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番外 元さや【R-18】
14.情勢
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翌朝、
「昨日の輩と話をつけてきますが、すれ違いがあっては大変です。 なので、外には出ないようにしてくださいね」
「大丈夫です!! 外出るのは、好きではありませんもの!」
「いえ、それは堂々と言うところではありませんから……」
「お土産を買ってくるのでお利巧にしていてくださいね」
孤児院の子達と勘違いしているのでしょうか? 首を傾げればアゴに触れる指先が私の顔を上向かせた、チュッと音をたてて少しだけ触れた口づけ。
「なっ、ななんあなんあ」
「行ってきます。 戸締りをしておいてくださいね」
まぁ、そんな風に穏やか……な様子で出かけたワイズ様でしたが、帰宅されたときには、パンを始めとする様々な食材を抱え、背には大きめのリュックを背負い、物凄く深刻な顔をしていらっしゃいました。
「あの、大丈夫ですか?」
「えぇ、食事の下準備をしてきますので、失礼します」
ニッコリ笑うが、色々考えこんでいる様子がバレバレで、そんな状態で料理をするのが心配になる訳ですが、手と頭は別のようです。 手際よく食事の準備が進められていました。
ですが、扉の影に隠れている私に気づかないとは……弱っていらっしゃいますね。
とはいっても、ソレを見ていても意味がないでしょうし、問い詰めて答えるなら、最初から話してくれるはず。 なので、私は趣味にしている彫金のデザイン画に励むことにしました。
作業場にこもるよりも、応接室にいるほうが声をかけて貰えそうでしたからね。
どれぐらいの時間がたったのでしょうか?
トントンとノックの音が響き
「お茶でも如何ですか?」
「頂きますわ」
まぁ、そんなやり取りと共にお茶の出したワイズ様は、私の正面の席に腰を下ろし、膝に肘をつき考え込むかのような前傾姿勢から真剣な様子で話しかけてきた。
「シアさんは、引っ越しをしませんか?」
「何か後始末に困るようなことがあったのですか?」
「いえ、同居人だった方の件は無事話し合いが終わりましたし、神殿は解体される事となり、孤児として預かっている子供達は、貴族達によって保護されることが決まりました」
「問題がないのに、引っ越しですか?」
「今は! まだ問題はありません。 実は、大国ラジルが周辺国に同盟参加の呼びかけを開始したそうです。 実質属国になれとの命令であり、応じない国には戦争を仕掛けると言っています」
「それでワイズ様に帰還命令が? かかったのですか?」
とは言え、私の引っ越しにはならないでしょう。
「まぁ、以前から戻るようにとは言われていますが、ソレに関しては、クルール家の縁戚に一族の特徴を持った者が数名おり、その1人が当主となったことで体裁は整ったと言えます。 両親は……当主家ではなく一族末端と言う扱いとなりますが、貧乏生活はジジイに慣らされていますし、今の時期その方が気楽と言えるでしょう」
「そうですか……でも、それなら、なぜ、引っ越しとおっしゃるのですか?」
「それは、先日言ったように、シアさんを1人抱え込んでしまえば、それは大軍を抱えていると同じ意味を持ちます。 激化する戦争を長期化させることもできれば、先制攻撃が出来れば他国を力で抑え込むこともできます。 例え大国相手であっても戦局を覆すそんな可能性を生み出してしまうんです。 それは、シアさんの保護をしていると言う体裁のもとで、人権が無視されることも意味するんです」
「それは……お爺様から、私と言う存在への可能性として聞いておりました」
そう告げればワイズ様は苦々しい顔をした。
「利益のため金融機関と商人は、シアさんを保護すると思われていましたが、大国が世界統一に乗り出すとなれば、話は別になります。 金融機関は各国の有り余る金を持つ上級貴族によって運営されており、自国の不利を感じれば、シアさんを秘匿しようと言う約束は反故にし、我さきにとアナタを獲得しようとするでしょう。 誰もがそう考えるはずです。 なので、金融機関とは完全に縁を切り、商人に関しては、人柄を判断した上で関わる人間を減らして欲しいのです」
