5 / 21
05.火の公爵家テンペラータ家のエルオーネ
しおりを挟む
ラディーソ国には、国を支える4つの公爵家を抱え、これをもって平和へと導くとされる。
地の公爵家 テーレ家
水の公爵家 グライオ家
火の公爵家 テンペラータ家
風の公爵家 ヴェント家
次期王であるダリオが5歳になった時、4家はダリオと年の近い子を主家の養子として招き、ダリオの学業を促すための学友とし、ダリオを守るための騎士とし、心を寄せ守るための友人とした。
火の公爵家テンペラータ家のエルオーネもまたその一人であり、上下5歳の年齢差で集められたダリオの学友の中で最年長の今年25歳。 それぞれの将来を願う15の年に騎士であることを選んだ彼は、脳筋と他の3人に言われながらも、もっとも優しい男と言われている。
訓練用の木剣の打ち合う音が響く。
木剣とは言えぬ激しい音だった。
王家も公爵家もその血が特別だからこそ与えられた地位であり、その身体能力や魔力は庶民とは比べ物にならず、たかが木剣の打ち合いであっても、その激しさは常人の目には追いつくことは出来ない。
「お嬢様、陛下が頑張っていらっしゃるのですから、見て差し上げるべきではありませんか?」
広大な訓練場の中に突如現れた優雅なガゼボでは、手をぷるぷるさせながら俯くヨミの姿があり、ソレを必死に宥めすかす侍女の姿もあった。
「見ていられませんわ……。 私の、私の陛下があのような力任せの火炎ゴリラに虐められるのを、どうして黙って見ることができましょうか」
「お嬢様、落ち着いてくださいませ!! 陛下がお嬢様に良いところを見せようと頑張っているんですから、ここは可愛らしく応援をするべきでしょう」
戦闘狂として有名な火の加護を持つテンペラータ家の剣を受けるだけでも上等と言えるのだが、実のところダリオはヨミを気にする余りチラチラとよそ見が多く、エルオーネがあわてて手を引いている状態なのだ。
ダメダメだわ。
見てられません。
耐えられません。
「いっそ、私が戦いましょうか……」
ふらりと闘気を纏って立ち上がろうとすれば、侍女に押さえつけられる。
「だから、そうではなく、今陛下が必要としているのはお嬢様からの応援です。 勝ったらお願い事を聞くとか」
「お願いごとですか? そんな子供のような……陛下の身であれば私に願うようなことなど」
「だからこそ、気軽に。 さぁさぁ、どうぞ」
馬鹿馬鹿しいと思いつつも、ヨミは風に声を乗せ、ダリオに伝えた。
『エルオーネ様に勝てば、陛下のお願いをなんでも聞いてさしあげますわ』
油断、よそ見、気負い。
やる気があるのかないのか。
ダリオ贔屓なヨミにはエルオーネの気遣いに気づいても、認めてはいなかった。 それでも、エルオーネは年下の幼馴染の恋を応援しようと、細心の気遣いをもって戦闘訓練に及んでいた。
良い感じの一撃、ソレを狙って上手く負けなければ!!
エルオーネは、それだけを考えて居たのだ。 そう気を張って居た所に突然ダリオが本気以上の力を出してくれば、かなり焦った。
それでも額に打ち付けられる剣を紙一重で除けた。 その瞬間上体がぶれエルオーネに油断が生じ、ダリオはエルオーネの足を引っかけて転倒を促し、剣を顔面横に木剣を大地に突きつける。
「なっ、卑怯だぞ!!」
負けるつもりではあったエルオーネだが、思わず口から出ていた言葉だった。
「感謝する」
ダリオは未だ幼さの残る顔立ちに満面の笑みを浮かべる。
地の公爵家 テーレ家
水の公爵家 グライオ家
火の公爵家 テンペラータ家
風の公爵家 ヴェント家
次期王であるダリオが5歳になった時、4家はダリオと年の近い子を主家の養子として招き、ダリオの学業を促すための学友とし、ダリオを守るための騎士とし、心を寄せ守るための友人とした。
火の公爵家テンペラータ家のエルオーネもまたその一人であり、上下5歳の年齢差で集められたダリオの学友の中で最年長の今年25歳。 それぞれの将来を願う15の年に騎士であることを選んだ彼は、脳筋と他の3人に言われながらも、もっとも優しい男と言われている。
訓練用の木剣の打ち合う音が響く。
木剣とは言えぬ激しい音だった。
王家も公爵家もその血が特別だからこそ与えられた地位であり、その身体能力や魔力は庶民とは比べ物にならず、たかが木剣の打ち合いであっても、その激しさは常人の目には追いつくことは出来ない。
「お嬢様、陛下が頑張っていらっしゃるのですから、見て差し上げるべきではありませんか?」
広大な訓練場の中に突如現れた優雅なガゼボでは、手をぷるぷるさせながら俯くヨミの姿があり、ソレを必死に宥めすかす侍女の姿もあった。
「見ていられませんわ……。 私の、私の陛下があのような力任せの火炎ゴリラに虐められるのを、どうして黙って見ることができましょうか」
「お嬢様、落ち着いてくださいませ!! 陛下がお嬢様に良いところを見せようと頑張っているんですから、ここは可愛らしく応援をするべきでしょう」
戦闘狂として有名な火の加護を持つテンペラータ家の剣を受けるだけでも上等と言えるのだが、実のところダリオはヨミを気にする余りチラチラとよそ見が多く、エルオーネがあわてて手を引いている状態なのだ。
ダメダメだわ。
見てられません。
耐えられません。
「いっそ、私が戦いましょうか……」
ふらりと闘気を纏って立ち上がろうとすれば、侍女に押さえつけられる。
「だから、そうではなく、今陛下が必要としているのはお嬢様からの応援です。 勝ったらお願い事を聞くとか」
「お願いごとですか? そんな子供のような……陛下の身であれば私に願うようなことなど」
「だからこそ、気軽に。 さぁさぁ、どうぞ」
馬鹿馬鹿しいと思いつつも、ヨミは風に声を乗せ、ダリオに伝えた。
『エルオーネ様に勝てば、陛下のお願いをなんでも聞いてさしあげますわ』
油断、よそ見、気負い。
やる気があるのかないのか。
ダリオ贔屓なヨミにはエルオーネの気遣いに気づいても、認めてはいなかった。 それでも、エルオーネは年下の幼馴染の恋を応援しようと、細心の気遣いをもって戦闘訓練に及んでいた。
良い感じの一撃、ソレを狙って上手く負けなければ!!
