【R18】従姉妹に貶められ全てを失くした子爵令嬢は、王子に拾われ溺愛される

迷い人

文字の大きさ
15 / 22

14.望まざる再会

しおりを挟む
 人であったころの習慣で、空が白み始める頃に目を覚まし、自分の身体を確認したところ外見上は特に変わったところはなかった。 だけれど内面は魔力量が増え少し落ち着いた感じがする。

 ベッドの上に正座して、私は満足そうに魔力が満ちているお腹を撫でる。

 満腹……。

「お腹が空いたのか?」

 突然に声をかけられると、驚き、しまってあった尻尾と翼が出て宙に浮く。

「な、何?」

 足首を掴まれ引き戻され、抱きしめられた。

「お腹が空いたのかと聞いている」

「いえ、むしろ魔力総量が一気に増えています」

「まぁ、中に沢山そそいだからな」

 クスクスと笑いながら言われれば、自分の顔が真っ赤になるのがわかった。

「子の元となる種だ。 唾液より余程魔力が濃いからな」

 言われれば、羞恥に身もだえしながら、ミニドラゴンになり耳を塞いだ。 だが、それはそれで容易に抱きかかえられる訳で、ボールを抱えるようにだけれど……。

「なんだ、俺との関係は忘れ去りたいと?」

「そう言う訳ではありません。 ただ、恥ずかしくて……」

「それは、大変だな」

 ふわふわサラサラのタテガミが、ぷにぷにコロコロもっちりなお腹がナデナデされる。

「なんて、肌触りがいい……最高だティア」

 恍惚と言われれば、それはソレで複雑な気分となる訳なのですよ。 それでも主である男が悩みから解放された様子は嬉しいわけなのです。

 まぁ、いいんですけどね……。

 尻尾をパタパタしながら、私は彼の幻獣らしくその腕の中に大人しく収まり、撫でまわされるままになっている。 幸福な時間だなと私は日が上る空を眺めていた。




 突然にディルクは、私と視線が合う場所へと持ち上げて、何処までも真顔で囁いた。

「俺と一緒に生きて欲しい」

 少し不安そうに戸惑い交じりに。

 だけど、私は迷う事はない。 生まれる前から、この人の側に居るのだと決めていたのですから。 決めたから生まれてきたのですから。

「はい」

 もし人間であれば、軽率過ぎると考えたかもしれません。 だけど、私は幻獣でそもそも愛情と魔力が無ければ幻獣の卵は孵る事すらないのですから、その時点で共に生きる最低条件は突破している訳なのですよ。

「ずいぶんと、簡単だな」

 不安の混ざった頼りない声で彼が言うから、私は不敵に返してみる。

「生まれる前に決めていましたから。 そもそも、嫌だったら卵から孵ろうと思いませんよ」

 それでも不安そうなディルクにミニドラゴンのままで口づける。

「ティア」

 いや……押し倒すのはどうなのだろうか? と思いつつも、力の差と言うか、体格差というかでアッサリと押し倒され、お腹にむにむにと顔を埋められた。 かなり複雑な気分だ。

「ですが、」

「どうかしたのか?」

「ディルクは、この国の王子様なのですよね? いいのですか? 人の妻を娶らなくても。 ディルクは国を守るために戦場で戦い大きな功績を残したと伺いましたよ? そうなると、立場に相応しい妻となるべき人を迎えなければならないのではないでしょうか?」

「そういう心配はいらないさ。 今、国の柱となっている法が何処から来たか知っているか?」

「竜信仰ですよね?」

「いいや、西方の聖国から40年ぐらい前に嫁いできた聖女によって、この国は徐々に聖女信仰へと転化され、堂々と竜を讃える声を上げれば罰が与えられるのが、今のこの国だ」

 ずっと屋敷から出る事の無かった私には、知りようのない事実でした。

「ぇ? でも……私が知っているのは……」

 私を竜の娘と信仰する者達。

「ティアの知っている者達は、この国に僅かに残った裏組織、隠れ組織のようなものだ。 ずいぶん前に密告を受け、罰をあたえられ、改宗が行われたと聞いている。 ようするに俺は……俺らはかな? 排斥される側の人間だと言うことだ」

「その、組織の方は、酷い目にあったのでしょうか?」

「いや、ティアが消えた頃、組織全体が取り締まりをうけ、王妃自らが説得し改宗が行われたと聞いている」

「そうですか」

 彼等の好意は決して私が望んだものではありませんでしたが、幼児期に不自由のない生活を与えてくれたのは事実です。 そんな人達が酷い目にあっていないなら、良かったと思うのは間違ってはいないはずです。



 私達は名実共にパートナーとなり、騎士団内で囁かな祝いを受けた。

 そして、6年にも及ぶ北方との戦を終えた事を祝い、祝賀会にもパートナーとして連れ出される事となった。

「いいのですか?」

「構わんよ。 むしろ申し訳ないぐらいだ」

 本当に申し訳なさそうな表情が向けられ、きっとよくない事が起こるだろうし、それを理解して連れ出されたのだと覚悟を決める。

 私は身体にフィットした背が広くあいた白いドレスに銀糸の刺繍の入ったドレスを着ていた。 セクシー過ぎる気もするけれど、翼を出すかもしれない可能性を考えれば、仕方がない。

 ディルクはお揃いは髪色だけでいいだろう? 俺に純白が似合うはずなかろう!! と、頑張ったため黒のスーツを着ているが、タイにほどこされた銀刺繍がお揃いとなっている。

