離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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六章『大魔王ウルティマ編』

第六十三話『大魔王ウルティマ』前編

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 大都市メディウムにウルティマが襲撃して来たのを知ったのは、この都市に居る者だけじゃない。
 警察から国家へ情報が伝わり、エレバン中にウルティマ襲撃が報告された。
 同時に、ベゼがウルティマと戦っていることも報告された。

「一応聞く、儂の部下になる気はないか?」
「ない」

 ベゼ――僕とウルティマを、大勢の魔物達が囲っていた。
 ウルティマに転移の魔法はないはずだし、奴が安全に逃げれる場所はない。

「バーン!」

 能力番号38『指からビームを出す能力』で先手を取った。
 ウルティマの大きな体にビームが当たるが、ビームは貫通することなく、傷一つ付かなかった。

「貧弱な魔法だな」

 能力番号17『指を銃に変える能力』で、両指をロケランに変えてロケット弾を放つ。
 ウルティマの体に当たったロケット弾は爆発こそするが、ウルティマの皮膚に傷を付けることはなかった。

「やっぱ接近戦か」

 服をオルニスの白い羽根に変え、素早く低空飛行し、回り込んでウルティマに近付く。
 ウルティマは動く訳でもなく、大きな図体をどっしりと構えている。
 がら空きの首元に、短剣を力強く振るう。

「哀れだな」
「まじかよ……」

 短剣は跡形もなく粉々に砕けた。
 ウルティマの皮膚はそれほど硬く、僕の魔法や能力では傷を付けれない。

「儂に勝つどころか、傷一つ付けれない貴様は滑稽だ。それ以上抗うな」

 さっきまで目の前にあった巨体が、僕の背後にあった。
 気付かない内にウルティマに体を捕まれ、背後に回られていた。
 何が起きたか理解出来なかった。
 そう言えば、軍隊と警察を殺った時も同じだった。

 ――これが、ウルティマの力だと言うのか?

 だが、その力である能力や魔法そのものが見えない。
 ウルティマの力を理解することすら出来ない。

「何で……」

 ウルティマが光以上のスピードを出せるとしよう。
 だとしても、この巨体で動けば周りの建物が風圧で吹き飛ぶ。
 だが、周りの建物どころか、魔物達も吹き飛んでいないし、何ともない様子だ。
 しかし、地面には僕の背後に回ったような巨大な足跡がある。

「あぁ!!」

 ウルティマの手によって、僕の体が軽く潰された。
 血反吐を吐く僕を、ウルティマが哀れんでいる。

 ――能力番号34『相手の記憶を見る能力』。

 今はウルティマに触れている。
 相手に触れていればこの能力は発動する。
 そして、ウルティマの記憶を見たことで謎が解けた。

「時間を止める……魔法か」
「ぬっ?良く分かったな。時を支配する時間魔法、クロノス.タイム。この魔法を使用中は儂以外の時が全て止まるのだ」

 今まで見た魔法や能力の中で、断トツで厄介な力だ。
 時を止め返すことも、ゴリ押できる力もない僕には、打つ手がないように見える。
 僕の40個ある能力を駆使しても、対抗は出来ない……普通はそう考えるし、実際その通りだ。
 だが、可能性はチャンスと同じように転がっている……まだ諦めてはならない。

「そこで貴様は考える……この魔法に穴があるかを。どれくらい時を止めれるか、どれくらい体力を消費するか、それによっては勝てるかもしれないと考えるだろう――」

 ウルティマの言う通り、僕はそれを考えていた。
 だが、ウルティマの記憶を見ていた僕は、ウルティマのニヤッとした笑みを見て悟った。

「残念だが、貴様が空きいる穴はない。時間は体力が続く限り止めれるし、体力にも余裕がある。やろうと思えば最大十分間止めてられる――」

 ウルティマが言ったことは嘘ではない。
 どう考えても、対抗する手段も力も作戦もない。

「ベゼよ、貴様は儂に服従しかないのだ。最後のチャンスをやる……儂の部下にはならんか?」
「うぅ……なる訳ないじゃん」

 僕は大粒の涙を流しながら、ウルティマの提案を断った。
 僕の大粒の涙は、ウルティマの手にボロボロと落ちる。

 ――能力番号16『涙を垂らした場所に爆弾を仕掛ける能力』。

 今、ウルティマの手には爆弾が仕掛けられた。
 爆弾の威力は涙の量によって変わる。
 この涙の量、破壊力は十分だ。

「プライドを優先したか」
「捩レツ」

 ボンッ!と効果音のような音と共に、ウルティマの手が破裂し、指が二本崩れ落ちる。
 僕はその一瞬で、ウルティマの傍から離れた。

「ほぉ、まだ闘志があるのか」
「がはぁ!」

 ウルティマの傍を離れたと思えば、僕は建物に吹き飛ばされていた。
 時を止められたのが、嫌という程分かる。

「この都市ごと消すことも出来るんだからな?こうなったら、お前が部下になると言うまで儂は貴様を痛めつける」
「さっきのが、最後のチャンスじゃないのかい?」
「あれは嘘だ」
「ふふっ……ふふふっ、あははははははは!!はーははははは!」

 傷が痛むをお構い無しに、大声で笑った。
 目の前のウルティマと、これからの未来を嘲笑うかのような笑いで。

「何が面白いか、儂にも教えてくれないか?」
「フフッ、思い付いちゃった。クロノス.タイムの攻略法を」

 穏やかな表情で、微かな笑みを浮かべる。

 * * * * *

 ウルティマの崩れた指は再生していた。
 瓦礫によし掛るベゼは、追い詰められている状況で、穏やかに笑っている。
 天使のような笑みを浮かべながら、悪魔のような目をチラつかせた。

「ほぉ、それがハッタリでなければ良いな」
「来な……ウルティマ」

 緊張が走る。
 どちらが先に攻撃する素振りを見せるか、お互いに観察している。
 だが、ウルティマは魔物。
 魔物は無詠唱で魔法を扱える為、攻撃の素振りを見せずに時を止めることが出来る。
 勿論、ウルティマは容赦なくクロノス.タイムを使用した。

 生き物は勿論、空気の流れや音すらも、ウルティマに支配されたかのように止まった。
 しかし、目の前に居たベゼは、不思議なことに消えていた。
 ダメージを負っていたのにも関わらず、どこかに消えてしまったのだ。

「バカな!?」

 ウルティマは困惑した。
 魔法を使用したと同時に、ベゼの姿が消えたからだ。

「確か奴は転移の能力があった……だとしてもタイミングが良すぎる!時を止めるタイミングが分かってなければ、こんなこと出来るわけない!」

 さっきまで圧巻の余裕があったウルティマは、全てが狂わされたかのように動揺した。

「いや、このまま逃げただけか?だとしたら辻褄が合う。どっちにせよ、魔法を解除する必要があるな」

 ウルティマは深呼吸をし、再び時間を動かした。
 支配されていた時は動き出し、鳥や魔物達は何事もなかったかのように動き出す。

「やはり、奴の気配を感じない」

 ウルティマは周りを見渡しながら呟いた。
 瓦礫の下や建物の中にもベゼが居ないことを確認する。

「これで決まった。奴はハッタリ言って逃げたのだな」
「大マヌケ、それは君の思い込みだ」

 だが、背後から聞こえた不気味で綺麗な声を聞いて、ウルティマはゾワッとした。
 生まれて初めて背筋が凍った。

「バカな――」

 ベゼの白い羽根がウルティマの胸を貫いた。
 羽根は胸に貫通仕切っていないが、鉄のように硬化している。
 そして、ベゼの背後から現れた死神がウルティマの首を鎌で切り裂いた。

「がはぁ!?」

 死神の鎌が折れ、ウルティマの首に鎌の刃が刺さる。

「あははははは!!」
「まさか、本当にクロノス.タイムを攻略したというのか?」
「頭の出来が違うのよ」

 ウルティマはベゼが何をしたかも分からぬまま、再び時間を止める。
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