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13.無力な自分にうつむき誤魔化すことしかできませんでした
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私の感じた侍女達の依存心は、主と使用人を明らかに超えていました。
ですが、それはオカシいのではありませんか?
確かに、両親の破局を造ったのは私です。 ですが、元をただせば、父が母に頼り切ったあげく、嫉妬し、他の女性を愛したことが原因です。 もう少し悪く言えば……道理を捻じ曲げるような誘惑がそこにあったのではないでしょうか。
なら、今の伯爵家の不幸は父であり、父の愛人であり、そして愛らしい子供がトドメと言えます。 父が、兄が、姉が、2人を愛し、使用人が彼女に頼り心を寄せるというのは、道理にあいません。
母が、立派過ぎたのが悪い。
私が、嘘をついたのが悪い。
そんな事が通るのでしょうか?
あぁ、ダメですわ……心が乱れてしまいます。
やはり、戻りたくなど無かった。
私は改めて、エミリーと呼ばれた少女へ視線を向けました。
「どうなさいましたの? フィーア姉様。 中にお入りになってフリーダ姉様を見舞って頂けませんか?」
言われて、考えごとに沈んでいた事に反省した。
「ごめんなさい。 私がここに来たことで、フリーダ様のお心を乱すかと思えばなかなか決意がつきませんでしたの」
我ながら良い言い訳に思えた。
「フリーダお姉様は、ずっとフィーアお姉様に会いたがっておりましたわ」
そうエミリーは美しく可憐に微笑むが、扉の横に立つ侍女2人の困惑、緊張、恐怖が伝わってくれば、あぁ目の前の少女は嘘つきなのだと確信した。
「そうであれば、嬉しいのですが」
私は、視線を伏せたままで言う。
私が部屋に入れないのには、姉の部屋であること、考えごとをしていたため、それだけではなく眠りを促す魔力香が焚かれていることが原因です。 それも、魔力が高い者ほど大きな影響を与える類のものであり、何の警戒もなく中に進めば3歩後には昏睡してしまうでしょう。
私は解毒魔法をそっと隠れて自分とルークに施し、口元をローブの袖崎で押さえながら足を勧めました。 そもそも煙たいので、これは普通の行為と言えるでしょう。
「フィーアお姉様、コチラへ」
香を焚いている、フリーダの枕元に椅子が置かれ招かれ私はためらいがちに椅子に座りました。
「ありがとうございます」
そして、あらためて眠ったままのフリーダに語りはじめます。
「御無沙汰しております。 フリーダ様……最後にお会いしてから十年以上……アナタほどの方であれば、誰よりも幸せな人生を歩んでいるだろう。 そう考えておりました」
元々、私もフリーダも、兄のフレッグも、黒色のストレート髪、深い紫色の瞳、白い肌と父の色を引き継いでいました。 この国では大抵は男親の色彩を持って生まれるものなのです。 その父譲りの黒い髪は艶を失うだけでなく、白に近い灰色に変わり、白い肌は枯れた土のような色をし、ピンク色だった唇は、焦げた木のようになっています。
「フリーダ様、なぜ、このような……」
「フリーダお姉様は、フィーアお姉様にとった態度を常に悔いておいででした。 それは心が病む程に後悔しておいででした。 その後悔を紛らわすために、お姉様は心を軽くするための薬に手をお出しになったのです」
「いえ、なぜ、このように眠らせているのですか? と、お伺いしたかったのです」
「へっ?」
頓狂な声をエミリーがだし、息を吸い大きな目を一層おおきくし、視線を揺らしたのです。 その感情はどのような意味を持つか分かりませんが、動揺したことだけは確かと言えるでしょう。 私にもそれぐらいはわかります。
「眠らせている理由ですか?」
「えぇ……姉であれば、薬を抜けるまで我慢できるはずです。 我慢できずとも、自らの後悔を刻むために我慢するべきでしょう」
部屋の眠りを促す魔力香の匂いがきつすぎて、姉が摂取していた薬の匂いが分かりません。 姉を悼むように手を握り、その手をさするようにすれば、眠っていても弱弱しく握り返してきます。
胸がモヤモヤするのは何故でしょう?
「それは……とても、苦しまれるからです」
エミリーの言葉に視線を上げることなく、質問を続けます。
「では、食事はどのように?」
「栄養価の高い水を、一日に何度も……」
「そう、ですか……。 ずいぶんと苦労なさったのですね。 姉の事は私に任せ、少しお休みになってはいかがですか? 美しい顔に疲れが見えておりますわ」
スラスラと語る余り女性らしくないセリフは、ルークからそう言うようにと指示をしたからでした。 もし、私が普通なら微笑みを向け相手の苦労を悼む事ができたのでしょうが……不甲斐ないことに顔を隠す事しかできませんでした。
ですが、それはオカシいのではありませんか?
