離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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六章『大魔王ウルティマ編』

第五十七話『大魔王の復活』

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 神の土地では、魔物の制圧が行われていた。
 魔王レネス以外のほとんどの魔物は殺され、魔王の幹部達は皆僕が直々に殺した。

「この土地も広い。何匹か逃げた魔物が居るが、問題はないよ」
「やっと、やっと私の主を見つけた」

 レネスは僕の仲間になれたことがよっぽど嬉しかったのか、涙を流すほどだった。
 50年も願った夢を、やっと叶えれたのだから、この反応もおかしくはない。

「レネスよ、君の記憶は見させてもらった。君が僕に忠誠を誓ってるのは分かるが、ちゃんと誓ってもらう」

 跪くレネスに、手の甲を見せて腕を伸ばした。

「我の為に死ねるか?我の為に生きれるか?我に忠誠を誓えるか?」
「はい、私レネスは貴方様に忠誠を誓います」

 レネスは僕の手を取り、丁寧に手の甲に口付けをする。
 僕はその優越感に浸り、微かに笑みを浮かべた。

「では、僕の次なる目的の為に、この土地を変えるぞ」
「何です?その目的って?」

 アリアが不思議そうに頭を傾げた。

「この土地に国を創る。この土地を拠点に僕は……完全なる絶対悪となる」

 ヴァルターとレネスは一瞬目を見開いて、すぐに爽やかな笑みを浮かべた。

「それで、私達は一体何をしたら良いのですか?」

 ヴァルターが困ったように笑い、何でも言ってくれと言わんばかりに笑う。

「ヴァルター、君に国を創る指揮官を命じる。学校、ギルド、武器工場、病院、お城、ありとあらゆる建物や街を創る為に、それに適した能力や知識や技術がある建築部隊を率いて国を短期間で創れ……建設部隊は用意してある」
「分かりました」
「資料に目を通しておいて」
「はい」

 ヴァルターに資料を渡し、今すぐにもこの土地に国を創る準備をさせる。
 僕の部下には、建物や街づくりに適した能力を持つ者が何千人も居る。
 その者の能力と魔法を駆使していけば、国作りに長い時間は要らない。
 国の法律や制度も、既に僕が決めてあり、国の構造やあり方も全部設計し終えた。
 問題はない。
 ヴァルターは決められた線路を歩くだけでいい。

「アリア、レネス、君ら二人は僕に付いてきてもらう」
「承知しました」
「一体どこに向かうつもりです?」
「奇跡の島だ」

 * * *

 奇跡の島。
 それはかつて英雄アーサーと魔王ウルティマが決闘をした場所。
 この土地も、神の土地同様人々が立ち入れるような場所ではなかった。

「初めて来たけど……凄い場所」
「この土地に何かあるのですか?」
「あるよ」

 この土地には魔王ウルティマが封印されている。
 解けるような封印ではないが、それを可能にするのが魔法だ。

「今じゃ大魔王とも呼ばれるウルティマ、彼はこの世に存在したどの魔王よりも強く、どの魔物よりも恐ろしかったという」
「ウルティマ、正直私何かと比べ物にはならない強さです……やろうと思えばこの世を消すことも出来る力を持っていたと聞きます」
「ねぇ、もし封印が解かれ、この世に再びウルティマが現れたら、世間はどうなると思う?」
「まさか……」

 アリアは悟ったように僕の方を見た。
 心配と不安の視線を送り、困った表情を浮かべる。

「世界は大混乱!ベゼと言う絶対悪が居るのに、それ以上の存在が現れ大パニック!」
「封印を解くのですか?一体何の為に?」
「僕の為に……。良いかい二人共?今から言うことを守るのだよ?絶対に破ってはいけない」

 アリアとレネスは、ゴクリと大粒の唾液を飲み込んだ。
 僕がその後言った言葉は、アリアとレネスを驚愕させる内容だった。

 そしてその後、アリアとレネスと共に、島にあった大きな大きな木の前に来た。
 逞しいほどの大きい樹木は、何百年と立っている貫禄がある。
 陽光が微かに差し、緑が美しく、神秘的なその場所で、邪悪な存在を蘇らせようとしていた。

 アリアもレネスも、わざわざ大魔王ウルティマを復活させる理由が分からないと言い、僕を引き止めた。
 だが、僕の話を聞くと、ほんの少し呆れたような表情を浮かべて、僕の行動に了承した。

