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04.2つの依頼

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 私の父であるノルダン伯爵は、5歳の時に私を塔に売り払った10000ゼニーで。 伯爵家にとってはグラス1個分にもならない価格です。 それでもあえて価格を設けたのは、私の所在をより明確にするためである。

 伯爵側から言えば、

『伯爵様の行方不明になった娘を見つけ出し返しにまいりました。 大切な令嬢をお連れしたのですから当然相応の謝礼はありますよね?』

 まぁ、極端な話、このように私を返品された挙句、公の場で伯爵が娘を売り払ったと言う醜態で脅し、莫大な金銭を要求されることを避けたのだろうと今なら思いつきます。

 魔術師の塔側から言えば、

『娘は行方不明になっただけ、ソレを届けでもせずに不浄なる魔術を教え込むとは何ということをしてくれるんだ!! 賠償金を支払え』

 こう言われる事を避けるためです。

 これは、今でも繰り返されている契約であり、もはや儀式のようなものです。 自分が安く売り払った子が大金を生み出す可能性があると考えれば、だれだって連れ戻したいと思うものでしょう。



「本来であれば、アナタのためにもお断りするべきでしょう。 ですが、今回は断れない筋、公爵家からの依頼でもあり、その話を是非受けて欲しいとのことでした」

 魔術研究は金がかかる。 それでも、有象無象から出資を得ていた昔とは違い、今の魔術師の塔は一定の収入があり、出資者を選ぶ権利は得ている。 逆を言えば断れない筋からの依頼と言われれば、絶対的な命令であると言うこと……。

「分かりました」

 売られた恨みもないが、家族に必要とされる喜びもない。 むしろ、売ってくれてありがとうとしか今では思っていない。

「そう、泣きそうな顔をしないで」

「私、そんな顔をしていましたか?」

 オーサは、塔に貰われて来た子供達の教師であり母でもある。

 オーサは私の頬に触れ撫でる。 少し冷たいが滑らかな手は心地よく、私はこの手が好きで目を閉じそっと身を預ける。

「義母様、私の母はアナタだけです」

「嬉しいわ。 でも、仕事中は、本音は隠すのよ」

 クスクスとくすぐったそうに笑うオーサの心の声、魔力の音色は、私を愛おしいのだと告げている。

 オーサ、私の義母様、大好き。

「本当は、嫌でしたのよ……。 魔術師を必要としていると言うのなら、もっと器用な子を提案できるのだけど、相手の要求は娘であるアナタを返して欲しいだから」

「なるべく早く任務を済ませ義母様の元に戻ってきますので、ご心配なさらないでください」

 本当は微笑みたいけれど、余り上手くそれが出来ない私は、静かに頭を下げた。 

「当然よ。 だけど、これをきっかけに良い人が出来たなら、それも素敵だと思うわ」

 それは姉の代わりの婚約、婚姻が上手くいった場合を指しているのでしょうか? 私は小さく首を横に振った。

「私は、致命的に社交性がありませんから」

 淡々と言えば、オーサは困った様子で笑っていた。 魔力の音は、心配、不安……そして、僅かの期待。 その期待の音に私は恥ずかしさと言うものを感じ作業に戻ろうとすれば、オーサは余計な一言を呟いた。

「照れ隠しと言う奴かしら?」

「それは、限りなく遠い言葉だと思いますよ……」
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