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1章 遺産
06.考えても無駄! 悩んだら走れ!!
夜明けとともに目を覚ましたパーシヴァルは、日課となっている騎士団の訓練場に顔を出し、汗を流した後、食堂へ向かった。 彼にとって戦いは日常で、食事は重要な任務とすら言っていい。
「どうしたんっすか? 大将。 難しい顔をして」
モンモンと考え込むパーシヴァルから、距離を置き若い騎士達が朝食を静かに食べていれば、苦笑交じりに彼の副官が近寄ってきた。
「なんでもない」
「何でもないって様子じゃないでしょう。 まさか大将のために組まれた領主講習から逃げるつもりですか?」
男は、冗談を言ったつもりだったが、パーシヴァルの返事はなく
おぃおぃ、勘弁してくれよ大将。
俺、これからも大将の補佐を命じられているんっすから。
心の中で、祈るように言う。
彼は『ルーカス・ターラント』 騎士育成のための学園の同期であり、戦場ではパーシヴァルの副将を務めた男だ。 いかにも無骨で直情的な戦士であるパーシヴァルと違い、ルーカスは吟遊詩人と言っても通じるような容姿をしていた。
背の高い細身の体躯。
男性としては高い声。
同じ軍服を着ていても、パーシヴァルよりもオシャレに見える。
「オマエに、関係ない」
「そういう訳にはいきませんよ。 何しろ、戦闘しか能がないアナタの補佐を、今後も務めるよう指示を受けていますからね。 で、まずは領主業を身に着けるまでの見張りが、俺の仕事なんですよ。 余り面倒をかけないでください」
流石に『得意なものが得意な業務をすればいい!』と、放り出す訳にもいかず、パーシヴァルは唸る。
「領民に迷惑をかけないでくださいよ」
ルーカスが真剣に言えば、ムッとしながらパーシヴァルは答えた。
「少し、屋敷に用事ができただけだ」
ルーカスは、くわぁ!!と目を見開き、パーシヴァルへと詰め寄った。
「どうしたんですか?! 学生中、見習い中、コソコソ屋敷は見に行くだけで、扉をくぐれなかった人が!!」
手紙を書いては捨て、書いては捨てをしたあげく、こっそり出かけるパーシヴァルが気になり、殿下と共にヒッソリと後をつけ経験のあるルーカスは、盛大に驚いてみせた。 ちなみに手紙はいつも途中で燃え捨てられていた。
「なぜ、それを……いや、いい、なんでもなくて……そうじゃなくて、あぁ、えっと、父に聞きたい事が出来ただけだ」
「アナタの口から、身内のことを初めて聞きましたよ。 どうしたんです? 王宮医に見てもらいますか? 数年前から若くて美しい薬師がいると有名なんですよ! ついていきますよ!!」
ヘラリとにやけながらルーカスが言えば、明らかにイラついた様子を向けられた。
「やめてくれ、俺には……妻がいる」
「はっ?」
「学生時代、ずっと一緒でしたよね?」
「それがどうした?」
「殿下が、騎士団の護衛を無数に連れて歩くのがうっとうしいと、俺と大将が常にお守りしていましたよね? 戦場に出るようになってからも、ずっと一緒だったじゃないですか!」
「だから、どうしたと聞いている!」
「水臭いじゃないですか。 結婚なさったんなら言ってくださいよ」
「学園に入学する前だ」
「いやいや、だからって……」
業務上、それこそ四六時中一緒にいた。 そんな自分が知らないのはオカシイのでは? と、 だが、遠征途中の街で女性が好みそうな店を気にしているのを、幾度となく見た覚えがあった。
そうか、とうとう脳内彼女を作ったか……。
長の付き合いであるルーカスは、そう収める事にした。 それほど目の前の男と恋愛と言うものが、連想つかなかったのだ。
「それで今日の予定ですが、領地受領の手続き、帳簿の閲覧と説明を聞き、領主として領地運営に必要な講義、それと礼儀作法の見直し、後は順次お見合いを勧め。 来週中には領地の代表者との面談が計画されています」
「……領地運営に必要なことは勉強する。 だが、見合いとはなんだ……」
