国王陛下は愛する幼馴染との距離をつめられない

迷い人

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01.今宵、私は国王陛下のものとなりましょう

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 なぜ、このような事になっているのでしょう?

 私は今、王宮の贅沢な来賓用の客間で、贅沢な湯に沈められ、血行が良くなったところで、全身マッサージをうけ、香油で肌を磨き上げ、少し……いえ、かなりエッチなナイトドレスに身を包み、この国の若き国王陛下ダリオを待つために、ベッドの上に放り置かれたのです。

 これから陛下と……?

 どうして?

 私と陛下の関係と言えば、幼馴染、学友、世話係、秘書、護衛、色々あるけれど、これは予想しておりませんでした……。

 まさか、20にもなって婚約者が決めようとしないどころか、恋人すら作ろうとしない陛下に痺れを切らし、盛大に開催されたのです。

【陛下の婚約者を決めちゃおうパーティ】

 社交界デビュー前の子供相手のようなやっつけ仕事に頭を悩ませ、反対もしたのですが、長老達は兎にも角にも王としての『義務』と、企画書をもって陛下に詰め寄り了承を得て、納得しない私にこう言ったのです。

「陛下は了承なされた。 もし陛下が同性を愛する方なら、このような無理が通るのは最後になるやもしれません。 ヨミ様は陛下のお子をお抱きになりたくないのですか!!」

 こう言われれば折れるしかありません。

 15~25までの相手の決まっていない、かつ陛下の子を産みたいと考える女性を募集をかけました。 この国は自由恋愛を尊ぶ傾向があり、政略的結婚は貴族家次期当主ぐらいですから、かなりの女性が集まったのですが、陛下のお気に召す方はおらず、いないのならば、参加者の名前を書いた紙を入れた箱から1枚選ぶようにと……。

 ずいぶん乱暴な話です。

 そして、なぜ、そこに私の名前が混ざっているのですかぁあああああ!!!

「どうした、ずいぶんと興奮しているようだが?」

「へ、陛下……」

 一人思考に耽っているうちに背後に立っていらしたようです。

「申し訳ございません……考え事をしておりまして……」

「そうか」

 素っ気ない、いや、分かりますともその気持ち。 少々バツが悪いと言いますか……。

「このようなバツゲームを陛下にお与えになるような長老達は、窓を破壊してでも直ぐに処分してまいりましょう!!」

 セクシーネグリジェをものともせず、ソファを持ち上げ窓をぶち破ろうとすれば、陛下があわてて私の腕をつかみ引き寄せた。

「ま、待て!! そのような事で血を流さずとも!!」

「ですが……朝まで絶対に鍵を開けませんから!! 等、陛下にとってなんとも無体な……」

「いや、無体な事をするつもりなのか?」

 なぜ、顔を赤らめるのでしょうか?

「いえ……流石に、もう国王陛下におなりなのですから、来客国の特徴を暗記するまで寝かせませんとかしませんよ。 そんな来賓の予定もありませんし」

「……そういう……うん、そうだな、夜も一緒にいる時なんてのは、大抵そんな用事だったな……」

 ガックリと項垂れられれば、申し訳なく思える訳です。

「あの……必要な事だったとはいえ、陛下には大変失礼を……その、トラウマを呼び起こしてしまいましたか?」

 私の可愛い陛下に、嫌な思いをさせる訳には参りません!!

「陛下はベッドでお休みになってくださいませ。 私は隣室で本を読んで過ごしますので安心してお休みくださいませ」

「そんな恰好で……風邪をひくぞ?」

 その可能性は少なくはありません。 嫌がらせのように侍女達は、暖を取る上掛けや、衣類を部屋から持ち去って行ったのですから。

「お気になさらないでください。 カーテンをはぎ取ります」

 そう言えば、溜息がつかれた。

「あ~~~その、寝ないと仕事に差し支える。 オマエの代わりはいないのだから。 そもそも、コレだけでは大して暖もとれない。 こっちに来て温めろ」

 嫌だと嫌悪するような相手なら15年も一緒にいたりしません。 まぁ……可愛さと言えば幼い頃はもう、耐えがたいほどの可愛らしさで、今でもまぁ……髪とか、髪とか、髪に名残はありますし……。

 5歳児と20歳児では、髪ぐらいしか名残はないですよね。 それでもまぁ、同じ時を過ごした大切な方、命に代えてお守りするぐらいには好ましく思っておりますとも。 命を投げ出す前に敵を殲滅しますがね。

 なんのために、厳しい間者としての修行をしてきたことか。

「徹夜は慣れていますし、陛下の分のカーテンもありますよ?」

「……そう無理をする年でもあるまい」

 少しイラっとしたが、私の理性は耐えた。

「大人しく、おやすみやがりなさいませ」

 ニッコリ微笑めば、有無を言わせずベッドの上で膝の上に乗せられ抱きしめられ、驚いた……。

「昔は、私の膝の上にいたのに……大きくおなりになって」

 しみじみとして言えば、

「子どもの頃の話はいい加減にしろ」

 心の底から、嫌悪感を露わにした声で言われてしまいました。

 こんなことは15年の長い関係性の中で初めてのことです。 いい加減にしろと思うのも当然のことでしょう。 なにしろ、腕によりをかけて愛らしい御令嬢達を集めたのです。 なのに、何の悪戯か参加者ではない私のようなものが相手に選ばれたのですから。

 それでも陛下の適当さが招いたのですから一晩は我慢してもらわなければいけないと言うものです。

「こんな無茶な企画を了解した陛下が悪いのですから、我慢してくださいませ!!」

 膝から降りて向かい合い、睨みつければ、陛下が硬直した。

「……?」

「顔が、近くてビックリした……」

 言われて私は飛びのいた。

「申し訳ありません。 眼鏡が取られてしまいましたので、距離感が……そうですわ。 良いことを思いつきました」

「なんだ?」



「今宵私は陛下のものとなりましょう」



 そして、私はベッド上の枕を取り払い頭を乗せろとばかりに自分の足を叩いて見せる。 寒さは大丈夫かといえば、続部屋の分厚いカーテンを外したので問題はありません。

 私は、昔から陛下を寝かしつけるのは得意なんですよ。

 そして、私は子守り歌を歌い陛下を眠りへと誘う。



 そしてあとの時間は、隣室の書棚に並べられた益体もない流行りの恋愛物語を読み一晩過ごすのでした。
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