【R18】従姉妹に貶められ全てを失くした子爵令嬢は、王子に拾われ溺愛される

迷い人

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19.断罪 中編

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 聖女の3人目の子、ディルクの弟にあたる男を無視し、ディルク達は王宮をわが物顔で支配していた聖国の者達に罰を告げだす。

 と言っても、酒聖女がクライン国を制するために聖国から招いた人の数は多く、それらの人物たちは国を治める各機関に入り込んでいた。 着服等はあるものの、聖国の者達は入り込んだ先の行政府で、国の運営が滞らないように仕事をしていた。

 部下として過ごした者の中には、罪に対すし減免を求められる者もいた。 不正に国の中枢に入り込み、酒聖女の配下だったとしても惜しい人材は存在するものである。

 だが、今、問題とするのは、

『どうやって、そのような優秀な人材が入り込んだか?』

 クライン国だけの問題ではなく、優秀な人材が他国へ流れたとあってはそれは聖国の損失でもある訳で、誰がそのような手引きをしたかが問題となる。

 ロイスは、不正、横領、着服などの罪。 なにより、聖国からの流民を受け入れるために、クライン国のルールを捻じ曲げ、民を虐げた者達から罪を上げ、その罪に応じた罰を下していく。

 だが、彼等の行動によって、クライン国の民がどれほど不幸になったかを語っても悪ぶれる事はなかった。

「なぜ、我々が罰を受けなければならない!! トカゲごときが人間のように生活をしているのが、神の使徒である我々よりも恵まれた環境でいきているのが、生意気なんだ!!」

 彼等は自分の言葉に絶対的な自信をもって、声を上げるのを聞けば、今回の騒動で騎士へと取り立てられた貴族の若者が声を上げる。

「彼等は、話になりません!!」
「どうか、どちらが強者であるか、その力をしめさせてください!!」

「若いな……」

 ディルクは笑い、そして膝の上のティアを持ちあげ、視線の高さを合わせる。

「人型をとってもらえるか?」

「きゅ?」

 拒否をする理由もない。

 私は、輝く鱗と羽毛を服替わりにマント替わりの意味を兼ねて、翼は大きめに、尻尾は少し控えめ、タテガミは思い切りゴージャスな印象で人間に変化した。 何しろ、服まで出てくる訳ではないので、肌を見えないようにする兼ね合いが大事だ。

 人型となって私は、一瞬フワリ途中に浮くがディルクの膝の上、腕の中に落下する。

「なに?」

 そう言いながら私はディルクに身を寄せ、頬を摺り寄せれば、ディルクは私を抱きしめ軽く口づける。

 周囲から溜息にも似た感嘆の音。

 クライン国の民であれば、警戒中の騎士までもが膝をつき敬意を露わにする。 そしてトカゲと暴言を吐き続けてきた聖国の者達までもが、言葉を失いその異形の姿に見ほれていた。

「聖国の使者殿が遠方からわざわざ来訪していただいたにも関わらず、もてなしをしていなかったことを思い出してな。 一曲所望できるだろうか?」

「どんな?」

「庭の木々に果実を」

「了解しました。 マスター」

 私は、鏡で幾度となく練習した微笑みを浮かべる。

 ほぉ……という溜息が聞こえた。

 精霊の歌であれば、風、水、砂、火、それらの流動音や煌めく光だったりするのだけど、竜の歌は水晶の笛のような透明感の高い音が発せられ、翼を揺らめかせれば鈴の音が鳴り、尻尾からもシャラシャラと不思議な音がする。

 それらを駆使して音楽を奏でれば、精霊達が呼応し歌は輪を描き広がっていき、王宮の木々が揺らめき花を成し、そして実をつける。

 しゃんっ!! という音と共に歌を終え、私は小さな竜の姿へと戻り、ディルクの胸元にいれろと強引に入り込んでいった。

「わかった、わかったから、そう甘えるな」

 嬉しそうな甘い声でディルクが私に言えば、それは罪を裁くような場とは思えず、人々の張り詰めた気が抜け、ロイスが若い騎士達に喝を入れていた。

「これは、素晴らしい」

 隣国の使者達が興奮状態となり、その目には欲望の色が見え隠れする。

 そして、トカゲの大将に対して罰の悪さを覚えるのは、国の中枢に入り込んだ聖国の民たち。 特にトカゲを支配してやるありがたい神の使徒であると声を荒げていた者達は唇を噛み、そして俯いた。

 彼等の神は、彼等に恵みを与えず、食料不足により生活が脅かされている中で、法と規則を遵守し人を罰するだけ。 秩序を持って働けと言うが、空腹、病気、ケガ人がどれほど定められた労働を遵守できるだろうか?

 だから、人が聖国の者達は逃げ出すのだ。

 彼等の神とトカゲの差を見せつけられれば、吐き気を催すものもいた。 ストレスで意識を失う者もいた。 泣き出す者もいた。 とはいえ……罪悪感、虚無、そんな思いが罰に代わるはずもない。

 ディルクは底冷えするような声と、邪悪とも言える笑みを浮かべる。

「これが、俺の伴侶、愛すべき竜の姫の力だ。 これが、オマエ達の馬鹿にしたトカゲの力らだ。 言葉の重みを知るがいい。 これは、私情だ。 恨んでくれて構わん。 俺はお前らを許さんからな」

 その目は爛々と黄金色に輝くトカゲのものだった。 元々竜の血が濃かったが、ティアの角を吸収し身体を重ねるうちに、より竜に近いものへと変化していた。

「も、申し訳ございませんでした!!」

 数人が涙ながらに頭を下げる。

 簒奪者としてやってきた聖国の者達の首をぐるりと一周するように、1センチほどの火傷のような跡が現れた。

 それこそが聖国、法と秩序を司る聖女の力である。

 人の罪悪感の大きさによって罪人の証が身体に現れる。 それは聖女と彼女が定めた法官の許しを持って初めて証が消える。 だが、正しき裁きを受けなければ、それは死へのカウントダウンでしかない。

 ただし、この聖女の力には大きな穴があった。

 世紀の大悪党と呼ばれるような者であっても、本人が罪悪感を抱いていなければ罪の証は発生しない。 罪悪感を抱かぬ悪党を裁くときは、法聖女による『聖女の裁き』が必要となる。

 そして、聖国の民による逃亡と簒奪が可能となったのは、罪悪感を軸とする法聖女の力を、酒聖女の酩酊によって回避できるため。

 命のカウントダウン『罪の証』を目にした使者達の視線が揺れたように思った。 それはあからさまで、正面に位置するディルク、ロイスも気づいているだろう。

 だが、ディルクは先ほどの竜の気質を抑え、穏やかな微笑みを浮かべ使者に告げる。

「そろそろ食事でも如何ですか? 竜の娘が成長を促した果物も食事の席に出させましょう」

 ただ、にっこりとディルクは微笑む。 その裏にある彼らへの嫌悪を隠しながら。
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