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1章 遺産
11.今
季節は初夏を迎え、日毎に暑さを増している。
この季節になると、格式ばった貴族の礼服・ドレスが負担になり、倒れる者が出てくる。 貴族女性達が来ている流行りのドレスは、身体のメリハリを故意に作り上げる事から失神者が後を絶たない。 そもそも貴族令嬢の伝統では、この気絶も女性らしさとしての一環だと言う。
理解できませんわ。
シヴィルは、最近仕事を増やす要因となっている令嬢達を思い出し、深い溜息をついた。
3か月前、戦争を終えて戻ってきた一般兵は、疲弊しながらも笑顔で故郷へと帰っていった。
戦場となっていた南方境界地域は、湿地帯が多くその土地を獲得しても利益にはならないと言われている。 王国内には、存在していない環境なため、国内の学者が出向き利用価値を探るらしいが、それもまだ先の話になりそうだ。
今は……、裏から戦争に加担していた東方西方北方に隣接する国を、いかに締め上げ、同盟を破綻させるか? 財産を奪うか? が、殿下達、国の上層部の仕事なのだという。 苦労をかけた民や、褒章を十分に与えることが出来なかった騎士達に還元するだけのものが欲しいと言う話だ。
上層部の目的にとって欠かせない、最も重視され、手札とされているのが『父が得ていた情報』だ。 そして父の情報は、私の中にだけ存在している。
私にとって父との会話は、幼い頃から緊張の伴うものだった……。
父に好かれたかったから。
父に引き取られたばかりの頃、数か月に渡って他国を巡る行商についていったことがある。 日を眺め、月を眺め、土地を眺め、人を眺め、国を眺める。
「シヴィは、どう思うかな?」
そう問われた私は、父に好かれたくて必死に話し続けた。 それをずっと静かに笑いながら聞いてくれていた。 父は、父にとって重要と思われる局面以外で、私の話を否定することはない。
「他の視点から見て見ると、違ったものが見えないかな?」
一口齧ったリンゴをグルっと回しながら父は言う。 時に、枯れかけた花の、美しい面、汚れた面、変化していくところ、花には関係ないところ、それを見せながら父は問いかけてくる。
「シヴィには、どう見える?」
そして私が伝えた後、自分にどう見えるかを伝え。
「面白いよね。 同じものを見てもシヴィと私では見えるものが違うのだから」
最初の旅を終えた後からは、父と会うのは数か月に1度となった。 だけど、会えば彼が見てきた出来事を、物語仕立てで語ってくれた。 それが嬉しくて中々寝付かない私を、父は最後にはいつも苦笑交じりに笑い、そろそろ寝てくれないかと懇願してきた。
そんな思い出の全てが、私を守る財産となっている
私が、不躾で尊大で、無遠慮で常識をわきまえない人間だから、殿下と会話している訳ではなく、父が殿下とも、いや王とも対等に話をできるだけの情報と知識を私に残してくれたのだ。
それらは連絡が取れる最後まで暗号化され私の元に届いた。 覚えたら燃やしなさいと、言われていた。 それでも1つだけ残したモノがある。
『普通の親にはなれなかったけど、私は私なりに、私のやり方で君を愛していたよ』
死の直前に一方的な手紙で言うなんて卑怯だと思った。 私だって、他の親とは違う父が好きだった。 尊敬していた。 他人がなんて言おうと誇りに思っていた。
最近、父からの情報を殿下に伝える機会が増えている。
正直……落ち込む。
寂しい気分になってしまう。
「パパに会いたいなぁ……」
情けないが、子供のようにそう思う事がある……。 放っておくと何処までも甘やかしてくるパパ。 ソレを甘やかしは良くないわと叱るのは、いつも私の方だった。
よし、王妃様と殿下にお休みを貰えるように頼もう。
そんなことを考えた矢先に……ずっと避けていた人と出会った。
父が、その成長を賭けた男。
父が、愛し崇拝すらしていた女性の子。
パパの息子。
私は、自分を不幸に思った事はなかった。
その男に嫉妬を覚えるまでは……。
子供じみた嫉妬だとわかっている!!
どう考えても、自分とは別の生き物相手に、比べようがなく、張り合う術もない?!
分かっている。
分かっている。
分かっている。
私は、その男を前に自分に言い聞かせる。
自分の品性を落とすな!!
