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11.私は既に彼に好意を抱き始めている。

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「さっきも言ったが、言いたい事があるなら言ってくれ。 どうにも尻尾がムズムズしてくる」

「ごめんなさい。 いえ、アナタの言う通りだわって思っただけよ。 私よりも余程アナタの方が人間的ね」

「それは、誉め言葉なのかな?」

「どうかしら? もし、アナタが人間だったら、私はこれほど親しみを感じなかったと思うの。 だから、人間的を誉め言葉につかっていいのか、難しい質問ね」

「なぜ、そんなに悲しそうにする。 寂しいなら、友達を作ればいいだろう」

「友達……魔術師仲間はいるわよ。 同じ目標を持ち、価値観も同じ、塔は私にとってとても居心地の良い場所ですよ」

「でも、少し、普通の生活も憧れている?」

「意地悪だわ」

「申し訳ない。 少し意地悪を言って、君との距離を縮めようと言う幼稚的な手段をとってしまった」

 そう言いながらネズミは笑い、そしてそのままネズミは私にたずねてきた。

「呆れて……違うな、驚いている? 不思議に思っている」

 その質問すら、私にとっては不思議で驚きだった。

「私、そんなに表情が豊かな方じゃないはずですが?」

「まぁ、そうだな。 でも、相手を知る方法はある。 というか、君の特性は聞いている。 そして、君はその力を疎んでいつつも、その力に頼っていると。 だがまぁ、俺も同じ事ができるということだ」

 私は、未だかなり豪華で自分よりも大きなサンドイッチ2個目にチャレンジしているネズミを、サンドイッチごと手のひらの上に乗せ目線を合わせた。

「なんだい?」

「なぜ、同じ事ができるの?」

「気になるかい?」

「そりゃぁ……」

 ソレを当たり前のようにできる人がいるなら、私は力を汚点だと思うことも、ずるをしているとも考える必要がなくなる訳だから。

「理屈は簡単だ。 まぁ、実行するのは難しいけどな。 フィーアは、驚いたとき、息を吐くか?」

 言われた事が分からなくて息を吐いてみた。

「安堵した時、息を大きく吸うか?」

「確かに、吐かないし、安堵したくて息は吸うけど、安堵した時に大きく吸うと言う行動は余りしないわ」

「まぁ、今のは分かりやすい例だな。 そんな感じに大抵の人は、行動に共通した癖を持つんだよ。 他には有名なところで瞬きの回数だな。 余程病気でもない限り、そこに大きな違いが出ることはない。 だから、人の嘘を見破る時に使える」

「……凄いわ。 ぁ……」

 ねずみは少し笑った。

「どうした? 甘えたいと言われているような気がするんだが? 一口食べるかい?」

「そんなに、分厚い肉入りのサンドイッチは、私には難しいわ。 大口を開けるのは自室で一人の時だけに決めているの」

 むしろどうやって、小さなネズミが食べているのか疑問でしかないが、そこは深く考えるところではきっとないはずだ。

「そんなこと気にしなくていいさ。 何しろ俺はネズミだからな。 それで、俺に何か要求があるように思えるんだが?」

「そう、ネズミだけが、私の名を知っているのはズルイと思うの。 だから、名前を教えて」

「そうだな。 ルークとかがいいな」

「本名は?」

「仕事が終わったら、今は秘密だ」

 小さな指を立てて口元にあてる姿は妙に可愛らしかった。

「触っていい?」

「んっ? 何だ、俺の色香に迷ったか?」

「ネズミの色気にトキメキを覚える境地に辿り着くには、私はまだ若いと思うの」

「なるほどな」

 ネズミはくっくくくと笑う。 ネズミなのに雄弁に語るその存在は、魔力の音が聞こえないにも関わらず、表情が見えないにも関わらず、自分を多弁に伝えてきて、とても不思議な存在だった。

 私は結局、本人の許可なくその体を撫でる。 その体は柔らかく、毛並みは、ふわふわと温かくすらあった。
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