化け物と呼ばれた公爵令嬢は愛されている

迷い人

文字の大きさ
30 / 82
5章 運命

30.今の私は全てを知る余力も、考える余裕もない

しおりを挟む
 不幸と言うものは、何時、どの状況で襲い来るかなど誰にも分からない。

 ルデルス国と、ガーランド国の間には、4つの国が存在している。 そのため国交と呼ばれるほどの取引はなく、商人レベルでの売買取引が行われているに過ぎなかった。

 王宮が燃えていた。

 使用人も騎士達もソレを消そうとしたが、逆に火が彼等を襲い燃え始めた。 あれは……精霊の火だ……人には消せない意志ある火。

「おやめなさい!!」

 私が声を上げれば、その火は消えた。 僅かでも命があればそれを回復させ、私の見張りをしているギルドの精霊に、ギルド長へと、ミカゲ先生に短いメッセージを託した。 だが、たぶん意味はなさないだろう……。

 今、私の視界には、王都内を燃やす煙が見えるのだから。

 精霊の加護と言うものは基本的には国家防衛のために使われる。 ルデルス国はガーランド国ほど国家的に埋蔵される魔力が豊富ではない。 精霊の数も多くはなく、気性の荒い精霊は扱い難いと迷宮図書館にある資料で読んだ。

と考えれば、王都を燃やす火の大半は人によって放たれた火である。 流石に精霊使いである精霊ギルドの長であれば分かっているだろう。

 ガーランド国の守護精霊は、ロノスなのでは? と語られている。 なぜ曖昧なのか? はっきりしろよと言いたいが、私にはロノスが守護精霊だとは思えなかった。 王家の願い等殆ど聞いてくれない。 呼び出しも無視する。 せいぜいその力の欠片を人間によって書物の管理に使う程度。

 それでも、定期的に話し合いは求めてきた。 求めるだけで返事が返ってくるのはまれである。

 8年前から18年前までは、私を返せと言われるのが鬱陶しくて拒否してきたと言う。 そして、今から8年前まではアリアメアとの蜜月を邪魔するなら、小精霊を暴れさせると脅された。

 とは言え、国が襲われたとあっては動く……かもしれない。 私の記憶をしているロノスを思い浮かべる限り、可能性は低かった。

「大精霊ロノスよ。 ガーランド王家、オルコット公爵家との盟約に基づきその姿を現したまえ!!」

 なんて、緊急事態であるにも関わらず、契約のしるしを私の血で描き、魔力を注ぎ込んだにも関わらず無視された。 召喚の魔力の高まりに、ルデルス国の人間と精霊を伴ったジュリアン王子が現れる。

「ここにいたのか疫病神」

 醜悪に顔を歪ませニタニタと王子は笑う。

「神とはなんとも、至極光栄。 ですがあまりにも私を高く評価し過ぎではないですか?」

 嫌味交じりに笑って見せれば、ギリッと唇を噛み顔を歪ませる。

「これは、お前の存在が招いた不幸だ。 お前が悪いんだ。 全部全部、お前が悪いんだ。 お前の傲慢さが、お前の貧乏くささが招いた罪だ。 化け物のお前には理解はむずかしいだろうがなぁあ、ひゃははっははははは」

 笑う様子は酩酊状態に思えた。 ただの興奮か? それとも薬か? そんな事はどうでもいいと私は背を向け走り出す。

「まて!! 卑怯者が!! 人の話を聞け、この礼儀知らず!!」

 馬鹿なの?! いえ、馬鹿なんだよね。

 前方に回っていたガーランド国の門番が着る全身騎士鎧を着た男が現れた。

「逃げて!!」

 私は叫び、そして全身鎧の男は立ちふさがる。

「その化け物を捕まえよ!!」

 言われて全身鎧の男は、頭部の部分の鎧を脱いだ。 辛かったのだろう。 辛いはずだ。中は、体格の良い日焼けした男。 ガーランド国のものではない。 私は走る歩みを弱める事無く、魔法で勢いと重さをつけ、男に向かって走っていく、そして思い切り跳び蹴りを食らわせた。

 重たい全身鎧の男が揺れて倒れた。

 王家を守る重騎士の鎧には、正しい重騎士が着なければ動くのも難しいほど重くなる術式が施してある。 正しい者以外が持とうとすればその重さは数倍にも跳ね上がる。 その代わり所有者が着れば布の服のように軽やかだ。

 そんな全身鎧を着ても動けるのだから相当鍛え抜かれた筋力を持っていると思われる。 私はあえて倒れた男を自らの体重を10倍にし踏みつけ、大きくジャンプして、べコリと鎧をへこませ、鎧を脱げないようにしてから走り出した。

「聖女を守れ!!」

 聞きなれた声が耳に届き、私は叫ぶ。

「逃げて!! 邪魔!!」

「父様、団員と共に王宮外の火消しの指示に回ってください!! こちらは私がなんとかします」

「もう、そっちにも人を回してあります。 エリアルは逃げなさい!!」

「父様!!」

「ここは父に良い恰好をさせてくれるところですよ」

 蜂蜜色の髪が、炎の色を受け赤みを帯びていた。 青色の強い意志を感じる瞳が私に行けと訴え、王子の前に立ちふさがる。

「邪魔をするなぁあああ!!」

 轟音が響き、嗅ぎなれない匂いが充満し、王子が持つ金属筒が煙をあげる。 何があったのか分からないまま私は止まってしまった。 父様は剣を持ったまま王子に突進しながら叫んだ。

「逃げろ!! 守れ!! 狙いは聖女だ!!」

 焦りに言葉が崩れていた。 そして、次の轟音と共に父様は倒れ、私は……状況が分からぬまま、身体の本能に従い本来の形へと戻って行く回復魔法と眠りの魔法をかけた。 このまま死んだふりをしてくれていれば、父様と腹心の部下たちの命は助かるだろう。 そう願ったから。 そう願う程度には情が芽生えていたから。

 私は走る。
 走って走って……。

 王宮も、王都も炎に燃えているのを見ながら走った。 何が起こっているのか分からない。 わからないけれど……8年、8年の間、自分が築いてきたものが崩れ去っていくのが悲しかった。

 彼方此方で叫びと悲鳴があがる。

 商人の出入りを警戒した父様によって、人の出入りは注意されていた。 いえ……警備の不足を補うため、ギルドの精霊を通じた小精霊にも命令が下されていた。 それが機能していないとなれば、

 ロノス……!!

 私は、絶叫と憤りを必死に抑えそして走った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。

imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。 今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。 あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。 「—っ⁉︎」 私の体は、眩い光に包まれた。 次に目覚めた時、そこは、 「どこ…、ここ……。」 何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

処理中です...