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18.断罪 前編
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「聖国からもたらされた長き厄災における調査報告及び、処罰を申し付ける」
玉座に座るディルクの横でロイスが宣言した。
ディルクは気怠そうに周囲を見回し、膝の上で小ぶりな竜の姿で丸くなる私を指先で撫でる。
ディルクは、彼の父である国王が長い洗脳と、隣国の法聖女からの攻撃を受けた事で精神崩壊しているにもかかわらず、王位につくことを未だ宣言していない。 それでも罪を裁く対象として、今、酒聖女、その3人の息子、王宮内に入り込んでいた聖国の者達、そして……聖国から書簡を携えてきた使者達が重苦しい空気の中で並んでいた。
私が人であったころの従姉妹ダイアナや、祖父はいない……。 あの日、誰に看取られることなく、数多の死体の中の1体として処理された。 金がないからと夜会に出席できなかった叔父とその妻は幸いと言うべきなのでしょうか? 叔父は自らに甲斐性がない事を詫びながら妻を実家に帰し、使用人は解雇し、家屋敷を売り爵位を返上し農民として生きるのだと言う。
不機嫌そうなディルクの気配……。
「きゅ?」
私が上体を伸ばし、ディルクの顔を覗き見れば、微笑むこともせずにアゴ部分を指先でなでてくる。
「あぁ、機嫌が悪いだけだ」
ダメでしょう。
溜息交じりに、ディルクはまずは聖女に組した竜の血が流れた貴族を、当主交代、前当主の復帰、爵位返上、一族解体、領地没収、などなど罪に合わせて淡々と告げていく。
そして、
「酒神の加護を得ている聖女トリーよ。 オマエの罪は深く重い。 必要であれば、並べ立てるが、大人しくその罪を認めて死んでくれるとありがたい。 本当、もう面倒くさいから死んでくんない?」
そう言ってロイスの懐にしまってある短刀を、勝手に手を伸ばし奪い、酒聖女の元へと床を滑らせて渡す。 危険を考えないのか? と言えば、多分、考えていないのだと思う。
取り返した私の角は、2本ともディルクへと渡した。 私が吸収しても魔力に変化するだけで、それはいわゆる私の親離れが近づくということで、ディルクがソレは面白くないからと角は彼が吸収した。 そんなくだらない理由なのに、私の角を吸収したディルクはより竜に近くなり、強烈な呪いでもかかっている刃物でもなければ、傷一つつくことはなくなった。
でも、多分、そんな頑強な身体がなくても彼は同じようにしたと思う。 周囲が警戒を務める中で、酒聖女は床を滑ってきた短刀を手にした。
「わらわの角を」
短刀を片手にそんなことをいうから、酒聖女は無表情のディルクに容赦なくゴツイブーツの靴底で顔面を蹴られる。
「ティアは俺の妻だ、オマエのものになったことはない!!」
「うわあああああああああ」
手に持っていたナイフは、自らの手を刃で切ったが蹴られた顔面の方が痛いのか、顔を抱えながら床を這いまわり、それを取り押さえられるために、かつて王妃出会った女性は竜騎士たちに足蹴にされた。
顔面を手で押さえながら、人相悪く叫ぶ酒聖女。
「このこのこの、クソトカゲが! 脳みそ空っぽのお前達のために、わらわは国のために働いたにすぎない。 無能な竜のために国を治めてやったと言うのに、この仕打ちは神に罰せられよ!!」
「アンタは聖国を追放され、聖国に恨みを持っている。 だからこそクライン国を強い国としたかった……強くして領地を広げてやろうとまで考えていた」
気怠そうに告げるディルクは、私の尻尾をくるくると弄び、やる気がない。
「その通りじゃ!! わかっているじゃない。 少しやり方は悪かった事は認めるてもよい。 だけど、それは私の手を取り、わらわの考えを聞き、賛同しなかったアナタの責任でもあるのだから、わらわだけが責められるのはおかしいわ!!」
「そう言うだろうなぁ……とは予測していたさ。 なので、2年前、アナタの追放処分を解除してもらっていたんですよ」
「はぁ?」
未だ顔面を抑えながらだが、間抜けな声を出す酒聖女。
