化け物と呼ばれた公爵令嬢は愛されている

迷い人

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4章 化け物聖女

27.聖女

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 婚約は無事に成立した。
 外面的には何一つ問題もなく成立した。
 内面的、心理的には、知らない。

 私は知らない。

 大広間で、大勢の貴族が見守る中で、国王と神官長による婚約の許可と聖女任命を得るために、国王と神官長の前まで歩む中。 私の手を取りエスコートをする王子ジュリアンは、苦々しい表情を隠しもせずにこう言った。

「私はお前を愛さない。 愛せる訳等ない。 役割として仕方なく婚約するだけだ」

 私より8つは年上なのに、わずかに背が高いだけの王子をチラリと見れば、視線を感じたのか王子は私を覗き見る。

 私は、少しだけ控えめに笑って見せた。

 分かっていますよ。 私だって、そんな貴方を好きになるなんて事はないのだから。

 玉座にたどり着き、頭を下げ、儀礼的な良く分からない言葉を並べ立て、私は正式に国の聖女となり王子の婚約者となった。

 国王陛下じきじきに私の肩に豪華なローブをかけ、頭に合わない大人用の豪華なティアラを乗せれば、それを見ていた貴族達、そして魔法関係者達は、婚約式等ではなく王位継承の儀式のようだと騒めいた。

 別にどうでもいい。
 私は呪われたように、ただ聖女と言う役を遂行するだけ。

 私は、振り返り、大広間を埋め尽くすほどの人を見回した。
客人にその艶姿を見せつけ、一歩踏み出し仁王立ちで偉そうに笑って見せる。

 王子が化け物と叫ぶ私の姿を、貴族達に見せつけ叫んだ。

「貴方達は幸運だわ!! 国王の王子の英断を喜びなさい。 これで、国と民は救われるのだから!!」

 その場にいた貴族達と、各魔導機関のお偉いさんたちは、私の勢いに酔ったかのように拍手し歓声を上げ、私は歓声にこたえるように微笑みを浮かべながら手を振った。

 でも、心の中ではロノスの思い通りに動いている私自身に腹を立てていた。 そして、私は……いえ、精霊ギルドの者達は困惑していた。 精霊達の祝福が無い事に、新たな不安を感じていたらしい。



 それでも私は私の役目を果たす。



 聖女となったその日、国王と王子、公爵と魔法機関の3人の長が見守る中。 国王の寝室にある封じの部屋のある地下へと足を進めた。

 地下は左右、階段と石を積んで作られている。 きっちり隙間なく形を整えているあたり、そういう系の精霊の力を借りたのだろうと私は想像する。 石には浄化の魔術式が描かれていたけれど、それはヒビが入り役に立っていなかった。


 息を大きく吸い込み、肺の中で聖なる呼吸を練り上げる。

 吸って吐いてと呼吸を繰り返し、一歩一歩力を込めて階段を下りていく歩行もまた聖なる歩行。 発せる魔力はすべて聖となり、浄化の力を帯びて、清められていく。

 階段の上では、公爵が魔導士長に羽交い絞めにされていた。 本気でついてくる気なら、簡単にその拘束を外すだろうけれど、そうしないのはついてきても邪魔になる事を理解しているからだろう。

 一歩、一歩と歩みを進める。

 今日の処は、負担にならない程度の浄化だけ。
 記憶していた地図を思い出し先に進む。

 一歩一歩、好奇心に負けて前に進む。 とは言っても、余計な部屋などなくて。 私は1つの扉の前で考え込む訳だ。 ここ開けていいのかな? と。

 まぁ、いっかぁ~!

 そんな風に軽く開ければ石で囲まれた空間の中央にテーブルと水晶があるだけの部屋。 水晶もまたヒビが入っており、部屋の壁、天井、床に描かれた術式もまた欠如が見られ機能を失っている。

 私はまだ余力があるなと考えながら、テーブルとセットになっている椅子を引き寄せ座り浄化を待つ。



 浄化は数日続き、その後、魔導師長と私の手で術式が治され、水晶は各長達によって新しいものを作る事になった。



 そして時は過ぎて行く。



 時は過ぎる。
 何もなく。
 平和に、穏便に……。

8年の時が過ぎ、私は成人を迎えていた。
 
 問題に目を背けながら私は聖女としての役目を、本来ならば国王が負うべき役目を負いながら繰り返しの日々を送っていた。

 何事にも気を捕らわれる事なく過ごしてきた。

 私の外見を配慮すれば、国王や王子、王妃や王子妃に求められる、見栄え重視の外交に引っ張り出される事はない。 だから、ただ静かに役目を果たすだけ。

 気づけば貴族女性達が、王子の婚約者代理として日替わりのように横に立ってはいたけれど、最初から好意など欠片もないのだから心が傷つく事もない。

 嫌い。 愛する事はない。

 そんなことを言っていても、自分と言う存在が必要なのだから、このまま安寧に身を任せれば良いのだと私は考えていたのだ。 好きなだけ側妃を迎えればいい。 私は私の役目を果たす立場を必要としただけなのだから。

 私は勝手にする。
 貴方も勝手にすればいい。

 どうせ、何もできないだろうと思っていた。
 どうせ、何も起こっていないと思っていた。



 私が知らなかっただけで、実際には違っていた。

 汚れが払われ、魔物は減り、それでも発生する魔物は夢の中に生きる魔人に狩られる。 小精霊は増え、魔力は巡り、人は魔力欠乏症から解放され、水も風も大地も魔力が満ち豊かさを取り戻した。

 少しだけ過剰かな? そんな風に思えるのは、筋肉に頼り鍛えてきた者達が魔力を得た場合の強さを父様が嬉しそうに語っていたくらい。

 そう思っていた。



「精霊が、言う事を聞いてくれない」

 何時ものように浄化と言う役目を終えて公爵家に戻った私を待っていたギルド長の言葉は、泣き言のようにすら聞こえた。

「はぁ……」

 意味が分からず私は侍女に上着を預け、応接室のソファに腰を下ろした。 私は幼い頃自分の見張りようにつけられた精霊へと視線を向ければ視線は背けられる。

私は侍女に暖かな飲み物と、父様を風呂にぶち込んで綺麗にしておいて欲しいと追加で頼み、父様を追い出した。 別にいても構わないのだけど、父の率いる騎士団への加入希望者が多く選別と、訓練に忙しくそして汚く、汗臭い。

「そんな男と二人っきりになるつもりかい!!」

 そんな父様の叫びは無視、無視、そして私は精霊に声をかける。

「(ギルド長の話、何か)知ってる?」

 返される沈黙。 何かを知ってはいるが言えないとなれば、上位種がかかわってくる。 想像は簡単だ。 ロノスが何かをしている。

 それでも精霊が何も答えてくれないので、私は精霊ギルドの長から話を聞くことになるわけだ。 溜息交じりに、ただ聞くだけなのだと念押しをしながら……。

「精霊は私を避けるようにと言う指示が出ているので、私にできる事なんてほぼありませんよ?」
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