【R18】薬師の魔女は、愛する公爵の愛を信じられない【完結】

迷い人

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23.愛

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 その日の私は、王宮の一室で綺麗に洗われ並べられた石をぼんやりと眺めていた。 土壌の魔力は、植物に吸収され、大気へと発散される。 水中の魔力は、水の流れが弱ければ魔力を蓄え停滞するが、流れが強ければ流れ去る。 大気中の魔力は、空気溜まりには停滞し魔力が渦を巻くが、大抵は風に乗り流れていく。

 これらは、魔力収集の魔法を刻むのにふさわしくはない。

 長く魔術を維持するなら鉱石がいい。 変化を拒むから。 鉱石の中でも力を集め溜め込む性質を持つものでないと意味が無い。 5年前まで当たり前のようにあった魔力に触れた事の無い無属性の鉱石であればどんな魔法もその性質として固定できたのに……。

 この国の物質は魔力を帯び自己を獲得してしまった。 だから、もう、違う性質、属性を与える事は難しい。

「しんどい、疲れた」

 私は言う。

 レックス国の魔法士達が見ている中での、鉱石選びは精神的な疲労が酷い。 魔法情報をどこまで見せて良いか? 何百年も血縁のみに受け継ぎ、他者に隠し続けた付与技術の情報だと思えば、私1人の意志で情報を人に与えていいものなのかな? と、悩む……。

 魔法を使うだけなら楽なのに……。

 ソファに座っている私は、溜息をつきながらズルズルと背もたれから滑らせた。 腕で目を塞いで天井を見上げた。

「疲れた……」

「飲み物とオヤツを準備させましょう。 少しお休みになってはいかがですか?」

 ソファに座っている私の横に腰を落とし、膝を枕代わりに使うように動作で示す。

「屋敷に戻って普通に寝たいよ」

 王宮には色々な人がいて、ここにいる限り誰かが面会を求めてくる。 それも私にとって負担になっていた。

 下心、悪意、好奇心、嫌悪……様々な感情を向けられる。 今まで近寄ってくる人等が居なかったから、頭の中がぐらぐらする。 自分の感情を理解しきれない。

 窓の外から緊急事態を思わせるような騒々しさが聞こえる。

「何かあったの?」

「あったようですねぇ……。 まぁ、死人までは出さないでしょう。 お眠りなさい……」

 甘い声で囁きながら、殿下は手のひらで私の視界を塞いだ。





 ソレは不吉の象徴であるかのように王宮に現れた。

 黒いローブに身を包み顔まで隠していた男は王宮の門を守る騎士に制止され、ためらう事無くローブの中に隠していた、細身の短刀を抜き首筋に充てる。

「俺は今機嫌が悪い……」

 側に寄られれば、男の身は不潔と不吉を思わせる匂いがし、門番は刃を向けられた恐怖よりも、不快さに顔を顰めていた。

「ここは、ノッカラ国の国王が住まう地。 やすやすと通れると思うな!!」

「無様な姿を見せつけながらよく言う」

 馬鹿にする様子もなく淡々とただ事実のみを発せられた言葉と共に、門番は軽く捻られ宙を舞い地面に打ち付けられ、男は門をやすやすと突破した。 そうして彼は焦る様子もなく王宮の敷地をゆっくりと歩く。

 止めようとする者の勢いを短刀で止め、手首から先の力だけで軽く捻り大地に打ち付ける。 それだけで、電気に撃ち抜かれたように動けなくなるのだから、倒された方の精神面は傷の有無に関係なく追い詰められ、あげられる悲鳴、絶叫、救いを求める叫びは、恐怖を連鎖させていく。

 建物の入り口まで後3歩の処で、ようやく命令が出された。

 男を止めろ。 ではなく、玉座の間まで通せ。 男に触れるな。 と言うもの……。 王妃は美しい剣を陛下に渡した。 それは妙に儀式めいて美しい。

 鞘から剣を抜き、陛下は王妃に鞘を渡し、剣を振るう。 踏み込む足が大理石で作られた床を崩し、剣気が突風を巻き起こした陛下は子供の用に嬉しそうで、風になびく髪やマントが揺れる様子を王妃はうっとりと見つめていた。

 玉座の間の前には警備の者はいない。

 それでも男は、扉を開くのではなく扉を蹴り飛ばし侵入してきた。 一気に陛下の元まで走り込み、迎え撃つ男の剣を受け流す。 幾度かの打ち合いが繰り返されれば、それを受け流す陛下も、見ている王妃も、目的を理解し……王妃は叫んだ。

「陛下の顔に傷をつけてみなさい。 また、呪いをかけますよ!!」

「望むところだ」

 男の声はどこまでも真剣で、むしろ呪われる事が目的のようにすら感じてしまうほどだった。

 剣撃の合間に言葉が交わされだす。

「許可を得ず、あの子をヴァルナの婚約者にしたことは悪かったと思っている。 だが、それが最適だった。 そうしなければ国とあの子の両方を守る事が出来ない!!」

「……言い訳等必要がありません。 俺は腹が立っている。 ただ、それだけなんですから……この感情の憤りを受け止めるのは、あんたの役目だ」

「分かってる。 ところで、魔力脈に干渉した主犯はどうした。 連れてないが?」

「必要ないと言われたから、殺した……その主ごと」

「お前は……やりすぎと言う言葉を知らないのか?!」

 激しい剣撃と共にお互いが飛びのいた。 距離を取り呼吸を整える。 肉体的な動作ではなく2人は同じように魔力で肉体を強化していた。 陛下が横凪ぎに剣を振れば、小さな竜巻が発生し、それが男に向かって言って男のローブを切り裂いた。

 むさ苦しい髭面、ボサボサの長い髪、陰鬱とした瞳、イライラを露わにした口元。

「俺だと言う証拠等残していない。 それに、罪を問う者等残っていない」

 会話を得意としないディック・オークランス公爵は、命令を受ければ、結果報告をするときまで途中連絡はしない。 陛下の方から連絡してもソレを無視するのはディックの方で、リーリヤの婚約の件を伝えてなかったことの責任の全てが陛下側にあるとは言いきれない。

 今回、珍しく連絡したのは、連れ帰るべき敵が王宮仕えの魔法使いであったため連れ帰れば大きな問題となる。 追ってが出され、国同士の争いになるだろうと。 最初に手を出したのは向こうだと言い切るには、国力の差が大きかった。

 どうしようかとディックは悩み、判断に困り、陛下に連絡を取った。

 もう必要ないと聞き、同時にリーリヤの婚約を聞かされ、感情が限界を簡単に突破した。目の前の敵を殺しつくした……。 気の毒だったとしか言いようがないが、彼を招くことになった事自体が自業自得と考えられるかもしれない。

 それは愛か?
 そう問われれば、愛ではないだろう。

 ふざけるなと、殺された者の家族は怒るだろう。

 だけれど、彼は愛だと考えている。 そこに関連性が無い事に気づかずに、愛していたから起こした行動だと言う。

 そんな愛情を向けている事を、伝える訳にはいかない。 嫌われてしまう事をディックは恐れていた。

「酷い恰好だ」

「いつもの事だ……」

「それで、娘に会いに行くつもりか?」

 剣撃同士がぶつかり打消し、金属音が激しく響き2人は動きを止めた。

「俺を呪え……」

 呪われているうちは、あの子は……俺だけを見ていてくれるから……。
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