偽りの婚姻

迷い人

文字の大きさ
20 / 65
2章 薔薇乙女の乱

20.叔母への仕置き 前編

 半年ほど前から王都がきな臭い。

 薬、人身売買、王都への密入斡旋、自らの立場を優位にするため、貴族・商人達が呪術師・魔女等を積極的に雇用しはじめた。

 それら悪行の原因には、裏社会を脅し見張り続けてきたマノヴァ商会の消滅がある。

 今頃になって? と、因果関係を否定する者もいるが、マノヴァ会頭の跡継ぎがいないことを確認するまで、時間が必要だったのだ。

 会頭には、子がいた。
 多くの部下や弟子がいた。

 誰かが彼の志を継いだならば、人々は弱みを握られたままと言えるだろう。 だが、部下はそれぞれが独立し、各地に散った。 情報を扱う弟子は、恐れ敬うべき主から解放されたことで、自らがもつ情報を悪用する者も少なくなかった。 知恵無き者に過大な力(情報)は、毒にしかならず多くの者がこの世から消えた。

 最も、懸念とされていた会頭の子は、娘と言う者もいれば、息子と言う者もいる。 だがそれ以上に、10歳から会頭の子の姿は見られなくなっており、殺害されたのではないか? と、噂されている。



 王都の平和は緩やかに揺らいでいた。

 そして、今日の王太子ライオネルは非常に不機嫌だった。

 ソファにふんぞり返ったライオネルは、ことあるごとにパーシヴァルやルーカスに八つ当たりをしていた。 2人はライオネルの八つ当たりを、いつものことと軽く聞き流す。 ライオネルは聞き流して欲しくて来ているのだから、対応としては正しい。

 何しろ「コーヒーがぬるい!!」と文句を言えば、コーヒーを出した侍女の顔を見ることは2度となくなるし、扉の開け閉めが煩いと言えば、土下座謝罪が行われ、余計にイライラが募るのだ。

「報告が甘いんですよ!!」

 パーシヴァルの執務室でライオネルは声を荒げていた。



 昨日、興奮作用の伴うアヤシイ薬を服用していたと噂される3名の騎士が王宮内で暴れだし、問題となっている。

 王宮内での3件のうち2件は死亡。
 1件は牢で拘束監禁されている。

 そして王都内でも同様の事件が起こっていたと今朝方報告があったのだ。 拘束監禁を行った相手は、薬が抜けるのを待ち事情を聴く予定となっている。

「呪術師による状態解除は試したのですか?」

「時間をかけた薬物使用による変化は、呪術師の専門外だそうだ」

「薬の出どころは?」

「今、3名の騎士達の行動調査中。 とはいえ騎士……いや、貴族に情報収集は向かないため、初っ端から難航しているようだ。 王宮内部での行動をたどり、誰とあったかを割り出すだけでも苦労しているからな」

「そもそも、調査させている騎士達は薬をやっていないと言えるのですか?」

 ライオネルの言葉に、パーシヴァルとルーカスが顔を見合わせた。

「外見上には異常は見られないが……」

「シヴィに死亡者の死体を見てもらえ」

「ぇ……」

 パーシヴァルが嫌な顔をする。

「過保護か」

「過保護で悪いか」

「オマエにとっては可愛い人だろうが、シヴィはプロだ」

「ルーカス、シヴィに調査を願いでてそのまま付き添ってください」

「上司は?」

「今日は一日、私に付き添ってもらいます」

「俺とルーカスの交代は?」

「認めません」

 嫌だが仕方ないと、パーシヴァルはがっくりと肩を落としつつも、パーシヴァルはルーカスに向かう。

「遺体の見分が終わった後は、執務室でシヴィを確保しておいてくれ。 王宮唯一の薬師だ狙われる可能性も配慮しなければならないからな」

「了解しました」

 そして、ばたばたと3人はそれぞれの仕事に動き出す。





 ライオネルの本日の予定は、非常に私的なことであった。

 父である国王陛下の妹の嫁ぎ先である侯爵家へと向かう。
 先んじて、面会を願い出ていた事から話し合いは直ぐにはじまった。

 叔母と従妹の発言により、迷惑をこうむった事を告げる。

「大げさではありませんか? 殿下に彼女が出来ましたの? 変わった噂を聞いたのですが、どういうことですの? そう尋ねただけですわ。 国を案ずるものなら殿下の将来を心配するのは当たり前のこと、私の何が悪いと言うのですか!!」

