離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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六章『大魔王ウルティマ編』

第五十六話『魔王レネス』

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 *(マレフィクス視点)*

 アリアの熱が下がり、体調も完全に良くなった。
 病み上がりからも復活し、もう僕からの仕事も熟せる状態だ。

 しかし僕は、アリアをすぐに仕事には出さなかった。
 代わりに別の仕事を僕とするからだ。
 それはとても大事で、とっても重要なこと。

「神の土地へ行くよ」

 日曜の朝早く、アリアに支度をさせた。

「一体何をしに?」
「一ヶ月前倒した魔王軍幹部のルルーディーが魔王の居場所を吐いた。強力な魔物がうじゃうじゃ居る神の土地に、魔王とその幹部連中のアジトがあるらしい」
「魔王を倒すのですね?」
「ヴァルターには連絡し終えた。魔王如きに有能な部下を殺されるのはごめんだ。アリアとヴァルター、それと僕の三人だけで魔王を倒しに行くから、覚悟してね」

 いきなり魔王を倒すと言われ、アリアはほんの少し緊張を走らせた。
 前々から言われていたのと、いきなり言われるのでは訳が違う仕事だからだ。

「大丈夫、今回は過程が目的ではなく結果が目的だから。神の土地に居る魔王とその幹部を制圧する。話し合いを装い、僕の能力で不意をついて殺すから」
「分かりました」
「僕が居るから、安心しな」

 不安そうにするアリアの頭を、わしゃわしゃと撫でる。

 * * *

 神の土地。
 それは人々が立ち入らない魔の領域。
 Aランク以上の魔物がうじゃうじゃ居て、人の手には追えない捨てられた土地だ。
 ここに魔王とその幹部が居ると、幹部のルルーディーが言っていた。
 人間にとっても魔物にとっても絶対悪となる為、魔王の存在は邪魔だ。
 ちゃっちゃと殺す。

「ヴァルター、言われた物は持ってきた?」
「はい、このリュックに全て入ってます」
「どうも」

 ヴァルターからリュックを受け取り、神の土地を馬で駆け抜ける。
 自然豊かである場所もあれば、廃墟になった場所もあり、枯れきった場所もあり、川が流れてる場所もある。
 もっと禍々しい土地だと思っていたが、下手したら人間が住む土地より自然豊かで綺麗な場所かもしれない。

「この先の中央、そこに魔王の住む建物があるらしい」

 その建物はすぐに見つかった。
 捨てられた王宮のような場所が、廃墟にならず明かりがついていた。
 どう考えても、この王宮に魔王が居るだろう。
 捨てられた王宮を住処にする辺り、魔物達に建築技術はないらしい。

「面倒だね」

 ――能力番号35『物を透かして見る能力』。

 この能力で王宮内が丸分かりだった。
 魔王や幹部以外の知性のなさそうな魔物がうろついている。
 僕は仕方なく、リュックから大量の布を取り出した。

 ――能力番号19『衣類を生物に変える能力』。

 この能力でオルニスを十体、ルルーディーを十体、そして王宮以上に大きいアダラを三体創る。
 布はヴァルターが持ってきた魔道具で小さくされていた為、元の大きさに戻ると、数体の魔物を創るのに十分な大きさだった。

「凄い……たった一人で魔王軍以上の勢力を作り上げた」
「これ、私達要らないんじゃぁ……」

 アリアもヴァルターも、目の前の兵力にド肝抜かしている。
 安心を超えて驚愕だろう。
 元魔王軍幹部が二十体、Sランクの巨大な魔物が三体、これだけで凄い勢力だ。

「海はタラサ数体に見張らせた……この土地から誰も逃がさない」

 海にはタラサ.ウェルテックスが数体居る。
 能力番号19『衣類を生物に変える能力』、正直この能力は最強クラスの能力だ……と言っても今までの苦労と過程の賜物。

 ――能力番号20『姿形を変える能力』。

 仕上げをするかのように、僕の姿をベゼの顔にする。

「やれ」

 十体のオルニスが王宮に向かって強力な光魔法を放った。
 王宮は木っ端微塵に吹っ飛ぶ。
 王宮に居た魔物達は、何が起こったかも分からず攻撃を受け、ほとんどが気絶した。
 だが、何人か平然と立ち上がる魔物が居た。
 恐らく、魔王とその幹部連中だろう。