エルオーネは、それだけを考えて居たのだ。 そう気を張って居た所に突然ダリオが本気以上の力を出してくれば、かなり焦った。
それでも額に打ち付けられる剣を紙一重で除けた。 その瞬間上体がぶれエルオーネに油断が生じ、ダリオはエルオーネの足を引っかけて転倒を促し、剣を顔面横に木剣を大地に突きつける。
「なっ、卑怯だぞ!!」
負けるつもりではあったエルオーネだが、思わず口から出ていた言葉だった。
「感謝する」
ダリオは未だ幼さの残る顔立ちに満面の笑みを浮かべる。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】妻至上主義
Ringo
恋愛
歴史ある公爵家嫡男と侯爵家長女の婚約が結ばれたのは、長女が生まれたその日だった。
この物語はそんな2人が結婚するまでのお話であり、そこに行き着くまでのすったもんだのラブストーリーです。
本編11話+番外編数話
[作者よりご挨拶]
未完作品のプロットが諸事情で消滅するという事態に陥っております。
現在、自身で読み返して記憶を辿りながら再度新しくプロットを組み立て中。
お気に入り登録やしおりを挟んでくださっている方には申し訳ありませんが、必ず完結させますのでもう暫くお待ち頂ければと思います。
(╥﹏╥)
お詫びとして、短編をお楽しみいただければ幸いです。
【完結】愛する夫の務めとは
Ringo
恋愛
アンダーソン侯爵家のひとり娘レイチェルと結婚し婿入りした第二王子セドリック。
政略結婚ながら確かな愛情を育んだふたりは仲睦まじく過ごし、跡継ぎも生まれて順風満帆。
しかし突然王家から呼び出しを受けたセドリックは“伝統”の遂行を命じられ、断れば妻子の命はないと脅され受け入れることに。
その後……
城に滞在するセドリックは妻ではない女性を何度も抱いて子種を注いでいた。
※完結予約済み
※全6話+おまけ2話
※ご都合主義の創作ファンタジー
※ヒーローがヒロイン以外と致す描写がございます
※ヒーローは変態です
※セカンドヒーロー、途中まで空気です
【完結】婚約破棄を待つ頃
白雨 音
恋愛
深窓の令嬢の如く、大切に育てられたシュゼットも、十九歳。
婚約者であるデュトワ伯爵、ガエルに嫁ぐ日を心待ちにしていた。
だが、ある日、兄嫁の弟ラザールから、ガエルの恐ろしい計画を聞かされる。
彼には想い人がいて、シュゼットとの婚約を破棄しようと画策しているというのだ!
ラザールの手配で、全てが片付くまで、身を隠す事にしたのだが、
隠れ家でシュゼットを待っていたのは、ラザールではなく、ガエルだった___
異世界恋愛:短編(全6話) ※魔法要素ありません。 ※一部18禁(★印)《完結しました》
お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
真面目な王子様と私の話
谷絵 ちぐり
恋愛
婚約者として王子と顔合わせをした時に自分が小説の世界に転生したと気づいたエレーナ。
小説の中での自分の役どころは、婚約解消されてしまう台詞がたった一言の令嬢だった。
真面目で堅物と評される王子に小説通り婚約解消されることを信じて可もなく不可もなくな関係をエレーナは築こうとするが…。
※Rシーンはあっさりです。
※別サイトにも掲載しています。
冷酷王子と逃げたいのに逃げられなかった婚約者
月下 雪華
恋愛
我が国の第2王子ヴァサン・ジェミレアスは「氷の冷酷王子」と呼ばれている。彼はその渾名の通り誰に対しても無反応で、冷たかった。それは、彼の婚約者であるカトリーヌ・ブローニュにでさえ同じであった。そんな彼の前に現れた常識のない女に心を乱したカトリーヌは婚約者の席から逃げる事を思いつく。だが、それを阻止したのはカトリーヌに何も思っていなさそうなヴァサンで……
誰に対しても冷たい反応を取る王子とそんな彼がずっと好きになれない令嬢の話
離宮に隠されるお妃様
agapē【アガペー】
恋愛
私の妃にならないか?
侯爵令嬢であるローゼリアには、婚約者がいた。第一王子のライモンド。ある日、呼び出しを受け向かった先には、女性を膝に乗せ、仲睦まじい様子のライモンドがいた。
「何故呼ばれたか・・・わかるな?」
「何故・・・理由は存じませんが」
「毎日勉強ばかりしているのに頭が悪いのだな」
ローゼリアはライモンドから婚約破棄を言い渡される。
『私の妃にならないか?妻としての役割は求めない。少しばかり政務を手伝ってくれると助かるが、後は離宮でゆっくり過ごしてくれればいい』
愛し愛される関係。そんな幸せは夢物語と諦め、ローゼリアは離宮に隠されるお妃様となった。
コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~
二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。
彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。
そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。
幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。
そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる