離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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六章『大魔王ウルティマ編』

第五十八話『七日間のチャンス』

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 八月が終わり、世間は恐怖のどん底に叩き落とされた。
 魔の土地にある世界番号11の『ニューデリー』、この大国が更地にされた。
 この真実はすぐにニュースになり、世界中を震わせた。

 そして明確になる。
 ニューデリーを更地にしたのが、奇跡の島から復活を遂げた大魔王ウルティマだと言うことが。
 人々はウルティマをカメラに捉えていた。
 その動画が報道され、世界は大混乱となる。
 ベゼのことで精一杯だった国々が、大魔王ウルティマの出現で慌てふためく。

 人々は悟る。
 世界が終わりを迎えてること。
 それほど、大魔王ウルティマが歴史に名を残した魔物なのだ。
 ニューデリーを更地にして一週間経った今日、ウルティマの存在は確認されないが、人々はいつ生活が終わるか分からない恐怖に苛まれていた。

 *(マレフィクス視点)*

「ニュース見たかマレフィクス!」
「大魔王ウルティマ復活?」
「ちょっと来い」

 いつも通り学校に通っていた僕は、ヴェンディに図書室に連れてかれる。
 魔王ウルティマが復活したのに、何故だか嬉しそうに見える。

「大事な話だ」
「肩に手を置くな。馴れ馴れしい」

 ヴェンディの手を振り払い、少し距離を取る。

「ウルティマは俺達人間では勝てない。国を更地にする奴だ」
「まぁ、君は勝てないだろうね」
「マレフィクス、今こそ俺達は手を組むべきだ。ベゼであるお前からしても、ウルティマは厄介だろ?」
「嬉しそうだと思ったら、そんなこと?」

 ヴェンディが提案してきたのは、敵である僕とヴェンディの協力だった。
 二人で手を組み、ウルティマを倒そうと言う提案だが、ウルティマを復活させた本人にそれを言うか?
 まぁ、ヴェンディは真実を知らない……仕方のないことか。

「やだ」
「何で!?お前一人で勝てる相手だと思うのか!?桁が違う!流石のお前も、国を更地にする力はない!断る理由は何だ!」
「君さー、僕と一緒にウルティマを倒すことで、僕に良心が芽生えるとでも思ってるの?」
「ギクッ!バレてんのかよ」
「考えが浅い」

 ヴェンディは僕と共通の敵を持つことで、僕の更生を狙ったようだが……僕は悪の王様……ヴェンディの手には乗らない。

「一人で頑張りな、セイヴァー」
「てめぇ!ウルティマより先にぶっ殺してやる!」
「そう、応援してるよ」

 ヴェンディのバカ。
 ウルティマは表面上僕の上司……真実を知らないってのは哀れなことだ。
 勿論、ウルティマの部下を演じているだけで、最終的にこの世の頂点に立つのは僕一人。
 部下を演じているのも、僕なりの理由がある。

 * * *

 神の土地では、ヴァルターが指揮を執って国作りに励んでいた。

「ほぉ、やってるな」
「彼らは人間の奴隷共です。ウルティマ様の国作りをさせているのです」
「ハッハッハ!それは愉快だ!」

 僕はヴァルターの前でも、大勢の部下の前でも、ウルティマの部下を演じていた。
 ウルティマには、僕の部下を奴隷として扱ってる人間と説明している。

「魔物達もたくさん居るな」

 神の土地には魔物がうじゃうじゃ居た。
 しかし、この魔物は僕の能力で創った魔物達……こいつらにもウルティマの部下を演じさせている。
 つまり、皆で演技をし、ウルティマを持ち上げているのだ。

「あそこに居るのが幹部連中です」
「ほぉ」

 オルニスやルルーディーを初め、元魔王の幹部達も紹介した。
 人間の仲間は、僕とアリアだけだと説明している。
 つまり、ウルティマは部下のほとんどが魔物だと思ってる。

