偽りの婚姻

迷い人

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1章 遺産

09.遺産 後編

 その頃には、フラリと国に戻ってきたあの男と酒を飲むまでの関係になっていてね。 まぁ、嫌いだの、反吐が出るの、いつも不満を言われ続けたけど。 ソレはソレで楽しかったよ。 

あの子パーシヴァルは、ズイブンと戦場で活躍しているようだ」

「君は、千里眼の持ち主なのかい?」

「そんな便利なものを持っていれば、苦労はせん」

 酒を飲み素が出れば口が悪くなるあの男は、危なっかしい仕事のやり方ばかりをしていてね。 いつか死んでしまうのでは? と、いつも心配していたものさ。 彼は私をソレほど嫌っていなくて、嫌えないのが嫌いだと言っていたな。

 そう語れば懐かしそうに笑った。

 何時の間にか、私は彼を親友のように、弟のように感じていたんだ。

「いい加減、危険なことは辞めて国に落ち着いてはどうなのかね? 君は一生生きているぐらいの金は稼いでいるだろう?」

「それは……まぁ、色々出費もあるから……」

「息子のことなら、もう大丈夫だろう?」

「これを最後にするよ」

 男は覚悟を決めたように、笑っていたよ。

 さっき語った隣国の事情は彼からもたらされたといっただろう? 彼はね隣接する各国の上層部に不信感を植え付け、連携を断ち、ついでに補給路を断ってしまおうとしたんだ。 ほら、南方に荷物を送るには国を渡る必要があるからね。

 パーシヴァルとルーカスは顔を見合わせた。 一時から、急に戦場が乱れだし、敵が弱体化したのは、誰よりも彼らが知っていた。

「すべてを断つことは無理だが、あの子なら、アイツの息子なら、私が作った機会を絶対に無駄にすることはないさ。 なぁ、戦争が無い時代を作ったって、アイツに自慢したらさ、どんな顔をするだろうな。 もう2度とアンタにアイツは渡さないから」

 酔っぱらいながら、彼は凄く得意げに笑って、何度も言っていたよ。

 多分、そのときには死を決意していた。 いや、ずっと彼女に会いたかったんだろうね。



 そして、マノヴァ商会会頭は西方にある国の1つで、王族との駆け引き中に、彼が想定していなかった出来事が起こったんだ。 彼の見目の良さに惚れた王族女性が、彼に騙されたと、名誉を傷つけられたと、彼を捕えさせてしまった。 彼には部下は沢山いたけれど、その多くは利害関係と……彼は言っていたし、彼の解放に誰かが動いたか? と言われれば、私には確認しようもないことでね……。

 彼の能力、彼の持つ財産、外見の良さなどから、彼を欲しがるものが多かったらしいが、ソレを良しとすることはなく、彼は断頭台へとのぼることとなったんだ。

「パーシヴァル」

 呼ばれて神妙な顔をすれば、

「あの男もシヴィルも、必要ないとは言うだろうけど、オマエはあの男の恩を忘れてはいけないよ。 もし、シヴィルが助けを求めてきたなら、あの男の代わりに守ってやっておくれ」

「はい……」

 そして、パーシヴァルはシヴィルを探すことを諦め、それでも諦めきれず、自分を誤魔化すように領主教育に集中した。





 王宮内、コロコロと女性達が笑う声が聞こえた。
 長い自粛を経て、人々は栄華を取り戻そうとしている。

「いいですねぇ~。 女性で華やかな王宮」

 ルーカスが言えば、殿下とパーシヴァルが肩を竦める。

「「そう(です)か?」」

 女性達に追い回された3人は、渡り廊下の壁の陰に隠れ女性達が通り過ぎるのを待っていた。

 パーシヴァルはアレ以降、殿下にシヴィルのことを語ることはせず。 殿下もまた、パーシヴァルに問う事はなかった……ルーカスから報告は受けていたが。 そして、わざわざシヴィルが同じ王宮内にいることも伝える事はしなかった。

 クスクスと女性達が笑う声が聞こえる。

「王妃様のお気に入りらしいけど、なんて見すぼらしい」
「貧乏なら、貧乏なりのドレスでも着れば良いものを」
「王妃様も王妃様ですわ。 あのようなものを側におくなんて……」
「それなら朗報ですわ」
「なんですの?」
「侯爵家が、王妃様のために実績のある治療師を招いたそうよ」
「それはどんな方ですの?」
「とても、素敵な方と聞いていますわ」

 そんな話を耳にすれば、誰が何を言われているか分からないが、3人ともが不快な気分を胸に抱いた。

 大きな箱を2段重ねに持った人物は、執事のような恰好をした上に白衣を着ている。

 男装の女性を見て、パーシヴァルは母を思い出し自然と頬が緩んでいた。

 ドンっ、

 女性達が、ドミノのように倒れ盛大な転倒の音と悲鳴が響く。

「あら、ごめんなさい。 前が見えませんでしたの」

 文句を返そうとする令嬢達に、女性は矢継ぎ早にいった。

「暇そうに道を塞がないでくださらない? 無駄話ならカフェでもできますでしょう? あぁ、違いますわね……。 殿方を仕留める邪魔をしたのかしら? それは、申し訳ない事をしてしまいましたわ。 ごめんなさい」

 物陰に隠れていた3人はこらえきれずに笑いだす。

「荷物を持つのを手伝わせてくれるかな? お嬢さん」

 パーシヴァルはそう声をかけながら、返事を聞くこともなく2段重ねの箱を奪うように持った。

「お嬢さんなんて失礼な方ですわね」

 目の前を塞いでいた2段重ねの箱が取り除かれて、2人は顔を見合わせた。

 シヴィル?!

 幼い頃の面影を十分に残している女性に、パーシヴァルの鼓動が早まった。

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