【R18】醜女と蔑んでいた私に『愛している、妻になって欲しい』と第二王子が婚約を求めてきました お断りします。

迷い人

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19.おわり

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「あぁああああああああ、もう!! ごふっ、けほっ……」

 マーティンは苛立ちに叫び、痛む腹部を抱え咳き込んだ。 腹が痛い、頭が痛い、苛立つ。 げろにまみれ、苛立ちにばんばんと床を叩いた。

「本当に、役立たずばかりだ!! 僕は、僕はなんて不幸なんだ!! 本当に大切にするべきだったのはシルフィだったと言うのに……僕は間違った……間違っていたんだ……あ、謝らないと……戻って来て欲しいと……あぁああああああああ、全て……全て……正さないと、父上に訴えて、そして……」

「マーティン様」

 静かに、静かに、名を呼ぶ声。
 聞きなれた声。

「何処に行っていたんだリズ!! ごほっ、こんな、酷い目にあった僕を放って!! だからお前はダメなん……なにを、持って……うわぁあああああああ、や、やめろ、うわぁあああああやめ、やめやめ……いや、だ。 いたい、いたい、やめ、止めてくれ……」


 屋敷に飾ってあった大剣をずるずると引きずってきたリズが、その剣を大きく掲げた。 慣れない重さに持ち上げ、重力に任せ振り落とした大剣は肩をかすったに過ぎなかった。

「どうして……」

 リズは呟き、大剣をもう一度掲げた。

「なぜ、そんな事をするんだ!!」

 叫びながら逃げるマーティンと、ふらふらになりながら追いかけ振り下ろすリズ。

「私の、私の人生をすべて捧げたのに!! 全部、全部捧げたのに!! いつか貴方の妻になるのだからって、我慢もした。 沢山沢山我慢もした。 他の女に話しかけるのが嫌だった。 私を下げて、他の令嬢を褒めるなんて最悪だった。 最悪な気分だった。 それでも、我慢した!! 我慢したのよ!!」

 おろされた剣は、必死に避けたマーティンの太腿に刺さった。 肉の感触……骨にぶつかる剣は引き抜かれ、また掲げられる。 そうしなければ力の無いリズには彼を殺すなんて出来ないから。

「い、嫌だったとは知らなかった。 悪かった!! 僕が悪かった!! 君は何時だってニコニコと笑っていたから!!」

「悪く言われて喜んでいると思った訳!!」

 掲げる前に、それは大きく横凪に振られ、鼻先をかすめた。

 ひぃっとマーティンは悲鳴を上げる。

「や、止めろ、止めるんだ!! 君だって、よい思いはしただろう!! 本来婚約者が受け取るべきドレスに装飾品、それが全て君のものになっていたんだから!!」

「そんなもので済む訳ないじゃない!!」

 ふらりとふらついた剣は両足の間……に落ちて、床に突き刺さり、血濡れのマーティンの顔が青白くなった。 次に怒りが立ち込めて来た。

「お前に使った金を返せ!! それのせいで全てが狂ったんだ!! お前が余計な物を欲しがらなければ、シルフィの存在が表沙汰になる事はなかったんだからなぁあ!!」

 マーティンはリズに飛び掛かろうとした。 痛みに上手く動けないけれど、それでもリズぐらいはどうにかできると思った。 床に突き刺さった大剣すら引き抜くことが出来ないのだから……両足の間の大剣にマーティンは手を伸ばそうとすれば。

「邪魔、しないでよぉおおおお!!」

 リズはマーティンに蹴りを入れ、そして、マーティンはその脚を掴んでリズを転がした。

「こんな事をしてただで済むと思うな!!」

「ただで済む? 済む訳が無いじゃない!! 最悪よ、私の人生はもう終わったのよ!!」

 大剣はマーティンの手にあった。

 リズは……隠し持っていた手ナイフを手に、マーティンの腹を刺した。

「うぎゃぁああああああああああ!!」

 その叫びに人が来た。

 王宮の警備をしていた騎士だった。

 彼等が見たのは凄惨な様子。

 二人を離し、武器を奪い、そして医師を呼んだ。



 リズは……気が狂ったと判断され、危険人物として牢獄に入れられた。 王族に襲い掛かったと言う大罪を王妃は訴えたが、その原因はマーティンにあるとしたうえでの恩赦であったと言えるだろう。

 そして傷だらけになったマーティンは、彼がリズに襲われる前に決めた通り母の王妃の全てを語った。 何を言って、何をしていたか……国にとって特別であるはずの精霊の巫女を隠し、こき使った事。 精霊の巫女の力を貴族達に売り渡していたと。 実際に出た利益を一部を受け取り私腹を肥やしていたと。 王の資質を図るテストの中、利益の一部を実家への支援として活用していたと。 王宮に勤める貴族使用人達に影響力を伸ばし、情報を集めていたと。

 多くの事を語った。

 そして……全ては母が王妃が悪いのだと訴えた。

「僕は、母に逆らえなかった。 母の言う事を聞いていただけなんです。 僕は僕は、母に支配されていた。 僕の意思が介在しない人生でした。 僕は……僕として生きたかった」

