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05.昔々の物語に隠された呪いの秘密
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シルフィは、追っ手を恐れ、焚火をすることすら嫌がり、御者席で座ったまま眠ろうとするレピオスに馬車の中へと蹴り入れた。
「お嬢様!」
「私は移動中も眠れるから、中で寝なさい」
「ですが!!」
余りにも必死な様子に、シルフィは肩をすくめる。
「それほど怖いなら、なぜ一緒に来ようとしたのですか……」
私は呆れたように言いながら、精霊の空間から新鮮ミルクとブランデーを取り出しホットミルクを作り出す。 色々な手順は、精霊の力を借りた魔法でちょちょい。
「はい! ソレを飲みなさい。 命令よ。 後は……」
肌触りの良い毛布を、乱暴に放り投げた。
ホットミルクを一口飲み、ふぅと息をつくレピオスは涙ぐんでいる。
「もう、今からでも戻って良いのですよ。 きっとモルタがよくしてくれますわ」
「いえ、いいんです。 俺にとって王都は怖い場所でした」
あぁ、そう言えばと思いだす。
「えっと、騙されて騙されて、奴隷として売られてモルタに買い取られたんでしたっけ?」
アラヤ国の民……というか王都民は、余り性格がよく無い……者が多い。 すっごい悪党はいないが、小さな悪党は沢山いて、自衛をしようとすれば善良さは捨てなければならず、自然と皆そろって性格が悪くなるのだ。
だから、曾祖母は私を王都に連れていくことはなかった。 王都を案じ身体が動かなくなっても精霊の力を借りて通い続けており、王都に拠点を置くことは死の瞬間まですることはなかった。
それでも6年も王都に住んでいるのだから、私ももう善良とは言えないでしょう。 だが、レピオスの答えは違っていた。
「いえ、それもあるのですが……その……見えるんです」
私はその言葉に眉間を寄せる。
「城を中心に、王都は……特に都市部は、薄暗く空気を染め上げているんです。 アレは、きっと人の悪意ですよ」
私は、彼の言葉にキョトンとする。
「ただ、お嬢様の周囲だけは、空気が輝いて見える。 アナタだけが俺の安住だった。 だから……アナタの側がいいんです」
拗ねた子供のように、私よりずっと年上の彼が言うから私は笑ってしまった。
「ソレはね、大地の奥深くに魔脈を抱えているからよ」
「ぇ?」
「アラヤ国は便利だったと思いません?」
突然に問いかければ、レピオスは頓狂な顔を向けそして何度も頷いた。
「ボタンを押せば明かりがつき、水が出て、風が気温を調整する。 他の国はどうかわかりませんが、アラヤ国の中でも王都のみにある便利さですわ。 で、その動力は何処にあると思います?」
「さぁ、俺のようなものには……」
「魔脈から溢れる魔力を使って、その便利さが維持されていますの。 そうレピオス、アナタ魔力の流れが見えたのね。 ねぇ、魔法職を覚えない? 生きて行くのに便利よ」
レピオスが明らかに顔をゆがめ拒絶を見せた。
「魔法職と言うと、アレですよね。 アパテお嬢様の改造を施した」
「まぁ、確かに魔法職と言えば魔法医師と言うイメージはあるわね。 でも、私のような魔法薬師もいれば、魔法調理師、魔法裁縫師、魔道具師なんてのもありますわ」
「はぁ……、俺、勉強嫌いなんですよ……でなければ漁師なんてなりませんでした」
「あら、勿体ないわね。 そうねぇ……きっと優秀な漁師だったんでしょうね」
魔力と縁深いものは、自らを優位にするため自然と魔力を活用するものだ。
「えぇ、そうですとも、俺は優秀だったんですよ!! でも、でも……優秀さに調子に乗ってしまって、嵐の日に海に出たんです。 だって凄い沢山の魚が来ていたんですよ!!」
グズグズと言う様子は子供のようで、ブランデーを入れ過ぎたかな? と苦笑する。
「でも……アレが魔力だとしたら、なぜ、お嬢様の周りはキラキラしているんですぅ?」
「ソレは、私の周囲の魔力は魔脈ではなく、精霊達の影響を受けているからですわ」
理解しているのかいないのかレピオスはうっとりと見つめてくる。
「お嬢様はとても綺麗です……」
例え酔っ払いであっても、褒められるのはとても気分がいいものだ。 ウトウトしている様子に私は、眠りにとどめをさそうと物語を語りだす。
アラヤ国の建国の物語。 ソレは、曾祖母が生きていた頃、シルフィが覚えるほどに繰り返された物語。
昔々、遥か神話の時代。
世界の様々な場所に、神の泉と呼ばれる場所がありました。
その地に住まう獣達は、知恵を得て、柔軟な思考を得て、強靭な肉体を得て、生きるために生きるのではなく、幸福になるために生きる事を求めるようになりました。
尊き神の子。
獣の王。