ジトっと恨めしそうに睨んでくれば、
「俺が計画した訳ではありませんよ。 各領地から釣り書きが次々と送られて来るんです」
「うちが金に困っていた頃には、近寄りもしなかったくせに」
「そりゃぁ当然でしょ。誰だって自分が大事なんですから」
「とにかく見合いは却下だ!! 俺には妻がいる!」
「わかってますって!!」
生温かな視線が向けられ、パーシヴァルは脱力した。
「本当にわかっているのか? とにかく見合いはせんよ」
「はいはい、奥方様がいらっしゃるからですねぇ~。 ですが、領地運営を行う以上、共に歩いて下さる方が必要なんです! 特に大将のように強面な領主では、緩衝材の役目を果たす方が必要です。 それだけでなく、普通に生きる事が不慣れな大将を支え、足りない知識を補い、村人との付き合いをしてくれる方が必要なんですよ!!」
パーシヴァルは、考え込んだ。
シヴィルがどんな女性に育っているか分からない。 シヴィル以外の女性に興味はないが、領主の妻と言うものの負担が大きいなら、彼女を支える者が必要となるかもしれない。 そう考えた。 考えながら……疑問に思った。
「そんな都合の良い、万能な人間いるのか?」
「……さぁ、私がお付き合いしたい女性です!」
「……」
「……」
「……なるほど、見合いの釣り書きはルーカスお前に譲ろう。 とにかく、俺は屋敷に戻る」
「ちょ、待ってくださいよ! 講師の方を無駄に待たせるわけにはいかないんですから」
ルーカスは、メモ書きのような手紙をサラサラと書き、口笛を吹いたかと思えば大型の猛禽系の鳥が飛んできた。
「これを殿下に届けるように」
そして、急いでパーシヴァルのあとを追いかけた。
ルーカスからの手紙を受け取ったライオネルは、唸り声と共に頭をかいた。
「殿下、いかがなさいましたか?」
「気にしなくていい。 とにかく熱いコーヒーを頼む」
ライオネルは頭の中で整理する。
パーシヴァルは、とにかく支援金を返済して離縁したかった。 だが、離縁するような婚姻関係はない。
なら単純に金を返したいだけと言うことになる。
シヴィルは6年前……ヴァルが学園を卒業し戦場に出た頃、シヴィルの父親は婚姻事実が無かった事を前ヘルムート伯爵に告げ、娘をヘルムート家から引き取った。
その後、薬師としての才能を、他の貴族を通じて王宮に売り込んだことで、シヴィルは王宮勤めを始め、その翌年には母上付きの薬師にまで出世する。
ライオネルは、シヴィルが王宮にとって重要な人間であることを配慮し、昨晩の別れ際、離婚云々の話は余所に、シヴィルに問うた。 (※まだ、パーシヴァルの恋心を聞いていないため)
「ヴァルが、パーシヴァルが、受けた支援金を返したいと言っているのだが?」
「それは父が、閣下に残したものですから受け取る訳にはいきません。 衣食住完備、研究部屋まで頂き、その上十分なお給料まで頂いているのですから、私はこれ以上金銭を必要としていません。 ですので、返す返さないと言うやり取りは面倒で……、正直言えばお会いしたくは……」
そっと視線を背けるシヴィル。
曖昧に誤魔化してはいたが「会いたくないんだ!!」と、きっぱり言われたと同じ。
こうなると学園時代にパーシヴァルに色々と借りを作ったと言っても、無神経に彼の行動を応援するわけにはいかないものだ……と……ライオネルは大きな溜息をついた。
パーシヴァルは、王都の端にある屋敷へと向かう。 必死に後を追う、ルーカスを無視してただまっすぐ見つめた。
学園にいたころ、こっそり寮を抜け出しシヴィルを見に来ていた。 そのころの手入れされた屋敷の面影はない。
馬をおり、手綱を放り捨てれば、ルーカスが慌てて馬の手綱を受け取った。
玄関先は固く閉ざされており、パーシヴァルは混乱しつつも大きな声で目的の人物を呼ぶ。
「父上!!」
窓から見えるのは、薄暗く使われている様子の無い屋敷。
「おや、どうしたんだね?」
作業着に身を包んだ父が、野菜を入れた籠を手に屋敷の横手から顔をだす。
どうなっているんですか!
