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05.

34.それぞれの婚約関係

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 バウマン様のデザインを元にした服は、大量の針子を投入され、ありえない速さでお披露目となった。

 そして、学園内は荒れ始めた。



 秘密のお茶会の時、公平性を前に『個』として、婚約者を見るようになりソレが問題となると言われていましたが、その問題が徐々に表面化しはじめてしまったのです。

 学園内では、男性と女性に分かれて険悪な様相が彼方此方に見られるようになりました。

「あのような無知で口先だけの方が、貴族家当主としてやっていけるのかしら?」
「うちも同じですわ。 自領の特徴も良く理解されておらず、将来が不安になります」

 そう言って集まる女性達は、良い領主とは? 良い婚約者とは? そんな、チェックシートまで作り出し採点し、婚約者に突き付ける。

 そして男性側も女性をランキングつけし、その上位に位置する女性の理想的な面を婚約者に求める。

 お互いが、求めるばかりで険悪な状況を見せていた。


 


 そんな中、バウマン様と言えば、王族相手に個人の実力を見せつけ高く評価を受けたと人気がピークに差し掛かっていた。

「私もバウマン様に、ドレスを作っていただきたいわ~」

 近寄ってくる女性の8割がこの言葉と共に近寄ってくる。

 ですが、バウマン様にとって不快な音を立て近寄り、要求ばかりを突き付けてくる人は、嫌われても問題ない相手でしかなく返答に容赦はありません。

「貴方には、創作意欲が掻き立てるような美がありません」

 令嬢、崩れ落ち、言葉にならない言葉を叫び撤退。

 何処からともなく現れて、ぶつかり『婚約者に追われていますの……』なんて涙ながらの出会いを演出しようとする者も少なくはないものの、耳の良いバウマン様はかなり早い段階で回避してしまうため、遭遇すらできておらず……私は令嬢達の嘆きを目にする事になる訳です。

 劇的な出会いが駄目と分かった令嬢達は、バウマン様の逃げ場を奪う作戦を取るようになってきました。

「ダンスのステップが、上手くできませんの。 お相手してくださいませんか?」

 言えば、すぐに教師が呼ばれた。

 教科書を忘れたから、一緒に使わせて欲しいと近寄れば、教科書を貸し出してしまう。

 食事を誘われれば、

「食事の時間を、不快に過ごしたくはありません」

 等と、ことごとく排除されていた。



 正直、ちょっとばかり気分が良かったと言うのは秘密です。
 品性を疑われてしまいますからね。

 そして私は、バウマン様にとって、自分は特別なんだなと少しだけ幸せになるのです。



 とは言え、問題は私にも降りかかってきていました。

 男性たちは、何しろ私は婚約者にしたいランキングの上位にいましたからね。

 私に対する評価はこんな感じです。

「ベール侯爵令息は、婚約者のサポートがあるから成功できた」
「夫となる者を立てる事無く、不満ばかり言う婚約者はどうなのだろうか? マティル様を見習ってほしいものだ」
「あの、落ちぶれベール侯爵令息がアレほどに大成出来たなら、私ならどれほどの成功を収める事ができるだろう?!」

 褒められているのかもしれないが、全く嬉しくはない。

「落ちぶれた侯爵令息などより、私の方が貴方に相応しい……」

 話す気にもならず、私は彼等を無視して通り過ぎる事にしている。



 そして、このアピールは私達だけが向けられたものではありませんでした。

 婚約者と良好な関係を築く人。
 王族の方々。

 王族の方々は、その職務の内容に『婚約破棄の支援』があるため、私やバウマン様以上に人が集まっているようでした。



 が!!



 流石、毎回同様の事が繰り返されているだけあって、王族の方々は逃亡。 相談の聞き取りとして同性の上級生がが対応されていました。

「こちらの書面に相談内容を記入し、申請してください。 後日、その相談に対して王族の方々がお返事を返す事になります」

 書面には、自身の名前、婚約者の名前、相談内容、そして今後どうしたいと思っているかを記載するようにと書かれているそうだ。

「これは?」

 大抵の方は、挙動不審でこう問いかけるそうです。

「大勢の方を1人1人親身になって、対応する事は難しい。 相談内容をお伺いし、その内容に沿った調査を行った上で、早急な相談が必要と思われた人から殿下方が対応していきます。 暴力、暴言、金銭問題がある場合は即刻対応が必要となりますからね。 現状、耐えがたい状況であるなら、隣室で書類を制作する事をお勧めしますが、いかがなさいますか?」

 そんな対応が淡々と事務的に行われるから、大抵の人々は申請書類を提出することも出来ないのだと伺いました。



 この状況は大抵、気温が下がりだす頃には諦めに入ると言う話でした。



 今は我慢……そう思っていたところに事件は起こったのです。

 ブラーム様が呼び出しを受け不在としていたある日。
 何時ものように庭園でスケッチをしていたバウマンに、熱のこもった女性の声がかけられた。

「バウマン様?」

 何故、家名ではなく名を呼ぶのか? そんな疑問は視線に宿る。

「アンベル・ゾンダーハ伯爵令嬢」

 彼女ほどの美しい女性であれば、我儘を言われるのも嬉しい。
 男のやる気を上手く刺激する女性。
 彼女のためなら、自身を磨き上げる事もやりがいとなる。

 入学式典以前からそのような噂が耐えない方。

 婚約者の方とも良好な関係を築いており、幾度か食事やお茶を共にしたこともある方で、少しだけ気も緩んでいたのかもしれません。

「今日も暑いですわね」

「えぇ」

「今日もスケッチですか?」

 その声はとても熱のこもった声。

「はい」

 側に寄ってきた女性は、不愛想に対応されつつも、柔らかくも熱い声で話しかけて来る。

「あぁ、バウマン様の側は、ほんのり涼しい空気が漂っていますのね。 日々の喧噪に疲れた私の心が癒される気がいたしますわ」

 そう言って近づいてきて、寄り添うようにとなりに腰を下ろした。

「木が光を遮り、程よく風が拭いているためです。 私の側だからではありませんよ。 ですが、コチラで美しい景色を眺め、心を癒されるといい」

 そう言って、バウマンが立ち上がろうとすれば、その腕が取られた。

「……なんですか?」

「いえ、その、一人でいるのが……怖いの」

「では」

 婚約者殿を呼んできましょう。 と言う言葉は遮られた。

「お茶1杯分だけでいいの。 私の安らぎとなってくださいませんか?」
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