10000ゼニーで売られた伯爵令嬢、ネズミ騎士をお供に伯爵家に戻る

迷い人

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03.退屈でツマラナく面倒臭いけれど、有意義な私の日々

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 魔術師の塔。
 そこが私の勤務先であり、私の家。
 私が売られた先であり、私を買った場所。
 魔術を学ぶ場所であり、研究する場所、そこでの私の専門は付与術。

 魔術という存在に関わった時、大抵の人間は攻撃系の魔術を好み覚えます。 どのような基礎魔術も、攻撃に繋がると言う意味では、初歩学習として間違いはなく、人に魔術師の偉大さを伝えるにも最も大きな効果を持つものでしょう。

 塔にいるものの大半は、スラム出身か、親に売られた者で、多くのものが破壊を選ぶ中、私のように非破壊的な魔術や、薬作りを選ぶ者や、趣味に走った研究を行う者も決して少なくはありません。 ただ、これは破壊よりも覚えることも多く、魔力コントロールも難しいため、面倒な道ではあります。

 どう生きるか?

 好み、いえ趣味の問題と言えるでしょう。

 それでも、私が成人を向けた頃には、その趣味ともいえる魔術は、少しずつではありませんが人々に受け入れられています。 まぁ、魔術師は凶悪で破壊的な化け物ばかりではない……となるには、まだ少しばかり時間が必要でしょうけど……。



 私は、魔術師の印象を変えるべく、毎日退屈でツマラナイ割に面倒臭い生活魔法を付与し続けるのが仕事です。 繰り返し、繰り返し、地味な作業です。 ですが、塔の資金を確実な方法で生み出し、魔術師を道具としてしか見ないような貴族の出資を断るまでに至っているのですから、我ながら大したものではないでしょうか?

「あら、良い匂いね。 フィーア。 私にもいただけるかしら?」

 コーヒーを淹れている私の研究室にノックと共に1人の女性が現れました。

「オーサ様、おはようございます。 早朝からこのような場所に来るなど、どうなされたのですか?」

「コーヒーの匂いがしたから、起きていると思ったのよ」

「私は、パンを焼きますが、オーサ様もご一緒にどうですか?」

「いただけますか?」

 硬い黒パンを薄く切って焼き、焼いたチーズと魔術貯蔵庫においてあるトマトを輪切りにしてのせ、自分とオーサの前にコーヒーと共に置く。

「ありがとう」

 オーサはコーヒーに口をつけそして、言葉を続けた。

「フィーア。 アナタのご実家が、アナタに戻って来るようにと訴えてきました。 公爵家当主と婚約関係にあるアナタの姉君が、病気になられたそうです」

 あえてココで婚約者と言う存在を出すあたり、あの夢は何かの符号でしょうか?

 オーサは、この塔の管理者の1人、白く長い髪をした年配の女性。 見た目こそ若いが、塔の開設から126年だから、それ以上の年齢であることは確かだ。

「私とあの家の縁は10000ゼニーの金銭取引によって終了しているはずなのではありませんか? 今更……実家と言われましても困ります。 伯爵家令嬢の病を治せと言うなら、私も仕事として誠意的に向かわせて頂きます。 ですが……伯爵家にとって私は疫病神、近寄る事すら拒絶するのではありませんか?」

 付与魔術には、回復の付与、治療薬の魔力増強などの効果もあり、病気の種類によっては、通常の医師よりもずっと強い医療効果を持つ場合があるのです。

「いいえ……姉の代わりに公爵家に嫁いで欲しいと考えて居るようです」

「まさか、馬鹿げています。 私には無理です」

 淡々と感情のこもらない声で私は言った。

「えぇ、そうね……でも、ようやく、婚約に取り付けた相手、この機会を無駄にはしたくないと、ご当主は考えておいでなのでしょう」

 オーサの感情を表す魔力の音色は、困惑と不安。 それでもオーサの声は、深みがあり、何処までも落ち着いており、それが行き過ぎて落ち込み沈んでいるようにすら感じ、私は無意識で深い息をついておりました。
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