化け物と呼ばれた公爵令嬢は愛されている

迷い人

文字の大きさ
40 / 82
6章 居場所

40.彼の幸福、私の恐怖 01

しおりを挟む
 私は抱きしめられ、服の中に入ってくる冷えた手に身を悶えさえながら考える。 さわさわと優しい手つきで撫でてくるから、靴を脱ぎ、膝の上に乗り向かい合うように膝の上に腰を下ろした。

「どうした?」

「んっ、仕返し」

 固く筋肉質に思える腰回りに腕を回し、広い背中を撫でた。 服も彼なのか? 服の下が彼なのか? ズボンにしまわれたシャツを引き上げ、シャツの中に手を入れる。

「私の魔力を食う訳でもないのにか?」

 そう尋ねて魔人は、擽ったそうに抑えた声で笑う。

 見上げる先の顎の下に、口づけ舐める。 なぜか獣にでもなったようなそんな思考に捕らわれ、毛づくろいをするように顎から首筋を舐めた。 そんな私を腕の中で抱え背中を撫でる大きな手。 それはとても心地よく、眠くなってくる。 あらゆる事が面倒になってくる。 もし……今、この魔人が私を封じようとするなら、私はそれを簡単に受け入れてしまうだろう。

 寄せる身体がユックリと離され、意地悪された気分になって、拗ねた表情で見つめれば、目元が笑い口づけてくる。 チュッと軽く口づけ、唇を甘く噛みそして舐められ、私も舐め返す。 甘く食みあうような口づけは、唾液を絡み合わせ深くなる。 そんな間も背中を撫でる手は幼子をあやすように優しいから……。 私の思考は情欲とは結び付かなかった。

 それでも甘い声が漏れ始める。

「ぁ、んっ、ふぅっ……んんっ」

 ぬちゅぬちゅとヌメルのある水音が、舌先をつたって奪われ、はぁ……と熱のこもった吐息が漏れた。

 体が熱い……。
 鼓動が早い。

 くすぐったくて、もどかしくて、身じろぎした。 幼い子が動かぬ身体にむずがるように。

「どうした? 主よ」

 耳元でとろけるような甘い囁き。 何処までも甘く、それは恋物語の恋人同士のようだと思った。

「魔力、美味しかった?」

 にっこりと笑って見せる。

 自分の声が思った以上に甘くて驚いたのを、必死に隠した……隠しきれたかわからないけど。 何事もない、ただオヤツを食べていたかのように、今日のおやつは美味しかったね。 そう語り合うように。

「あぁ、最高だ。 最高だ。 爽やかな甘さが香しく魂がとろけそうになるほどに美味だ。 流石眠る私を目覚めさせただけある。 悪夢以上に退屈なこの世界で、目を覚ましてみようと思わせただけある」

 普通に話せばいいものを、耳元で囁かれ、その声は興奮しているかのように思えた。

「いい日だ。 とてもいい日だ」

 そう言って、私のシャツをはだけさせ肩口に顔を埋め甘く噛みつき、吸い付いてくる。

「ぁっ……!!」

 痛みはない、あえてその感覚を言うなら快楽で。 それはとても恥ずかしく、私の身体は羞恥で熱く赤くなる。

「どうした?」

「ど、ど、どうって、やりすぎ」

「何を怒っている?」

「怒ってなんか!!」

 いえ、怒っている? でも……不思議そうに見られれば、怒るのが馬鹿馬鹿しくもしかして私が間違っているのか? なんて、気になってくる。

「まぁ、いいわ……」

「そうか。 ならば面白いものを見せてやろう」

 ずっと広げたままだったガラスに映る景色がかき消され、どこかの景色が無限の空間にうつされる。

 時間的には、昼を少し過ぎた時間なのに、私の目の前に広がる景色は無限の夜とでもいうような暗やみに赤い大きな月が浮いている。 赤い光が落ちていると言うのに、白い景色が渦巻いていた。

 ガーランド国は魔力の多く満ちている地だ。 そして、北方の山脈が風を遮るため冬の時期には、世界から巡り巡ってきた汚れが、ガーランド国で渦を巻く。

 自我の薄い生きた魔力である小精霊が、人の感情から生まれた汚れに侵される事によって、小精霊は凄い速さで自我を身に着け、欲に堕ちる。 この際に、小精霊が動植物に憑りつき、魂を食らい、器を奪う事で魔物となる。

 だが、冬のガーランドは余りにも汚れが強く、そして厳しい冬の時期には器となる動植物は姿を隠す。 だから、器を得られない汚れた小精霊は、器のないまま魔に堕ちて、ゴーストと呼ばれる魔物となり、人間を襲う。 その肉の器を欲するが故に……。



 暗い夜に赤い月。
 だけど世界は白が荒れ狂い渦を巻く。
 そして肉を持たぬ白い影が舞い踊り肉の器を探し、呻き、吠えていた。 人ならざる音に人の叫びが混じった。

「ぁ、助け……」

 助けなければと立ち上がり走りだそうとすれば、抱きしめられた。

「過去の事だ」

 ゴーストに巻き付かれ、凍り付き、息耐えた死体にゴーストとなった元精霊が憑りつけば、それはグールと呼ばれる知性無き食欲の化け物となって人を襲い、共食いを始める。

 叫びと助けを呼ぶ声。

 血が流れ、すすり、肉が食われる。

 そんな景色を唖然として見た。

 愕然とし、唖然とし、呆然とする。

「ぁ……」

「凄まじい生と死の営みだろう。 美しいとは思わないか」

 その声は嫌味でも、嫌がらせでもなく、歓喜だった。

 気が付けば周囲は静かになり、そして赤い月に染まり雪の大地も赤く赤く染まっていた。

「コレは遠い過去の景色で、未来の景色だ」

 囁くような声は欲情に色に染まっていた。

「ぁ、あ、あ……」

 息が出来なかった。
 気が狂いそうだった。

 ヴェルツェと呼ばれていたと言う魔人の興奮が分かり息を飲んだ。 いきり立った固い欲情の証が、抱きしめられている背中にあたっていた。

「大丈夫だ。 主を傷つける気などない。 私にとってこの世界は価値がない。 私を目覚めさせたのは主、お前だ。 お前だけが俺に生を実感させ、幸福を与える」

 甘く、とても甘い愛の言葉なはずなのに……私は何故恐れているのだろう?

 愛とは?

 そっか……私、初恋もまだだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。

imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。 今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。 あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。 「—っ⁉︎」 私の体は、眩い光に包まれた。 次に目覚めた時、そこは、 「どこ…、ここ……。」 何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...