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八章『救世主編』
第八十二話『友情と青春』
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リオがクラスの虐めをなくしたその日、爺ちゃんはリオの傷の理由を知って、リオの頭を撫でて褒めた。
「偉い!良く正々堂々と戦い抜いた!流石儂の孫じゃ!」
リオは泣いて喜んだ。
疲れたせいか、涙を流したせいか、その日リオは早くに眠りについた。
「ヴェンディ、リオを手伝ってくれてありがとう」
「別に何もしてないし」
「そんなことはない。お前のお陰でリオは明るくなった」
「そう……じゃあ俺のお陰だな」
「褒めて損したわい」
爺ちゃんは、その日今までで一番嬉しそうにしていた。
そんな爺ちゃんを見て、俺は静かに語り出した。
「爺ちゃんが正しかったよ」
「何がじゃ?」
「人殺しは良くないって。俺は平和と殺しの亡者になっていた。いつの間にか殺しでしか平和を保てないと勘違いしていた。俺、今日殺人犯を殺さないで警察に渡した」
爺ちゃんは耳を疑ったようにこちらを見た。
そして、ニコッ笑い、俺の頭を撫でた。
「偉い!お主は変われる人間だと思っていた……儂は本当に嬉しい」
「だからって撫でんなよ……俺はガキじゃねぇんだ」
恥ずかしくなって、爺ちゃんの腕を振り払った。
すると、流れるように腕を掴まれ、床に叩き落とされた。
「うげぇ!?」
「受身を取れ!お主もまだまだじゃ」
「突然過ぎない!?」
「いつだって、戦いもロマンスも突然なんじゃ」
「そっ、そうかい……」
俺はそのまま意識を失い、眠りに着いた。
* * *
爺ちゃんは戦いもロマンスも突然と言ったが、そもそも出来事ってのは必然的に突然と来る。
俺が殺人犯を警察に引き渡すようになって四日目の今日も、突然地獄を見た。
セイヴァーとして、警察に殺人犯を引き渡して家に帰ったその日のことだ。
爺ちゃんとリオが居るはずの家は電気が付いておらず、妙な雰囲気だった。
「ただいまー」
いつもなら、あの爺が投げ技かナイフを投げて攻撃して来るのに、今日はそれがなかった。
「警戒した俺がバカみたい」
俺はそう呟きながら暗い家に入る。
床には何か転がっており、液体で濡れている。
「いてっ!」
俺はその何かに足を引っ掛けて転けた。
そして、すぐに部屋の電気を付ける。
目の前の光景は、一瞬にして地獄と化する。
「何だよこれ……」
俺が足を引っ掛けたのは、爺ちゃんだった。
リオを庇うように倒れていて、胸から血が大量に流れている。
爺ちゃんもリオも、既に死んでいた。
「おい!リオ!爺ちゃん!しっかりしろ!おい――」
外で雷が鳴った。
それと同時に、目の前に誰かが居ることに気付く。
「会いたかったぜ、セイヴァー」
その男は見覚えのある男だった。
帽子を被り、肌ツヤの良い健康そうな男――俺が初めて警察に引き渡した殺人犯だった。
この都市で捕まっているはずの男が、何故か目の前に居る。
「お前、あの時の……なんでここに……」
「お前に折られたこの腕の借りは返すぜぇ~」
男はナイフを手に持ち、俺に向けて振るってきた。
俺はナイフを交わし、男の腕を掴んで床に叩き付けた。
爺ちゃんに教えて貰った技で、男を追い詰める。
「がはぁ!?」
「お前か!リオと爺ちゃんを殺ったのは!」
「そうだ……ならどうする?俺を殺して気分を晴らすか?せっかく殺しを止めたってのによぉ――」
男の挑発は俺の心に届かなかった。
こいつが二人を殺したと分かればそれで十分。
俺は容赦なく男の目を抉り、ナイフで顔を滅多刺しにした。
「ぎゃにぃあ!!やめろぉ!!殺しを止めたんじゃないのかー!!」
「喋んなよ……俺は警告したはずだ……なのにてめぇは!!ふざけやがってぇ!」