「今から皆殺しまーす!」

 メガホンを取り出し、魔物達に言い聞かせる。
 しかし、大きな体を持つ人型の魔物一体が、嬉しそうにして僕の元まで足を運んで来た。

「ベゼ……様……貴方はベゼ様ですよね?」
「我はベゼ、それがどうかしたか?」
「私は現魔王レネス、貴方様をずっと探していました」

 魔王を名乗ったそいつは、書物に載ってる悪魔そのもののような見た目をしていた。
 黒い肌と大きな羽根、角が二本、薄汚いローブを羽織っているが、片目は人間の目で、もう片方の目は黄色い月のような目だ。
 そしてなぜか、魔王――レネスの隣に本が浮いている。

「そう」
「私の話を聞いて貰えるなら、私は貴方様の仲間になります」

 ――何だこいつは?敵意や殺意を見せる訳でなもなく、憧れと期待の眼差しを向けてきやがった。本当に魔王なのか?

「あのね、僕は殺した生き物を創れる能力があるの。だから君を殺せば君は強制的に僕の部下になるの。まぁ、人間を殺しても効果はないけどね」

 僕は目の前の魔王に構うのが面倒くさくなり、あしらう様に言った。
 するとレネスは、ゆっくりと嬉しそうに笑った。

「だからオルニスやルルーディーがこんなに居るのですか……ですがその能力、人間に効果がないというのが本当なら私を殺しても無駄かと」
「何?ハッタリなら許さないが、説明してもらおうか」

 レネスが妙なことを言った為、レネスを殺すのを一旦止めた。

「私、人間と魔物のハーフなのです。ですからその能力で私を創れない可能性が大いにあるかと」

 さっきから思っていたが、この男魔王の癖には礼儀正し過ぎる。
 目の前の存在を怒らせまいとするのは分かるが、魔王は普段命令する側。
 ここまで違和感なく礼儀正しく出来るのは不思議だ。
 人間のように礼儀を学んだ訳でも、誰かの部下の訳でもないのに、礼儀を知っている。
 まるで、この時の為に礼儀を学んでいたかのようだ。

「それは興味が湧く……君の頭の中を見せてもらおうか」

 ――能力番号34『相手の記憶を見る能力』。

 膝を着くレネスの頭に触り、この能力を発動させる。
 流れ込んで来るように見えた記憶の中には、人間の母親の記憶があった。
 他にも、こいつの全てが分かった。

「そうか……君は誰かの上に立ちたかった訳ではなく、誰かの下に着きたかったのだね?」
「その通りです。私はかつて母と約束しました……自分の信頼出来るボスと出会い、その人を見つけ出して一生仕えること」
「しかし、世間に出てみれば自分が一番強く、下に着く者ばかりだった」
「左様です。私は50年間ずっと探していました……自分の中の王を!それが貴方だ!こうして会ってみて確信が着きました……貴方には私を支配するだけの力と知恵がある!」

 レネスは話を進める中で興奮していった。
 僕という存在が、自分の求めていた存在だと思い込み、今にも部下にして欲しそうだ。

「人間となハーフってこともあり、能力も扱えるんだよね?えっと――」
「空間を操る能力」
「そう、それ……能力が使えるってことは、人間判定かもね。分かったよ……君を殺すのは止めよう。自ら部下になってくれると言ってるし、歓迎するよ」

 僕がそう言うと、アリアとヴァルターが目を疑ったように僕の方を見た。

「ええ!!魔王を部下にするんですか!?」
「マジですか……」
「ありがとうございます、ベゼ様」

 しかし、この魔王が仲間になったとは言え、魔王の幹部を殺さない理由にはならない。
 幹部クラスの魔物は、僕の能力で創れるようにしておきたい。

「ただしレネス、君の部下は一人残らず殺す……それでも良いかね?」
「構いません」

 レネスが即答すると、その様子を見ていた魔王の幹部達が、これまた目を疑ったような素振りを見せる。

「魔王様!?私らの命は一体!?」
「あまりにも酷すぎます!!」

 流石の幹部達も、魔王の身勝手な行動に反感を覚える。

「全員殺せ。レネス……君の力を見せてくれ」
「お任せあれ」

 レネスは手から放った圧倒的な爆破魔法で、自分の部下である幹部を蹴散らした。
 オルニスの光魔法を上回るその圧倒的な魔法に、僕は心躍らせた。

「気に入ったよ」

 自分とその主の為なら、部下をも平気で殺っちゃうその邪悪さ、目的の為なら手段を選ばない非道さ、そこがまた気に入った。
 それに、人間とのハーフってこともあり、親近感もある。

「じゃあ皆、この土地に居る魔物全員殺っちゃって」

 僕が命令すると、布で創った魔物軍団とレネスが張り切って神の土地の魔物を殺し回った。
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