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6章 居場所

46.感情を優先するなかれ 04

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 馬鹿馬鹿しい。

 私によって魔力欠乏症を治されても、この国の貴族は私を化け物と呼び、冷ややかな視線を向けてきていた。 そんな有象無象の幾人かが私に求婚って、何を言っているの?! ふざけるのもいい加減にしてよ!!

 見下し、嘲り。

 魔人封じと言う王が王である理由ともいえる仕事の代理。 王国の要。 その仕事を続けていても貴族の態度は

「卑しい娘に聖女と言う称号まで与えたんだ。 感謝して働け」

 そう語る者が殆どだった。

 化け物と言われる事は理解して、外皮を纏っていた。 それでも、それだからこそ、私に興味を持ち好意的な態度を向けてくれたなら。 私は、きっとその人の事を好きにならずにはいられなかっただろう。

 父様を父様と呼ぶようになったように……。 その安全を祈るようになったように。

 なのに、なのに、なのに!!

 自ら原因を作っていたからと言って、全ての侮辱に寛容となれる訳がない!! ロノスは人らしくと言いながら、人でないものを求めた。 私は人だ。 人だ。 何処までも、この醜い感情も全てまとめて人なんだ!!

 唇を噛みしめていた。 強く握った拳を風呂の縁に叩きつけようとすれば、背後から抱きしめられ、指と指がからめとられた。 噛みしめた唇から流れる血がなめとられ、そのまま口内へと舌が入ってくれば、血の味がした。

 ソレは奪うような、犯すような乱暴なものではなく、甘く優しい口づけ。 それでも離れた唇には唾液で濡れていた。

「はぁ……」

 深い息をつく。

「落ち着いたか?」

「んっ」

 そう言って、目を閉ざし上向けば苦笑気味に笑う音。 そして軽く触れる唇。

「妻になるのが嫌なのか?」

 頬に触れる手、耳元へ囁くと同時に落とされる口づけ。

「嫌よ!! 嫌。 王宮に顔を出して、顔を出すようになって8年。 王の代わりをしてきたわ。 その間に、私の手を取ろうとした人は父様だけ。 お茶を共にしたのは、3人の長達とその側近の方たち、そしてミカゲ先生だけよ!! 私に仕事を押し付けている王ですら私をお茶に招いたことがないわ!! 宰相なんて顔すら知らなかったわ!! 今更?!」

「興奮するな」

「今更、誰を、何故、どうして愛することが出来るって言うのよ!!」

 強く抱きしめられた。

「世の中には、政略結婚と言うものもあるだろう?」

「私に、なんの利益があると言うのよ。 私が嫌だと言えば、父様だって強制なんてしないわ。 絶対にしない……」

「そうか」

「そうよ」

「そうか……ならば、諦めてもらおう。 恐怖に堕ちてもらおう。 主には私がいればいい。 それでいい。 他にはいらない」

 ヴェルはそう言って笑った。



 翌日、私に夜這いをかけようとした人達は、私が快楽の中で見つめた地獄へと、なんの予兆もなく、なんの説明もなく、頼れるものなど1人もない状態で放り込まれたそうだ。



 おかげで私は、部屋で眠る事も許されず……、



 この苛立ちは、王子へのお説教へと昇華していた。
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