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1章
01.友人
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それなりに豊かな領地を持つ子爵家に生まれたけれど、
父であった男。
母であった女。
善良であった2人のせいで、庶民となった。
金は出さないからと言われ、成績優秀者が望めば支給される奨学金を受け学園で学んでいたのだけど……それも、もう終わり。
まぁ、十分に準備も出来たからいいのですが……。
木々が黄色や赤に世界を彩る季節。
太い幹を持つ木に背を預け、身勝手に本を読む。
「皇子、シェリルを見かけませんでしたか?」
建物の中から、女性達の声が聞こえた。
「どうしたのですか?」
そう返す柔らかな声は皇子のもの。
「勉強を教わろうと思っておりましたのに」
本当は課題を押し付けようとしているだけ、まぁ……爵位の高い彼女達の課題は、貴族としての常識で簡単なもの、それでも量が多ければ困るから、思考のままにペンを踊らせる術を開発した。
秘密だけど。
「奨学金を受けている彼女には、生徒に奉仕する責務がありますと言うのに」
「本当に身勝手ですのよ。 皇子から一言言ってもらえませんか?」
そんなものはないが、皇子が大人しくニコニコと話を聞くから、彼女達のお喋りは続いていた。 皇子を爪の先ぐらいには気の毒に思うけれど、今日は助けにいく気にはならなくて、落ち葉に隠れ眠るふりを続ける事にした。
「見つけたら、探していた事を伝えておきますよ」
「よろしくお願いします」
「失礼します」
それから数分後、ガサリと言う音が聞こえた。
「義務の放棄か? こんな寒い所にいて風邪を引くぞ」
「平気ですよ。 田舎者は丈夫と相場が決まっているものですから」
美しい金色のストレート髪を長く伸ばし、リボンで結んだ皇子は、鋼色の瞳を笑みの形に作って、私の横に腰を下ろす。 皇子である『フェリクス・デ・バウスコール』は、第一皇子でありながらも、幼い頃の病弱を理由に王位継承権から外されている。
未だ中性的な容姿と、私より少し高いだけの背丈を持つ皇子は、美しくはあるが、頼りなく見える。
皇子は木に背中を預け、ズルリと滑るように私の隣に腰を下ろす。
「どう、なされたのですか? 風邪を引きますよ」
「鍛えているんでね」
「そうですか」
私がクスッと笑えば、皇子は不本意だと溜息をつき肩を竦めた。
「なんだったら、見る?」
「我が国の皇子が露出狂と言うのは、国の威信にかかわりますよ」
「誰もココで脱ぐとは言ってないさ」
肩と肩が触れた。
「どうした?」
聞いてくるのは、令嬢達から隠れるようにしていた事だろう。 爵位の格差ゆえに嫌味の多い令嬢達だが、日頃はちゃんと相手をしている。 それなりに機嫌を取っておけば、それなりに何かを与えてくれるから。
この国は『善良な国』と呼ばれる程度に、人の好い者が多く……そして、苦労も多い。 私は、この安穏とした空気が時折息苦しくなる。
私は、悪いから。
「今日は孤独を愛する日なんですよ」
ふざけて言えば、皇子は鼻をならすように「ふぅ~ん」と言う考え込むような声をあげ、私が皇子へと視線を向ければ、
「悪くはないな」
呟き笑い、彼は私を見る。
顔が近い。
「いい匂いがする」
私が言えば、皇子は笑う。
「あぁ、そういえば……香水を貰った」
詰襟になっている制服の襟元を緩める指が、中性的な姿に不似合いなほどにゴツゴツとして指が長く大きな手をしていた。 その手が私を抱き寄せる。
「匂い、分かるか?」
「これほど近づかずとも分かりますよ」
私は、ドキドキする思いを隠し、友人の距離で笑って見せる。 髪を撫でる指先を思えば息苦しさを感じた。 そんな私の気持ちに気づいているのか、髪の中に潜り込ませた、指先が首筋を撫でる。
欲情しそう……。
熱くなりそうな顔を隠すために、そっと顔を背ければ、皇子はハスキーな甘い声で言う。
「別に、一人でなくても孤独にはなれるだろう」
「何を……」
「一人でいると、目的ばかりを見つめて多くを見失ってしまう。 だから、孤独に寄り添ってくれる奴が側にいるといい。 俺はそう思うよ」
静かな声で言われれば、学園生活の中で、彼の孤独を邪魔しないように、距離を置きながら側にいた日々を思い出す。 その日々ももう終わることを彼は知らない。
見つめあう視線が、近すぎて……。
首に、頬に触れる皇子の手。
ぁ……キス……。
「皇子!!」
彼を呼ぶ男の声に救われた。
「呼ばれていますよ」
「だな、どうする?」
コレは令嬢達のことを言っているのでしょう。 今日はpassすると首を横に振った。
