偽りの婚姻

迷い人

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2章 薔薇乙女の乱

18.鈍感と言う名の罪に彼女はまだ気づかない 中編

 国一番の武人であるはずのパーシヴァル・フォン・ヘルムートの執務室を目の前に私は首を傾げた。 王宮内でこれほどまで安全な場所が存在しているのか? と言うような場所にも関わらず、入り口には4名の騎士が、入り口の前に立っていた。

 ここに来るのは初めてで、キリッと緊張を維持している騎士の姿を見れば、場違いな場所に来た気がした。 いや、多分そう思いたいだけ……だって、さっきからお忙しいなら時間を改めるべきでは? 等、必死に言い訳ばかりを思い浮かべているから。

 そして結局、引き返そうとすれば、声がかけられる。

「シヴィル様」

 初対面の騎士に名を呼ばれ、ビクッとする。
 何か名を覚えられるような問題行動したかしら?

 ……しているわね……。

 彼等の上司である人物への態度を思い出していた。

 立ち止まった私は、苦笑と共に振り返る。 騎士の方々は貴族出身なのだから、出自不明の薬師である私に『様』をつけるのは礼儀としては間違い。

「シヴィルで結構ですわ」

「そのようなわけにはいきません、勘弁してください」

 顔を見合わせた騎士達は、必死になって拒絶する。 最近、他者との関係に滞りができやすいのが問題だ……。 医師ではなく薬師だが、日ごろから人々の様子を知ることもまた勉強なのに……。

「それで、何か用かしら?」

「えっ? シヴィル様が閣下に御用がおありなのでは?」

「いえ、面会をお願いしたのは、ルーカス様ですの」

「閣下ではなく?」

 しつこく繰り返されれば、なぜ? と首を傾げる。

「いえ、お茶の約束をしたからとおっしゃっていたもので」

「えぇ、ルーカス様の用事を終わらせた折にはぜひ」

 そういえば、安堵の表情を騎士達は見せた。

「それは……ルーカス様と……お話したいというか……お伺いしたいことがありまして……。 呼び出していただけませんか?」

 少しだけかわい子ぶって両手を合わせ、視線に媚びを含ませる。 そういうのは苦手だが、お願いごとをさせたがるパーシィの要求から考えるに、男性はこういうのが好きなのだろうと想定したのだ。 ……だが、なんだか思っていた反応とは真逆で、騎士の人達は赤くならずに青ざめた……。

 母さん似の美人だと、父は褒めてくれたのだが……どうやら子供可愛さに色々ともっていたらしい……軽く落ち込むと同時に、私は自分の辞書から媚びると言う文字を破りすてた。



 5m程離れた場所で、壁に背を預けてルーカス様を待つ。

「何々?」

 部屋の外に出てきたルーカスは、騎士に告げられ私の方へと視線を向けた。

「どうしたんです? 先生」

 笑顔で歩みよってくるのを見て、無言のまま視線をルーカス様へと向け頭を下げ、執務室の扉とは逆方向へと向かい歩き出せば、その意図を汲んでくれたのか後についてきてくれた。 どれくらいの距離をとれば平気なのか? いや、何をもって平気とするのか分からないが……、それでも何となく後ろめたさから距離をおいてしまう……。

「こらこら、どこまで行くんです!」

 笑いながら言われれば、恥ずかしい……。

「聞きたい事がありますの」

「聞きたいこと?」

 声を小さく言えば、自然と距離が近くなり少しだけ困った気分になるが、それでも今はその方が都合いい。

「……ここだけの話で収めて頂きたいのです……」

「先生からのお願いなら、お断りすることもありません」

「あの……、殿下のことなのですが」

「殿下ですか? 閣下ではなく?」

「はい……」

 しゅんっと頭を下げれば、穏やかに微笑まれる。

「俺の分かる事であれば、お答えしますよ」

「あの……殿下は女性と、関係を持つことができるのでしょうか?」

 そう問えば、ポカンと言う言葉がぴったりな顔をされた。

「ソレを問う理由をお伺いしてもよろしいですか?」

 冷静さを保つも、内心はもしかして殿下に恋心を抱き聞いているのでは?! と言う思いに鼓動が早まる。 万が一万が一だ……、シヴィルが他の男性をえらんだなら、上司はどう反応するだろうか……。 殿下は、殿下は辞めていただきたい。 他の者なら、恋になる前に距離を取らせるか……最悪抹殺できるのに……。

