬢様、離れないで下さいね」
「「はーい」」

 いいとこの子供を演じる為、ヴァルターにも演技に手伝ってもらう。
 傍から見たら、ヴァルターが僕とアリアの執事のようにしか見えないだろう。

 ホールを出て、非常階段を使って二階を通り越し、一気に三階へとに駆け上がる。
 このお城は三階建てなので、ここが最上階だ。

「良いかい?自分で殺った人数を覚えとくんだよ?ズルはダメね」
「分かりました」
「じゃあ行くよ」

 三階には人が少ない。
 この城の執事やメイド、見張りの者、ホールから抜け出し休憩している者、それくらいだ。

 通路には、そういう者が六名程。
 執事一人、メイド一人、見張り一人、酒を持って疲れた顔をした者が三人。
 通路の両端には部屋の扉が三つ程あるが、先にこの者共を片付けなくてはならない。

「ヴァルター、準備は良い?」
「いつでも」

 なんの前触れもなく、懐から拳銃を取り出して、通路に居る人々に一発一発丁寧に発砲する。
 音を抑えるサプレッサーが付いていた為、音はあまりせず、悲鳴を上げる前に、血だけが床に飛び散った。
 ヴァルターが一人、アリアが二人、僕が三人倒す。

「アリア良いねぇ。随分上達したじゃん」
「やった~!ありがとうございます!」
「ヴァルター、一発外したね?僕見てたんだから」
「……けど二発目当てました」
「二発目は良かったよ」

 床に転がった死体をヴァルターの能力で消す。
 その時のヴァルターは、手が震えていたが、辛そうではなかった。
 少し清らかな表情にすら見える。

「僕はこの部屋、アリアは右、ヴァルターは奥の部屋。誰が一番早く終わるか勝負ね。よーいドン!」

 合図と共に、指定した残りの部屋に入る。
 残念ながら僕の入った部屋には、誰一人居なかった。

 しかし、両隣の部屋からは、微かに発砲音が聞こえた。
 どうやら、二人の部屋には人が居たようだ。

「はぁぁ……」
「マレフィクス様早い!私てっきり一番かと思ったのに!」

 返り血を浴びたアリアが、勢いよく部屋から出て来た。
 通路につまらなそうに座っていた僕を見て、驚いている。

「誰も居なかった」
「……お気の毒様です」

 ヴァルターが入った部屋からは、騒がしい音がする。
 そんな中、アリアは嬉しそうに僕の隣に座った。

「そんなに嬉しいの?もしかして落ち込んでる僕を見て楽しんでる?」
「はい。何か少し、可愛らしくて……愛おしいです」
「フンっ……」

 小馬鹿にして、ニコリと笑うアリアだが、不思議とムカつかない。
 ヴァルターが遅いから、眠くなったアリアが僕の肩に寄り添った。
 この僕が怖くないのだろう。

「僕のこと怖くないの?」
「貴方様に見捨てられること以外、怖くありませんよ」
「そう」

 数分が経ち、僕とアリアが寝かけたその時、部屋の扉が開いてヴァルターが姿を見せた。
 少し疲れた表情だ。

「マレフィクス様5分近く待ったんだけど」
「すみません。中に居たのがなかなかのやり手で……恐らく熟練の冒険者でしょう」
「次二階行くよ。三階はつまらな過ぎ」

 ヴァルターは少し申し訳なさそうにした。

 * * *

 非常階段を降り、ヴァルターの能力で、扉の一部を一円玉の大きさ消す。
 そこから、二階の通路の様子を見る。
 二階の通路は広く、一階に繋がる見通しの良い大階段もある。

 二階の窓辺には見張りの者が何人も居るし、階段付近にも見張りが歩いている。
 今使われているのは一階のホールだけ……この二階は立ち入り禁止の場所なのだろう。
 その為、僕らのような者がここから侵入しないように見張っているのだ。