「アンタが嫁いできて40年、人の好い国王ならば、何時かよいこともある。 恩を返してもらえばいい。 そんなノンキなことも言うだろうが、散々アンタに嫌がらせをされて育った身としてはねぇ」
淡々といい、酒聖女へと視線を向けジッと見つめる。 ただ、未だ顔面が痛いらしい酒聖女がディルクと視線を合わせることはない。
「アンタが国を恨むように、他の者もアンタを恨んでる事を理解しないと」
「何をいっておるのじゃ?」
「頭をぶつけて壊れたんですか? さっきの理屈で行くなら、アンタはただの簒奪者だと言っているんです」
「そんな話、聞いていない!!」
「ちゃんと書簡が届いているはずですよ。 罪は許された、追放は解除された。 とね……そちらの法聖女殿がおっしゃっていたのですからね。 そんな訳でアナタはこの国の法によって国家を簒奪する悪人となりました。 そしてアンタに招かれてこの国で権力、地位を得た聖国の方々も同様に罪人です。 はい、皆拍手パチパチパチ」
自分達の主の命令だと、理解が追い付かぬままクライン国の貴族、騎士達はやる気のないディルクに追従し拍手をした。
「さて、では全員仲良く、あの世へと旅立ってください」
そう告げれば、全員が騒ぎ出す。
特に、ディルクの兄にあたる酒聖女の長男、次男たちが暴れ騒いだ。 とはいえ、2人は上手く竜の血と、聖女の血が打ち消し合った一般人。 ただの権力に酔いしれて好き勝ってした馬鹿にすぎない。
「俺達が何をしたと言うんだ。 聖国の者と言うのが簒奪者の証と言うなら、俺は竜だ、竜の血が混ざっている!! なら、俺は裁く側、王家の調子と言う意味では、俺が王だ!! 王なんだ!! オマエの言う事を聞く必要がどこにある」
ディルクは大きく溜息をついた。
余りにも馬鹿げている。
貴族の1人がディルクに代わって説明した。
「この国が簒奪から脱却し正しい形に戻ったとなれば、この国の主は竜の血が最も濃く、竜の姫を伴侶に持つディルク様になります」
「ふん、オマエ、本当は王位に等つきたくなんかないんだろう? 見てればわかる。 俺が王位を引き受けてやる」
「ほぉ~~~。女遊びを趣味にしていたオマエが、どんなふうに国を治めると言うんだ? 人に任せきるだけの人脈もないだろうに」
「そんなものは、国を愛するものが献身的に働けばいい。 働かなければ国は満ち足りることはない。 それは、当然の理だ。 だから、人々はただその当然のことを、俺の元で行えばいい」
そうドヤ顔で言う。
「この国は、竜の国だが、この国が豊かなのは竜の配下である精霊の加護があるからだ。 なら、それはどうするつもりだ? オマエが国を率いて、貴族が補助をしても、竜の血が殆ど流れていないお前に精霊は従わん……どころか見えていないだろう」
「それは……お前達が配下となり、俺のために務めればいい!!」
馬鹿だ……。
「まぁ、いい……オマエは殺されろ、醜くおぞましく殺されろ、誰か処刑場で動けぬようにくくりつけてやれ。 後はアイツに弄ばれた女たちに任せる」
長男は次期王として、王宮内で男子禁制のハーレムを持ち、そしてそこで多くの女性と関係を持っていた。 そこまでは、まぁ、ぎりぎりセーフだ……。 アウトなのは、彼がハーレムの女たちが生んだ赤ん坊を、母親に捧げていたことだ。
酒聖女は、精霊からの誤認識を高めるため、生まれたばかりの赤ん坊の血を酒と混ぜ摂取していたのだ。
「お、俺は、俺は……何もしてない、何も……」
次男が怯えたように言う。
「王族として、その恵みを受けておりながら、全てを見て見ないふりをして引きこもる。 それが王族の姿として許されると思っているなら、大きな間違えだ」
ディルクは考えた。
さて、竜の血の影響がほぼない彼を、竜騎士である貴族達のもとで鍛えなおすというのも難しいだろう。
「小さな村を与えよう。 そこで生きよ。 誠実に働き、信頼を獲得し、人が寄ってくるなら、いずれ王都に再び戻る事もできるだろう」
全てを恐れ怖いと、何年も部屋から出なかった男にも関わらず、彼は安堵した。 次男にとって母も王宮もただ怖いだけの存在だったのだ。
そして酒聖女の3人目の息子。
年齢的にはディルクの弟にあたる青年。
