離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

文字の大きさ
63 / 92
六章『大魔王ウルティマ編』

第六十二話『喧嘩と宣戦布告』

しおりを挟む
 ウルティマが大都市メディウムに攻める日、その日はいつも通り始まった。
 ヴェンディに与えた七日間のチャンスも、昨日で終わっている。
 またいつもの学校が始まる。

「おはー」
「てめぇ、奴の部下になってたとはな」
「奴って誰?」
「とぼけんなカス」
「傷の治療が間に合ってよかったね」
「ちっ」

 ヴェンディは朝から不機嫌で、当たりが強かった。
 僕がウルティマと繋がっていたことが、相当頭にきたのだろう。

「何イラついてんの?話なら聞くよ」
「まさかお前がウルティマの封印を解いたんじゃねえよな?」
「そうだよ」

 ヴェンディの目と表情が激変した。
 さっきまで不機嫌で済んでいた表情が、嫌悪と怒りとなった。

「……おっ、お前嘘だろ?ウルティマのせいで戦争起きたんだぞ?なっ、何人も死んだんだぞ?お前……本当に何やってんだよ……」
「それが目的だもの」
「ざけんなよ……ざけんなマレフィクス!」

 ヴェンディの怒りが頂点に達した。
 ヴェンディは僕の胸ぐら掴ち、そのまま持ち上げて僕を殴った。

「人質、殺すよ?」

 弱みを握られたヴェンディが、ピタリと動きを止める。
 やられっぱなしが嫌な僕は、ヴェンディの手を叩き、腹を蹴り飛ばす。
 クラスの皆が見ている中、ヴェンディは人や机を崩して吹き飛んだ。

「いっ……てぇな!!」
「止めろってヴェンディ!!お前ら仲良しじゃん?喧嘩すんなって!」

 キレて僕に向かって来るヴェンディを、周りの生徒が必死に止めた。
 誰も僕を止めようとしないが、皆ヴェンディを止める。
 彼らにとって、僕を止めるのはあまりにも危険だから、ヴェンディを止めて場を収めようと言うことだ。

