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20.犯人はここにいる!! そう、私です。
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夕刻過ぎ……。
屋敷内に浮かばれぬ死霊のうめき声のようなものが響き渡り始めます。 それは1つ1つは小さい声なのですが、何しろ数が多く、大量の呻き声となっているのでしょう。
やがて、甲高い声が命令を下します。
「医師を、医師を呼んできなさい!!」
屋敷を仕切っているエミリーの声のようです。
呻き、様々な体液を駄々洩れにし転がる者達が、本来医師を呼びにいくはずの使用人達なのですから、なかなか状況は改善せず、這いずり回るナメクジのような使用人達の姿、悪臭、それにエミリーは溜まらず逃げ出してしまったようです。 叫び声、怒鳴り声、うめき声、現実の音と、使用人達の苦痛を訴える魔力の音で、状況は大まかながら理解できます。
『……何をした?』
部屋でお茶を飲む私に問うルーク。
『彼女達が私のために準備をした食事を、彼女達に御返ししただけですわ』
使用人達の食事は、パン、残りものの煮込みスープ、チーズが定番です。 スープで栄養の大半を取るために、その日の残り野菜、肉、等が入れられ、味の調整が行われるのですが、素材的には主たちと同じもの。 なので、そのスープに薬入りの食材を返させて頂いたのです。
味見をしていた料理人達が最も早く症状を発症させておりましたが、少量であったため、なんとなくお腹が痛いなと感じた程度で、体調が悪いようなので早めに休ませて頂きますと、部屋に戻ったようでした。
『容赦ないな』
『自業自得と言うものです。 それでも私1人に盛った薬を薄めて、大勢で接種しているのですから、殺そうとしていた薬であっても、命には別条はないはずですよ』
多分……ですけど……。
やがて、エミリーの
「誰か無事な者はいないの?!」
そんな声に、日ごろ家の者達の前に顔を出さない食事も満足に与えられない使用人達が現れ、医師を呼びだしに行ったようでした。 そんな相手では医師もわざわざ出向いてまで診療に来るのには躊躇うでしょう。 何しろ医師も慈善事業ではないのですから。 それでも深夜には何とか医師を連れてきたのですから、褒めてさしあげたいほどです。
医師もノルダン伯爵家と知り、不満、不快、軽度の怒りを奏でています。
各領地には、領民のために医師を確保する領主も存在しますが、王都の医師の大半は王族・貴族のための存在です。 十分な金銭を期待できない、反逆者の疑いのある今のノルダン伯爵家の命令では、使用人を治療しようなどとは思えないでしょう。
それでも、私は医師の元に出向きました。
「御無沙汰しております。 先生」
私が声をかければ、頭をさげて軽く挨拶を行う。
「やあやあご無沙汰しております。 アナタが塔から出ているなんて珍しい。 それに、アナタがいるなら、私など必要ないのではありませんか? これはどういうことなのですかね?」
私は魔術師の塔に売られた時点で、伯爵家とは本来縁のないものになっており、フィーアと言う名前以外を名乗った事はありません。 医師からは多少の好奇心が見え隠れしておりました。 何しろ病気がなければ医師は金にならないのですから、医師の中には情報屋を兼任する者も多いのですよ。
「そういうものではございませんわ。 だって、犯人は私なのですから」
「それは、余計に治療をするわけにはいかないというものですな」
「お姉様!! 何をお考えになっておいでなのですか!!」
「だって、日増しにアヤシイ食材が溜まっていくのですもの。 ずっと保管しておくわけにもいきませんし、お返ししたまでですわ。 解毒剤があるならお使いになればよろしいですし、むしろ私1人に盛った薬がズイブンと薄まっているのですから、そのうち収まるでしょう?」
「なるほど……魔術医の資格も持つあなたに喧嘩を売るとは、物を知らないというのは、何とも哀れですな。 あははっはははははは」
そう医師が笑えば、エミリーは走って使用人達の元へと向かっていった。 優しい子なのか、それとも薬を盛るように言ったのが彼女なのか……。
その答えは、ルークに様子を見に行ってもらわずともわかった。
「なんて馬鹿な事をなさいましたの!!」
何しろ、べしばしどすっ等と言う暴力に等しい音と共に、怒鳴り声が響いてきたのですから。 体液駄々流れる中にとどめを刺しに行くなど……存外愛情の深い子なのかもしれない……そう思ったりもした訳です。 まぁ、それはともかく、
「先生、診て頂きたい人がいるのですが」
「では、対価は身体でお願いできますか?」
なんて年の頃は30と少し、そこそこ顔の整った王都でも有名な医師が言えば、今まで傍観を決め込んでいたルークが叫びだした。