激しく問いただすつもりだった。
だが、使用人は再びいなくなり、年齢以上においた姿の父。 だが、その父はとても穏やかな様子で……呆気にとられた。
「父上こそ、どうなされたのですか」
前ヘルムート伯爵は困ったように笑う。
「何、私も色々とあったんだよ。 朝食は?」
「食べてきました」
「なら、お茶でも一緒にどうかね?」
「えぇ」
困ったなと言う顔をするルーカスにも、元伯爵は声をかける。
「君も、おいでなさい」
「どうしたんっすか? 大将。 難しい顔をして」
モンモンと考え込むパーシヴァルから、距離を置き若い騎士達が朝食を静かに食べていれば、苦笑交じりに彼の副官が近寄ってきた。
「なんでもない」
「何でもないって様子じゃないでしょう。 まさか大将のために組まれた領主講習から逃げるつもりですか?」
男は、冗談を言ったつもりだったが、パーシヴァルの返事はなく
おぃおぃ、勘弁してくれよ大将。
俺、これからも大将の補佐を命じられているんっすから。
心の中で、祈るように言う。
彼は『ルーカス・ターラント』 騎士育成のための学園の同期であり、戦場ではパーシヴァルの副将を務めた男だ。 いかにも無骨で直情的な戦士であるパーシヴァルと違い、ルーカスは吟遊詩人と言っても通じるような容姿をしていた。
背の高い細身の体躯。
男性としては高い声。
同じ軍服を着ていても、パーシヴァルよりもオシャレに見える。
「オマエに、関係ない」
「そういう訳にはいきませんよ。 何しろ、戦闘しか能がないアナタの補佐を、今後も務めるよう指示を受けていますからね。 で、まずは領主業を身に着けるまでの見張りが、俺の仕事なんですよ。 余り面倒をかけないでください」
流石に『得意なものが得意な業務をすればいい!』と、放り出す訳にもいかず、パーシヴァルは唸る。
「領民に迷惑をかけないでくださいよ」
ルーカスが真剣に言えば、ムッとしながらパーシヴァルは答えた。
「少し、屋敷に用事ができただけだ」
ルーカスは、くわぁ!!と目を見開き、パーシヴァルへと詰め寄った。
「どうしたんですか?! 学生中、見習い中、コソコソ屋敷は見に行くだけで、扉をくぐれなかった人が!!」
手紙を書いては捨て、書いては捨てをしたあげく、こっそり出かけるパーシヴァルが気になり、殿下と共にヒッソリと後をつけ経験のあるルーカスは、盛大に驚いてみせた。 ちなみに手紙はいつも途中で燃え捨てられていた。
「なぜ、それを……いや、いい、なんでもなくて……そうじゃなくて、あぁ、えっと、父に聞きたい事が出来ただけだ」
「アナタの口から、身内のことを初めて聞きましたよ。 どうしたんです? 王宮医に見てもらいますか? 数年前から若くて美しい薬師がいると有名なんですよ! ついていきますよ!!」
ヘラリとにやけながらルーカスが言えば、明らかにイラついた様子を向けられた。
「やめてくれ、俺には……妻がいる」
「はっ?」
「学生時代、ずっと一緒でしたよね?」
「それがどうした?」
「殿下が、騎士団の護衛を無数に連れて歩くのがうっとうしいと、俺と大将が常にお守りしていましたよね? 戦場に出るようになってからも、ずっと一緒だったじゃないですか!」
「だから、どうしたと聞いている!」
「水臭いじゃないですか。 結婚なさったんなら言ってくださいよ」
「学園に入学する前だ」
「いやいや、だからって……」
業務上、それこそ四六時中一緒にいた。 そんな自分が知らないのはオカシイのでは? と、 だが、遠征途中の街で女性が好みそうな店を気にしているのを、幾度となく見た覚えがあった。
そうか、とうとう脳内彼女を作ったか……。
長の付き合いであるルーカスは、そう収める事にした。 それほど目の前の男と恋愛と言うものが、連想つかなかったのだ。
「それで今日の予定ですが、領地受領の手続き、帳簿の閲覧と説明を聞き、領主として領地運営に必要な講義、それと礼儀作法の見直し、後は順次お見合いを勧め。 来週中には領地の代表者との面談が計画されています」
「……領地運営に必要なことは勉強する。 だが、見合いとはなんだ……」
ジトっと恨めしそうに睨んでくれば、
「俺が計画した訳ではありませんよ。 各領地から釣り書きが次々と送られて来るんです」
「うちが金に困っていた頃には、近寄りもしなかったくせに」
「そりゃぁ当然でしょ。誰だって自分が大事なんですから」