ディルクは、弟から視線を逸らして、王宮に入り込んでいた聖国の民へと視線を向けた。
「僕は!!」
「誰が発言を許しましたか」
ロイスが諫めた。
玉座に座るディルクの横でロイスが宣言した。
ディルクは気怠そうに周囲を見回し、膝の上で小ぶりな竜の姿で丸くなる私を指先で撫でる。
ディルクは、彼の父である国王が長い洗脳と、隣国の法聖女からの攻撃を受けた事で精神崩壊しているにもかかわらず、王位につくことを未だ宣言していない。 それでも罪を裁く対象として、今、酒聖女、その3人の息子、王宮内に入り込んでいた聖国の者達、そして……聖国から書簡を携えてきた使者達が重苦しい空気の中で並んでいた。
私が人であったころの従姉妹ダイアナや、祖父はいない……。 あの日、誰に看取られることなく、数多の死体の中の1体として処理された。 金がないからと夜会に出席できなかった叔父とその妻は幸いと言うべきなのでしょうか? 叔父は自らに甲斐性がない事を詫びながら妻を実家に帰し、使用人は解雇し、家屋敷を売り爵位を返上し農民として生きるのだと言う。
不機嫌そうなディルクの気配……。
「きゅ?」
私が上体を伸ばし、ディルクの顔を覗き見れば、微笑むこともせずにアゴ部分を指先でなでてくる。
「あぁ、機嫌が悪いだけだ」
ダメでしょう。
溜息交じりに、ディルクはまずは聖女に組した竜の血が流れた貴族を、当主交代、前当主の復帰、爵位返上、一族解体、領地没収、などなど罪に合わせて淡々と告げていく。
そして、
「酒神の加護を得ている聖女トリーよ。 オマエの罪は深く重い。 必要であれば、並べ立てるが、大人しくその罪を認めて死んでくれるとありがたい。 本当、もう面倒くさいから死んでくんない?」
そう言ってロイスの懐にしまってある短刀を、勝手に手を伸ばし奪い、酒聖女の元へと床を滑らせて渡す。 危険を考えないのか? と言えば、多分、考えていないのだと思う。
取り返した私の角は、2本ともディルクへと渡した。 私が吸収しても魔力に変化するだけで、それはいわゆる私の親離れが近づくということで、ディルクがソレは面白くないからと角は彼が吸収した。 そんなくだらない理由なのに、私の角を吸収したディルクはより竜に近くなり、強烈な呪いでもかかっている刃物でもなければ、傷一つつくことはなくなった。
でも、多分、そんな頑強な身体がなくても彼は同じようにしたと思う。 周囲が警戒を務める中で、酒聖女は床を滑ってきた短刀を手にした。
「わらわの角を」
短刀を片手にそんなことをいうから、酒聖女は無表情のディルクに容赦なくゴツイブーツの靴底で顔面を蹴られる。
「ティアは俺の妻だ、オマエのものになったことはない!!」
「うわあああああああああ」
手に持っていたナイフは、自らの手を刃で切ったが蹴られた顔面の方が痛いのか、顔を抱えながら床を這いまわり、それを取り押さえられるために、かつて王妃出会った女性は竜騎士たちに足蹴にされた。
顔面を手で押さえながら、人相悪く叫ぶ酒聖女。
「このこのこの、クソトカゲが! 脳みそ空っぽのお前達のために、わらわは国のために働いたにすぎない。 無能な竜のために国を治めてやったと言うのに、この仕打ちは神に罰せられよ!!」
「アンタは聖国を追放され、聖国に恨みを持っている。 だからこそクライン国を強い国としたかった……強くして領地を広げてやろうとまで考えていた」
気怠そうに告げるディルクは、私の尻尾をくるくると弄び、やる気がない。
「その通りじゃ!! わかっているじゃない。 少しやり方は悪かった事は認めるてもよい。 だけど、それは私の手を取り、わらわの考えを聞き、賛同しなかったアナタの責任でもあるのだから、わらわだけが責められるのはおかしいわ!!」
「そう言うだろうなぁ……とは予測していたさ。 なので、2年前、アナタの追放処分を解除してもらっていたんですよ」
「はぁ?」
未だ顔面を抑えながらだが、間抜けな声を出す酒聖女。
「アンタが嫁いできて40年、人の好い国王ならば、何時かよいこともある。 恩を返してもらえばいい。 そんなノンキなことも言うだろうが、散々アンタに嫌がらせをされて育った身としてはねぇ」