「もう良い。来いよヴェンディ、今なら喧嘩買ってやるよ」
「何言ってんだよマレフィクス!」
「邪魔だボケ共、虫みたいな集るな」

 周りの生徒が居るが、お構いなしにヴェンディに机を投げる。
 何人かが怪我をし、ヴェンディは机に手を挟める。

「皆離れろ!!誰か先生呼んで来い!」
「教室から出ろ!」

 生徒達は危機を感じて、慌てて教室を出た。

「大サービスで人質は取らない。来いよ、殴り合いだ」
「ぶっ殺す」

 ヴェンディは机を持ち上げ、上空に高く投げる。
 同時に、椅子を振り回しながら僕に近寄る。
 僕は椅子を掴み、椅子越しにヴェンディを蹴る。

「あああぁぁ!てめぇのせいで何人犠牲出たと思ってる!!」
「止めれない無力な人間共が悪いんだろうがよ」

 ヴェンディががむしゃらに拳を振るうが、僕には当たらない。

「どうしたヴェンディ?悔しいなら殴り返せよ」

 一発二発、ヴェンディの顔に丁寧に拳を入れるが、ヴェンディはまだ倒れない。

「うおあぁ!!」

 拳も蹴りも当たらないことを体で理解したヴェンディは、最後の悪足掻きとして僕にタックルする。
 僕の体を両腕で持ち上げ、自慢の力で締め上げようという作戦だ。

 実際、僕の骨が砕ける音がし、その痛みは内臓まで届こうとしている。
 しかし、僕はヴェンディの肩を掴み、バキバキに骨ごと潰す。

「うおおおぉぉ!!」
「くっ、こいつ……なんて力だ……ちょぴっとも力が緩まないなんて……」

 肩を砕いたというのに、ヴェンディの力は一切緩まなかった。
 それどころか、怒りと執念で力が強くなっている。
 流石の僕も、危険を感じた。

「こいつ!!肩だけじゃなく頭蓋骨も割られてぇのか!離せヴェンディ!!ぶっ殺すぞボケナス!!」
「ああぁぁぁ!!ぜってぇ離さねぇ!!」

 だが、とうとう僕の肺に折れた骨が刺さった。

「がはぁ!」

 こんなこと予想外だった。
 ヴェンディは血反吐を吐いた僕に、追い打ちをかけるように頭突きをした。
 机に体をぶつけ、頭から床に倒れた僕の意識は朦朧とする。

「マレフィクス!!」
「ヴェン……ディ」

 鼻血を出して倒れる僕に、ヴェンディの拳が振るわれる。
 顔面に良いパンチを一発貰った僕は、血を吐いて気絶した。

 * * *

 目を覚ましたのは四時間目の最中だった。
 保健室で目を覚ました僕は、先程の出来事を思い出し、悔しくなる。

 隣のベットでは、傷に包帯を巻いたヴェンディが落ち着いた様子で読書をしていた。
 僕はそんなヴェンディを横目で見る。

「俺ら明日から停学だってよ」
「何日?」
「知らん。取り敢えず二週間だって」
「退学じゃなくて良かったね」

 ヴェンディの怒りは収まっていて、代わりにあったのは冷静で穏やかな姿だった。
 殴り合って、冷静になったのだろう。

「俺はまだお前を理解してなかった……願望だけで、お前のどこかに良心があると思っていた……少しずつ理解してきたよ……お前がクズ野郎だとな」
「僕は君を理解してるよ……君以上にね」
「俺も、お前を理解しないとならないようだ……でなければ、お前に勝てる気がしない」
「理解したところで勝てないよ」
「さっき勝った」
「……」

 目も合わせずに話をする僕らは、不思議と清々しい気分になっていた。
 思う存分殴り合って、身も心もスッキリしたのだろう。

「うあぁ!?バカお前!やめっ!あーー!」

 手から出した釣り糸で、ヴェンディのベッドをひっくり返した。
 ヴェンディはベッドと共に転げ落ちる。

「じゃあお大事に~」
「お前……おっ、覚えてろよ」

 ベッドに潰され、這い上がるヴェンディを後に、保健室を出た。

 * * *

 能力番号21『寝れば傷が治癒する能力』で、ヴェンディに折られた骨も、傷付いた内臓も治癒していた。
 完全に治った訳じゃないが、大して問題はないだろう。

 ヴェンディに殴り合いで負けて、無性に腹が立っている僕は、このウルティマ戦で負けたら死んでも死に切れない。
 この敗北感を拭う為にも、この試合は勝たなくてはならない。

「魔物だ!!北の門から魔物の大群が来たぞ!!」

 人々の慌てふためく声と共に、街に避難のニュースやアナウンスが流れる。
 どうやら、北の門からウルティマが来たらしい。

「来たか……」

 ウルティマが引き連れてきた魔物達は、皆僕が能力で創った魔物だ。
 数百と居る魔物の中には、幹部クラスの強い魔物も何匹も居る。

「さてやるか」

 顔をベゼの顔に変え、壁と門を大きな体で吹き飛ばし、堂々と入ってきたウルティマの前に現れる。

「来たかベゼ……」
「宣戦布告!!このベゼは!大魔王ウルティマをぶっ殺します!このベゼと一体一で戦いましょう!」
「は?」

 ウルティマは、気が抜けたかのように目を丸くした。

「聞こえなかったか爺、今から死ぬんだよ……あんたはさ」
「もっ、もしかして作戦か?」

 一番信頼してる部下に宣戦布告されたら、こういう反応が普通だ。
 だから、このボケには全てを説明しなければならない。

「僕は君の部下を演じていただけなの。君は大勢の部下に愛され、世界を制圧し、優越感に浸り、今まで最高の気分だったでしょ?けど、それは全て僕が与えた幻……これから君が味わうのはどん底だ」

 そう言って、魔物の一人を布に戻した。
 ウルティマは再び目を丸くし、少しずつ目を細める。

「布に変えられた?」
「違う、この魔物達は能力で創った魔物。つまり、君に味方は誰一人居ない。彼らは僕の思うまま動く」
「何だと?」
「魔物共!誰にも僕とウルティマの邪魔をさせるな!少しの間この都市を混乱させてろ!」

 魔物達はその通り動いた。
 都市に散らばり、警察や冒険者や一般人の注目を集め、僕とウルティマの周りを複数の魔物が囲む。

「ベゼ!どういうことだ!何がしたいんだ!」

 流石のウルティマも、状況が分かりかけてきたらしい。
 僕の本性と、偽りの魔物達を見て困惑してきたようだ。

「大魔王ウルティマを復活させ、僕が君を正々堂々と倒す。そうすることで、これまでの歴史で最強は僕になり、世間はもっと僕を恐れる。完全なる絶対悪に近付くのだ」
「じゃあ貴様は!裏切るつもりで儂を復活させたのか!?今までの全部演技!?」
「そうだって言ってるだろ、ど阿呆」

 ウルティマは露骨にガックリする。
 もう立ち直れないみたいな顔をし、子供のように建物に座って地面の砂を弄る。

「残念……」
「来い、大魔王!」
「もしかして、儂に勝つつもりか?実力の差が分からない……無知とは残酷なものだな」

 ウルティマは立ち直れない状況で、ゆっくりと立ち上がった。

「勝つよ」
「後悔の時間をやる……それ以外の時間はないがな」

 建物の一回り大きい巨体が、僕の前に立ちはだかる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...