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3章 セイジョセキ
15.親子 05
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神官長の結界が張られた部屋。
私は苦も無く、壁をすり抜け中へと入る。 入れる理由なんて簡単。 肉体を置き去りの意識体であっても私の方が強いから。
「まさか王位を望まぬとは……」
そう言いながら丸テーブルに4人がついた。
「精霊に育てられたゆえに、精霊としての意識が強いのでは?」
「はっ、そもそも人ですらない。 人として考えるのが間違っておるのだ。 人でない者を人として押し通すのが我らの役目。 どのみち、この国には封じの契約を受け継げるものがおらん。 王とて、我らがいう事を聞かぬ訳にはいかぬであろう」
精霊ギルドの長が言う。
「公爵殿なぜ貴殿は王位を望めと言わぬ。 娘が王家に嫁ぐ事を望んでいたではないか、なぜ、それを進めん」
神官長に責めるように言われ、俯いた公爵、妻を馬鹿にし見下す者への復讐でもなければ、公爵はいまだ気の弱い男で、返す声はぼそぼそとしていた。
「私は……、私は……、あの子が妻の子ではないと、そう思っていたから……でも、今ならわかる……あの子は私と妻の子だ……ずっとずっと腹にいる時から話しかけ、待ち望み、共に愛そうと誓った子なのです……嫌がる事などできるはずありません……」
「今更、聖女様が公爵殿の娘に戻る事はない。 聖女様を化け物と呼び、妻を殺されたと仇討を試みながら、余りにも都合が良すぎではありませんか。 王位を求めるおう親として進めてくれるのであれば、私達も公爵殿があの子にしたことを黙っている理由がないのだがのぉ」
「そんな!! 私は……私は……謝りたい……許されずともいい。 せめて、ユリアが望んでいたように、あの子が進みたい道を応援したい。 苦しいだけではないと、道は選べると」
「甘い!!」
精霊ギルドの長が声を荒げれば、公爵はビクッと身を震わせた。
「今更何を甘い事を言っておるのだ!!」
そっか、私は母を殺して生まれ、この男に殺されかけたのか……いらない子だった……。 目の前の男は、私を生んだ女が好きで、その女を殺した私を恨んだ。
なんかしんどい……。
そっか、私はいらない子なんだ。
「あの子は、ユリアの子だ!! 私達が生まれてきてくれるのを待って、待って、待ち望んでいた子なんだ……」
オルコット公爵の叫びがむなしく心を素通りする。
「それがどうした。 殺そうとした事実は失われぬ。 例え記憶がなくとも、聖女と言えど、己を殺そうとしたものを許せる訳などないでしょう。 諦めて、自分の役割に徹してください」
「そんな……」
そう言って、俯きぼそりと力なく公爵は言う。
「……帰らせてもらう……」
肩を落とした公爵を私はただ眺め見送った。 私の味方であると言う立ち位置である3人の長の方が、私にとって危険だと判断したから。 とは言え……。
独りぼっちは辛い……。
「あの者は大人しく聖女様を王位につけるよう動きますかねぇ~」
「そうする他無いだろう。 聖女様は、王族を嫌っておいでではあるが、使命を拒絶したわけではない。 その使命を果たすためには王位に就く必要があると伝えれば、納得するだろう。 聖女様は人のためにあるよう育てられたと精霊達が言っておる」
精霊ギルドの長が薄暗い声で言う。
「王位を得るまでは苦労があろうが、健気にも民に尽くせば、民は聖女殿を王位に求めるだろう。 人としての姿が必要だと言うなら、それこそ公爵がアリアメアを聖女として王宮に送り込んだように、見た目の良い娘を民のために傀儡として準備すればよい」
こういったのは王宮魔導師。
この人達は、勘違いしている。
私はソレほどいい子ではない。
ロノスの言う事を聞いていたのは、仕方が無かったから……そう思いつつも、本当に仕方がなかったのか? と、ふと考え……やはり、仕方が無かったと肩を竦める。 逃げたところで人間世界で魔力暴走に耐えられたのは2時間程度。 痛みに耐えたところで気を失い、岩のようになり眠りにつくことになっただろう。 例え眠っていてもロノスが探す気になれば、国中に散らばる小精霊が……。
あぁ!! もう、ロノスのことは、もういいんだ。 もう関係ないんだ。
私は、自分を聖女様と呼びながらも、格下として見下している長達を眺めた。
格下……。
オルコット公爵は私を化け物と呼んだ。
だけど、この人達は私を道具としかみていない。
まだ、公爵のがマシ?