大きな口に、大きな牙。
最も強い獣の王は、多くの知恵ある獣を民とした。
肉食と草食、捕食する側される側。
問題は多かった。
獣王は、狩りは森の外ですることと肉食獣達に厳命した。
そうやって獣達は、初めての法を持ち平和に仲良く暮らしていたのだ。
ある日、彼等の元に訪れたのは人間の旅人達。
「食べ物を分けて下さいませんか?」
平和な獣の国の民は、快く人間の旅人引き入れ、食べ物を譲り、汚れた身体を清めさせ、傷があれば治療をし、清潔な衣類を与えた。
「ありがとうございます。 この御恩はどのように返しましょうか?」
「人の奏でる音楽が知りたい」
「人の語る物語を知りたい」
「人が描く美しいものを見たい」
「人の世の法を知りたい」
獣達は人のようにあろうとしたが、どんなに賢くなろうと生きる事を最優先するよう本能に組み込まれていて、楽しいを作れない、感動が分からない、ルールを理解できない者も多くヒッソリ仲間を食らう者もいたのだ。
幸福が欲しい。
「我々は人間のように幸福を得るために生きたいのだ」
「では、私達が獣の国に幸福をもたらしましょう」
そして、獣と人は、幸福を求めて仲良く暮らしましたとさ。
荷台の中からスヤスヤと規則正しい寝息が聞こえていた。
「眠ったようですね」
私は、精霊空間から焚き火用の薪をとりだし、火をつける。
レピオスは王都からの追っ手や、夜盗ばかりを案じているけれど、王都には危険な獣が多く存在している。 アラヤにいる獣は、他国と比べ狂暴で積極的に人を襲ってくるのだ。
私は精霊達に警戒を頼み、焼いたマシュマロをプレゼントした。
物語には続きがある。
人は言った。
「獣の幸せは知恵を持たぬことですよ」
獣達は何を言われたのか理解できなかった。
だって、獣達は、人を十分過ぎるほどに信用しており、彼等の作る料理に魅了され、歌に心揺らされ、踊りを楽しみ、物語に思いをはせていた。
獣達はこの上ない幸福を感じていたのだ。
人間のような自分達に満足していたのだ。
沢山幸せをくれた人間さんが、悪い人のはずがない。 その体に刃をつき付けられても多くの獣はそう信じるほどだった。
魔力ある土地に住んでいた彼等は、知恵を持つほどに魔力を蓄え、特殊な魔力宝石をその身に宿しており、旅人を装った人間は、最初から魔力宝石を目的としていたのだ。
そして獣は死に絶え、豊かな魔脈の上に町が作られ、国となった。
今も獣達は、人間に恋い焦がれながら人間を、人の王となった彼等を愛し、そして憎み続けている。
ソレがアラヤ国にかけられた呪い。
「お嬢様!」
「私は移動中も眠れるから、中で寝なさい」
「ですが!!」
余りにも必死な様子に、シルフィは肩をすくめる。
「それほど怖いなら、なぜ一緒に来ようとしたのですか……」
私は呆れたように言いながら、精霊の空間から新鮮ミルクとブランデーを取り出しホットミルクを作り出す。 色々な手順は、精霊の力を借りた魔法でちょちょい。
「はい! ソレを飲みなさい。 命令よ。 後は……」
肌触りの良い毛布を、乱暴に放り投げた。
ホットミルクを一口飲み、ふぅと息をつくレピオスは涙ぐんでいる。
「もう、今からでも戻って良いのですよ。 きっとモルタがよくしてくれますわ」
「いえ、いいんです。 俺にとって王都は怖い場所でした」
あぁ、そう言えばと思いだす。
「えっと、騙されて騙されて、奴隷として売られてモルタに買い取られたんでしたっけ?」
アラヤ国の民……というか王都民は、余り性格がよく無い……者が多い。 すっごい悪党はいないが、小さな悪党は沢山いて、自衛をしようとすれば善良さは捨てなければならず、自然と皆そろって性格が悪くなるのだ。
だから、曾祖母は私を王都に連れていくことはなかった。 王都を案じ身体が動かなくなっても精霊の力を借りて通い続けており、王都に拠点を置くことは死の瞬間まですることはなかった。
それでも6年も王都に住んでいるのだから、私ももう善良とは言えないでしょう。 だが、レピオスの答えは違っていた。
「いえ、それもあるのですが……その……見えるんです」
私はその言葉に眉間を寄せる。
「城を中心に、王都は……特に都市部は、薄暗く空気を染め上げているんです。 アレは、きっと人の悪意ですよ」
私は、彼の言葉にキョトンとする。
「ただ、お嬢様の周囲だけは、空気が輝いて見える。 アナタだけが俺の安住だった。 だから……アナタの側がいいんです」
拗ねた子供のように、私よりずっと年上の彼が言うから私は笑ってしまった。
「ソレはね、大地の奥深くに魔脈を抱えているからよ」
「ぇ?」
「アラヤ国は便利だったと思いません?」
突然に問いかければ、レピオスは頓狂な顔を向けそして何度も頷いた。