 だが実際は、その魔物達は能力で創られた事実上偽りの存在。
 奴隷だと紹介している人間達が本当の部下。
 ウルティマは知らず知らずのうちに僕に踊らされてるのだ。

「ウルティマ様、次はどうなさいましょうか?」
「恐怖は与えた……次は支配を行う」
「と言いますと?」
「我々魔物が人の上に立つ」
「でしたら、竜の土地から攻めるのをお勧めしますよ」
「うむ、そうしよう」

 次ウルティマがすることは、竜の土地から魔物が人を支配する世界を作っていくこと。
 僕はその提案に乗り、少しづつ準備を行っていく。


 結局、数ヶ月後にはウルティマによってそれが実行された。
 ウルティマによって魔物に支配された国は、人々が奴隷のように扱われ、知性ある魔物達が人をこき使って歩き回った。
 支配された国は一気に生活が貧しくなり、魔物の為に建物を作ったり、ご飯を作ったり、強制労働をさせたり、散々な目に合わせれた。
 勿論、その国々のギルドなどもなくなり、魔物を狩っていた人間同様、魔物が人間を玩具として扱うような体制が取られた。
 国一つに元魔王の幹部が一人付いた。

 世界各国は協力し、出せるだけの軍事力を出した。
 僕が五学期を迎える頃には、世界は人と魔物の世界大戦が行われる状況になり、支配された国々を巡って戦いが行われ続けた。
 資金が軍事力に回された今、支配されていない国も貧しい状況に陥っていた。

 * * *

 学校は五学期、ヴェンディもホアイダも僕と同じ16歳になり、この学校生活も後二年となる。
 だが、この国の状況は変わりつつある。

「マレフィクス、こんなんで良いのか?ウルティマのせいで世界はめちゃくちゃだ」

 ウルティマ復活から何ヶ月も経った今日も、めげずに僕を説得する。

「皆が不幸そうで何よりだよ……僕は生活に困ってないし、世界が戦争してる今も街や村を破壊し回ってる……僕の状況は何も変わらない」
「頼む……俺はお前の力が必要なんだ」
「大丈夫、ウルティマが死んだとこで僕が代わりに同じことするから。ウルティマ殺すメリットないよ」
「マレフィクス!」

 貧しい状況が続き、世界中が戦争している今、正義感の強いヴェンディは必死だった。
 何が何でも僕の力を借りる気だ。

「良く考えて。この世界には君や僕より強い人間が居る。大地をも砕く剣の達人、数百人の軍を蹴散らす魔法の達人、炎を操る最終兵器と呼ばれる老人、歴史に名が乗る猛者ばかりのこの世界でも、一国以上が相手では無力。僕はベゼとして一人で姿を現すけど、ウルティマは何百何千人もの部下を連れて現れる……一体一じゃなくてチェスなの、僕らが足掻いても倒せません」

 僕がそう言うと、ヴェンディは悔しそうに拳を握って下を向いた。

「んな事分かってる……けど俺やお前の能力ならウルティマの不意をつける」
「ふふっ、泣かないの」

 悔し涙を流すヴェンディの涙を指でに拭い、小馬鹿にするように嘲笑う。

「くそっ!」
「仕方ない……じゃあチャンスをあげる」
「チャンス?」
「これから七日間、僕はホアイダや君の両親は勿論、誰も人質を取らない」
「え!?」

 ヴェンディの怒りに任せた表情は、耳を疑ったかのような表情になる。

「七日間、マレフィクスの時でもベゼの時でも好きに攻撃していい……それでもし、僕のことを倒すことが出来たらウルティマを一緒に倒してあげよう」
「ほんとか!!」
「ほんと、勝利条件は僕の拘束」
「分かった!」

 ヴェンディは僕の話をあっさりと信じた。
 それは、僕がこれまで約束を守ってきたから、つまらない嘘をつかないことを分かっているからだ。

「なぁ、攻撃ってのはどこまであり?使っちゃ行けないものとかある?」
「ないよ。けど、マレフィクスがベゼだと言うことをバラすようなことがあれば……お分かりだね?」
「それは約束する」
「頑張ってね、ヴェンディ」

 僕は、覚悟を決めたように凛々しい表情を浮かべるヴェンディに、ニコッと純粋な笑顔を見せた。
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