男が死んだ後も、ナイフを何度も何度も男に突き刺した。
刃が通らなくなり、血で滑るまでナイフを突き刺した。
それでも、俺の心が晴れることはなかった。
俺の心にあったのは罪悪感ではなく、激しい後悔だった。
もし俺が殺しを止めないで殺人犯を殺していたら、もし俺がこいつをあの時殺していたら、リオも爺ちゃんも死ぬことはなかった。
前世もそうだった。
俺が逃した強盗犯により、妻が死んだ。
全部俺の失敗で、俺の周りの人が死んでいる。
腸が煮えくり返るような、酷い吐き気に襲われた。
「あああああああああぁぁぁぁぁ!!!」
リオと爺ちゃんを抱き寄せ、絶望の涙を流して叫んだ。
自分の無力さに腹が立つ。
こんなことなら、どいつもこいつも殺人犯を殺すべきだった。
なぜ清く生きようとしたのか、今では全く分からない。
自分の手を汚して、この世界を守ると決めたはずなのに。
「がはぁ!?くそぉ!!何でだよォ!ゴホッ!うっ……なんでなんだよぉー!」
追い討ちのように、血溜まりの咳が俺を襲う。
血溜まりを吐きながら、泣いて悔やむ。
だが、俺への罰はまだ終わらない。
俺が血溜まりを吐き出したその時、何者かに背後から胸を突き刺された。
鋭い痛みが走り、俺から全てを奪うような声が聞こえた。
「さよならをしに来たよ……ヴェンディ」
その声はマレフィクスの声だった。
* * * * *
ドス黒い夜は今始まった。
家には三人の死体があり、血に染った床の上で、マレフィクスによってヴェンディの胸が貫かれていた。
「がはぁ!」
「今この場は僕が君の神様だ。祈っても無駄だよ。君の処罰をしてやろう」
「何で……ここが……」
ヴェンディは血を吐き出し、状況が分からぬまま苦しんだ。
「君が今殺した奴はね、僕の部下なんだよ。彼が四日目警察に捕まったから、部下の何人かが助けに行ったんだ。そこで助かった彼は教えてくれた。セイヴァーは生きていて都市アヴァロンに居ると……僕は飛び跳ねて喜んだ。不思議に思ってたんだよね……殺したはずの君の能力が僕の手元に来ないから」
「こいつは……お前の部下だと……くそっ……お前さえ居なければこの二人は……死ななかったのに……」
「僕が作り出したこの素晴らしい状況、楽しめてるかい?君を絶望させて殺したかったんだよ」
「それだけの理由で……」
血と涙を流すヴェンディの胸から、突き刺していた羽根を引き抜く。
マレフィクスは、倒れるヴェンディを腕の中で受け止めた。
「ヴェンディ、君の死は確定した……後数分もしないで死ぬ」
「マレフィクス……友達で居たかった……」
ヴェンディは憎しみと憎悪の目をマレフィクスに向け、血に染った手を頬に伸ばす。
その目は憎悪の目だが、友情や愛情が混じった複雑な目だった。
「ヴェンディ、僕らは友達じゃないか?こんなにも青春と友情を満喫した二人は居ないよ。僕は君のことが大好きだよ」
マレフィクスはニコッと笑いながら、血塗れのヴェンディを抱き締めた。
だが、顔を合わせて、少しずつ笑みがなくなった。
「うぅ……寂しいよヴェンディ……死んで欲しくないよ」
「まっ、マレフィクス?お前……」
ヴェンディはマレフィクスが涙して泣いてくれたことに、驚きが隠せなかった。
それが内心嬉しかったヴェンディは、思わず笑顔になりそうになった。
だが、次の瞬間微笑みかけた笑顔はなくなる。
「うぅ……くくっ……あはははは!やっぱ君って最高!」
下を向いて泣いたかと思えば、上を向いて笑った。
その時のマレフィクスの目は涙がなく、完全に乾ききっていた。
「えっ……」
「誰が友達だって?この僕が友達?フフッ、僕は君に友情なんて感じたことないよ」
ヴェンディにとっての救いの言葉が偽りだった。
その事実が、リオや爺ちゃんの死以上に悲しく、虚しく苦しかった。
ヴェンディは何も言わずに苦しみの涙を流した。