親を欲する子は、いつだって救いを求める。
「封印されし魔人の浄化には、聖女様の意志が必要となります。 王位を得るために傀儡を使うにしても、殿下を傀儡とするにしても、聖女様の機嫌を損ねてはいけません。 まずは、聖女様の望みを知る事が重要でしょう。 岩と言えど、機嫌を損ねられては使い物にならないのですから」
神官長が言う。
封印されし魔人の浄化? 魔人を封印すればいい訳ではないの? そんな疑問が脳裏をよぎるが、それ以上に魔法に携わるこの長達が気に入らなかった。
子供扱いですらない。 人格があるとわかる以前以上に道具として使おうとしてきた。 むかついて、腹が立って、テーブルの上にぷかぷか浮いた状態で、どうせ触れられないからとべしべし殴る蹴るをしていれば、足に黒い茨がまとわりついている事に気づいた。
亀裂から出た触手に捕らわれた時の名残だよね? 浄化をすれば消えるだろうけど、今、浄化をすればここにいるのがばれる。 浄化をするために場を離れるか? 浄化を後回しにするか? 私は左足首にまとわりつく茨を無視して長達の話を聞くことにしようとした。
だけど、
物質的に触れる事のない殴る蹴るだが、私の悪意が触れた事で十分な攻撃になったらしく、吐き気、頭痛、めまい、そんな症状がひどく体調に現れ3人は椅子から崩れ落ち倒れた。
結界の張られた部屋での密会なだけあって、見つかるには時間がかかるだろう。
私は、知識としては必要としていないお話を聞かせてくれていた医師の元へ遊びに行くことにした。
私は苦も無く、壁をすり抜け中へと入る。 入れる理由なんて簡単。 肉体を置き去りの意識体であっても私の方が強いから。
「まさか王位を望まぬとは……」
そう言いながら丸テーブルに4人がついた。
「精霊に育てられたゆえに、精霊としての意識が強いのでは?」
「はっ、そもそも人ですらない。 人として考えるのが間違っておるのだ。 人でない者を人として押し通すのが我らの役目。 どのみち、この国には封じの契約を受け継げるものがおらん。 王とて、我らがいう事を聞かぬ訳にはいかぬであろう」
精霊ギルドの長が言う。
「公爵殿なぜ貴殿は王位を望めと言わぬ。 娘が王家に嫁ぐ事を望んでいたではないか、なぜ、それを進めん」
神官長に責めるように言われ、俯いた公爵、妻を馬鹿にし見下す者への復讐でもなければ、公爵はいまだ気の弱い男で、返す声はぼそぼそとしていた。
「私は……、私は……、あの子が妻の子ではないと、そう思っていたから……でも、今ならわかる……あの子は私と妻の子だ……ずっとずっと腹にいる時から話しかけ、待ち望み、共に愛そうと誓った子なのです……嫌がる事などできるはずありません……」
「今更、聖女様が公爵殿の娘に戻る事はない。 聖女様を化け物と呼び、妻を殺されたと仇討を試みながら、余りにも都合が良すぎではありませんか。 王位を求めるおう親として進めてくれるのであれば、私達も公爵殿があの子にしたことを黙っている理由がないのだがのぉ」
「そんな!! 私は……私は……謝りたい……許されずともいい。 せめて、ユリアが望んでいたように、あの子が進みたい道を応援したい。 苦しいだけではないと、道は選べると」
「甘い!!」
精霊ギルドの長が声を荒げれば、公爵はビクッと身を震わせた。
「今更何を甘い事を言っておるのだ!!」
そっか、私は母を殺して生まれ、この男に殺されかけたのか……いらない子だった……。 目の前の男は、私を生んだ女が好きで、その女を殺した私を恨んだ。
なんかしんどい……。
そっか、私はいらない子なんだ。
「あの子は、ユリアの子だ!! 私達が生まれてきてくれるのを待って、待って、待ち望んでいた子なんだ……」
