【R18】薬師の魔女は、愛する公爵の愛を信じられない【完結】

迷い人

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26.似た物不器用

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「コレは、いつまで寝ているんだ?」

 気恥ずかしさにヴァルナに聞いたディックだが、甘い菓子と爽やかな茶の香りに目を覚ましつつあったリーリヤは、叱られたと思い慌てて頭を上げ、ソファから飛びのくように立ち上がる。 ビックリしたときの猫のように。

「ひゃっ、ぇ、っと……」

 バランス悪く反動でグラリと揺れ倒れそうになれば、気合だけでディックとは逆方向に倒れようとリーリヤは踏ん張っていた。 ディックとヴァルナの2人が手を差しだすが、触るなと手で制してリーリヤはバランスを取った。

 セーフ!! そんな感じで、

「え、ぁ、だ……大丈夫です。 コホン」

 そして気を取り直し、立ちなおし、わずかにハニカミながら言うのだ。

「おかえりなさいませ。 公爵様」

 会えなくて寂しかったとか、どうしていたのか? とかは聞かない。 仕事だと言う事は聞いていたし、今はそれどころではない。 恰好悪いところを見せつけてしまったことにパニックになっていたから。

 な、なんで……いるの? いえ、帰ってくるなと言うのではなく、何故? 今? このタイミングでいたの? それも膝枕の膝が勝手に変わるなんて!?

 変わろうと言う意志もなく変われるものでもない。 そんな簡単な事も気づくことなく、パニックになっていた。 ぐるぐぐるぐぐるるとした脳裏を隠し平静を装っていた(できているかどうかは別)。

「あぁ」

 そして会話は止まる。

 何時もであれば、

『何か食べたいものはございませんか?』

 と聞いて料理長に伝え……ついでに薬を盛る準備をするため部屋に戻るのだけれど、流石で王宮でそんな事が出来る訳もなく立ち尽くしていた。 モジモジモジモジしていたがどうしようもなくヴァルナ殿下に視線を向ける。

 Q.私、普段どうやって接していた?!
 A.挨拶と業務連絡以外接していない。

 きゅ、救援求む。

 何しろ逃げ場がない、逃げる理由も思いつかない。 鬱陶しいとか、面倒臭いとか思っていたレックス国の魔法士だが、今なら幾らでも講義を続けてあげても良いと言う気になる。

「どうしたのですか? 貴方のために準備をしたケーキですよ。 座ってユックリとお食べになってはいかがです」

 チラリとディック視線の済で確認すれば視線はそらされていた。 特に干渉するつもりが無いと言う時の態度で、リーリヤはディックの視線に映らない場所を選び、座りなおした。 

 せめて寝ていてくれれば側にいるのも平気なのに、落ち着かない……。

「お茶を新しく入れ直しましょう。 ですが、そちらに座ってはケーキに手が届き難いのではありませんか?」

「へっ? ぇ、平気です……」

 私は立ち上がり小ぶりのチョコケーキ、フルーツタルト、チーズケーキを取り、自分が座る場所へと戻る。

 口を動かしている間は、会話をしなくていい……そういう逃げ道もあるが、流石にディック様を無視する訳にはいかない。

 王宮を出入りするようになって知ったのは、仕事から帰ってきたものを出迎える場合、皆がしていた会話を思い出し声をかけてみる事にした(出張から帰ってきた者達に対する会話である)

