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2章 薔薇乙女の乱
20.叔母への仕置き 前編
半年ほど前から王都がきな臭い。
薬、人身売買、王都への密入斡旋、自らの立場を優位にするため、貴族・商人達が呪術師・魔女等を積極的に雇用しはじめた。
それら悪行の原因には、裏社会を脅し見張り続けてきたマノヴァ商会の消滅がある。
今頃になって? と、因果関係を否定する者もいるが、マノヴァ会頭の跡継ぎがいないことを確認するまで、時間が必要だったのだ。
会頭には、子がいた。
多くの部下や弟子がいた。
誰かが彼の志を継いだならば、人々は弱みを握られたままと言えるだろう。 だが、部下はそれぞれが独立し、各地に散った。 情報を扱う弟子は、恐れ敬うべき主から解放されたことで、自らがもつ情報を悪用する者も少なくなかった。 知恵無き者に過大な力(情報)は、毒にしかならず多くの者がこの世から消えた。
最も、懸念とされていた会頭の子は、娘と言う者もいれば、息子と言う者もいる。 だがそれ以上に、10歳から会頭の子の姿は見られなくなっており、殺害されたのではないか? と、噂されている。
王都の平和は緩やかに揺らいでいた。
そして、今日の王太子ライオネルは非常に不機嫌だった。
ソファにふんぞり返ったライオネルは、ことあるごとにパーシヴァルやルーカスに八つ当たりをしていた。 2人はライオネルの八つ当たりを、いつものことと軽く聞き流す。 ライオネルは聞き流して欲しくて来ているのだから、対応としては正しい。
何しろ「コーヒーがぬるい!!」と文句を言えば、コーヒーを出した侍女の顔を見ることは2度となくなるし、扉の開け閉めが煩いと言えば、土下座謝罪が行われ、余計にイライラが募るのだ。
「報告が甘いんですよ!!」
パーシヴァルの執務室でライオネルは声を荒げていた。
昨日、興奮作用の伴うアヤシイ薬を服用していたと噂される3名の騎士が王宮内で暴れだし、問題となっている。
王宮内での3件のうち2件は死亡。
1件は牢で拘束監禁されている。
そして王都内でも同様の事件が起こっていたと今朝方報告があったのだ。 拘束監禁を行った相手は、薬が抜けるのを待ち事情を聴く予定となっている。
「呪術師による状態解除は試したのですか?」
「時間をかけた薬物使用による変化は、呪術師の専門外だそうだ」
「薬の出どころは?」
「今、3名の騎士達の行動調査中。 とはいえ騎士……いや、貴族に情報収集は向かないため、初っ端から難航しているようだ。 王宮内部での行動をたどり、誰とあったかを割り出すだけでも苦労しているからな」
「そもそも、調査させている騎士達は薬をやっていないと言えるのですか?」
ライオネルの言葉に、パーシヴァルとルーカスが顔を見合わせた。
「外見上には異常は見られないが……」
「シヴィに死亡者の死体を見てもらえ」
「ぇ……」
パーシヴァルが嫌な顔をする。
「過保護か」
「過保護で悪いか」
「オマエにとっては可愛い人だろうが、シヴィはプロだ」
「ルーカス、シヴィに調査を願いでてそのまま付き添ってください」
「上司は?」
「今日は一日、私に付き添ってもらいます」
「俺とルーカスの交代は?」
「認めません」
嫌だが仕方ないと、パーシヴァルはがっくりと肩を落としつつも、パーシヴァルはルーカスに向かう。
「遺体の見分が終わった後は、執務室でシヴィを確保しておいてくれ。 王宮唯一の薬師だ狙われる可能性も配慮しなければならないからな」
「了解しました」
そして、ばたばたと3人はそれぞれの仕事に動き出す。
ライオネルの本日の予定は、非常に私的なことであった。
父である国王陛下の妹の嫁ぎ先である侯爵家へと向かう。
先んじて、面会を願い出ていた事から話し合いは直ぐにはじまった。
叔母と従妹の発言により、迷惑をこうむった事を告げる。
「大げさではありませんか? 殿下に彼女が出来ましたの? 変わった噂を聞いたのですが、どういうことですの? そう尋ねただけですわ。 国を案ずるものなら殿下の将来を心配するのは当たり前のこと、私の何が悪いと言うのですか!!」
そう告げる叔母。
従妹は黙ってうつむいていた。
