【R18】薬師の魔女は、愛する公爵の愛を信じられない【完結】

迷い人

文字の大きさ
9 / 36
婚約

09.交渉……であるわけがない 01

しおりを挟む
 陛下の可哀そうにと語る声に頭がクラクラした。
 私を不幸なのだといい、手を差し伸べる。
 同情と共に瞳は優しく私を見つめ、静かに微笑む。

 思考にモヤがかかる。

 それがとっても不快だったのだけど、必死に顔に出さないようにした……たぶん、それでも、困惑は隠しきれなかったと思う。 陛下もまた、浮かべていた微笑みが仮面のように停止していた。

 陛下の微笑みや差し伸べられた手は、私が不幸である前提のもの。

 もし、私が不幸を感じているとするなら、ディック様と6か月の間会えない事。 王宮に呼び出されるのは面倒だし、嫌だと思う事はあったけれど、王太子教育の多くは貴族が学んでおいた方が良いような内容。 陛下と未だ確執のあるディック様なだけに、私に貴族としての教育係をつけるのは難しかったので丁度良かったと割り切る事もできた。

 正直、面白かったし……。

 でも、まぁ……陛下は、私を……いえ、少なくとも私自身がディック様の子だと思い込んでいると思っている。 これだけは確かと知れて安堵した。

「お気遣いありがとうございます」

 静かに言って会話を中断させれば、陛下の眉間がわずかに不自然に動いた。 

「貴方はまだ親に守られて当然の子供です。 社会的な抑圧に小さくなる必要などありません。 いいのですよ。 我儘で、貴方の我儘を私が聞きましょう。 貴方の父となり貴方を守りましょう。 王太子の息子の妻となれば貴方は王家の一員となり大きな庇護を受ける事が出来るようになります」

「私は……公爵様が我が子と認めて下さらなければ、生きてはいませんでした。 物心ついた頃から働くのが当たり前の日々。 私にとって今の生活は十分に我儘な生活。 これ以上望むものなどありません。 5年の間、公爵家の娘として生き、王妃様のご厚意により教育を受けさせてもらいました。 ですが、私の心は未だ庶民と変わりありません。 抑圧と言うなら……貴族として生きる事。 華やかな社交の場こそが私にとっての抑圧なのです……。 ですから、王太子殿下との婚約は、どうかご容赦下さいませ」

 私は頭を下げた。

 公爵様に聞いて見なければ。 そんな言い訳をしたけれど、私自身の気持ちは決まっていた。 ただ……少しばかり、ディルク様に私を気にかけて欲しかったのだ。

 ディック様を悪くいい。 不満と不安をあおり、自分は違うとアピールする。 だけれど、どれもこれも的外れ。 私に抑圧を与えていたのは王妃様だし、私の権利を抑え込み感情的に私を操作してきたのも王妃様だ。

「そうですか……」

 陛下の笑みが変わる。
 何処か邪悪で薄暗く……。

「貴方は利用価値のある子どもです」

 子供と言う言葉が協調される。

「優しくして差し上げようと思ったのですが、余り意味がないようですね。 例えあのような粗暴な男が父親であっても、お前にとっては十分良い父親であると言うことか……」

 徐々に声色が変わり、口調も変わり、私を見る目も見下しの混ざったものへと変わっていた。

「お前にとって自由で我儘な生活と言えば、薄汚い庶民の生活と言う事か……」

 庶民の生活を薄汚いと表現するのは如何なものだろうか? 等と思うが、既に目の前の男は慈悲を求める意味を失っていた。

 声を荒げるようなことはないが、瞳には汚物を見るかのような光が宿っている。

「はい、私はそういう種類の人間です」

「そうか……ならば交渉の仕方を変えねばならぬと言う事か」

 陛下は顎をさするようにしていた手で口元を隠しながらも、ニヤリと笑っているのが見え、しまったと私は思った訳だ。

 彼は時に凶王と呼ばれる。
 欲しい者は、道理を無視し暴力で手に入れる。
 邪魔者は、恩義すら無視して消し去る。
 戦争を好み、混乱を好むが、本人は遠くから流れる血を楽しむ。

 この噂の姿がようやく見えてきた。 そして……彼自身が、魔法薬師を煙たがる何かそんなものがあったのではないか? と、想像してしまう。

「そう、手紙だ。 ソナタからの手紙が届かぬそうだな。 オークランス公爵の元にソナタの手紙を届けぬものがいるらしい。 アレを良く思わない者が潜んでいるのかもしれない。 とても危険だ……そうは思わないかね」

