離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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六章『大魔王ウルティマ編』

第五十五話『愛と幸せ』

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 *(マレフィクス視点)*

 ヴェンディとホアイダが退院して二日経った。
 ホアイダは母親を失い元気がない様子だったが、ヴェンディと話すのは嫌なのでホアイダに気を使わずに絡んだ。

「おはようホアイダ」
「おはようございます」

 僕とホアイダが廊下を歩いてると、ばったりヴェンディとも出会ってしまう。

「げっ、ヴェンディ」

 僕はヴェンディと目が合うが、ホアイダの背後にそっと隠れる。
 病院での一件から、僕はヴェンディを警戒している。
 まさかヴェンディがホモ野郎だとは思わなかった。
 少し揶揄ったつもりだったが、冗談だと分かっても平気で襲って来た。
 あの後、鏡で僕の姿を確認したが、パッと見なら女に見えなくもない。
 悪の帝王ともあろう僕が、あんな奴に……。

「おい!隠れるなマレフィクス!」
「行こっ、ホアイダ」
「逃げましょう」
「おい!待て!!」
「うわぁ!追いかけてくる!捕まったらお終いだぞ!」

 結局、僕もホアイダも一週間はヴェンディと関わらなかった。
 しかし、一週間も僕らに避けられれば、流石のヴェンディも辛そうにした。
 なので、少し遠くから話し掛けた。

「確認だけど、君はゲイじゃないよな?」
「違うよ」
「じゃあ何で僕に発情した?男だと分かった後もしつこかった」
「悔しくて」

 ヴェンディは話しかけられて嬉しそうだったが、すぐに後ろめたいような素振りを見せた。

「じゃあ別に気があった訳じゃないんだね?」
「そうだって言ってるじゃん」
「なら許すよ」
「ほんとか!」
「こっち見んな」

 避けてから一週間、僕とヴェンディは仲を取り戻した。
 流石の僕も、このままだと腑に落ちない。
 だから仲直りしただけ、別に仲良くしたい訳ではない。

「元はと言えばお前が変なこと言うから」
「自分を改めろ。これから一週間は僕のことを見ずに接しろよ」
「はぁ!?何で?」
「目線が嫌らしい気がして止まない」
「そんなぁ」
「ホアイダとの仲は自分とどうにかしろよ」
「うん」

 ヴェンディは目を逸らしたまま嬉しそうにした。
 相手が友達のふりをした敵だと言うのに、心から嬉しそうにしていることから、ヴェンディは僕のことを友達だと思ってるらしい。
 ヴェンディ、こいつはたくさん殺人犯を殺しているが、人間らしさだけは人一倍だ。

 * * *

 毎日の日課として、右腕的存在のアリアに会っている。
 仕事を確認したり、仕事の報告を聞いたり。

 いつも元気なアリアだが、今日のアリアは妙だった。
 少し具合い悪そうにし、口数も少ない。

「具合いでも悪いのかい?」
「え?えぇ、でもほんの少しですから大丈夫です。それより今日の仕事の報告を――」

 アリアの額に額を当てた。
 やはり、僕の直感が当たった。
 頭は凄い熱を放ってる。

「体調が悪いのなら正直に良いなよ。僕に嘘を付くな」
「すっ、すみません」
「体調管理も出来ないようじゃ、これからが心配だね。取り敢えず今日の仕事はもう良い、今ヴァルターに連絡して看病を頼んでみるよ」
「……ごめんなさい、迷惑かけて」
「……やっぱやめた。僕が看病するよ」

 辛そうにしながらも、微かに涙を流したアリアを見て、気が変わった。
 ヴァルターにアリアを預けようと思ったが、今の僕は全く忙しくない。
 何なら暇なくらいだ。
 アリアの看病くらい、僕が一人で出来る。