「今回の出張(?)は、何時もよりも長くて大変でしたね。 東方は、そのどうでした?」

 長い沈黙。

 コレ、ダメな奴? とヴァルナ殿下を見れば、笑うのを堪えていた。

 私、何か間違った?! と思えば、返された返事はこう。

「……何時もとやってることは変わらん。 東方……南方と比べて指揮系統がしっかりしていたな」

 返事があったのは良いけど……これ以上会話は思いつかないし、軍事関係の知識もないので、会話を放り出すことにした。

「公爵様、お食事は?」

「俺は甘い物は好かん」

 食べたと言っていないのだから、食べていないのだろうと、私は殿下へとお願いをするわけだ。

「殿下、その……公爵様のために何かお願いしても良いですか?」

「気にしなくても構いませんよ。 既に伝えてありますから。 だから、ユックリと味わって食べて下さいね」

 そう言ったヴァルナ殿下は、新しいお茶をディック様と、私の前に置き、彼自身はディック様の正面で私の横に腰を下ろした。

「なぜ、お前がそこに座る」

「叔父上の隣が、狭く感じるからですよ」

「……そうか……そうだな……」

「叔父上は、久々に帰って来てリーリヤに何か言う事は無いのですか?」

「何か……リーリヤは、いつも、こういう物を食べているのか?」

 淡々とした口調で言われれば、責められている気分になった。 何しろ公爵家では、甘い物を好まないディック様に合わせて甘い物が出される事はないし。 元々はそういう物を食べる身分になかったのだから注文するなどと言う事は無かった。

 オークランス公爵家では甘い物を食べる習慣どころか、準備される事がない。

 貴族令嬢が好む甘い物を始めて食べたのは、王妃様による勉強会の時だったから、それを自らのご褒美に考え嫌な勉強会に出ていたのもある。

「王宮でお茶をご馳走になるときには、良くいただいております……」

「リーリヤは、果物や木の実を使った菓子が好きですよね」

 ヴァルナ殿下が助け船を出してくれたのは良いが、私が食べるに食べられない状態まで助けようとしてかフォークで切ったケーキを口元に持ってくる訳で、ここ最近は普通にソレを受け入れていた訳だけれど、ディック様の目の前ですると言うのはどうなのだろうか?

「おや、食欲がないのですか? 体調は大丈夫ですか?」

 熱を測るためにヴァルナ殿下の手が私の額にあてられる。

 流石に用事もないのにディック様と同じ空間にいる事に戸惑っていると伝えては、偽装親子である事がバレかねない。 いや、今となっては私は殺される事は無いからだいじょう……ぁ、ダメだ……たかが、魔法薬師の娘が殿下の婚約者ってどうよ。 それこそ身分を偽った罪で……

 ガタガタ震えれば、

「ぇ? 医師を呼びましょうか?」

「平気です……」

 平気アピールとして差し出されたままだったケーキを食べた。 ケーキは美味しいけれど……ディック様の視線が痛い。

「ふぅ~ん。 こんな甘そうなもの……」

 なんか非難された気分になっていれば、違うと言う事が分かった。

 うわぁあああああ、何コレ、何もしていないのに追い詰められていく感じが半端ないんですけどぉ?!

「えぇ、甘く砂糖でコーティングした木の実が入ったケーキは好物ですよね」

 ヴァルナ殿下が言えば、ディック様はザクッとカットされた木の実のケーキをフォークで刺して、差し出してくる。

「……」

 ケーキは種類多く食べられるようにと小さめにカットされているが、一切れを一口で食べるのはなかなか辛い。 あと、距離が……。

 ケーキを食べるのに室内を歩き回ると言うのは余りよろしくは無いですが、立ち上がって身を乗り出しケーキにかぶりつく。 まぁ、流石に1口では無理だけど……。

「えっと、甘い物を食べるのが不快と言う事はないんですか?」

「いや……。 別に……それより、座って食べればどうだ?」

 無茶ぶり!?

「叔父上の言葉を訳すと、横に来るようにと言っているのではないでしょうか?」

「あぁ、なるほど……そういう……」

 ソレはソレで行儀が悪いような……。

「早くしろ」

「ぁ、はいはい」

 ソファの端に座ろうとすれば、腕を取り寄せられた。

「食べさせ難い」

 あぐあぐと必死に食べれば、頭が撫でられ……私はギョッとディック様を見る。

 何事?!

「こうされるのが好きなのかと……」

 もぐもぐもぐ食べている最中の私は、膝の上に乗せられ、撫で転がされた。 何が、どうして、こうなっている?! ヴァルナ殿下に助けを求めようと視線を向ければ、声を殺して笑われていた。
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