「身体が冷え切る前に、生徒会室に顔を出すといい。 茶をだそう」
私は曖昧な笑顔で微笑んで見せた。
父であった男。
母であった女。
善良であった2人のせいで、庶民となった。
金は出さないからと言われ、成績優秀者が望めば支給される奨学金を受け学園で学んでいたのだけど……それも、もう終わり。
まぁ、十分に準備も出来たからいいのですが……。
木々が黄色や赤に世界を彩る季節。
太い幹を持つ木に背を預け、身勝手に本を読む。
「皇子、シェリルを見かけませんでしたか?」
建物の中から、女性達の声が聞こえた。
「どうしたのですか?」
そう返す柔らかな声は皇子のもの。
「勉強を教わろうと思っておりましたのに」
本当は課題を押し付けようとしているだけ、まぁ……爵位の高い彼女達の課題は、貴族としての常識で簡単なもの、それでも量が多ければ困るから、思考のままにペンを踊らせる術を開発した。
秘密だけど。
「奨学金を受けている彼女には、生徒に奉仕する責務がありますと言うのに」
「本当に身勝手ですのよ。 皇子から一言言ってもらえませんか?」
そんなものはないが、皇子が大人しくニコニコと話を聞くから、彼女達のお喋りは続いていた。 皇子を爪の先ぐらいには気の毒に思うけれど、今日は助けにいく気にはならなくて、落ち葉に隠れ眠るふりを続ける事にした。
「見つけたら、探していた事を伝えておきますよ」
「よろしくお願いします」
「失礼します」
それから数分後、ガサリと言う音が聞こえた。
「義務の放棄か? こんな寒い所にいて風邪を引くぞ」
「平気ですよ。 田舎者は丈夫と相場が決まっているものですから」
美しい金色のストレート髪を長く伸ばし、リボンで結んだ皇子は、鋼色の瞳を笑みの形に作って、私の横に腰を下ろす。 皇子である『フェリクス・デ・バウスコール』は、第一皇子でありながらも、幼い頃の病弱を理由に王位継承権から外されている。
未だ中性的な容姿と、私より少し高いだけの背丈を持つ皇子は、美しくはあるが、頼りなく見える。
皇子は木に背中を預け、ズルリと滑るように私の隣に腰を下ろす。
「どう、なされたのですか? 風邪を引きますよ」
「鍛えているんでね」
「そうですか」
私がクスッと笑えば、皇子は不本意だと溜息をつき肩を竦めた。
「なんだったら、見る?」
「我が国の皇子が露出狂と言うのは、国の威信にかかわりますよ」
「誰もココで脱ぐとは言ってないさ」
肩と肩が触れた。
「どうした?」
聞いてくるのは、令嬢達から隠れるようにしていた事だろう。 爵位の格差ゆえに嫌味の多い令嬢達だが、日頃はちゃんと相手をしている。 それなりに機嫌を取っておけば、それなりに何かを与えてくれるから。
この国は『善良な国』と呼ばれる程度に、人の好い者が多く……そして、苦労も多い。 私は、この安穏とした空気が時折息苦しくなる。
私は、悪いから。
「今日は孤独を愛する日なんですよ」
ふざけて言えば、皇子は鼻をならすように「ふぅ~ん」と言う考え込むような声をあげ、私が皇子へと視線を向ければ、
「悪くはないな」
呟き笑い、彼は私を見る。
顔が近い。
「いい匂いがする」
私が言えば、皇子は笑う。
「あぁ、そういえば……香水を貰った」
詰襟になっている制服の襟元を緩める指が、中性的な姿に不似合いなほどにゴツゴツとして指が長く大きな手をしていた。 その手が私を抱き寄せる。
「匂い、分かるか?」
「これほど近づかずとも分かりますよ」
私は、ドキドキする思いを隠し、友人の距離で笑って見せる。 髪を撫でる指先を思えば息苦しさを感じた。 そんな私の気持ちに気づいているのか、髪の中に潜り込ませた、指先が首筋を撫でる。
欲情しそう……。
熱くなりそうな顔を隠すために、そっと顔を背ければ、皇子はハスキーな甘い声で言う。
「別に、一人でなくても孤独にはなれるだろう」
「何を……」
「一人でいると、目的ばかりを見つめて多くを見失ってしまう。 だから、孤独に寄り添ってくれる奴が側にいるといい。 俺はそう思うよ」
静かな声で言われれば、学園生活の中で、彼の孤独を邪魔しないように、距離を置きながら側にいた日々を思い出す。 その日々ももう終わることを彼は知らない。
見つめあう視線が、近すぎて……。
首に、頬に触れる皇子の手。
ぁ……キス……。
「皇子!!」
彼を呼ぶ男の声に救われた。
「呼ばれていますよ」
「だな、どうする?」
コレは令嬢達のことを言っているのでしょう。 今日はpassすると首を横に振った。
「身体が冷え切る前に、生徒会室に顔を出すといい。 茶をだそう」
私は曖昧な笑顔で微笑んで見せた。
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