「そこまでしないとダメ? なんですか?」
そう聞けば、言い難そうにワイズ様は言う。
「例えば、懇意にしていた人を人質にする。 いう事を効かなければシアさんが悪いのだと大声で叫びながら人を殺す。 そんな胸糞悪いことに他人が巻き込まれてしまいかねません」
どう答えていいかわからなかった。
「それで? 私はどうすれば……」
「コレは、私の希望ですが、現在の付き合いを最小限とし、素性を隠して、隠遁生活を送ってもらうのが最善かと考えて居る訳です」
「その……、教会に治癒アイテムを寄贈することで、神殿の力を回復させ元の平和な状況へ戻すと言うのは無理なのでしょうか?」
片手間に作っていた治癒アイテム3カ月であれば、全力で作れば2.3日で作れるはずです。
「神殿が巨大化したことは、民にとっては幸いでしたが、国にとっては余り気分の良いものではなく、民が神殿を中心に団結することで国としての権威は失われていった……。 では国が力を失くせば、神殿が力を持つか? と言われれば、国が弱くなった隙を狙い、国家間を跨いだ金融、商業が盛んとなり、王以上の力を持つようになりました。 どこに落ち着くかは分かりませんが……平和ではいられない時代へと突入したと考えるべきでしょう……」
ワイズ様の声が徐々に言葉が小さくなっていった。
「どうしました?」
「いえ、シアさんが取れる方法と言うのが、既に誰に保護されるか? という選択まで来ていると……。 安全で幸福な状態で保護されるなら、何処でも構いません。 ですが……」
私も馬鹿ではない……つもりです。 お爺様には万が一の際、自分に対して国がどう動くかは学びました。 多分ソレはワイズ様と同じなのだと思います。
私は考えながら、深呼吸を繰り返す。
もし私がどこかの国に身を寄せれば、馬車馬のごとく使われながらも、保護してやっていると恩を売られ、感謝に涙しなければいけない環境に身を置くことになるでしょう。
「大丈夫ですよ。 シアさん1人を守る程度には強いですから」
ワイズ様は、深く悩んでいらしていた表情を引っ込め笑って見せた。 思わず手を伸ばせば、ワイズ様は私の手を取り口づける。
「来ます?」
ポンポンと自分の膝を叩くワイズ様に、私はクスッと笑ってしまう。
「子どもではありませんのよ?」
そういいながらも、ストンっと膝の上に腰を下ろせば、壊れ物を手にしたように私を抱きしめたワイズ様は耳元で囁く。
「大丈夫です。 ちゃんと守りますから」
「はい……あの……実は……」
「どうしました?」
もし、私がクルール公爵家と縁を切った場合の可能性として、お爺様が想定されていたパターンの1つに今が当てはまる訳で……。
「えっと、ジジイが、無駄に慈悲を振りまきアチコチに利用もできない土地を買いまくっていたが、万が一の隠れ村に通じる転移陣を隠すためだと?」
ワイズ様……口調が……。
「はい、今、お爺様が想定されていた未来には、ワイズ様がおっしゃっていた状況と似たようなものがありました。 そして、その際には転移陣を利用した先で、身分を隠し生活するようにと。 そこにある村は、グリフィス家、クルール家の末端の者達が暮らしていて受け入れ準備が整っているからと」
「あのジジイ……どこまで考えて居たのでしょうかねぇ……」
チッと言う舌打ちと共に、ワイズ様は天井を仰いでいた。
私もお爺様が何処まで考え、何を求めていたかは分かりません。 厳しさの中に、家族への愛があったのかと言われれば、やはり家族、一族に対する処遇はかなり厳しく身勝手だったと言えるでしょう。
「ただ、そこは街と比べれば何もない村だと、ソレに耐えられるなら、そこで暮らすといい。 耐えきれないなら自分の持つ力、技術を最大限に使って、自分の行く道を選ぶがいい……と」
ワイズ様はしばらく考え込み私にたずねます。
「それで、シアさんは……どうしますか?」
静かにそう言いながら、私を軽々と持ち上げ触れるだけの口づけをしてくる。 それは、言葉と行動と一致しない、とても不思議な感覚で、優しいというよりも……壊れそうな雰囲気が、私を不安にさせる。
「一緒に逃げてくれないのですか?」
