離愁のベゼ~転生して悪役になる~

ビタードール

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七章『悪の国編』

第七十四話『親子喧嘩』

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 *(ヴェンディ視点)*

 余命宣告されてから、両親は今まで以上に俺に優しくなった。
 欲しい物は何でも買ってくれたし、行きたいとこを言えば好きに連れていってくれた。
 食事もこれまで以上に豪華になり、毎日おぼっちゃま気分だ。
 ただでさえ王族のお金持ちなのに、こんなにも甘やかされると怖くなってくる。
 けど、悪い気はしない。

「ゲホッ!ゴホッゴホッ!」
「大丈夫!?」
「胸は苦しくないか?」

 それと、俺の咳や体調に敏感になった。
 俺が少しでも咳をしたり、ぐったりしてると、決まって気にかけてくれる。
 両親がすることは当然のことなのもかもしれないが、俺はその都度申し訳なくなる。

 しかし、吹っ切れた俺は無敵そのものだった。
 病死以外の死への恐怖が薄れ、今まで以上に明るく元気良く日々生活している。
 セイヴァーとしても何とか活動出来てるし、辛うじてだがベゼから人々を守ることも出来ている。

「おはようホアイダ!そしておはようマレフィクス!」
「おはようございます」
「おはー」

 ホアイダには少し明るくなったと言われたし、病気のことを知られず、変に疑われてもいない。
 マレフィクスも、皆に言いふらしたりしていないから助かっている。

「今日も可愛いね。チュッ」
「えっ!何ですかいきなり!?マレフィクスも見てるのに!」

 俺がホアイダの頬にキスをすると、ホアイダは頬を赤らめて顔をポム吉で隠した。
 そんな俺を、マレフィクスはきょとんとした表情で見ている。

「俺が二番目だもんねー。お前は四番目、べー」

 ホアイダの肩を寄せて、マレフィクスに向けてあっかんべーをする。

「何のこと……」

 すると、マレフィクスは困ったように首を傾げた。

「とにかくホアイダに触んな。お前は近過ぎる」
「よくその状態で言えるね。君の方がよっぽどだろ」
「俺は良いの」

 ホアイダの体を強く寄せ、マレフィクスを遠ざける。
 寿命が決まっている今、俺はマレフィクス以上に自由で大胆だ。

「仲良くして下さい」
「俺達仲良し」
「……分かったよ。君が惨めだからホアイダとの距離感を保つよ」
「よしよし、それで良いんだ」

 俺はニヤッと笑い、小馬鹿にするようにマレフィクスの頭を撫でてやった。
 抵抗するのが面倒臭いのか、マレフィクスはされるがままだった。
 いつもベゼとして虐められてるから、いつもの鬱憤が晴れて少し気分が良い。

「あの、少し離れて下さい……学校ですよ」
「んー、やだ」

 ホアイダが恥ずかしそうに俺の腕をちょこんと掴むが、俺はそれを笑顔で断り、ホアイダを軽く抱き締めた。

「ヴェンディ……」
「本当に嫌なら魔法を使って俺を攻撃していいから……」

 だが、少し意地悪だなっと感じた俺は、少し表情を和らげてそう言った。
 するとホアイダは、手から放った水の玉を俺の顔に放った。

「ぶはぅ!?」
「ヴェンディのバカ」

 ホアイダは少し怒って、自分の席に戻って行った。

「本当に嫌だったんだね。勘違い野郎って女に嫌われるから気を付けな」

 マレフィクスも、笑いながら自分の席へと戻って行った。
 取り残された俺は、濡れた顔のまましばらくその場につっ立ってた。

「水も滴るいい男……そういうことなんだよな」

 水と共に、涙も滴る。

 * * *

 余命宣告されて一ヶ月半が経った。
 十月の始まり、俺の知らないとこで、俺はミスをしていた。

「ヴェンディ、話がある。父さんの部屋に来なさい」
「……分かりました」

 その日の夜、父は深刻な表情だった。
 父の部屋は綺麗に片付いており、机にはカメラと白いフード付きの服がある。

「……話って何?父さん」

 俺は、恐る恐る聞いた。
 雰囲気が重い気がして、何か怒られる気がしたからだ。
 しかし、心当たりがない。

「この服、来てみてくれないか?」
「服?う、うん」

 上着を脱ぎ、渡された白いフード付きの服を着る。

 ――プレゼントってことかな?

 けど、プレゼントにしては表情が固い。
 観察されているような気もする。

「座りなさい」
「うん」

 机を挟んで椅子に座る。

「これから父さんが何を言おうと、落ち着いて椅子に座ったままで居るんだ。俺も落ち着いてお前と向き合うから」
「う、うん……」

 父の重すぎる発言に、思わず唾を飲んだ。
 そして、次の発言を聞き、俺はまた唾を飲んだ。

「ヴェンディ、お前がセイヴァーなんだろ?」

 頭がパニックになった。
 さっきまでいつも通りの日常だったのに、非日常に突き落とされた気分になった。

「え?なっ、何言ってんの父さん」
「嘘や誤魔化しはやめるんだ。警察に言ったり、母さんにバラしたりしないから」

 父はそう言って何枚かの写真を机に出した。
 その写真は、全てセイヴァーを遠くから捉えた写真だった。
 ニュースとかで報道された映像を、写真にプリントアウトしたのだろう。