「ヴェンディの、バーカ!」
マレフィクスはヴェンディを腕の中に抱えたまま、満面の笑みでニヤッと笑った。
「偉い!良く正々堂々と戦い抜いた!流石儂の孫じゃ!」
リオは泣いて喜んだ。
疲れたせいか、涙を流したせいか、その日リオは早くに眠りについた。
「ヴェンディ、リオを手伝ってくれてありがとう」
「別に何もしてないし」
「そんなことはない。お前のお陰でリオは明るくなった」
「そう……じゃあ俺のお陰だな」
「褒めて損したわい」
爺ちゃんは、その日今までで一番嬉しそうにしていた。
そんな爺ちゃんを見て、俺は静かに語り出した。
「爺ちゃんが正しかったよ」
「何がじゃ?」
「人殺しは良くないって。俺は平和と殺しの亡者になっていた。いつの間にか殺しでしか平和を保てないと勘違いしていた。俺、今日殺人犯を殺さないで警察に渡した」
爺ちゃんは耳を疑ったようにこちらを見た。
そして、ニコッ笑い、俺の頭を撫でた。
「偉い!お主は変われる人間だと思っていた……儂は本当に嬉しい」
「だからって撫でんなよ……俺はガキじゃねぇんだ」
恥ずかしくなって、爺ちゃんの腕を振り払った。
すると、流れるように腕を掴まれ、床に叩き落とされた。
「うげぇ!?」
「受身を取れ!お主もまだまだじゃ」
「突然過ぎない!?」
「いつだって、戦いもロマンスも突然なんじゃ」
「そっ、そうかい……」
俺はそのまま意識を失い、眠りに着いた。
* * *
爺ちゃんは戦いもロマンスも突然と言ったが、そもそも出来事ってのは必然的に突然と来る。
俺が殺人犯を警察に引き渡すようになって四日目の今日も、突然地獄を見た。
セイヴァーとして、警察に殺人犯を引き渡して家に帰ったその日のことだ。
爺ちゃんとリオが居るはずの家は電気が付いておらず、妙な雰囲気だった。
「ただいまー」
いつもなら、あの爺が投げ技かナイフを投げて攻撃して来るのに、今日はそれがなかった。
「警戒した俺がバカみたい」
俺はそう呟きながら暗い家に入る。
床には何か転がっており、液体で濡れている。
「いてっ!」
俺はその何かに足を引っ掛けて転けた。
そして、すぐに部屋の電気を付ける。
目の前の光景は、一瞬にして地獄と化する。
「何だよこれ……」
俺が足を引っ掛けたのは、爺ちゃんだった。
リオを庇うように倒れていて、胸から血が大量に流れている。
爺ちゃんもリオも、既に死んでいた。
「おい!リオ!爺ちゃん!しっかりしろ!おい――」
外で雷が鳴った。
それと同時に、目の前に誰かが居ることに気付く。
「会いたかったぜ、セイヴァー」
その男は見覚えのある男だった。
帽子を被り、肌ツヤの良い健康そうな男――俺が初めて警察に引き渡した殺人犯だった。
この都市で捕まっているはずの男が、何故か目の前に居る。
「お前、あの時の……なんでここに……」
「お前に折られたこの腕の借りは返すぜぇ~」
男はナイフを手に持ち、俺に向けて振るってきた。
俺はナイフを交わし、男の腕を掴んで床に叩き付けた。
爺ちゃんに教えて貰った技で、男を追い詰める。
「がはぁ!?」
「お前か!リオと爺ちゃんを殺ったのは!」
「そうだ……ならどうする?俺を殺して気分を晴らすか?せっかく殺しを止めたってのによぉ――」
男の挑発は俺の心に届かなかった。
こいつが二人を殺したと分かればそれで十分。
俺は容赦なく男の目を抉り、ナイフで顔を滅多刺しにした。
「ぎゃにぃあ!!やめろぉ!!殺しを止めたんじゃないのかー!!」
「喋んなよ……俺は警告したはずだ……なのにてめぇは!!ふざけやがってぇ!」
男が死んだ後も、ナイフを何度も何度も男に突き刺した。
刃が通らなくなり、血で滑るまでナイフを突き刺した。
それでも、俺の心が晴れることはなかった。
俺の心にあったのは罪悪感ではなく、激しい後悔だった。