「申し訳ございませんでした……」
従妹がボソリと呟く。
「2度とこのようなことがないよう、言って聞かせますので……どうか、どうか陛下には内密に!!」
「侯爵も、叔母と同じように……、私が王太子としての職務を放棄しようとしている。 そう疑いを持たれているのですか?」
「い、いえ……そんなことはございません!! 殿下がご結婚を望まれる際には、ぜひ全力をもって協力させていただく所存です」
「ふん、あの女の生んだ子供が、子を残すだけの甲斐性があるのかしら? 25ともあれば何処かに子の1人や2人いても不思議ではない訳でしょう? どうなのよ!! えぇ?」
「アナタにお伝えする必要などありません」
「わ!た!し!は、王の妹!! アナタの叔母よ!!」
「おやめなさい!!」
侯爵が妻である女性に声を荒げる。
「何よ、アナタは私の味方ではないというの!!」
「申し訳ございません。 しっかりと言い聞かせますので!!」
テーブルに侯爵は額をこすりつけていた。
「みっともない真似はお辞めなさい!! あの庶民の女の血が混じった子に比べ、東方ヨルグ国の王族を母に持つ私の方が、余程高貴な存在なのですから!!」
「アナタの所業、言葉、父の耳に入ったならどうなるか理解していらっしゃるのですか?」
「兄さまは、騙されていますのよ!! あの女にそれだけの魅力があるとは思えませんわ!!」
ライオネルは小さく笑った。
散々言われた。
これで「申し訳ありません」で終わらせる必要はない。
「オマエは!! 過去の出来事を忘れたのか!」
侯爵が顔色悪く叱咤する。
「何を偉そうに、私は王の妹ですわ! たかが侯爵家当主にそのような口の利き方をされるいわれ等ありません!!」
「叔母上は、もう少し一般教養を学ばれてはいかがですか? アナタは、私や、私の部下だけではなく、父王、王妃、そしてアナタの夫である侯爵まで侮辱していると言う事になるのですよ。 アナタは侯爵家にとついだ瞬間に、王家の役割から解放された。 王家を出奔しているんです。 今のアナタは王族でもなんでもない。 侯爵のオマケでしかないんですよ?」
嫌味たらしくライオネルはネットリとした口調で言った
薬、人身売買、王都への密入斡旋、自らの立場を優位にするため、貴族・商人達が呪術師・魔女等を積極的に雇用しはじめた。
それら悪行の原因には、裏社会を脅し見張り続けてきたマノヴァ商会の消滅がある。
今頃になって? と、因果関係を否定する者もいるが、マノヴァ会頭の跡継ぎがいないことを確認するまで、時間が必要だったのだ。
会頭には、子がいた。
多くの部下や弟子がいた。
誰かが彼の志を継いだならば、人々は弱みを握られたままと言えるだろう。 だが、部下はそれぞれが独立し、各地に散った。 情報を扱う弟子は、恐れ敬うべき主から解放されたことで、自らがもつ情報を悪用する者も少なくなかった。 知恵無き者に過大な力(情報)は、毒にしかならず多くの者がこの世から消えた。
最も、懸念とされていた会頭の子は、娘と言う者もいれば、息子と言う者もいる。 だがそれ以上に、10歳から会頭の子の姿は見られなくなっており、殺害されたのではないか? と、噂されている。
王都の平和は緩やかに揺らいでいた。
そして、今日の王太子ライオネルは非常に不機嫌だった。
ソファにふんぞり返ったライオネルは、ことあるごとにパーシヴァルやルーカスに八つ当たりをしていた。 2人はライオネルの八つ当たりを、いつものことと軽く聞き流す。 ライオネルは聞き流して欲しくて来ているのだから、対応としては正しい。
何しろ「コーヒーがぬるい!!」と文句を言えば、コーヒーを出した侍女の顔を見ることは2度となくなるし、扉の開け閉めが煩いと言えば、土下座謝罪が行われ、余計にイライラが募るのだ。
「報告が甘いんですよ!!」
パーシヴァルの執務室でライオネルは声を荒げていた。
昨日、興奮作用の伴うアヤシイ薬を服用していたと噂される3名の騎士が王宮内で暴れだし、問題となっている。
王宮内での3件のうち2件は死亡。
1件は牢で拘束監禁されている。
そして王都内でも同様の事件が起こっていたと今朝方報告があったのだ。 拘束監禁を行った相手は、薬が抜けるのを待ち事情を聴く予定となっている。