そう問えば、彼は泣きそうな顔で笑った。
「世界の果てまででも」
「昨日の輩と話をつけてきますが、すれ違いがあっては大変です。 なので、外には出ないようにしてくださいね」
「大丈夫です!! 外出るのは、好きではありませんもの!」
「いえ、それは堂々と言うところではありませんから……」
「お土産を買ってくるのでお利巧にしていてくださいね」
孤児院の子達と勘違いしているのでしょうか? 首を傾げればアゴに触れる指先が私の顔を上向かせた、チュッと音をたてて少しだけ触れた口づけ。
「なっ、ななんあなんあ」
「行ってきます。 戸締りをしておいてくださいね」
まぁ、そんな風に穏やか……な様子で出かけたワイズ様でしたが、帰宅されたときには、パンを始めとする様々な食材を抱え、背には大きめのリュックを背負い、物凄く深刻な顔をしていらっしゃいました。
「あの、大丈夫ですか?」
「えぇ、食事の下準備をしてきますので、失礼します」
ニッコリ笑うが、色々考えこんでいる様子がバレバレで、そんな状態で料理をするのが心配になる訳ですが、手と頭は別のようです。 手際よく食事の準備が進められていました。
ですが、扉の影に隠れている私に気づかないとは……弱っていらっしゃいますね。
とはいっても、ソレを見ていても意味がないでしょうし、問い詰めて答えるなら、最初から話してくれるはず。 なので、私は趣味にしている彫金のデザイン画に励むことにしました。
作業場にこもるよりも、応接室にいるほうが声をかけて貰えそうでしたからね。
どれぐらいの時間がたったのでしょうか?
トントンとノックの音が響き
「お茶でも如何ですか?」
「頂きますわ」
まぁ、そんなやり取りと共にお茶の出したワイズ様は、私の正面の席に腰を下ろし、膝に肘をつき考え込むかのような前傾姿勢から真剣な様子で話しかけてきた。
「シアさんは、引っ越しをしませんか?」
「何か後始末に困るようなことがあったのですか?」
「いえ、同居人だった方の件は無事話し合いが終わりましたし、神殿は解体される事となり、孤児として預かっている子供達は、貴族達によって保護されることが決まりました」
「問題がないのに、引っ越しですか?」
「今は! まだ問題はありません。 実は、大国ラジルが周辺国に同盟参加の呼びかけを開始したそうです。 実質属国になれとの命令であり、応じない国には戦争を仕掛けると言っています」
「それでワイズ様に帰還命令が? かかったのですか?」
とは言え、私の引っ越しにはならないでしょう。
「まぁ、以前から戻るようにとは言われていますが、ソレに関しては、クルール家の縁戚に一族の特徴を持った者が数名おり、その1人が当主となったことで体裁は整ったと言えます。 両親は……当主家ではなく一族末端と言う扱いとなりますが、貧乏生活はジジイに慣らされていますし、今の時期その方が気楽と言えるでしょう」
「そうですか……でも、それなら、なぜ、引っ越しとおっしゃるのですか?」
「それは、先日言ったように、シアさんを1人抱え込んでしまえば、それは大軍を抱えていると同じ意味を持ちます。 激化する戦争を長期化させることもできれば、先制攻撃が出来れば他国を力で抑え込むこともできます。 例え大国相手であっても戦局を覆すそんな可能性を生み出してしまうんです。 それは、シアさんの保護をしていると言う体裁のもとで、人権が無視されることも意味するんです」
「それは……お爺様から、私と言う存在への可能性として聞いておりました」
そう告げればワイズ様は苦々しい顔をした。
「利益のため金融機関と商人は、シアさんを保護すると思われていましたが、大国が世界統一に乗り出すとなれば、話は別になります。 金融機関は各国の有り余る金を持つ上級貴族によって運営されており、自国の不利を感じれば、シアさんを秘匿しようと言う約束は反故にし、我さきにとアナタを獲得しようとするでしょう。 誰もがそう考えるはずです。 なので、金融機関とは完全に縁を切り、商人に関しては、人柄を判断した上で関わる人間を減らして欲しいのです」
「そこまでしないとダメ? なんですか?」
そう聞けば、言い難そうにワイズ様は言う。