「誰一人生きて帰すな」

 非常階段の扉を蹴り飛ばし、近くに居た見張りの者に扉を押し当てる。
 同時に、目に入った者から拳銃で殺していく。
 アリアとヴァルターも、僕同様に拳銃を発砲する。

「暗殺者だ!皆伏せろ!」

 しかし、見張りの者達――敵は、机や棚に身を隠し、拳銃や魔法を放ってきた。

「こっちです!」

 ヴァルターが消した壁の奥には、小さな部屋があった。
 僕らはその部屋に入り、消えた壁の場所から敵を見張る。

「まだいっぱい居るんだけど」
「私三人は殺ったのに……ヴァルターは?」
「一人」

 呑気にそんな会話をしていると、敵の何人かが一階に繋がる大階段へ降りようとした。

「まずい。一階に居る人を避難させる気です」
「アリア」
「了解!」

 アリアは、付近にあった死体に目を向けた。
 すると、死体の傷口から大量の血が出て来て、一階に繋がる大階段を塞ぐように血が移動する。

「何だこれ?」
「血が独りでに動いてる!?」

 その大量の血は一瞬にして鉄に変わり、大階段への通路を封鎖した。

「どういう能力です?」
「血を鉄に変える能力。血で作った鉄は軽く操れるの!見ててヴァルター」

 他の死体から出した血が、数本のナイフに変わる。
 そのナイフは独りでに動き、一階に降りようとしていた敵に向かって放たれた。

「ぶはぁ!?」
「能力だ!早く引け!」

 敵は慌てて部屋や机の後ろに隠れる。

「凄いですね」
「えへへー」
「後十人。左の部屋に二人、右の部屋に三人逃げた。
 机の後ろに二人、奥の棚に一人。他の二人は見失った……多分魔法か能力で身を隠してる」
「……さっきの一瞬で?さっ、流石ですね」
「机と棚に隠れてる奴を先に殺る……援護よろ」

 命令を終え、すぐに行動に移した。
 部屋から飛び出し、壁を蹴って机に向かって走る。
 その瞬間、敵の一人が棚から顔を出したので、素早く先に打ち殺す。
 机の影から、拳銃だけが銃口を向けたので、その拳銃を打って、拳銃を吹き飛ばす。

 しかし僕の体は動かなくなり、首を何者かに締めつけられ、宙に浮く。
 上を見ると、透明になって隠れていた敵が逆さになり、蜘蛛のようにぶら下がって、僕の首を腕で締めていた。

「マレフィクス様に……様んないで!!」

 その敵の目に、アリアの投げたナイフが刺さる。
 力が緩んだその瞬間、上の敵の脳天に弾丸を放つ。

 同時に、机に隠れていたもう一人が、僕に弾丸を放つ。
 僕は拳銃その物を盾にし、その弾丸を防ぐ。
 当然、僕の持っていた拳銃が手元から吹き飛ぶ。

「部屋から出て来ました!」

 ヴァルターが机の後ろに居た敵に、机越しに弾丸を打つ。
 左右の部屋の扉が開き、残りの敵が姿を見せる。

 僕は上から降り、その敵に向かって行く。
 机に後ろにある死体を持ち上げ、左の部屋に投げ込む。

 ――能力番号28『物を浮かす能力』。

 能力で死体を浮かし、左の部屋の敵の障害物にする。
 すぐに、床に落ちている敵の拳銃を拾う。

「ヴァルターとアリアは右!僕は左を殺る!」

 左の部屋に向かい、浮いていた死体を蹴り飛ばす。
 能力を解除し、一人を死体で押し潰す。
 そしてもう一人を打ち殺す。

「待て!俺はも――」

 死体に押し潰されていた敵も、すぐに打ち殺す。
 左の部屋に居た敵二人を始末し終える。

「貴様ら、調子に乗り過ぎだ」

 僕の背後からしたその声は、知らない声だった。

「あぁ、もう一人見失った奴か」

 その声の敵は、僕の頭に拳銃を突きつけた。
 すぐに僕の左手を折り、右手を背中に回された。

「勝手に動いたら殺す」
「はーい」

 敵は僕の背中を押し、ゆっくりと歩いた。
 そして、僕を人質にしながら、向かえの部屋に居るアリアとヴァルターの前に姿を見せる。

「動くな」
「マレフィクス様!」
「そのゴミ以下の手を離して……今なら楽に殺してやる」

 アリアが怒りを露にする。
 周りの死体から血が吹き出て、今にも暴れだしそうだ。
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