それでも……意地悪せずにはいられなかった……。
「はぁ……」
溜息をつけば、一緒に歩いていたルーカスが声をかけてきた。
「疲れている?」
「そうね、一気に疲れたかもしれませんわ」
そう答えればルーカスは苦笑した。
「すみません。 うちの大将が」
「そういう所が嫌なのよ!!」
不満を言えば、また謝ってきた。
「あ~~~、私が彼だったら良かったのに!!」
「爵位なら差し上げますよ」
「いりません!!」
子供のように、ただ感情のままにグズグズと不満を述べるシヴィルに、ライオネル殿下とルーカスは顔を見合わせ苦笑する。
先は遠いですねぇ。
目的地の蜃気楼すら見えそうにない。
そんな言葉にしない会話など、シヴィルは知らない。
この季節になると、格式ばった貴族の礼服・ドレスが負担になり、倒れる者が出てくる。 貴族女性達が来ている流行りのドレスは、身体のメリハリを故意に作り上げる事から失神者が後を絶たない。 そもそも貴族令嬢の伝統では、この気絶も女性らしさとしての一環だと言う。
理解できませんわ。
シヴィルは、最近仕事を増やす要因となっている令嬢達を思い出し、深い溜息をついた。
3か月前、戦争を終えて戻ってきた一般兵は、疲弊しながらも笑顔で故郷へと帰っていった。
戦場となっていた南方境界地域は、湿地帯が多くその土地を獲得しても利益にはならないと言われている。 王国内には、存在していない環境なため、国内の学者が出向き利用価値を探るらしいが、それもまだ先の話になりそうだ。
今は……、裏から戦争に加担していた東方西方北方に隣接する国を、いかに締め上げ、同盟を破綻させるか? 財産を奪うか? が、殿下達、国の上層部の仕事なのだという。 苦労をかけた民や、褒章を十分に与えることが出来なかった騎士達に還元するだけのものが欲しいと言う話だ。
上層部の目的にとって欠かせない、最も重視され、手札とされているのが『父が得ていた情報』だ。 そして父の情報は、私の中にだけ存在している。
私にとって父との会話は、幼い頃から緊張の伴うものだった……。
父に好かれたかったから。
父に引き取られたばかりの頃、数か月に渡って他国を巡る行商についていったことがある。 日を眺め、月を眺め、土地を眺め、人を眺め、国を眺める。
「シヴィは、どう思うかな?」
そう問われた私は、父に好かれたくて必死に話し続けた。 それをずっと静かに笑いながら聞いてくれていた。 父は、父にとって重要と思われる局面以外で、私の話を否定することはない。
「他の視点から見て見ると、違ったものが見えないかな?」
一口齧ったリンゴをグルっと回しながら父は言う。 時に、枯れかけた花の、美しい面、汚れた面、変化していくところ、花には関係ないところ、それを見せながら父は問いかけてくる。
「シヴィには、どう見える?」
そして私が伝えた後、自分にどう見えるかを伝え。
「面白いよね。 同じものを見てもシヴィと私では見えるものが違うのだから」
最初の旅を終えた後からは、父と会うのは数か月に1度となった。 だけど、会えば彼が見てきた出来事を、物語仕立てで語ってくれた。 それが嬉しくて中々寝付かない私を、父は最後にはいつも苦笑交じりに笑い、そろそろ寝てくれないかと懇願してきた。
そんな思い出の全てが、私を守る財産となっている
私が、不躾で尊大で、無遠慮で常識をわきまえない人間だから、殿下と会話している訳ではなく、父が殿下とも、いや王とも対等に話をできるだけの情報と知識を私に残してくれたのだ。
それらは連絡が取れる最後まで暗号化され私の元に届いた。 覚えたら燃やしなさいと、言われていた。 それでも1つだけ残したモノがある。
『普通の親にはなれなかったけど、私は私なりに、私のやり方で君を愛していたよ』
死の直前に一方的な手紙で言うなんて卑怯だと思った。 私だって、他の親とは違う父が好きだった。 尊敬していた。 他人がなんて言おうと誇りに思っていた。
最近、父からの情報を殿下に伝える機会が増えている。
正直……落ち込む。
寂しい気分になってしまう。
「パパに会いたいなぁ……」
情けないが、子供のようにそう思う事がある……。 放っておくと何処までも甘やかしてくるパパ。 ソレを甘やかしは良くないわと叱るのは、いつも私の方だった。
よし、王妃様と殿下にお休みを貰えるように頼もう。
そんなことを考えた矢先に……ずっと避けていた人と出会った。
父が、その成長を賭けた男。
父が、愛し崇拝すらしていた女性の子。
パパの息子。
私は、自分を不幸に思った事はなかった。
その男に嫉妬を覚えるまでは……。
子供じみた嫉妬だとわかっている!!
どう考えても、自分とは別の生き物相手に、比べようがなく、張り合う術もない?!
分かっている。
分かっている。
分かっている。
私は、その男を前に自分に言い聞かせる。
自分の品性を落とすな!!
それでも……意地悪せずにはいられなかった……。
「はぁ……」
溜息をつけば、一緒に歩いていたルーカスが声をかけてきた。
「疲れている?」
「そうね、一気に疲れたかもしれませんわ」
そう答えればルーカスは苦笑した。
「すみません。 うちの大将が」
「そういう所が嫌なのよ!!」
不満を言えば、また謝ってきた。
「あ~~~、私が彼だったら良かったのに!!」
「爵位なら差し上げますよ」
「いりません!!」
子供のように、ただ感情のままにグズグズと不満を述べるシヴィルに、ライオネル殿下とルーカスは顔を見合わせ苦笑する。
先は遠いですねぇ。
目的地の蜃気楼すら見えそうにない。
そんな言葉にしない会話など、シヴィルは知らない。
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