淡々といい、酒聖女へと視線を向けジッと見つめる。 ただ、未だ顔面が痛いらしい酒聖女がディルクと視線を合わせることはない。
「アンタが国を恨むように、他の者もアンタを恨んでる事を理解しないと」
「何をいっておるのじゃ?」
「頭をぶつけて壊れたんですか? さっきの理屈で行くなら、アンタはただの簒奪者だと言っているんです」
「そんな話、聞いていない!!」
「ちゃんと書簡が届いているはずですよ。 罪は許された、追放は解除された。 とね……そちらの法聖女殿がおっしゃっていたのですからね。 そんな訳でアナタはこの国の法によって国家を簒奪する悪人となりました。 そしてアンタに招かれてこの国で権力、地位を得た聖国の方々も同様に罪人です。 はい、皆拍手パチパチパチ」
自分達の主の命令だと、理解が追い付かぬままクライン国の貴族、騎士達はやる気のないディルクに追従し拍手をした。
「さて、では全員仲良く、あの世へと旅立ってください」
そう告げれば、全員が騒ぎ出す。
特に、ディルクの兄にあたる酒聖女の長男、次男たちが暴れ騒いだ。 とはいえ、2人は上手く竜の血と、聖女の血が打ち消し合った一般人。 ただの権力に酔いしれて好き勝ってした馬鹿にすぎない。
「俺達が何をしたと言うんだ。 聖国の者と言うのが簒奪者の証と言うなら、俺は竜だ、竜の血が混ざっている!! なら、俺は裁く側、王家の調子と言う意味では、俺が王だ!! 王なんだ!! オマエの言う事を聞く必要がどこにある」
ディルクは大きく溜息をついた。
余りにも馬鹿げている。
貴族の1人がディルクに代わって説明した。
「この国が簒奪から脱却し正しい形に戻ったとなれば、この国の主は竜の血が最も濃く、竜の姫を伴侶に持つディルク様になります」
「ふん、オマエ、本当は王位に等つきたくなんかないんだろう? 見てればわかる。 俺が王位を引き受けてやる」
「ほぉ~~~。女遊びを趣味にしていたオマエが、どんなふうに国を治めると言うんだ? 人に任せきるだけの人脈もないだろうに」
「そんなものは、国を愛するものが献身的に働けばいい。 働かなければ国は満ち足りることはない。 それは、当然の理だ。 だから、人々はただその当然のことを、俺の元で行えばいい」
そうドヤ顔で言う。
「この国は、竜の国だが、この国が豊かなのは竜の配下である精霊の加護があるからだ。 なら、それはどうするつもりだ? オマエが国を率いて、貴族が補助をしても、竜の血が殆ど流れていないお前に精霊は従わん……どころか見えていないだろう」
「それは……お前達が配下となり、俺のために務めればいい!!」
馬鹿だ……。
「まぁ、いい……オマエは殺されろ、醜くおぞましく殺されろ、誰か処刑場で動けぬようにくくりつけてやれ。 後はアイツに弄ばれた女たちに任せる」
長男は次期王として、王宮内で男子禁制のハーレムを持ち、そしてそこで多くの女性と関係を持っていた。 そこまでは、まぁ、ぎりぎりセーフだ……。 アウトなのは、彼がハーレムの女たちが生んだ赤ん坊を、母親に捧げていたことだ。
酒聖女は、精霊からの誤認識を高めるため、生まれたばかりの赤ん坊の血を酒と混ぜ摂取していたのだ。
「お、俺は、俺は……何もしてない、何も……」
次男が怯えたように言う。
「王族として、その恵みを受けておりながら、全てを見て見ないふりをして引きこもる。 それが王族の姿として許されると思っているなら、大きな間違えだ」
ディルクは考えた。
さて、竜の血の影響がほぼない彼を、竜騎士である貴族達のもとで鍛えなおすというのも難しいだろう。
「小さな村を与えよう。 そこで生きよ。 誠実に働き、信頼を獲得し、人が寄ってくるなら、いずれ王都に再び戻る事もできるだろう」
全てを恐れ怖いと、何年も部屋から出なかった男にも関わらず、彼は安堵した。 次男にとって母も王宮もただ怖いだけの存在だったのだ。
そして酒聖女の3人目の息子。
年齢的にはディルクの弟にあたる青年。
ディルクは、弟から視線を逸らして、王宮に入り込んでいた聖国の民へと視線を向けた。
「僕は!!」
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