「ボタンを押せば明かりがつき、水が出て、風が気温を調整する。 他の国はどうかわかりませんが、アラヤ国の中でも王都のみにある便利さですわ。 で、その動力は何処にあると思います?」
「さぁ、俺のようなものには……」
「魔脈から溢れる魔力を使って、その便利さが維持されていますの。 そうレピオス、アナタ魔力の流れが見えたのね。 ねぇ、魔法職を覚えない? 生きて行くのに便利よ」
レピオスが明らかに顔をゆがめ拒絶を見せた。
「魔法職と言うと、アレですよね。 アパテお嬢様の改造を施した」
「まぁ、確かに魔法職と言えば魔法医師と言うイメージはあるわね。 でも、私のような魔法薬師もいれば、魔法調理師、魔法裁縫師、魔道具師なんてのもありますわ」
「はぁ……、俺、勉強嫌いなんですよ……でなければ漁師なんてなりませんでした」
「あら、勿体ないわね。 そうねぇ……きっと優秀な漁師だったんでしょうね」
魔力と縁深いものは、自らを優位にするため自然と魔力を活用するものだ。
「えぇ、そうですとも、俺は優秀だったんですよ!! でも、でも……優秀さに調子に乗ってしまって、嵐の日に海に出たんです。 だって凄い沢山の魚が来ていたんですよ!!」
グズグズと言う様子は子供のようで、ブランデーを入れ過ぎたかな? と苦笑する。
「でも……アレが魔力だとしたら、なぜ、お嬢様の周りはキラキラしているんですぅ?」
「ソレは、私の周囲の魔力は魔脈ではなく、精霊達の影響を受けているからですわ」
理解しているのかいないのかレピオスはうっとりと見つめてくる。
「お嬢様はとても綺麗です……」
例え酔っ払いであっても、褒められるのはとても気分がいいものだ。 ウトウトしている様子に私は、眠りにとどめをさそうと物語を語りだす。
アラヤ国の建国の物語。 ソレは、曾祖母が生きていた頃、シルフィが覚えるほどに繰り返された物語。
昔々、遥か神話の時代。
世界の様々な場所に、神の泉と呼ばれる場所がありました。
その地に住まう獣達は、知恵を得て、柔軟な思考を得て、強靭な肉体を得て、生きるために生きるのではなく、幸福になるために生きる事を求めるようになりました。
尊き神の子。
獣の王。
大きな口に、大きな牙。
最も強い獣の王は、多くの知恵ある獣を民とした。
肉食と草食、捕食する側される側。
問題は多かった。
獣王は、狩りは森の外ですることと肉食獣達に厳命した。
そうやって獣達は、初めての法を持ち平和に仲良く暮らしていたのだ。
ある日、彼等の元に訪れたのは人間の旅人達。
「食べ物を分けて下さいませんか?」
平和な獣の国の民は、快く人間の旅人引き入れ、食べ物を譲り、汚れた身体を清めさせ、傷があれば治療をし、清潔な衣類を与えた。
「ありがとうございます。 この御恩はどのように返しましょうか?」
「人の奏でる音楽が知りたい」
「人の語る物語を知りたい」
「人が描く美しいものを見たい」
「人の世の法を知りたい」
獣達は人のようにあろうとしたが、どんなに賢くなろうと生きる事を最優先するよう本能に組み込まれていて、楽しいを作れない、感動が分からない、ルールを理解できない者も多くヒッソリ仲間を食らう者もいたのだ。
幸福が欲しい。
「我々は人間のように幸福を得るために生きたいのだ」
「では、私達が獣の国に幸福をもたらしましょう」
そして、獣と人は、幸福を求めて仲良く暮らしましたとさ。
荷台の中からスヤスヤと規則正しい寝息が聞こえていた。
「眠ったようですね」
私は、精霊空間から焚き火用の薪をとりだし、火をつける。
レピオスは王都からの追っ手や、夜盗ばかりを案じているけれど、王都には危険な獣が多く存在している。 アラヤにいる獣は、他国と比べ狂暴で積極的に人を襲ってくるのだ。
私は精霊達に警戒を頼み、焼いたマシュマロをプレゼントした。
物語には続きがある。
人は言った。
「獣の幸せは知恵を持たぬことですよ」
獣達は何を言われたのか理解できなかった。
だって、獣達は、人を十分過ぎるほどに信用しており、彼等の作る料理に魅了され、歌に心揺らされ、踊りを楽しみ、物語に思いをはせていた。
獣達はこの上ない幸福を感じていたのだ。
人間のような自分達に満足していたのだ。
沢山幸せをくれた人間さんが、悪い人のはずがない。 その体に刃をつき付けられても多くの獣はそう信じるほどだった。
魔力ある土地に住んでいた彼等は、知恵を持つほどに魔力を蓄え、特殊な魔力宝石をその身に宿しており、旅人を装った人間は、最初から魔力宝石を目的としていたのだ。
そして獣は死に絶え、豊かな魔脈の上に町が作られ、国となった。
今も獣達は、人間に恋い焦がれながら人間を、人の王となった彼等を愛し、そして憎み続けている。
ソレがアラヤ国にかけられた呪い。
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