『フィーア!! 浮気はダメだからな!!』
『何を言っているんですか。 魔術医としての労働ですよ』
屋敷内に浮かばれぬ死霊のうめき声のようなものが響き渡り始めます。 それは1つ1つは小さい声なのですが、何しろ数が多く、大量の呻き声となっているのでしょう。
やがて、甲高い声が命令を下します。
「医師を、医師を呼んできなさい!!」
屋敷を仕切っているエミリーの声のようです。
呻き、様々な体液を駄々洩れにし転がる者達が、本来医師を呼びにいくはずの使用人達なのですから、なかなか状況は改善せず、這いずり回るナメクジのような使用人達の姿、悪臭、それにエミリーは溜まらず逃げ出してしまったようです。 叫び声、怒鳴り声、うめき声、現実の音と、使用人達の苦痛を訴える魔力の音で、状況は大まかながら理解できます。
『……何をした?』
部屋でお茶を飲む私に問うルーク。
『彼女達が私のために準備をした食事を、彼女達に御返ししただけですわ』
使用人達の食事は、パン、残りものの煮込みスープ、チーズが定番です。 スープで栄養の大半を取るために、その日の残り野菜、肉、等が入れられ、味の調整が行われるのですが、素材的には主たちと同じもの。 なので、そのスープに薬入りの食材を返させて頂いたのです。
味見をしていた料理人達が最も早く症状を発症させておりましたが、少量であったため、なんとなくお腹が痛いなと感じた程度で、体調が悪いようなので早めに休ませて頂きますと、部屋に戻ったようでした。
『容赦ないな』
『自業自得と言うものです。 それでも私1人に盛った薬を薄めて、大勢で接種しているのですから、殺そうとしていた薬であっても、命には別条はないはずですよ』
多分……ですけど……。
やがて、エミリーの
「誰か無事な者はいないの?!」
そんな声に、日ごろ家の者達の前に顔を出さない食事も満足に与えられない使用人達が現れ、医師を呼びだしに行ったようでした。 そんな相手では医師もわざわざ出向いてまで診療に来るのには躊躇うでしょう。 何しろ医師も慈善事業ではないのですから。 それでも深夜には何とか医師を連れてきたのですから、褒めてさしあげたいほどです。
医師もノルダン伯爵家と知り、不満、不快、軽度の怒りを奏でています。
各領地には、領民のために医師を確保する領主も存在しますが、王都の医師の大半は王族・貴族のための存在です。 十分な金銭を期待できない、反逆者の疑いのある今のノルダン伯爵家の命令では、使用人を治療しようなどとは思えないでしょう。
それでも、私は医師の元に出向きました。
「御無沙汰しております。 先生」
私が声をかければ、頭をさげて軽く挨拶を行う。
「やあやあご無沙汰しております。 アナタが塔から出ているなんて珍しい。 それに、アナタがいるなら、私など必要ないのではありませんか? これはどういうことなのですかね?」
私は魔術師の塔に売られた時点で、伯爵家とは本来縁のないものになっており、フィーアと言う名前以外を名乗った事はありません。 医師からは多少の好奇心が見え隠れしておりました。 何しろ病気がなければ医師は金にならないのですから、医師の中には情報屋を兼任する者も多いのですよ。
「そういうものではございませんわ。 だって、犯人は私なのですから」
「それは、余計に治療をするわけにはいかないというものですな」
「お姉様!! 何をお考えになっておいでなのですか!!」
「だって、日増しにアヤシイ食材が溜まっていくのですもの。 ずっと保管しておくわけにもいきませんし、お返ししたまでですわ。 解毒剤があるならお使いになればよろしいですし、むしろ私1人に盛った薬がズイブンと薄まっているのですから、そのうち収まるでしょう?」
「なるほど……魔術医の資格も持つあなたに喧嘩を売るとは、物を知らないというのは、何とも哀れですな。 あははっはははははは」
そう医師が笑えば、エミリーは走って使用人達の元へと向かっていった。 優しい子なのか、それとも薬を盛るように言ったのが彼女なのか……。
その答えは、ルークに様子を見に行ってもらわずともわかった。
「なんて馬鹿な事をなさいましたの!!」
何しろ、べしばしどすっ等と言う暴力に等しい音と共に、怒鳴り声が響いてきたのですから。 体液駄々流れる中にとどめを刺しに行くなど……存外愛情の深い子なのかもしれない……そう思ったりもした訳です。 まぁ、それはともかく、
「先生、診て頂きたい人がいるのですが」
「では、対価は身体でお願いできますか?」
なんて年の頃は30と少し、そこそこ顔の整った王都でも有名な医師が言えば、今まで傍観を決め込んでいたルークが叫びだした。
『フィーア!! 浮気はダメだからな!!』
『何を言っているんですか。 魔術医としての労働ですよ』
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