「とにかく見合いは却下だ!! 俺には妻がいる!」
「わかってますって!!」
生温かな視線が向けられ、パーシヴァルは脱力した。
「本当にわかっているのか? とにかく見合いはせんよ」
「はいはい、奥方様がいらっしゃるからですねぇ~。 ですが、領地運営を行う以上、共に歩いて下さる方が必要なんです! 特に大将のように強面な領主では、緩衝材の役目を果たす方が必要です。 それだけでなく、普通に生きる事が不慣れな大将を支え、足りない知識を補い、村人との付き合いをしてくれる方が必要なんですよ!!」
パーシヴァルは、考え込んだ。
シヴィルがどんな女性に育っているか分からない。 シヴィル以外の女性に興味はないが、領主の妻と言うものの負担が大きいなら、彼女を支える者が必要となるかもしれない。 そう考えた。 考えながら……疑問に思った。
「そんな都合の良い、万能な人間いるのか?」
「……さぁ、私がお付き合いしたい女性です!」
「……」
「……」
「……なるほど、見合いの釣り書きはルーカスお前に譲ろう。 とにかく、俺は屋敷に戻る」
「ちょ、待ってくださいよ! 講師の方を無駄に待たせるわけにはいかないんですから」
ルーカスは、メモ書きのような手紙をサラサラと書き、口笛を吹いたかと思えば大型の猛禽系の鳥が飛んできた。
「これを殿下に届けるように」
そして、急いでパーシヴァルのあとを追いかけた。
ルーカスからの手紙を受け取ったライオネルは、唸り声と共に頭をかいた。
「殿下、いかがなさいましたか?」
「気にしなくていい。 とにかく熱いコーヒーを頼む」
ライオネルは頭の中で整理する。
パーシヴァルは、とにかく支援金を返済して離縁したかった。 だが、離縁するような婚姻関係はない。
なら単純に金を返したいだけと言うことになる。
シヴィルは6年前……ヴァルが学園を卒業し戦場に出た頃、シヴィルの父親は婚姻事実が無かった事を前ヘルムート伯爵に告げ、娘をヘルムート家から引き取った。
その後、薬師としての才能を、他の貴族を通じて王宮に売り込んだことで、シヴィルは王宮勤めを始め、その翌年には母上付きの薬師にまで出世する。
ライオネルは、シヴィルが王宮にとって重要な人間であることを配慮し、昨晩の別れ際、離婚云々の話は余所に、シヴィルに問うた。 (※まだ、パーシヴァルの恋心を聞いていないため)
「ヴァルが、パーシヴァルが、受けた支援金を返したいと言っているのだが?」
「それは父が、閣下に残したものですから受け取る訳にはいきません。 衣食住完備、研究部屋まで頂き、その上十分なお給料まで頂いているのですから、私はこれ以上金銭を必要としていません。 ですので、返す返さないと言うやり取りは面倒で……、正直言えばお会いしたくは……」
そっと視線を背けるシヴィル。
曖昧に誤魔化してはいたが「会いたくないんだ!!」と、きっぱり言われたと同じ。
こうなると学園時代にパーシヴァルに色々と借りを作ったと言っても、無神経に彼の行動を応援するわけにはいかないものだ……と……ライオネルは大きな溜息をついた。
パーシヴァルは、王都の端にある屋敷へと向かう。 必死に後を追う、ルーカスを無視してただまっすぐ見つめた。
学園にいたころ、こっそり寮を抜け出しシヴィルを見に来ていた。 そのころの手入れされた屋敷の面影はない。
馬をおり、手綱を放り捨てれば、ルーカスが慌てて馬の手綱を受け取った。
玄関先は固く閉ざされており、パーシヴァルは混乱しつつも大きな声で目的の人物を呼ぶ。
「父上!!」
窓から見えるのは、薄暗く使われている様子の無い屋敷。
「おや、どうしたんだね?」
作業着に身を包んだ父が、野菜を入れた籠を手に屋敷の横手から顔をだす。
どうなっているんですか!
激しく問いただすつもりだった。
だが、使用人は再びいなくなり、年齢以上においた姿の父。 だが、その父はとても穏やかな様子で……呆気にとられた。
「父上こそ、どうなされたのですか」
前ヘルムート伯爵は困ったように笑う。
「何、私も色々とあったんだよ。 朝食は?」
「食べてきました」
「なら、お茶でも一緒にどうかね?」
「えぇ」
困ったなと言う顔をするルーカスにも、元伯爵は声をかける。
「君も、おいでなさい」
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