確かに、両親の破局を造ったのは私です。 ですが、元をただせば、父が母に頼り切ったあげく、嫉妬し、他の女性を愛したことが原因です。 もう少し悪く言えば……道理を捻じ曲げるような誘惑がそこにあったのではないでしょうか。
なら、今の伯爵家の不幸は父であり、父の愛人であり、そして愛らしい子供がトドメと言えます。 父が、兄が、姉が、2人を愛し、使用人が彼女に頼り心を寄せるというのは、道理にあいません。
母が、立派過ぎたのが悪い。
私が、嘘をついたのが悪い。
そんな事が通るのでしょうか?
あぁ、ダメですわ……心が乱れてしまいます。
やはり、戻りたくなど無かった。
私は改めて、エミリーと呼ばれた少女へ視線を向けました。
「どうなさいましたの? フィーア姉様。 中にお入りになってフリーダ姉様を見舞って頂けませんか?」
言われて、考えごとに沈んでいた事に反省した。
「ごめんなさい。 私がここに来たことで、フリーダ様のお心を乱すかと思えばなかなか決意がつきませんでしたの」
我ながら良い言い訳に思えた。
「フリーダお姉様は、ずっとフィーアお姉様に会いたがっておりましたわ」
そうエミリーは美しく可憐に微笑むが、扉の横に立つ侍女2人の困惑、緊張、恐怖が伝わってくれば、あぁ目の前の少女は嘘つきなのだと確信した。
「そうであれば、嬉しいのですが」
私は、視線を伏せたままで言う。
私が部屋に入れないのには、姉の部屋であること、考えごとをしていたため、それだけではなく眠りを促す魔力香が焚かれていることが原因です。 それも、魔力が高い者ほど大きな影響を与える類のものであり、何の警戒もなく中に進めば3歩後には昏睡してしまうでしょう。
私は解毒魔法をそっと隠れて自分とルークに施し、口元をローブの袖崎で押さえながら足を勧めました。 そもそも煙たいので、これは普通の行為と言えるでしょう。
「フィーアお姉様、コチラへ」
香を焚いている、フリーダの枕元に椅子が置かれ招かれ私はためらいがちに椅子に座りました。
「ありがとうございます」
そして、あらためて眠ったままのフリーダに語りはじめます。
「御無沙汰しております。 フリーダ様……最後にお会いしてから十年以上……アナタほどの方であれば、誰よりも幸せな人生を歩んでいるだろう。 そう考えておりました」
元々、私もフリーダも、兄のフレッグも、黒色のストレート髪、深い紫色の瞳、白い肌と父の色を引き継いでいました。 この国では大抵は男親の色彩を持って生まれるものなのです。 その父譲りの黒い髪は艶を失うだけでなく、白に近い灰色に変わり、白い肌は枯れた土のような色をし、ピンク色だった唇は、焦げた木のようになっています。
「フリーダ様、なぜ、このような……」
「フリーダお姉様は、フィーアお姉様にとった態度を常に悔いておいででした。 それは心が病む程に後悔しておいででした。 その後悔を紛らわすために、お姉様は心を軽くするための薬に手をお出しになったのです」
「いえ、なぜ、このように眠らせているのですか? と、お伺いしたかったのです」
「へっ?」
頓狂な声をエミリーがだし、息を吸い大きな目を一層おおきくし、視線を揺らしたのです。 その感情はどのような意味を持つか分かりませんが、動揺したことだけは確かと言えるでしょう。 私にもそれぐらいはわかります。
「眠らせている理由ですか?」
「えぇ……姉であれば、薬を抜けるまで我慢できるはずです。 我慢できずとも、自らの後悔を刻むために我慢するべきでしょう」
部屋の眠りを促す魔力香の匂いがきつすぎて、姉が摂取していた薬の匂いが分かりません。 姉を悼むように手を握り、その手をさするようにすれば、眠っていても弱弱しく握り返してきます。
胸がモヤモヤするのは何故でしょう?
「それは……とても、苦しまれるからです」
エミリーの言葉に視線を上げることなく、質問を続けます。
「では、食事はどのように?」
「栄養価の高い水を、一日に何度も……」
「そう、ですか……。 ずいぶんと苦労なさったのですね。 姉の事は私に任せ、少しお休みになってはいかがですか? 美しい顔に疲れが見えておりますわ」
スラスラと語る余り女性らしくないセリフは、ルークからそう言うようにと指示をしたからでした。 もし、私が普通なら微笑みを向け相手の苦労を悼む事ができたのでしょうが……不甲斐ないことに顔を隠す事しかできませんでした。
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