【R18】薬師の魔女は、愛する公爵の愛を信じられない【完結】

迷い人

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25.兄と弟 02

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 連れていかれた先は、花の匂いが香っていた。

 ソファには王太子殿下ヴァルナと、その膝を枕にするリーリヤ。 そして、2人分の紅茶を入れる侍女と、軽食を運んでくる侍女達。

「おかえりなさいませ。 叔父上。 今、疲れた婚約者を慰めている最中なので、このような恰好ですが、ご容赦ください」

「退け」

「そんな事をすれば、寝た子を起こしてしまいます。 慣れぬ仕事をさせているのですから、多少行儀悪くても許してさしあげるべきではありませんか? まったく叔父上は、自身は傍若無人でありながら、娘にはなかなか厳しいのですね。 知りませんでしたよ」

「べらべらと次から次に良くそれほど言葉が出てくるものだ。 とにかく、そこを退け」

「仕方がありませんね。 繊細な子です。 そっと入れ替わってくださいよ」

 ヴァルナはシーと人差し指を唇の前で立てながら言えば、ディックはただ睨みつけ、ヴァルナは苦笑する。 2人は気遣いながら入れ替わった者の、足の高さは変わっているし、枕の固さも変わった。 それでも目を覚まさない程度にはリーリヤは疲れていて。

 眉間を寄せて、その変化への苦情を訴えるように枕にしている太腿をポンポンと叩いた。

 ディックは顔を顰め。 ソファの後ろに立ちながら、侍女からお茶を受け取ったヴァルナは、声を潜めながらディックに告げる。

「頭を撫でてやってください」

「はぁ?」

「あぁ、優しく、乱暴にしてはダメですよ。 貴方と違って壊れやすい生き物なのですから」

「なんで俺が……」

「機嫌が良くなります」

「寝てるのに、機嫌?」

「寝ていてもですよ。 いえ、寝ているからこそ本能的と言えるかもしれません」

 べしべしと太腿を叩く手は、今度は何かを探しだす。

 ちょ、お前、何処に触れるつもりだと慌てて手を握り退かそうとすれば、満足そうに撫でろとディックの手を頭に持ってくる。

「……」

 柔らかな毛並みだと思った。 触り心地が良く、良い香りがすると……。 穏やかな雰囲気に飲み込まれそうになるのを耐え、ディックはヴァルナを睨む。

「お前は……いや、お前等は、この子で何をするつもりだ」

「……利用をしているのは自覚していますよ。 その危険性も……。 この国を救うためには、その膨大な利用価値を世間に見せつけてしまう。 だから今まで、力を借りる決意が出来なかった。 彼女を守り切る自信が無かったから。 ですが、このままでは国は滅びてしまいます。 完璧な形で彼女を保護しなければいけません。 私の婚約者としたのは苦肉の策ですよ。 ノッカラ国王家の力をもって、そしてもう少しすればレックス国も後見として名乗り上げてくれるでしょう。 レックス国国王陛下の孫の嫁としてね。」

「勝手な事をする。 この子は俺の、俺だけの子だ」

 この場合の『子』に対するディックとヴァルナの意味合いは違っていたが、会話はそのまま続けられた。

「だからと言って、貴方が常時護衛している訳にも行かないでしょう」

「なら、お前が俺に変わって戦場に出ればいい」

「私は叔父上ほど強くありませんからね。 その代わり喋るのも、優しくするのも、愛情を表現する事も得意です。 少し見ない間に随分と可愛くなったでしょう」

「ふん、余計な事を……コレは元から可愛らしい」

「呆れた……なら、もう少し世間体を気にしてやればどうですか。 リーリヤが世間からなんて呼ばれていたかご存じではないのですか?」

「物事の後先も考えられぬ奴等の軽薄な言葉に興味等ない……」

「貴方がそうだから、この子は娼婦の母に捨てられ、父親にはいらぬ子扱いされている惨めな子等と下げずまれていたんじゃないですか……」

「なんだソレは……リストにあげておけ」

 不愉快そうな顔をする。

「国を立て直そうと言う時に、人材を消耗させませんよ。 知性の低いロクデナシであっても、使いようはありますからね。 ですが、もし、王妃が貴族教育をしなければ、どうなっていたか……を、良く考えて下さい」

「別に、社交界に、嫌な奴等の前に出る必要等ない」

「貴方がそうだから……まぁ、いいです。 その適当な扱いだったからこそ、彼女は世間知らずのままで、世間と隔絶されたままで、魔法薬師であることを隠し通してくれたのですから……」

 ディックが髪を撫で続けていれば、撫でて欲しい場所はここだと、頬や首筋を次々手に押し当ててくる。

「……何を教えているんだ……お前は……」

「凄く、カワイイでしょう」

「……勝手な事を……」

 そう淡々と呟くディックの頬が赤く染まり、口元が緩んでいる様子を見て、王太子ヴァルナ殿下は声を潜めて笑っていた。
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