化け物と呼ばれた公爵令嬢は愛されている

4章 化け物聖女

21.化け物と呼ばれた令嬢、人を超えた力を使い、人として認められる？ 01

　次に王宮に呼び出されるまで10日が掛かった。

　その10日間の間、私と言えば午前中は公爵家で着せ替え人形にされ、オヤツを食べ、有り余る食材を好きなように使いオヤツを作り、公爵に追い掛け回されていた。

「もう、なんで追いかけてくるの？」

　厨房の大きな鍋をしまう棚から鍋を放り出し中に納まっていようと、木の上にいようと、池の中にいようと、屋根裏にいようと見つかってしまう。

「エリアル、どうか、どうか、逃げ隠れはおやめください。　当主が仕事をしません。　そうやって構い遊んで差し上げるのはおやめください」

　そういうのは当主の弟。　私の生還（？）を泣きながら喜んでくれた人だった。　だから、私も甘えたように拗ねて見せながら返すのだ。

「それ、私の責任ではないと思うの」

「お茶の準備が出来ました。　お嬢様、お茶の時間になさってはどうですか？」
「今日はお天気が良いので、庭園でお茶の準備をさせていただきました」
「お嬢様は、どんなお花は好きですか？」

　侍女達が優しそうな笑みを浮かべ笑い、話しかけてくれば、公爵が私を抱き上げてきて腕に乗せる。　勝手に触るなとにらみつけてもへらへらへらへら暖簾に腕押しで、結局私は諦めてしまうのだ。

「お嬢様、旦那様とお散歩ですか？　丁度良い具合に熟した果物がありますよ。　おもちしましょうか？」

「どんなの？」

「柑橘系の色々な果物です」

「なら、私が調理場に行くから、調理場に運んでおいて」

今でこそ若い使用人の態度は友好的であるが、やはり最初は違った。




　ゴツゴツとした岩のようなもので顔の一部、身体までも覆われたエリアルに戸惑い、化け物と言わぬまでも病気を疑い若い使用人達は敬遠気味。　まぁ、それも当然の事だが、公爵のデレデレ具合や、古参の使用人の歓迎ぶりを見れば、見た感想そのままを言動に表すような使用人はいなかった。　それだけでも上出来だと思う。

『旦那様は美しい方なのになぜ？』

　使用人として長く務める者達は、ユリアの面影に涙して心からの礼と歓喜をもってその帰還を喜ぶ。　そりゃぁ、お嬢様、お嬢様と、10年間の留守を埋めるかのように世話を焼いてくるのが逆に鬱陶しいほど。　年若い使用人の反応は想定していたよりも随分とマシだったけれど、それでも傍に仕える事を許されるのは、母であるユリアと懇意にしていたものだけだった。

　事情が変わったのは、厨房からである。

　出てくる料理や菓子が美味しくて、ここでは豊富な食材が大量にある！！　と、好奇心が止まらなかったのが全てのきっかけだ。　手軽なところでドライフルーツをたっぷり使ったパウンドケーキを作ったのだ。

　食べたのは年配の者達。　長年公爵家に仕えたが、最近では身体も弱り仕事は後任に任せている筆頭執事、メイド長、料理長。　若い、私を敬遠する者達は病がうつると視線を背けていたからね。

　だけど、半分隠居状態のベテラン勢たちがパウンドケーキを食べてから3時間後には、活力を取り戻し20.30は若返って見えるようになった。　いや、見えるだけではなく、そういう動きが出来るようになっていたのだから話は変わる。

　なんて事はない、彼等は特別な病にかかっていたわけではなく魔力が足りず、老弱した状態となっていたに過ぎなかったのだから、魔力駄々洩れのエリアルが作った菓子を食べれば簡単に回復したのだ。

　誰もが、家に帰れば魔力系の病の家族を持っている。

　この30年ほどの間に、子供の成長は1.2倍の時間を必要とし、老いるのは倍の速度で老いていくようになっていた。　酷いものは魔力系の病にかかり、現状維持には金がかかり、回復が困難。　それが当たり前なのがこの国の現状なのだから、それこそひれ伏して慈悲を請うような状態であった。

　そうやって誤解を解けてしまえば、後は容易である。

「見た目こそアレだが、なかなか親しみのあるお嬢様ではありませんか」
「お嬢様に対してなんて言いぐさですか」
「そうですよ。　外見に惑わされてはいけません。　あの優雅な所作をご覧なさい。　流石公爵家の生まれであらせられる」

　悔しくもロノスの策略は意味を成し、私は3日を待つことなく公爵家の正当な令嬢として受け入れられ、令嬢らしい扱いを受けるようになった。