「例えば、懇意にしていた人を人質にする。 いう事を効かなければシアさんが悪いのだと大声で叫びながら人を殺す。 そんな胸糞悪いことに他人が巻き込まれてしまいかねません」
どう答えていいかわからなかった。
「それで? 私はどうすれば……」
「コレは、私の希望ですが、現在の付き合いを最小限とし、素性を隠して、隠遁生活を送ってもらうのが最善かと考えて居る訳です」
「その……、教会に治癒アイテムを寄贈することで、神殿の力を回復させ元の平和な状況へ戻すと言うのは無理なのでしょうか?」
片手間に作っていた治癒アイテム3カ月であれば、全力で作れば2.3日で作れるはずです。
「神殿が巨大化したことは、民にとっては幸いでしたが、国にとっては余り気分の良いものではなく、民が神殿を中心に団結することで国としての権威は失われていった……。 では国が力を失くせば、神殿が力を持つか? と言われれば、国が弱くなった隙を狙い、国家間を跨いだ金融、商業が盛んとなり、王以上の力を持つようになりました。 どこに落ち着くかは分かりませんが……平和ではいられない時代へと突入したと考えるべきでしょう……」
ワイズ様の声が徐々に言葉が小さくなっていった。
「どうしました?」
「いえ、シアさんが取れる方法と言うのが、既に誰に保護されるか? という選択まで来ていると……。 安全で幸福な状態で保護されるなら、何処でも構いません。 ですが……」
私も馬鹿ではない……つもりです。 お爺様には万が一の際、自分に対して国がどう動くかは学びました。 多分ソレはワイズ様と同じなのだと思います。
私は考えながら、深呼吸を繰り返す。
もし私がどこかの国に身を寄せれば、馬車馬のごとく使われながらも、保護してやっていると恩を売られ、感謝に涙しなければいけない環境に身を置くことになるでしょう。
「大丈夫ですよ。 シアさん1人を守る程度には強いですから」
ワイズ様は、深く悩んでいらしていた表情を引っ込め笑って見せた。 思わず手を伸ばせば、ワイズ様は私の手を取り口づける。
「来ます?」
ポンポンと自分の膝を叩くワイズ様に、私はクスッと笑ってしまう。
「子どもではありませんのよ?」
そういいながらも、ストンっと膝の上に腰を下ろせば、壊れ物を手にしたように私を抱きしめたワイズ様は耳元で囁く。
「大丈夫です。 ちゃんと守りますから」
「はい……あの……実は……」
「どうしました?」
もし、私がクルール公爵家と縁を切った場合の可能性として、お爺様が想定されていたパターンの1つに今が当てはまる訳で……。
「えっと、ジジイが、無駄に慈悲を振りまきアチコチに利用もできない土地を買いまくっていたが、万が一の隠れ村に通じる転移陣を隠すためだと?」
ワイズ様……口調が……。
「はい、今、お爺様が想定されていた未来には、ワイズ様がおっしゃっていた状況と似たようなものがありました。 そして、その際には転移陣を利用した先で、身分を隠し生活するようにと。 そこにある村は、グリフィス家、クルール家の末端の者達が暮らしていて受け入れ準備が整っているからと」
「あのジジイ……どこまで考えて居たのでしょうかねぇ……」
チッと言う舌打ちと共に、ワイズ様は天井を仰いでいた。
私もお爺様が何処まで考え、何を求めていたかは分かりません。 厳しさの中に、家族への愛があったのかと言われれば、やはり家族、一族に対する処遇はかなり厳しく身勝手だったと言えるでしょう。
「ただ、そこは街と比べれば何もない村だと、ソレに耐えられるなら、そこで暮らすといい。 耐えきれないなら自分の持つ力、技術を最大限に使って、自分の行く道を選ぶがいい……と」
ワイズ様はしばらく考え込み私にたずねます。
「それで、シアさんは……どうしますか?」
静かにそう言いながら、私を軽々と持ち上げ触れるだけの口づけをしてくる。 それは、言葉と行動と一致しない、とても不思議な感覚で、優しいというよりも……壊れそうな雰囲気が、私を不安にさせる。
「一緒に逃げてくれないのですか?」
そう問えば、彼は泣きそうな顔で笑った。
「世界の果てまででも」
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