偽りの婚姻

迷い人

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2章 薔薇乙女の乱

25.仲は良くないようだ

 薬による暴走者1号が出た日の翌日。

 私ことシヴィルの『医局』→『騎士団』への所属移動手続きは、しばらく保留となるが、医局への顔出しは必要ないと医局副局長『マリン・ダルトン』が、パーシヴァルの執務室に伝えに来た。 今後、薬の注文、商品の受け渡しは騎士団の人間が行う事が、私を抜きに決められていく。

「過保護!! 私情を挟みすぎですわ」

 お茶を出しながらパーシィに文句を言えば、苦笑しながら聞き流された。

「今は、近寄らない方がいいわよ。 飲み込みなさい。 私情に感謝なさい。 自分が弱い事を理解なさい。 全部が面倒な問題を避けるためなの」

 パーシィの行動を肯定したのは、副局長だった。

 今、医局長は休みだけど副局長を始め他の人が頑張っている(正確には頑張らせている)という話。副局長曰く

「この機会に一極集中を修正し、他の医師にも責任を担ってもらわないとね。 まずは、医師全員に胃薬を出してもらえるかしら?」

 と、盛大なドヤ顔と共に依頼を受けた。 その顔を見る限り、仕事オタクの局長がクローゼットに閉じこもっていると言っているが、副局長がクローゼットに押し込めているが正しいのではないだろうか? と、疑わずにはいられない。

「今まで、多くの事を面倒だからと放置していたツケを払うときが来たのよ」

 騎士が貴族のみがなれる職業であるように、王宮医師は王族のみがなれる職業。 差別的な思想が強く残っており、あんな局長でも私を保護していたと言う事実は、否定する余地もないのもまた事実。

 現実に、たった2日の局長不在によって、局長に対する世間の評価は急上昇中なのだ『不愛想で偉そうだったが、他の医師よりもマシだった』と。

「それでも妻は、ないですわ」

「ごめんなさいね」

 私の呟きに副局長は、苦笑気味に謝罪した。





 それから更に2日後。

 温室での薬草採取についてきたと言うか、手伝っていたパーシィとルーカス様。

「ご自分の仕事をしてください」

 文句を言えば、

「息抜きも大切だ」
「上司の機嫌が良ければ、仕事がしやすいので」

 と、どこ吹く風。
 道行く庭師が

「乾燥でしたら預かりましょうか?」

 と言うから、

「ありがとうございます。 ですが、乾燥済みを回収したいので自分でいきますよ」

 私は断る。 ピリピリした雰囲気と私の行動を抑制しようとするあたり、今の人もかつて父とかかわりがあった人物なのだろう。 変わらない景色のままに日常が非日常に塗り替えられていく予感に、私はきっと必死に日常にしがみついているのだと思う。

 小さく溜息をつけば、足取りが重くなる。



 渡り廊下の角から人影が勢いよく現れた。
 突きつけられる巨大な深紅のバラの花束。

 パーシィの眼前、花束に隠れた人物は叫ぶ。

「やっぱり、好きなんだ!! 結婚を前提に付き合いを検討してくれ!!」

「……いや、断る」

 バラの花束がずれて、顔を見あわせるパーシィと……医局長『クライン・ダルトン』



 長い沈黙。



 そして、遠方から聞こえる甲高い悲鳴と、気絶の気配。

 庭師の皆さま、令嬢の始末ご苦労様と心で労う。

「私も、断る!!」

 怒鳴る医局長。

「オマエが言い出したんだろう!!」

 何故か花束を受け取ったパーシィ。 花束をどうするのかと思えば、花束をルーカス様に差し出し、

「捨てろ」

 容赦ない。

 いや、容赦されても、私が困るのですが……。

「オマエはいつもいつも!! 私になんの恨みがあると言うんだ!」

「恨みはないが……シヴィは俺のだ。 手出しは許さん」

 勝手に口喧嘩を始める2人を置いて、ルーカス様と先に行くことにした。

 付き合いきれない……。

「花に罪はないでしょうに。 部屋に活けましょうか?」

 パーシィの髪色を思わせる濃い赤色のバラ。 そりゃぁ……パーシィへのプレゼントと勘違いされても不思議はないわね。 そんなことを考えつつも苦笑しながら花束から1本抜き取ろうとすれば、棘がとってなかったらしく、指先を傷つけ血が流れた。