 祈るしかなかった。

 だが、語られる話は……ルーカスにとって笑い話であった。

「……なるほどねぇ……大丈夫ですよ。 あの方は世間一般の男性と同程度には女性好きですし、金もあるので結構な頻度で夜の街を歩いているよ」

「それはソレで……、知らぬ間にお子がと言う……」

「身分を隠していますし、そういうお店はしっかりと避妊がなされていますから。 子が出来ては商売になりませんからね」

「……よく知っておられますわね」

「あははははは」

 笑って誤魔化した。

「でも、安堵いたしましたわ。 ただ、王妃様は世間知らずで、潔癖なところがございますから、ソレをそのまま伝えて良いものかどうか……」

「なら、本人に丸投げをするのが良いでしょう。 丁度、殿下がきていらっしゃいますし、折角ですのでお話をなさっていきませんか?」

「お邪魔にならないかしら?」

「なりませんよ」

「丁度、先生のところから逃げた騎士の話をしているところですし」

「それは、私がうかがってよい話なのかしら?」

「問題あれば、話を変えますよ。 上司にとってアナタとの時間が最も大切なのですから」

「そこまで言っていただくのもおかしな話ですわ。 本当の兄妹でもございませんのに」

 まだ、その設定から抜けていないのかと思えば、苦笑するよりも同情するルーカスだった。

「あの、パーシィとお茶の約束をしておりましたの、タルトを作ってきましたから切り分けて出していただけるかしら?

「それは……先生の手作りですか?」

「えぇ」

「上司も喜びますよ」





***************************

 いるのは分かっていたが、なかなかシヴィが部屋に入ってこない。 なぜ、俺ではなくルーカスなんだ? パーシヴァルは悩んでいた。 進展しない関係に焦っていた。 正直苛立ちを覚えていた。 諦めた方がいいのか? なんて思ったりもしたが……諦められるわけもない。

「アンヴィル子爵家には、未だ連絡もなく、死体を発見したという報告もない。 配属を受けて荒れていたらしいが、彼自身は馬以外の友達はいなかったらしい……。 行きつけの風俗店でも、情報はなし」

 シヴィの部下として配属された本物の方の情報報告を、パーシヴァルは投げやりに読み上げ、そして溜息を間に再び読み上げ続けた。

「えぇっと……、今のところは何の痕跡もなく、行方不明としか言いようがないらしい」

「気になるなら、迎えにでればどうですか?」

「いや……それは、干渉し過ぎにならないだろうか?」

「目の前でイライラされるよりは、出てくれる方がありがたいですね」

 質問の答えにならない答えに溜息をつき、報告書に2人目を通した。 主に聞き取り調査を中心にしたものだが……。 どうにもうまく情報を聞き出せているようには思えない。

「やはり、情報の専門家がいないのは、厳しいものですね……」

「情報が必要となってから調べても、後手になるってやつだな」

 シヴィルの父がいた頃は、有象無象の無駄としか思えない情報まで集められ管理されていた。 聞けばその場で、何らかの情報が得られたと、シヴィルの父と面識のある年配の騎士団長は言っていた。

 代わりをと言っても簡単な話ではない。

 情報屋として表に出ていたのはシヴィの父のみだが、情報源はそれこそ無限と言ってよかった。

「その情報源が使えれば良いのですけどねぇ」

 殿下が口にだせば、自然と視線は廊下へと向けられ、パーシヴァルも自然と視線の後を追っていた。



 ようやく扉が開く。

「上司、お客様です」

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