「えへへ」
「随分、嬉しそうだね」
「マレフィクス様に看病されるのが楽しみで」
「変な子だね、君は」

 * * *

 セスターが居なくなって一ヶ月近く経った家に、アリアを連れて来た。
 ここ最近は僕一人で静まり返っていたから、少し賑やかになった気がする。

「今お粥作るから、薬飲んで横になってて」
「ありがとうございます」

 暖炉に火を付け、アリアをソファに寝かし、毛布を羽織らせる。
 アリアが薬を飲んでる間に、キッチンでお粥を作る。
 僕はなんでも出来ちゃうから、お粥なんてちゃっちゃと作れちゃう。
 早さを重視した為、10分もせずにお粥を作った。
 鍋のような茶碗にお粥をよそい、梅干しを一つ入れる。

「はい。慌てなくて良いからね」
「ありがとうございます……ふぅふぅ」

 僕が茶碗とスプーンを持ち、アリアがお粥を冷ましてゆっくりと食べる。

「はむっ……美味しいです」
「それは良かったよ」

 お粥を食べさせ終えると、アリアの額に冷えピタを貼る。
 そして二階までアリアを連れて行き、ちゃんとしたベッドで寝かせる。

「マレフィクス様の良い匂い……幸せです」

 顔が赤いアリアにタオルケットをかけ、毛布を二枚かける。
 体を冷まさないように十分な暖を取らせ、カーテンを閉めて光を遮断する。

「熱は……38度か……君は頑張り過ぎなのかもね」
「そんなことありませんよ」

 アリアは先程と比べて楽そうに笑った。
 安心して眠りにつくだけから、もう体も楽なんだろう。
 体は震えているし、熱もあるが、きっと大丈夫だ。

「マレフィクス様、私が眠るまで手を握ってて貰えますか?」
「こうかい?」

 戸惑いながら、アリアの手を軽く握る。

「えへへ、ありがとうございます」
「けど、流石に寝るまでは握らないから」
「え~、ちょっと残念」
「良いから早く寝なさい」
「はーい」

 アリアは僕の手を握ったまま、すぐに深い眠りについた。

 * * * * *

 アリアが目が覚めたのは朝早くの時間だった。
 熱はなく、体調もそれなりに良い。
 病み上がりだが、体調は治ったようだ。

 だが、左手に違和感がある。
 アリアがふと左手に目を向けると、隣には手を握ったままベッドに顔を埋めているマレフィクスが居た。
 眠るまで手を握ったままでいないと言ったマレフィクスだが、アリアどころか自分が寝るまで握っていたようだ。

「マレフィクス様……そういうとこ、そういうとこが好きなのです」

 アリアはそう呟いてマレフィクスの額にキスをした。
 頬を赤らめ、恋する女性のような瞳でマレフィクスを見つめている。


 一時間後、目覚めたマレフィクスはアリアと朝食を取った。
 休日だったその日、マレフィクスはアリアと共にずっと家に居た。
 病み上がりのアリアが完全に治るのを待つ為、出歩いたり仕事に出したりはしなかった。

「何見てるのです?」
「ホラー映画……」

 その日の夜、マレフィクスは部屋を暗くしたまま茶の間で映画を観ていた。
 二階から降りてきたアリアも、マレフィクスの隣に座って映画を観ることにした。

「寒いでしょ?こっちに来な」

 しかし、マレフィクスは隣に来たアリアを、羽織っていた毛布を広げて包み込んだ。
 マレフィクスの前に座る体勢になったアリアは幸せそうに笑う。

「珍しいですね。マレフィクス様からなんて」
「うるさいなぁ……最近男性不信になったからこうしてるだけ……愛情が芽生えた訳じゃないから」
「分かってますよ。マレフィクス様は誰も愛さない……けど私はそれで良いのです。愛されることより愛することの方が幸せだと知っていますから……貴方様を愛せるだけで幸せです」

 マレフィクスはアリアを毛布で包み、体をギュッと抱きしめた。
 ヴェンディの一件で少し不安になったのか分からないが、マレフィクスが珍しく誰かに寄り添った日だった。

「愛されることより愛することの方が幸せ……そうなのか……それは知らなかった」
「ふふっ、変な人」

 アリアは毛布を軽く引っ張り、ニコッと可愛らしい笑みを浮かべる。
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