 私は沈黙した。

 手紙を届けぬただソレだけの事を問題とするような人ではないと私は知っている。 

 少しずつ言葉に圧力が、声に狂気が混ざってきた。

 側にいた侍女が、ティーポットを落とし絶望を顔に表す。 彼女は運が良かった……今の陛下は他所に気持ちを逸らす事はないらしい。 そして私には……余裕がなかった。

「私はね……最初から、お前を王家の一員にしたい等とは爪の先にも思っていない。 例えお前が生まれながらの貴族であったとしてもだ。 あの男の子だと言うだけでオゾマシイ。 だが……お前には使いようがある。 利用価値がある。 私はソレだけは認めてやっているんだ。 こうやって優しくしているうちに、私に従うと言ってごらん」

 声こそ優しいが、視線と表情は汚物を見るような視線。 私はチラリと周囲を見た。 陛下のこの態度は他の貴族達の態度を悪化させるだろう。 そう思ったから。 だけど、侍女達はただ真っ白な顔色で唇を紫色に染め上げ震えるだけだった。

「領地を豊かにした知識程度でしたら、幾らでも提供しましょう」

「なかなか良い申し出だ。 だが、お前の知識はソレだけか? そうではあるまい。 私が求めているのは知識の独占だ。 安心するがいい王太子との婚約が成立しても、お前に求めているのは国王の地位を継ぐ孫ではない。 見世物として優秀な妃でもない。 そんなものは後だ。 なんだ、その顔は……まさか、我が息子と閨を共にし、自らの子がやがて王位を継ぐとでも思っていたのか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

離婚を望む悪女は、冷酷夫の執愛から逃げられない

柴田はつみ
恋愛
目が覚めた瞬間、そこは自分が読み終えたばかりの恋愛小説の世界だった——しかも転生したのは、後に夫カルロスに殺される悪女・アイリス。 バッドエンドを避けるため、アイリスは結婚早々に離婚を申し出る。だが、冷たく突き放すカルロスの真意は読めず、街では彼と寄り添う美貌の令嬢カミラの姿が頻繁に目撃され、噂は瞬く間に広まる。 カミラは男心を弄ぶ意地悪な女。わざと二人の関係を深い仲であるかのように吹聴し、アイリスの心をかき乱す。 そんな中、幼馴染クリスが現れ、アイリスを庇い続ける。だがその優しさは、カルロスの嫉妬と誤解を一層深めていき……。 愛しているのに素直になれない夫と、彼を信じられない妻。三角関係が燃え上がる中、アイリスは自分の運命を書き換えるため、最後の選択を迫られる。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

「二年だけの公爵夫人~奪い合う愛と偽りの契約~」二年間の花嫁 パラレルワールド

柴田はつみ
恋愛
二年だけの契約結婚―― その相手は、幼い頃から密かに想い続けた公爵アラン。 だが、彼には将来を誓い合った相手がいる。 私はただの“かりそめの妻”にすぎず、期限が来れば静かに去る運命。 それでもいい。ただ、少しの間だけでも彼のそばにいたい――そう思っていた。 けれど、現実は甘くなかった。 社交界では意地悪な貴婦人たちが舞踏会やお茶会で私を嘲笑い、 アランを狙う身分の低い令嬢が巧妙な罠を仕掛けてくる。 さらに――アランが密かに想っていると噂される未亡人。 彼女はアランの親友の妻でありながら、彼を誘惑することをやめない。 優雅な微笑みの裏で仕掛けられる、巧みな誘惑作戦。 そしてもう一人。 血のつながらない義兄が、私を愛していると告げてきた。 その視線は、兄としてではなく、一人の男としての熱を帯びて――。 知らぬ間に始まった、アランと義兄による“奪い合い”。 だが誰も知らない。アランは、かつて街で私が貧しい子にパンを差し出す姿を見て、一目惚れしていたことを。 この結婚も、その出会いから始まった彼の策略だったことを。 愛と誤解、嫉妬と執着が交錯する二年間。 契約の終わりに待つのは別れか、それとも――。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

イシュタル
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

二度目の初恋は、穏やかな伯爵と

柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。 冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。

処理中です...