「呪術師による状態解除は試したのですか?」
「時間をかけた薬物使用による変化は、呪術師の専門外だそうだ」
「薬の出どころは?」
「今、3名の騎士達の行動調査中。 とはいえ騎士……いや、貴族に情報収集は向かないため、初っ端から難航しているようだ。 王宮内部での行動をたどり、誰とあったかを割り出すだけでも苦労しているからな」
「そもそも、調査させている騎士達は薬をやっていないと言えるのですか?」
ライオネルの言葉に、パーシヴァルとルーカスが顔を見合わせた。
「外見上には異常は見られないが……」
「シヴィに死亡者の死体を見てもらえ」
「ぇ……」
パーシヴァルが嫌な顔をする。
「過保護か」
「過保護で悪いか」
「オマエにとっては可愛い人だろうが、シヴィはプロだ」
「ルーカス、シヴィに調査を願いでてそのまま付き添ってください」
「上司は?」
「今日は一日、私に付き添ってもらいます」
「俺とルーカスの交代は?」
「認めません」
嫌だが仕方ないと、パーシヴァルはがっくりと肩を落としつつも、パーシヴァルはルーカスに向かう。
「遺体の見分が終わった後は、執務室でシヴィを確保しておいてくれ。 王宮唯一の薬師だ狙われる可能性も配慮しなければならないからな」
「了解しました」
そして、ばたばたと3人はそれぞれの仕事に動き出す。
ライオネルの本日の予定は、非常に私的なことであった。
父である国王陛下の妹の嫁ぎ先である侯爵家へと向かう。
先んじて、面会を願い出ていた事から話し合いは直ぐにはじまった。
叔母と従妹の発言により、迷惑をこうむった事を告げる。
「大げさではありませんか? 殿下に彼女が出来ましたの? 変わった噂を聞いたのですが、どういうことですの? そう尋ねただけですわ。 国を案ずるものなら殿下の将来を心配するのは当たり前のこと、私の何が悪いと言うのですか!!」
そう告げる叔母。
従妹は黙ってうつむいていた。
「申し訳ございませんでした……」
従妹がボソリと呟く。
「2度とこのようなことがないよう、言って聞かせますので……どうか、どうか陛下には内密に!!」
「侯爵も、叔母と同じように……、私が王太子としての職務を放棄しようとしている。 そう疑いを持たれているのですか?」
「い、いえ……そんなことはございません!! 殿下がご結婚を望まれる際には、ぜひ全力をもって協力させていただく所存です」
「ふん、あの女の生んだ子供が、子を残すだけの甲斐性があるのかしら? 25ともあれば何処かに子の1人や2人いても不思議ではない訳でしょう? どうなのよ!! えぇ?」
「アナタにお伝えする必要などありません」
「わ!た!し!は、王の妹!! アナタの叔母よ!!」
「おやめなさい!!」
侯爵が妻である女性に声を荒げる。
「何よ、アナタは私の味方ではないというの!!」
「申し訳ございません。 しっかりと言い聞かせますので!!」
テーブルに侯爵は額をこすりつけていた。
「みっともない真似はお辞めなさい!! あの庶民の女の血が混じった子に比べ、東方ヨルグ国の王族を母に持つ私の方が、余程高貴な存在なのですから!!」
「アナタの所業、言葉、父の耳に入ったならどうなるか理解していらっしゃるのですか?」
「兄さまは、騙されていますのよ!! あの女にそれだけの魅力があるとは思えませんわ!!」
ライオネルは小さく笑った。
散々言われた。
これで「申し訳ありません」で終わらせる必要はない。
「オマエは!! 過去の出来事を忘れたのか!」
侯爵が顔色悪く叱咤する。
「何を偉そうに、私は王の妹ですわ! たかが侯爵家当主にそのような口の利き方をされるいわれ等ありません!!」
「叔母上は、もう少し一般教養を学ばれてはいかがですか? アナタは、私や、私の部下だけではなく、父王、王妃、そしてアナタの夫である侯爵まで侮辱していると言う事になるのですよ。 アナタは侯爵家にとついだ瞬間に、王家の役割から解放された。 王家を出奔しているんです。 今のアナタは王族でもなんでもない。 侯爵のオマケでしかないんですよ?」
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