偽りの婚姻

迷い人

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2章 薔薇乙女の乱

24.仕事とプライベート 後編

 どうなるのでしょう。

 私は不安に思う。

 そこに恋愛めいた何かがあるとは思いもしなかったけれど、それでも仕事に関しては尊敬していたのだ。

 いえ……違いますね……。
 仕事をしてくれないと都合が悪い。
 それだけ、医局は彼の才能に頼り切っていた。
 私は、いけないことをしたのかしら?

「大丈夫かしら……」

 ぎゅっと無意識に、パーシィに抱き着いていた。

 不安なのだから、仕方がない……。 甘えていいと言ったのは、パーシィだったかルーカス様だったか? まぁ、いいわ……拒絶はされていないし、背に回された手は温かだし……。

「気になるのか?」

 硬質化したような緊張したような声は、私を抱きしめる腕の持ち主。

「何?」

 何も考えず、無意識に、ただ目の前の男パーシヴァル・フォン・ヘルムートに抱き着き、身を寄せ、感情のこもらない瞳でシヴィルは見上げた。

「医局長が気になるのか?」

 馬鹿馬鹿しいと声に出さず、それでも口元が小馬鹿にしているかのように笑ってしまう。

「いいえ、医局が回るか心配しただけですわ。 医局は彼に頼り切っていましたし、私が医局を離れると言う事で、薬をどうするかの話し合いも必要になる」

 ちょっと面倒。 面倒なことは嫌いで、本当は逃げてしまいたくなる。 逃げたくなるほど嫌いだから、淡々と目の前の仕事を1つずつ攻略していく。 そうしたら何時かは終わるから。

 それでもやっぱり面倒で、甘えたそぶりで私は言う。

 なんてズルイ。

「頼っていい?」

「任せろ」

 笑みを向けられ、笑みを返す。

 なんて卑怯。

 言葉の信頼性などないが、私は安堵している。

 なんて卑しい……。

「ありがとう。 安心したところで、仕事に戻ります」

 ニッコリと微笑みを向ければ、やはり微笑みが返る。

「それは残念だ」

 腕の中から逃げて行く私を、パーシィの腕は追ってはこないが、視線は私を追ってくる。 だが、不機嫌そうに遮る声があった。

「残念でも、仕事はしていただかないといけません。 ですが……人の幸せを見ていると言うのは、なかなか不愉快なものだと言うことを、ご存じですか? 正直嫉妬しますね。 その腑抜けた顔に八つ当たりしてもいいでしょうか?」

「次期王ともあろうものが、心の狭い奴め。 好きにするがいいって……なぜ、剣を抜く!!」

 と言うやり取りを始めた殿下とパーシヴァルを背後に、私はルーカス様と、そして未だそこに残っていた警備責任者たちの元に行く。



 仕事は大事。
 自分を必要とさせる事ができるから。

 姑息な手段をとれば何れ人にばれてしまい、信頼を失い必要とされなくなる……。 私は自分に言い聞かせる。



「細かな説明は抜きにして、薬服用者は全員共通して同じ魔力を外的に纏っています。 魔力感知が出来る者であれば、薬服用者を探すのは難しくはないはずです」

 ただし……薬服用者を見つける事が出来ても、回復は無理……私はその言葉を飲みこんだ。 破壊し、溶解し、腐敗させた魔力回路の回復手段など、奇跡に頼るしかないと言えるだろう。



 魔力回路とは?

 この世界に生きる命持つものが所有する『肉体』と『精神』の仕組み。 肉体が肉と骨と血と、多くのもので出来ているように、精神とは思いと魔力と神秘などによって形成され総じて魔力回路と呼ばれている。

 パーシヴァルの怪力は肉の力と考えがちだが、実際には『痛み』と言う思いの切り替えによって発生する魔法的現象と考えるのが正しいだろう。



 なら、今日死体となった1人と、廃人になった2人が、パーシヴァルのように魔法的現象を起こしたのか? と言えば、そうではない。 アレは魔力回路の破壊による魔力暴走。

 医局長は、パーシヴァルと言う存在の再現を行ったと言ったがソレは違う。 ソレはそんなに簡単にできるものではない。 彼と同じ性質を持つ彼の母親が、長い時間をかけて、彼をそのようにあれと肉体と精神を育てたからできた事だし、そもそも先天性の魔力回路異常は、魔力回路の異常による反応の鈍化or過敏、魔力の過少or過多、再起不能な状態な訳ではない。

「薬がどのように作られているか……ソレはなんとなく想像がつきますが、だからと薬効成分を取り除けば良いと言う類の薬ではないんです」

 記憶にある甘い匂い。

 アレは、白いバラと血の匂い。
 アノ場所は、ドコかは思い出せない。
 だけど、薬がソコで生まれたと言うのは確か。

 あの屋敷はドコだったのでしょうか?

 幼い頃の記憶は曖昧で、それでもあれほどのバラを育てる環境を持つ屋敷など多くはないだろう。

「殿下」

 私は思考をやめて振り返る。

 何故か背後では剣を振り下ろす殿下と、ソレを受け止めるパーシィの姿があった。

「仲の宜しいのは結構ですが、
 仕事、しましょうか?」

 私は2人にニッコリと微笑みかけた。
 
 何故か2人は、いつも以上にゲンナリした様子を顔に浮かべ、まるで不貞腐れているかのような様子で、ドスドスと乱暴にソファに座った。

「では……」

 パーシヴァルは警備責任者たちに最終的な支持を出す。

「警備の際には魔力適正が高い者を必ず伴う事。
 本人以外の魔力を纏った者。
 錆びた桃のような香りがする者。
 最近頻繁に花街に通っている者。
 突然に性格が変容した者。
 そのような者がいる場合は、早急に報告を行うように」

「甘い、甘いですよ。 アナタは」

 殿下が言葉を続けた。

「万能感? 無上の快楽? 恍惚感? 何を得たくて薬を摂取するのかはわかりませんが、薬の行きつく先が破滅であることを説明しなさい。 そうすれば余計な報告をまたずとも、助けを求めに来ますよ」

 どうやら……今日の殿下はとてもとても機嫌が悪いようだった。

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