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12.少女に依存しなければならないほど、困っているのでしょうか?

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 私達は沢山話をした。

 好きな食べ物や音楽。 ネズミではなく、ルークは王都の流行を色々教えてくれた。

「興味があるなら仕事の合間に行こう」

 そう誘ってくれる。 そんな仕事とは関係のない良く分からない適当な会話を沢山して夜になり、伯爵家から迎えが訪れた。 挨拶もなく、早く馬車に乗るようにと促され……何の期待もしていないのに傷ついたような気になってしまった。

 私のストレートの黒髪と首の間に隠れているネズミが、小さな手で首筋に触れてきた。 濡れた鼻先が首筋に当たれば冷たかった。

「何も緊張しなくていい、俺がいる」

 耳元で語られる小さな声に耳がくすぐったく、私は文句の1つでも言おうとしたけれど、上手く声が出せず、何を言っていいのか分からず、結局頷くだけで終わってしまう。

 そうしているうちに私は、裏の業者用の出入り口から、急かされるように屋敷へと促されました。

「お帰りなさいませ」

 私と余り年の変わらない少女が言った。 美しいドレスを着ているところを見れば、使用人と言う訳ではないでしょう。

「コチラでお婆様がお待ちです」

 廊下を歩けば、昔と比べてズイブンと天井が低く、薄暗く見えますが、私がそれだけ大人になったから……と、言うだけというには静かすぎます。 人の……魔力の気配はするので、人がいない訳ではなく、距離を置かれているだけでしょう。

 応接室に入ると同時にイライラとした声がかけられました。 ですが、それは私が記憶している声と比べとても力のないものです。

「姉のフリーダが大変な目にあっているのに、アナタは顔を出そうともしない。 なんて、薄情な子でしょう」

 顔を見るなりそう、ブツブツと言ってきたのは父……の母。 私から見れば祖母にあたる女性。 彼女は昔から私に対してだけでなく、全てのものに文句ばかりで、心の色は常に寂しいと叫んでいるような人で、口は悪いが私に特別悪意がある訳ではありません。

 今も祖母の心は、強く不安の音色を奏でていました。

「お姉様、ソファにお座りくださいませ。 お茶をお入れしますわ」

 知らない女の子が、あどけない様で声をかけてきます。

 お姉様と私を呼ぶのは、単純に私の方が年上だからなのか? それとも、彼女が私の血の繋がった妹だからなのか? 魔力の色と言うものは、魔力の血統や属性を意味し、詳しく調べれば親子関係すら明確にすることができます。

 魔力適正の高い……魔力的な視力が高い私ではありますが、彼女の魔力は余りにも細く判別できませんでした。 そして、感情の音色もまた一切読むことはできません。

 この力を疎ましく感じた事はありますが、不安になった事は初めてでした。

 ですが、魔力がほぼないからこそ、彼女の顔立ちは良く認識できます。 とても愛らしい方です。 年は16.7で、私より1つか2つ年下ぐらい。 金色の美しい巻き髪、白い肌、ピンクの頬、薄い空色の瞳ははかなげな印象を周囲に与える事でしょう。 道でスリ違えば大抵の者は彼女の姿をもう一度みようと振り返るのではないでしょうか?

「エミリーさん、お茶は結構です」

「ですが、お婆様、お姉様がわざわざ来てくださっておりますのよ?」

 記憶にない少女ですが、これまでも会話から察するに父の愛人の子供であることは確かでしょう。

「御無沙汰(しております)」

「アナタは、喋らないで!!」

 祖母は、やせ細り、実際の年齢以上に老いた姿で、甲高く叫んだ。

 私は小さく息をつき、フードを深くかぶりなおし視線を伏せました。 私を出迎えたのが、妹と祖母のみというのは、この家の窮状を現していると言えるでしょう。

「エミリーさん、彼女をフリーダさんの所まで案内して頂戴」

「はい、お婆様」

 私にとって、魔力はあって当然のもの。 それが、集中しなければ認識できないと言うのは、突然に目や耳を塞がれたような気がして気持ちが悪い。 ですが、これはとても良い経験のように思えました。 世間が私を見る時の気持ちがこんな感じなのでしょう。 そう思えば、許容しやすくもあるというものです。

 妹だと言う彼女エミリーは、一人で賑やかに話をしています。

「ずっと、お姉様とはお会いしたいと思っておりましたのよ」

 こう言う言葉は大抵、嘘なのだけど、心の音が聞こえない分、ただ高音で嬉しそうにはしゃいでいる声だけが耳に聞こえれば……単純ではありますが、言葉通りに意味を受け取りそうになるものです。

『この娘には、いや……この屋敷では気を許してはいけない』

 そう、髪の間に隠れ、フードで隠されたネズミが緊張した様子で言ってきました。

『分かっていますわ』

 もともと、自分を売り払った家なのですから……。

 因みに、私とルークの間には魔術的な処置を行い、お互いに伝えたいことは言葉にせずとも伝わるようにしてあるのです。 少しばかり奇妙な魔力でしたが、訓練をすれば彼は……彼は良い魔術師になるでしょう。

 姉の部屋は、今も記憶していた場所と同じでした。

 扉の前には少しばかり疲れ切った侍女が2人、番人のように立っています。

「お姉様の様子はいかがですか?」

 そう告げるエミリーに、向ける侍女達の思いは依存……でしょうか? それは教えられた状況を考えれば不思議だなと思った訳です。
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