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物語

13.彼等は薄暗い皇国への思いを胸に抱く

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 屋敷に戻れば、

「こんなに早くお戻りになられるとは、どうされたのですか?」

 そう問いかけてくるデルタと、慌てて集まってくる一部使用人。
 そして、少し距離を置いた場所から様子を見守る年若い侍女達。

 本来であれば予定表を作っただろう年若い侍女達こそ出迎えるべきだろう。 だが、実際には若い侍女達は様子を見守るだけに留まり……舌打ちすらついているものもいた。



 大公屋敷の西に位置する場所に背の高い風車塔がある。

 表向きは製粉用の風車だが、実際には風車による発電と魔石を併用し様々な魔道具開発を行うガンマの実験室となっていた。

 だが今その塔の一番高い場所から望遠用の魔道具を使っているのは青髪の少年ベータである。

 使用人達の表情をチェックし細かく記録をとっていた。

 神聖皇国に関わる、神殿、王妃、聖女達の身勝手を見て見ぬふりをしていたが、いつまでもソレを許容するつもりが無いからこそ、そんな彼等の手先となる者達を割り出す必要がある。 若い侍女達の殆どは、貴族の令嬢達なのだから、その意味は大きい。

「何時か、痛い目に合わせてやる……」

 ベータは誰に? 等と語る事はなく、ただ苛立ちを無意識に口ずさんでいた。



 名前を捨てた者達。



 アルファ、ベータ、ガンマ、デルタを始め、大公直々の命令により動いているナンバーズ達は、故郷を神聖皇国によって奪われ、神聖皇国独自の法によって殺されそうになった者達の集まりだ。 その恨みは決して小さなものではなく、だからこそ裏切る事はないと絶対の信頼を大公は寄せている。

 望遠鏡の向きが、使用人から主へと向け……そして、少年執事は望遠鏡から手を離し、高い塔から勢いよく飛び降りた。 風に乗るようにフワリと軽く少年は美しく降りていく。

「あの様子では、お食事どころでは無かったのでしょうね。 何か軽く食べられるものと、お嬢様のお好きな甘いものを準備してもらいますか」

 少年は調理場へと急ぎ走るのだった。





 部屋に戻ったティアは、馬車の中でアルファが言っていた通り、温めに沸かされた風呂に浸かっていた。 愚痴るようにデルタに王妃と交わした会話を語る。

「彼女は、何がしたいのかしら?」

 彼女とは王妃のこと。

「言葉の通りであれば、ジェフロア様、聖女様と仲良くさせたいとなりますが……」

「発情を伴う仲良しなんて、想像もつかないわ。 ソレに何の意味があると言うの? ジェフロアもイザベルも、決して私を愛している訳ではないわ。 だからこそ、彼女達の必死さがわからないの」

「神殿の勢力拡大を考えれば、方法はどうあれおかしな事ではありません」

 この国は、大厄災の終了から10年、復興に尽力し、余裕が生まれはじめたのは5年前。 未だ辛い時代の記憶は鮮明で神殿に祈りを捧げる者は少なくはない。 それに比べ実際に厄災を終え、復興に尽力した国と言えば、厄災の元凶扱いであり、民の資産を奪う存在、妥当すべき存在とされている。

「デルタ。 私は疲れていますの。 陛下のご不在の今、王家は神殿そのものと言える状態。 思っても居ない事で私を混乱させるのは止めてもらえるかしら?」

 拗ねた風に言えば、デルタはクスッと笑って見せた。

「私の知っている神殿は、敵意を煽り、そして隙を見せ、反乱の機会を作りました。 反乱が起これば、神殿の自由・権利・神が脅かされたと神聖皇国が騒ぎ出し、周辺国に報復を行うための協力を求める。 それが皇国のやり方です」

「だから……まずは皇国の存在意義を奪ってしまいたいの。 神の意志とは関係なく人々は幸せになれる。 奇跡が無くともケガや病は癒せる事を民に伝えたいの」

「存在意義、ですか? お話はあとで、髪を洗いますから大人しくしていてください」

「んっ」

 ティアは優しく髪を触れられ、頭を預け、優しく髪を触れられるのに身を任せた。 愛されている。 守られている。 コレはとても贅沢な事。 王妃に逆らわなければ……私もジェフロアやイザベルのようになっていた可能性がある。 そして、今も2人のように……この国はジワジワとその意志を浸食されている。



 気づけば、その心地よさに眠ってしまっていた。



 湯の中から出され身体が拭われ、ベッドに横になる。 温かな食事の匂いはとても穏やかに柔らかい。

 むくりとその香りに起きれば、

「起きたか?」

 テーブルの上に山積みになった書類チェックをするアルファが声をかけてきた。 そしてキッチンワゴンの上には届けられたばかりと思われるスープ、パン。

「食べるなら食べさせてやろう」

「自分で食べられますわ」

 ベッドから出ようとすれば、柔らかな上掛けが滑り落ち、僅かにだが乱れ胸元がはだけた薄地のガウン姿が露わになる。

「ぁ……。 視線を背けなさい。 失礼よ」

 慌てて胸元を重ね合わせようとすれば、両手が掴まれ邪魔された。

「何よ……」

「いや……触れて、いいか?」

「ぇ、な、何を言っているんですか!!」

 ティアの動揺交じりの返事にアルファは深い溜息をつく。 それと共に掴まれた両手は離され、乱れた胸元が素早く正された。

「な、によ」

「いや、やっぱり、あの時手を出さなくて良かったと思っただけだ」

「ぇ、ぁ、そんな事、今言われても困りますわ。 お腹が空いていますし、目の前には山のような書類が見えていますし?」

「ふぅん? なら、お嬢様に媚びるために、食事を食べさせてやろう」

「媚びるって……」

 何をふざけているのか? と、思って顔を見上げれば、何時もと変わらない愛想の良い笑みが向けられた。

「ほら、口を開け」

 スープ用のスプーンが向けられる。

「……雛鳥になった気分ですわ」

「いいから食え」

「色気のない」

「色気のある食べさせ方が良いのか?」

「そういう訳では……」

「だな……口移しで食べさせる事も考えたが、どうにも美しくない」

 と言って笑うのだ。

「はいはい、スプーンを返してください。 ところで……デルタは?」

「依頼していた情報が集まったから、ベータと一緒に別室で整理している」

「ふぅん……私は、その……何時、どのようにして、ベッドに来たのかしら?」

「俺が運んだ」

「ぇええええっ」

「なんだよソレ、傷つくだろうが。 安心しろ、ガウンを着せるところまではデルタがしている」

 と言いながら、アルファはソファの縁に腰を下ろし耳元にかかる私の髪を指先で退かし、そして囁いた。

「だが……ティア様の身体の熱、柔らかさ、香りは何時も以上に煽情的だった」

 甘い声に心臓が早くなり、返す言葉も思いつかないティアは真っ赤な顔で、もくもくと食事を口の中に放り込むのだった。










【↓にベータ&デルタのAIイラストあり】



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