「同じピアスだ。髪色はハーフマスクで良く見えないが、この角度の輪郭、似てるな」

 父は震える俺に白いフードを深く被らせる。
 そして、カメラを俺に渡した。

「ここ一ヶ月、お前の部屋に監視カメラを設置していた。お前、一ヶ月前と先週、部屋で転移してるよな?この日はセイヴァーがベゼと戦っていた日だ。それもボロボロになって部屋に戻って来ている」

 ――終わった。

 そう思うと、体の震えが止まらなくなり、体中から汗が出てきた。

「最初は違うだろうと思い目を背けていた。けど、もし本当に息子が人殺しなら、父親である俺の責任だと思った。ヴェンディ、正直に言ってくれ」

 父の虚しい表情を見て、深く悩んでたことを悟る。
 父も父なりに悩んで、考えて、今に至る行動をしたのだろう。
 俺はそれに応える義務があると感じた。

「そうです……俺がセイヴァーです」

 父は虚しい表情を深くして、一瞬俺から目を背けた。

「セイヴァーが現れたのは八年前、つまり九歳の頃から……何でそんなことしてる?」
「この世界の平和の為……それ以外ないだろ」
「人を殺して平和を保とうと?勘違いしてるぞヴェンディ、お前にそんなことする権利はない」

 父は心に迷いがありながらも、親としての怒りを優先させた。

「そんな当たり前のこと分かってる……けど、俺がやらなかったら世界の犯罪率は増える一方で貧困も酷くなっていた……ベゼに対抗する者も現れなかった。父さんだってセイヴァーを認めてただろ」
「息子が人殺しだった時の親の気持ちを考えたのか?俺はともかく母さんが知ったらどうする?」

 父も色々考えて本気になってくれてるのは分かってる。
 それでも、父の発言に俺は頭がきた。
 結局は、自分本位でしか考えれないそこら辺の人間だとガッカリした。

「話変えんなよ……」
「何だと?」

 俺が小声で言ったことに、父が強く反応した。

「ニュースを見てた時父さんは言った!法を破ってまで悪人を裁いてくれるのは有難いって……それが本心だ!なのにセイヴァーの正体が息子だと分かった途端否定する。ずるい大人だ!自分や自分の周りに非がなければ賛成する癖に、自分の周りに非があると分かった途端それだ!」

 俺が強くそう言うと、父は目を細め、瞼を震わせたまま、口を開く。

「……そうだ、ずるい大人だ。ずるい大人になってでも、俺はお前を止める義務がある。世の中が理不尽なのは分かる……だからって先走って結果だけを求めることは愚かな行為だ。人間は過程を生きる生き物だ……死ぬと分かっても生き続けるし、壊れると分かっても創り続ける。それは、過程が大事だからなんだよ」
「だからってこれから悪人によって死んでいく者を見過ごせと?ふざけるなバカ!俺は世界の未来を守り続ける!その為に現在をどんな手を使ってでも変える!俺一人が犠牲になって皆が幸せになれればそれで良いんだよ!!」

 空気の流れが途切れた。
 父は静かに涙を流し、怒っている俺を見ている。
 そして、俺が父と目を合わせたその時、父は口を開いた。

「お前一人が犠牲になるだと?なぜ父さんのことを考えてくれないんだ――」

 涙を流しながら言う父の表情を見て、俺の心がチグハグになる。
 バラバラになった心が、乱雑に縫われたような複雑な気持ちになっている。

「そもそも犯罪者を殺してしまおうというのが悪魔の思想だ
 。お前は独り善がりの哀れな人間……なぜ分からない?」

 俺はその言葉を聞き、目から光を失った。
 セイヴァーに賛成していた父が、俺に向けた言葉はあまりにも残酷だった。

「こっちのセリフだ……何で、何で分からないだよ!間違ってるのは俺じゃない!俺一人が手を汚すことで世界が浄化されて行くんだ!俺は皆に必要とされてる!父さんもその一人だったのに……この偽善者!!!」

 必死になって父に訴えるも、父は俺の頬を思いっきりひっぱたいた。
 俺の頬は赤くなり、じわじわと涙が流れる。
 その涙は痛みではなく、辛さから来るものだった。

 ゆっくりと父を横目で見ると、息子に手をあげたことを後悔と、息子への怒りが混じった表情をしていた。

「もう良いよ……」

 俺は涙を拭い、部屋を飛び出した。

「待てヴェンディ!」

 部屋から飛び出すと、紅茶を持った母が居た。

「ヴェンディどうしたの!?父さんと喧嘩したの?」

 走って去ろうとする俺の肩に手を置き、母が心配そうに俺の顔を伺っだ。

「何でもない……」
「本当に?何か嫌なこと言われたなら母さん聞くけど――」
「何でもないって言ってんだろ!離せよ!」

 しかし、精神が乱れていた俺は、母の手を強く振り払った。
 母は持っていた紅茶を零し、腕に火傷を負って近くにあった柱に頭をぶつけた。

「あつっ!?いぃ……」
「大丈夫か!?」

 部屋からその光景を見ていた父が、母に寄り添う。
 母の頭からは血が出ており、俺はドス黒い罪悪感に苛まれた。
 どうして良いか分からなくなった俺は、転びながらも急いで二階の階段を降りた。

「ヴェンディ!待て!戻って来い!」

 俺は罪悪感に苛まれたまま家を飛び出した。
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