 そう父親である王に訴えた。

「その機会はあった。 今、お前が俺に助けを求めているように、何時だって俺に訴え助けを求める事が出来たのだから。 お前は結局、母親に支配される事が楽で、気分が良かった。 ただそれだけだろう」

「ち、父上!! ぼ、僕は生まれた時から、母に支配をされていたんですよ!! 逆らうなんて想像もつくはずがない。 母を、あんな母を王妃に据えた父上の責任が無かったと言えるのですか!! 父上、僕は貴方にも見捨てられ育ったんです!! 助けて……くれてもいいじゃないですか……こんな目にあった僕をまだ、責めるのですか……僕がこうなったのは父上のせいです!! 貴方の責任ですよ!!」

 ボロボロと泣いて見せた。

 国王は溜息をついた。

「ならば……父親としての責務を果たそう」

 嘆きに嘆いた息子を父王は救った。
 王子として今後も見守る事にした。

 エイデン・カナカレス侯爵令嬢をマーティンの正式な婚約者と定め、逃避した全ての教育を改めて受ける事となった。 ソレを習得し、王子としての役目を果たせないなら……王子として認める事は出来ないと告げ、その時は王妃マルグリットの実家であるベルナップ侯爵家に養子に出す事とした。

 ベルナップ侯爵家で、当主ではなく親族として過ごす未来を告げられれば、エイデンも必死にマーティンを躾けるだろうと期待したゆえの采配だった。



 そして……王妃はマーティンが望んだとおりにその罪を問われる事となった。

「我は誰よりも早う精霊の巫女を見つけて保護をした。 その報酬はあっても当然だと思いますぞ? 陛下、そなたはその存在を気にもかけてなかったそうではないか。 罰をうけるなら陛下ではないかえ?」

 ほほほほと余裕を見せる。

 この国では、何よりも精霊の巫女が重要視される。 幼い頃に見つけ、その人格を歪ませないように育てる必要があるとされていた。

「我は、アレをよう育てたはずぞ。 もし、保護したのが我でなくば、あれは良い子にそだったかどうか」

「育っただろうよ。 精霊の巫女が精霊に愛される理由は、その魂にある。 歪みようのない魂にだ。 お前の苦難をも乗り越え、自らの成長を望み、他者を虐げようとする残虐性はその魂に刻まれる事が無い。 だからこそ精霊は守らなければいけないと考える。 その子がより精霊に好まれる子に育てば、精霊の恵みを得る事が出来る。 巫女が望まぬともだ。 精霊の巫女の存在に気付く事が出来なかった。 それはアレに対して、好い行いをしていなかったからと言う事だ。 この国にとっては重罪だ。 それこそお前が言ったように王ですら重罪となる。 なら、お前は?」

「わ、我は、陛下の妻として、王妃としてよく国に仕えた!! それは認めてはくれないのですか!!」

「私欲で、支配をするのは……どうなんだろうな? だが、他国に対しては良く勤めてくれたと思う」

「そうじゃろうて。 我は必要な存在だと、陛下も認めておいでなら!!」

「あぁ、認めている。 他国の者は本当に良く出来た王妃だと……例え、離縁された身であっても、妻に、王族に迎えたいと言う者もいるほどに良い王妃だった。 そなたはグリーク国の王太子の元に嫁ぐといい」

 国王は朗らかな笑みを浮かべて見せた。

 王妃は高々と勝利に笑う。

「流石、我が価値を理解しておる。 その申し出快くお受けしよう」

 王宮を上手く支配してきた。
 それが崩れようとしている今、その評価が崩れた今、ここに留まるよりも新たな地に向かうのが良いだろう。 何より王と関係をもったのはマーティンを産んだ時の……陛下が薬に犯されていたわずかな期間のみ。 ならば、よその国の王太子に仕える方が良い。 そう判断した。



 マルグリット王妃を妻に求めたグリーク国の国王は、今年92歳を迎える。 そして、その王太子は85歳となる事を知るのは、初夜の夜だった。





 シルフィとカーマインは、仲睦まじく日々を送っていた。

 ただ……カーマイン自身は、次期王として多くを学ばなければいけないし……その実力を身に付けない事には、政務代行としてシルフィを必要としていると……強い精霊の因子がシルフィを愛してやまないのだと誤解されかねないと、その関係を踏み出す事に戸惑ってはいるが……。

 それでも側にいた。

 町に出て、食事や観劇、買い物を楽しむ。
 視察として色んな地域を旅する。

 それはとても楽しいけれど、形の無い愛を信じて貰うのにはまだまだ時間が必要だと、カーマインは自制しながらシルフィに寄り添った。

 それは少し残酷で、幸福な時間。

 狼姿でその日もカーマインは、シルフィの横で眠りについていた。

 もふっとその首筋に顔を埋められ、はふぅと大きな溜息をつきながらカーマインは静かに囁くのだ。

「愛しているよ」

 と……。



 それは、一つの幸せの形。





 おわり。
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