もし俺が殺しを止めないで殺人犯を殺していたら、もし俺がこいつをあの時殺していたら、リオも爺ちゃんも死ぬことはなかった。
前世もそうだった。
俺が逃した強盗犯により、妻が死んだ。
全部俺の失敗で、俺の周りの人が死んでいる。
腸が煮えくり返るような、酷い吐き気に襲われた。
「あああああああああぁぁぁぁぁ!!!」
リオと爺ちゃんを抱き寄せ、絶望の涙を流して叫んだ。
自分の無力さに腹が立つ。
こんなことなら、どいつもこいつも殺人犯を殺すべきだった。
なぜ清く生きようとしたのか、今では全く分からない。
自分の手を汚して、この世界を守ると決めたはずなのに。
「がはぁ!?くそぉ!!何でだよォ!ゴホッ!うっ……なんでなんだよぉー!」
追い討ちのように、血溜まりの咳が俺を襲う。
血溜まりを吐きながら、泣いて悔やむ。
だが、俺への罰はまだ終わらない。
俺が血溜まりを吐き出したその時、何者かに背後から胸を突き刺された。
鋭い痛みが走り、俺から全てを奪うような声が聞こえた。
「さよならをしに来たよ……ヴェンディ」
その声はマレフィクスの声だった。
* * * * *
ドス黒い夜は今始まった。
家には三人の死体があり、血に染った床の上で、マレフィクスによってヴェンディの胸が貫かれていた。
「がはぁ!」
「今この場は僕が君の神様だ。祈っても無駄だよ。君の処罰をしてやろう」
「何で……ここが……」
ヴェンディは血を吐き出し、状況が分からぬまま苦しんだ。
「君が今殺した奴はね、僕の部下なんだよ。彼が四日目警察に捕まったから、部下の何人かが助けに行ったんだ。そこで助かった彼は教えてくれた。セイヴァーは生きていて都市アヴァロンに居ると……僕は飛び跳ねて喜んだ。不思議に思ってたんだよね……殺したはずの君の能力が僕の手元に来ないから」
「こいつは……お前の部下だと……くそっ……お前さえ居なければこの二人は……死ななかったのに……」
「僕が作り出したこの素晴らしい状況、楽しめてるかい?君を絶望させて殺したかったんだよ」
「それだけの理由で……」
血と涙を流すヴェンディの胸から、突き刺していた羽根を引き抜く。
マレフィクスは、倒れるヴェンディを腕の中で受け止めた。
「ヴェンディ、君の死は確定した……後数分もしないで死ぬ」
「マレフィクス……友達で居たかった……」
ヴェンディは憎しみと憎悪の目をマレフィクスに向け、血に染った手を頬に伸ばす。
その目は憎悪の目だが、友情や愛情が混じった複雑な目だった。
「ヴェンディ、僕らは友達じゃないか?こんなにも青春と友情を満喫した二人は居ないよ。僕は君のことが大好きだよ」
マレフィクスはニコッと笑いながら、血塗れのヴェンディを抱き締めた。
だが、顔を合わせて、少しずつ笑みがなくなった。
「うぅ……寂しいよヴェンディ……死んで欲しくないよ」
「まっ、マレフィクス?お前……」
ヴェンディはマレフィクスが涙して泣いてくれたことに、驚きが隠せなかった。
それが内心嬉しかったヴェンディは、思わず笑顔になりそうになった。
だが、次の瞬間微笑みかけた笑顔はなくなる。
「うぅ……くくっ……あはははは!やっぱ君って最高!」
下を向いて泣いたかと思えば、上を向いて笑った。
その時のマレフィクスの目は涙がなく、完全に乾ききっていた。
「えっ……」
「誰が友達だって?この僕が友達?フフッ、僕は君に友情なんて感じたことないよ」
ヴェンディにとっての救いの言葉が偽りだった。
その事実が、リオや爺ちゃんの死以上に悲しく、虚しく苦しかった。
ヴェンディは何も言わずに苦しみの涙を流した。
「ヴェンディの、バーカ!」
マレフィクスはヴェンディを腕の中に抱えたまま、満面の笑みでニヤッと笑った。
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