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04.

30.お茶会の準備

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 お茶会の催促がされる。
 お茶を飲みながら。

 相手は、ゾフィ王女殿下。

「お茶会なんて、開催も参加も経験がありませんの」

 勘弁してくれと私は往生際悪く告げる。

「別に特別な事は考えなくて良いんだから、早くなさい」

 王族との関係は重い……例え年若い王女殿下相手であっても、馬鹿にしてはいけないのだと本能に刻まれている。

 王宮に出向くと言う父に行ってみたい。 お姫様、王子様を見てみたいと無邪気に言った時、父にとんでもない剣幕で怒られ、うちを潰す気かと叱られた事を怒声とセットで覚えているためだ。

「下心ありありで近寄られるのも鬱陶しいけど、何時までもそうやってお客様扱いで距離を置かれるのって正直傷つくんだけど?」

 はぁ、と言うゾフィ王女の深い溜息。 言われれば少しばかり申し訳ない気にもなる。 尊大な態度で来訪するが、彼女は母のように傲慢を振りかざしている訳ではないから。



 ゾフィ王女は必ずお茶と菓子を持参し、自分達が日頃何を飲み、何を食べて居るかの情報を提供してくれているのだ。

『まぁ、こういうの食べてはいるけど、実際には王族の血筋は大抵騎士の血を持っているから、本当は質より量なのよね。 むしろ、日頃食べる事が出来ない、こう大雑把なな物を食べてみたいわ』

 なんて侍女に隠れてこそこそと伝えて来た事がある。



「では、部屋の飾りつけを手伝っていただけませんか? オヤツと言うか、軽食を準備するよう料理人に頼んでおきますので……」

 ゾフィ王女は瞳を輝かせる。

「いいわよ、任せなさい!! コレでも力はあるんだから!!」

 秘密基地再現用に与えられたとオモチャ箱……ではなく、応接室は、懲罰房に比べてかなり広い。

 もともとブラーム様の衣装を自分で染めたいと言う願いから始まった染色だから、カーテンに使っていたのは青ばかり。 懲罰房に居た頃は、空が見えない事から空をイメージした青にしていたが、夏を前に増やしている布地の色はもっと白に近い青と、もっと深く濃い青。 そして絵付けで幾重にも重ねる青と白。 うっすらと描かれる魚は図書館から辞典を借りて来ても、納得がいかずに幾度もデザインがなされている。



『魚って、どう動くんですか?』

 と言うバウマン様と私をブラーム様は連れ出してくれた。

 最初は学園内にある小川と池。
 放たれている魚は優雅に泳いでいた。

 コレではツマラナイなと、翌日には学園外に出る許可をブラーム様がとってきて、渓流につれだしてくれた。 お茶を持ち、デザートと軽食を持ち、連れていかれた山の中は気温が上がり始めている地上と違い、少し肌寒かった。

 バウマン様は、その肌の冷たさも描いてみたいと、ボンヤリと見えぬ空気をジッと見つめていて、私とブラーム様は静かに声を控えて笑っていた。

 川遊びをし、魚を見て、カニとかも見て、軽食をして、焚火もして、水の流れる音、鳥の歌に耳を傾け、自分の世界に幸せそうにこもるバウマン様を見て、やっぱりブラーム様と笑ってしまっていた。

 以前なら、私に興味が無いのねと……勝手に拗ねて、勝手に諦め、傷つかぬように勝手に嫌いになっていたと思うと、今が幸せに思える。



「凄いわ!!」

 重ね合う青は、水のようで風のよう。

「お兄様から聞いていたのだけど、確かにコレだと椅子やテーブルは邪魔ね」

「はい、なので大きなクッションを作っていただいています。 お茶会は注文してある絨毯の到着に合わせてになりますが、ご容赦くださいませ」

「え~~。 ……いいわ、私がどこかから用立ててくるから」

 そうこうしているうちに、部屋は出来上がり、ゾフィ王女の侍女が料理人から頼んでおいた軽食を持ってきてくれた。 カワイイ色味のマカロンや、フルーツタップリのタルトを合わせたいところだが、相手は肉食派の王族だ。

 あぶり鳥の炭火焼を具にした、異国の主食。 オニギリを提供した。 他にも具は鮭や煮卵、まぁ色々ある。

「なに、コレ?」

「異国のお出かけランチ? でしょうか? 旅の商人が、携帯食で持っていたものを食べさせていただいた事があるんです。 手でつかんでお食べ下さい」

 そう言えば側仕えのものは、凄く嫌な顔をしていたが、ゾフィ王女は楽しそうに笑っていた。

「この食べ物はソレがマナーって事でいいのよね?」

「そう伺っております」

「いいじゃない!!」

 戦があれば男だろうが、女だろうが、老いていようが、若かろうが、率先して戦場に出るのがこの国の王族だ。

『お上品と言う型に押し込められ、窮屈なだけだ』

 大公になったブラーム様との関係に距離を置こうとした私にブラーム様が言った言葉。 頻繁に遊びに来るゾフィ王女を見れば、彼女もまたブラーム様と近い感覚なのではないだろうか? と、想像していた。

 ただ……冒険ではあったけれど。

 大きな口でオニギリを頬張るゾフィ王女、そして頭を抱える侍女は私を軽く睨んでくるが、

「良いじゃない、貴方達もご相伴に預かりなさい!! あと、マナーはちゃんと守るのよ!!」

 ニヤリとしてゾフィ王女が言えば、大きな溜息と共に肩を竦め、食べ慣れない食べ物と、具の相性に目を見開き表情を変えた。

「コレは……」

「悪くないでしょう。 凄く美味しいと言う事は無いけど、これは解放感と楽しさがある悪く無い食事でしょう? お茶会の当日にも、これを出して!!」

「では、お茶もコレに合わせたものにいたしましょう。 味見をお願いしてよろしいでしょうか?」

「任せなさい」

 私は、秘蔵のほうじ茶を淹れる事になる。



 まぁ、楽しいなら……何よりと言うものです。
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