 そう告げる叔母。

 従妹は黙ってうつむいていた。

「申し訳ございませんでした……」

 従妹がボソリと呟く。

「2度とこのようなことがないよう、言って聞かせますので……どうか、どうか陛下には内密に!!」

「侯爵も、叔母と同じように……、私が王太子としての職務を放棄しようとしている。 そう疑いを持たれているのですか?」

「い、いえ……そんなことはございません!! 殿下がご結婚を望まれる際には、ぜひ全力をもって協力させていただく所存です」

「ふん、あの女の生んだ子供が、子を残すだけの甲斐性があるのかしら? 25ともあれば何処かに子の1人や2人いても不思議ではない訳でしょう? どうなのよ!! えぇ?」

「アナタにお伝えする必要などありません」

「わ!た!し!は、王の妹!! アナタの叔母よ!!」

「おやめなさい!!」

 侯爵が妻である女性に声を荒げる。

「何よ、アナタは私の味方ではないというの!!」

「申し訳ございません。 しっかりと言い聞かせますので!!」

 テーブルに侯爵は額をこすりつけていた。

「みっともない真似はお辞めなさい!! あの庶民の女の血が混じった子に比べ、東方ヨルグ国の王族を母に持つ私の方が、余程高貴な存在なのですから!!」

「アナタの所業、言葉、父の耳に入ったならどうなるか理解していらっしゃるのですか?」

「兄さまは、騙されていますのよ!! あの女にそれだけの魅力があるとは思えませんわ!!」

 ライオネルは小さく笑った。
 散々言われた。
 これで「申し訳ありません」で終わらせる必要はない。

「オマエは!! 過去の出来事を忘れたのか!」

 侯爵が顔色悪く叱咤する。

「何を偉そうに、私は王の妹ですわ! たかが侯爵家当主にそのような口の利き方をされるいわれ等ありません!!」

「叔母上は、もう少し一般教養を学ばれてはいかがですか? アナタは、私や、私の部下だけではなく、父王、王妃、そしてアナタの夫である侯爵まで侮辱していると言う事になるのですよ。 アナタは侯爵家にとついだ瞬間に、王家の役割から解放された。 王家を出奔しているんです。 今のアナタは王族でもなんでもない。 侯爵のオマケでしかないんですよ?」

 嫌味たらしくライオネルはネットリとした口調で言った

あなたにおすすめの小説

お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。 だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!  愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理! 姉の結婚までにこの家から逃げたい! 相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 そう名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  ✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 ✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん
恋愛
   アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。  何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。  何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。  「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました! 大変お待たせ致しました。番外編も完結いたしました!

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
公爵令嬢として生まれながら、子ども時代からメイドや周囲の陰謀で、次々と濡れ衣を着せられ、「悪女」扱いされてきたミリアム。 第3王子との婚約を聖女に奪われ、聖女への嫌がらせの冤罪で国外追放された後、平民として生き延びる中で、何度も5年前へのロールバック(逆行)を繰り返すことに。 生計をたてる為に、追放後の平民生活で極めた針仕事が、ロールバックが繰り返されることで、針仕事の能力だけは引き継がれ、天才的な実力を手に入れる。 その時女神「アテナ」の加護を得て、2つの力を手にすることに。 「加護縫い」 (縫った布に強力な祝福を込められる) 「嘘のほころびを見抜く力」 (相手の嘘を布のほころびとして視覚的に捉え、引き抜く、または繕うことで、真実を暴いたり修正したりする) を手にしたミリアムは、5歳の幼女時代まで遡り、2つの力で悪評をぬりかえ、仲違いしていた家族も、加護の力を与えることで協力な味方へと変貌。 さらに、女神から可愛いしもべ「アリアドネ」を授かり、元婚約者と聖女にザマァを狙う中、加護縫いの能力が最も高い人間を王太子妃に迎える決まりのある大国、ルーパート王国の王子が近付いて来て……?

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?