「では行くよ……ウルティマを復活させよう」

 * * * * *

 数万年の眠りから目覚めた、最も邪悪で強大と恐れられた魔物が、サウナから上がったような窶れた表情で光と共に現れた。

「ここは……」

 その魔物の目の前には、二人の人間と一人の魔物が膝を着いて頭を下げている。

「お目覚めですね……大魔王ウルティマ様」

 美しい顔立ちをした少年――マレフィクスが真っ赤な瞳を見開いた。
 目覚めた魔物――ウルティマは状況を理解した。

「うおおおおぉああああああああぁぁぁ!!!!!」

 ウルティマは光から姿を見せたかと思えば、怒りと憎しみの雄叫びを上げた。
 その姿は実に強大だった。
 跪いていた人間一人と魔物一人――アリアとレネスが武者震いを起こし、ビビってしまう程だ。

 大きな樹木にも負けない巨大な体、古い黄金の冠、ムッキムキの体、レネス以上の羽根、体に刻まれたように流れる赤い血、目の堀が深く炎のような赤が奥に見える。

「はああぁぁぁぁぁぁ……」

 叫び終えると、落ち着いたかのように強風のため息をつく。
 そのため息でアリアの体が吹っ飛ぶ。

「あぁ!」
「妙な声は上げないの」

 しかし、マレフィクスが吹っ飛ぶアリアの手を取る。
 レネスはマレフィクスとアリアがウルティマのため息で吹き飛ばないように、羽根を広げため息の風から守る。

「アーサーめ……儂をこんな目に合わせやがって……あぁ?貴様らか?儂の封印を解いたのは?」
「左様です」

 ウルティマはマレフィクスに気付き、巨体を一歩前進させる。
 その一歩は、地面が軽く揺れる程だった。
 アリアとレネスは、ビビって下を向いていることで精一杯だ。
 目の前の存在は、それ程の恐怖と圧がある存在だ。

「封印を解いたということは、相当の実力があるな?それも人間……そっちは魔物か」
「隣の彼は現魔王です」
「いつ、口を開けと言った?」

 ウルティマは口を開いたマレフィクスを見下ろし、周りの動物達が皆逃げてしまう程の殺気を出した。

「すみません……出過ぎた真似をお許し下さい」

 マレフィクスは隣の二人と違って、冷静で無感情に見えた。
 暴君なウルティマにも、丁寧に対応する。
 マレフィクスの隣で、アリアが怒りを堪えるかのように拳を強く握っていたが、すぐに力を緩める。

「まぁいい、名前を名乗れ」
「マレフィクス.ベゼ.ラズル」
「マレフィクス、良く封印を解いた……褒めて遣わす」
「勿体ないお言葉」
「この世界が今どうなってるか、教えてくれ」
「はい」

 マレフィクスは話した。
 今、世間が魔物への恐怖が薄れていること、化学や魔法の進歩、ベゼと言う存在、セイヴァーと言う存在、自分がベゼであると言うこと。

「つまりこうだな?貴様とその部下、儂に仕えたいと?」
「はい……我々はウルティマ様復活の為だけに行動してきました。貴方様が世界を手に入れるその瞬間に立ち寄りたいのです」
「ハッハッハ!気に入ったぞマレフィクス!貴様のような儂に忠実な部下が欲しかった!」
「勿体ないお言葉」

 ウルティマは先程と違ってご機嫌だった。
 大きな樹木を椅子にし、マレフィクスから貰った大量の酒を飲み、何匹もの牛を食べてる。

「マレフィクス、いやベゼ、こちらに来い」
「はい」

 マレフィクスはウルティマが差し伸べた大きな手を見上げた。
 そして、自分の体くらい大きい手の指を、両手で握って額を当てた。

「貴方様に忠誠を誓います」
「顔を上げろ」

 この時の初めて、マレフィクスはウルティマと目を合わせた。
 ウルティマの炎のような瞳と、マレフィクスの血のような瞳が、時間が止まったかのように映り合う。

「貴様を儂の補佐官に命じる」
「ありがとうございます」

 マレフィクスは胸に手を当て、深く一礼をする。
 そして、顔を伏せたままニヤリと笑う。
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