 クスクスと周囲から嘲笑が漏れる。
 ソレは決して好意的なものではなかった。

「なんてはしたない女性を連れているのかしら。 戦場で一帯何をがんばっていらしたのやら」

 なんて声がアチコチから聞こえた。

「まぁ、ティアは裸体が一番美しいがな」

 思わず足を踏みそうになるのを我慢しました。

 ディルクは素知らぬ顔でいるけれど、周囲から上がる誹謗の声は余りにも酷い、幻獣を従える獣王子はまだいい。 彼自身を魔物と例える者すらおり、角がピリピリしてしまいます。

「まぁ、落ち着け」

 トントンと剥き出しの背が撫でられ、髪に口づけられ、せっかく結ったはずの髪が解かれ、角が露わとなる。

「殿下!!」

 横合いからロイスの悲鳴のような叫びがあがり、ディルクの行動を非難する。

「混乱を起こすつもりですか!」

 責めるような視線でロイスはディルクを見るが、ディルクは何時ものように笑うだけ。 どのみち、角はすでに見られており、今更後戻りできるものでもない。

 ロイスはボソリと「油断した」と呟いていたが、その意味は未だ私にはわからない。 だが、変化は直ぐにあった。 なにしろもともと視線を集めていたのだから、人は私の角に釘付けとなる。

「ま、魔物!!」

 幻獣と魔物の差は、認識の差でしかない。 その騒ぎが伝染し広がりを見せるかと思った。

 だが、

「姫様!!」

 涙ながらにそう声をあげ駆け寄る者があった。
 泣きながら目の前にひれ伏すものがあった。

 そして、

「アンタ、生きていたのね」

 恨みの色を露わに、私を睨みつけてくる視線。
 サイズの合わない古い形のドレスを着た元従姉妹の姿もあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)お荷物聖女と言われ追放されましたが、真のお荷物は追放した王太子達だったようです

しまうま弁当
恋愛
伯爵令嬢のアニア・パルシスは婚約者であるバイル王太子に突然婚約破棄を宣言されてしまうのでした。 さらにはアニアの心の拠り所である、聖女の地位まで奪われてしまうのでした。 訳が分からないアニアはバイルに婚約破棄の理由を尋ねましたが、ひどい言葉を浴びせつけられるのでした。 「アニア!お前が聖女だから仕方なく婚約してただけだ。そうでなけりゃ誰がお前みたいな年増女と婚約なんかするか!!」と。 アニアの弁明を一切聞かずに、バイル王太子はアニアをお荷物聖女と決めつけて婚約破棄と追放をさっさと決めてしまうのでした。 挙句の果てにリゼラとのイチャイチャぶりをアニアに見せつけるのでした。 アニアは妹のリゼラに助けを求めましたが、リゼラからはとんでもない言葉が返ってきたのでした。 リゼラこそがアニアの追放を企てた首謀者だったのでした。 アニアはリゼラの自分への悪意を目の当たりにして愕然しますが、リゼラは大喜びでアニアの追放を見送るのでした。 信じていた人達に裏切られたアニアは、絶望して当てもなく宿屋生活を始めるのでした。 そんな時運命を変える人物に再会するのでした。 それはかつて同じクラスで一緒に学んでいた学友のクライン・ユーゲントでした。 一方のバイル王太子達はアニアの追放を喜んでいましたが、すぐにアニアがどれほどの貢献をしていたかを目の当たりにして自分達こそがお荷物であることを思い知らされるのでした。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 全25話執筆済み 完結しました

顔も知らない旦那様に間違えて手紙を送ったら、溺愛が返ってきました

ラム猫
恋愛
 セシリアは、政略結婚でアシュレイ・ハンベルク侯爵に嫁いで三年になる。しかし夫であるアシュレイは稀代の軍略家として戦争で前線に立ち続けており、二人は一度も顔を合わせたことがなかった。セシリアは孤独な日々を送り、周囲からは「忘れられた花嫁」として扱われていた。  ある日、セシリアは親友宛てに夫への不満と愚痴を書き連ねた手紙を、誤ってアシュレイ侯爵本人宛てで送ってしまう。とんでもない過ちを犯したと震えるセシリアの元へ、数週間後、夫から返信が届いた。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。 ※全部で四話になります。

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

氷の公爵は、捨てられた私を離さない

空月そらら
恋愛
「魔力がないから不要だ」――長年尽くした王太子にそう告げられ、侯爵令嬢アリアは理不尽に婚約破棄された。 すべてを失い、社交界からも追放同然となった彼女を拾ったのは、「氷の公爵」と畏れられる辺境伯レオルド。 彼は戦の呪いに蝕まれ、常に激痛に苦しんでいたが、偶然触れたアリアにだけ痛みが和らぐことに気づく。 アリアには魔力とは違う、稀有な『浄化の力』が秘められていたのだ。 「君の力が、私には必要だ」 冷徹なはずの公爵は、アリアの価値を見抜き、傍に置くことを決める。 彼の元で力を発揮し、呪いを癒やしていくアリア。 レオルドはいつしか彼女に深く執着し、不器用に溺愛し始める。「お前を誰にも渡さない」と。 一方、アリアを捨てた王太子は聖女に振り回され、国を傾かせ、初めて自分が手放したものの大きさに気づき始める。 「アリア、戻ってきてくれ!」と見苦しく縋る元婚約者に、アリアは毅然と告げる。「もう遅いのです」と。 これは、捨てられた令嬢が、冷徹な公爵の唯一無二の存在となり、真実の愛と幸せを掴むまでの逆転溺愛ストーリー。

処理中です...