国王陛下は愛する幼馴染との距離をつめられない

迷い人

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05.火の公爵家テンペラータ家のエルオーネ

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 ラディーソ国には、国を支える4つの公爵家を抱え、これをもって平和へと導くとされる。

 地の公爵家 テーレ家
 水の公爵家 グライオ家
 火の公爵家 テンペラータ家
 風の公爵家 ヴェント家

 次期王であるダリオが5歳になった時、4家はダリオと年の近い子を主家の養子として招き、ダリオの学業を促すための学友とし、ダリオを守るための騎士とし、心を寄せ守るための友人とした。

 火の公爵家テンペラータ家のエルオーネもまたその一人であり、上下5歳の年齢差で集められたダリオの学友の中で最年長の今年25歳。 それぞれの将来を願う15の年に騎士であることを選んだ彼は、脳筋と他の3人に言われながらも、もっとも優しい男と言われている。



 訓練用の木剣の打ち合う音が響く。
 木剣とは言えぬ激しい音だった。

 王家も公爵家もその血が特別だからこそ与えられた地位であり、その身体能力や魔力は庶民とは比べ物にならず、たかが木剣の打ち合いであっても、その激しさは常人の目には追いつくことは出来ない。

「お嬢様、陛下が頑張っていらっしゃるのですから、見て差し上げるべきではありませんか?」

 広大な訓練場の中に突如現れた優雅なガゼボでは、手をぷるぷるさせながら俯くヨミの姿があり、ソレを必死に宥めすかす侍女の姿もあった。

「見ていられませんわ……。 私の、私の陛下があのような力任せの火炎ゴリラに虐められるのを、どうして黙って見ることができましょうか」

「お嬢様、落ち着いてくださいませ!! 陛下がお嬢様に良いところを見せようと頑張っているんですから、ここは可愛らしく応援をするべきでしょう」

 戦闘狂として有名な火の加護を持つテンペラータ家の剣を受けるだけでも上等と言えるのだが、実のところダリオはヨミを気にする余りチラチラとよそ見が多く、エルオーネがあわてて手を引いている状態なのだ。

 ダメダメだわ。
 見てられません。
 耐えられません。

「いっそ、私が戦いましょうか……」

 ふらりと闘気を纏って立ち上がろうとすれば、侍女に押さえつけられる。

「だから、そうではなく、今陛下が必要としているのはお嬢様からの応援です。 勝ったらお願い事を聞くとか」

「お願いごとですか? そんな子供のような……陛下の身であれば私に願うようなことなど」

「だからこそ、気軽に。 さぁさぁ、どうぞ」

 馬鹿馬鹿しいと思いつつも、ヨミは風に声を乗せ、ダリオに伝えた。

『エルオーネ様に勝てば、陛下のお願いをなんでも聞いてさしあげますわ』

 油断、よそ見、気負い。
 やる気があるのかないのか。

 ダリオ贔屓なヨミにはエルオーネの気遣いに気づいても、認めてはいなかった。 それでも、エルオーネは年下の幼馴染の恋を応援しようと、細心の気遣いをもって戦闘訓練に及んでいた。



 良い感じの一撃、ソレを狙って上手く負けなければ!!



 エルオーネは、それだけを考えて居たのだ。 そう気を張って居た所に突然ダリオが本気以上の力を出してくれば、かなり焦った。

 それでも額に打ち付けられる剣を紙一重で除けた。 その瞬間上体がぶれエルオーネに油断が生じ、ダリオはエルオーネの足を引っかけて転倒を促し、剣を顔面横に木剣を大地に突きつける。

「なっ、卑怯だぞ!!」

 負けるつもりではあったエルオーネだが、思わず口から出ていた言葉だった。

「感謝する」

 ダリオは未だ幼さの残る顔立ちに満面の笑みを浮かべる。
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