オルコット公爵の叫びがむなしく心を素通りする。
「それがどうした。 殺そうとした事実は失われぬ。 例え記憶がなくとも、聖女と言えど、己を殺そうとしたものを許せる訳などないでしょう。 諦めて、自分の役割に徹してください」
「そんな……」
そう言って、俯きぼそりと力なく公爵は言う。
「……帰らせてもらう……」
肩を落とした公爵を私はただ眺め見送った。 私の味方であると言う立ち位置である3人の長の方が、私にとって危険だと判断したから。 とは言え……。
独りぼっちは辛い……。
「あの者は大人しく聖女様を王位につけるよう動きますかねぇ~」
「そうする他無いだろう。 聖女様は、王族を嫌っておいでではあるが、使命を拒絶したわけではない。 その使命を果たすためには王位に就く必要があると伝えれば、納得するだろう。 聖女様は人のためにあるよう育てられたと精霊達が言っておる」
精霊ギルドの長が薄暗い声で言う。
「王位を得るまでは苦労があろうが、健気にも民に尽くせば、民は聖女殿を王位に求めるだろう。 人としての姿が必要だと言うなら、それこそ公爵がアリアメアを聖女として王宮に送り込んだように、見た目の良い娘を民のために傀儡として準備すればよい」
こういったのは王宮魔導師。
この人達は、勘違いしている。
私はソレほどいい子ではない。
ロノスの言う事を聞いていたのは、仕方が無かったから……そう思いつつも、本当に仕方がなかったのか? と、ふと考え……やはり、仕方が無かったと肩を竦める。 逃げたところで人間世界で魔力暴走に耐えられたのは2時間程度。 痛みに耐えたところで気を失い、岩のようになり眠りにつくことになっただろう。 例え眠っていてもロノスが探す気になれば、国中に散らばる小精霊が……。
あぁ!! もう、ロノスのことは、もういいんだ。 もう関係ないんだ。
私は、自分を聖女様と呼びながらも、格下として見下している長達を眺めた。
格下……。
オルコット公爵は私を化け物と呼んだ。
だけど、この人達は私を道具としかみていない。
まだ、公爵のがマシ?
親を欲する子は、いつだって救いを求める。
「封印されし魔人の浄化には、聖女様の意志が必要となります。 王位を得るために傀儡を使うにしても、殿下を傀儡とするにしても、聖女様の機嫌を損ねてはいけません。 まずは、聖女様の望みを知る事が重要でしょう。 岩と言えど、機嫌を損ねられては使い物にならないのですから」
神官長が言う。
封印されし魔人の浄化? 魔人を封印すればいい訳ではないの? そんな疑問が脳裏をよぎるが、それ以上に魔法に携わるこの長達が気に入らなかった。
子供扱いですらない。 人格があるとわかる以前以上に道具として使おうとしてきた。 むかついて、腹が立って、テーブルの上にぷかぷか浮いた状態で、どうせ触れられないからとべしべし殴る蹴るをしていれば、足に黒い茨がまとわりついている事に気づいた。
亀裂から出た触手に捕らわれた時の名残だよね? 浄化をすれば消えるだろうけど、今、浄化をすればここにいるのがばれる。 浄化をするために場を離れるか? 浄化を後回しにするか? 私は左足首にまとわりつく茨を無視して長達の話を聞くことにしようとした。
だけど、
物質的に触れる事のない殴る蹴るだが、私の悪意が触れた事で十分な攻撃になったらしく、吐き気、頭痛、めまい、そんな症状がひどく体調に現れ3人は椅子から崩れ落ち倒れた。
結界の張られた部屋での密会なだけあって、見つかるには時間がかかるだろう。
私は、知識としては必要としていないお話を聞かせてくれていた医師の元へ遊びに行くことにした。
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