「っ!」

 私はバラの花を投げ捨てる。
 バラの赤が蠢きだしたのだ。

「シヴィ!!」
「シヴィル君!!」

 叫ぶパーシィと医局長

「何をした!」

「私は、何もしていない!! そもそも何かを仕込むなら、オマエのいる前でするわけなどないだろう!!」

 それもどうなのだろうか? と言う言葉だが……確かに私に悪さを仕掛けようと言う悪意があるなら、わざわざパーシィやルーカス様のいるときを狙う訳がない。

「それはいいですから、上司援護してください!」

 バラの花の赤がヌルリと落ちて蛇を成し、それは蛇とは思えぬ素早さと跳躍力で、私を狙ってきたのだ。 ルーカス様はソレを切り落としたが、粘液性の高い液で出来た赤黒い蛇は、切られれば2匹となった。

 叩き落とせば、ベシャリと床にぶち当たり潰れて、飛散した液から新たな蛇となると言う厄介さ。 パーシィが剣を抜き、雷魔法を纏わせ蛇に触れれば、電気が液体内部を走りグシャリとその活動を止めた。

 電気分解?

 蛇自体は強くはない。
 いや、パーシィの手に負えない事はない。
 それでも、分裂し小さくなるほど厄介になる。

「医局長!! 聖水をお願いします!」

 私が叫びながら、自らの傷を魔法で癒しながら逃げていた。 だが、逃げ過ぎてもダメだ。 蛇は私を追ってくるのだから、確実に退治できるだろう人の側にいなければ!!

 血に反応しているのかと思い、水で血を洗い流したのだが、蛇は血に反応しているのではなく、あくまでも血は起動のためのスイッチのようなものだったらしく、執拗に私を狙ってくる。

 パーシィが細かく増えた赤黒い子蛇を処分している間、医局長は膨大な量の聖水を作り上げる。

「化け物!!」

 医局長が叫んだ。

 その呼び方はどうなのかと思うが、意図を理解したらしいパーシィは聖水の中に電流を無数に走らせる。

 医局長は電気の流れる膨大な聖水の塊を、空高く打ち上げ雨とした。 少しばかり痺れの伴う雨を受けた者達は、後に、身体の凝りがほぐれたとか言っていたが……、赤黒い血のような蛇たちは無事に消滅した。

「ありがとうございます」

 ふぅと息をつき礼を述べる私の言葉にかぶるようにパーシィが言う。

「自分を気にかけて欲しいからって最低だな」

 パーシィが改めて医局長に喧嘩を売り出した。

「そんな事するか!!」

「いや、オマエは昔から根暗だから」

「筋肉馬鹿が明るくて、勉学を好むものを根暗とするオマエの発想が幼稚なんだ!!」

 そして再開される喧嘩……。

「医局長」

「なんだねシヴィル君。 脳筋の化け物の元から、戻ってくる気になったかね?」

「いえ、そうではなく……これは故意ですか?」

 冷ややかな視線を向ければ、動揺したように瞳が揺れた。

「匂いを嗅いで下さい」

 散ったバラの花びらは、白い。
ソレを拾い上げ、私は医局長に差し出した。

「これは……、……決して故意ではないとだけ誓う。 長く、伝え方が間違ってはいたが、私が君を思っていたのは事実、こんなことするわけない!!」

 バラの花びらには、魔力回路を狂わされた者達と同じ、甘い桃のような、そして微かに錆びた鉄の匂いが感じられた。




 以下読み飛ばしOK

 この世界には、魔法が存在している。

 一般的には、得意不得意、個人の資質の差は出るものの『火』『水』『風』『土』そのものを発生させ、日常生活に活用する。 例えば着火用、飲料用、換気用、土は使い勝手が悪いようだが、上級者となれば土を作るのではなく、土壌成分を調整して『粘土』『鉄』『塩』などを生み出す。

 貴族とされる者達は、庶民よりも魔力量がやや多いが、生活に困窮していないせいか、魔力を積極的に活用しようとする者は多くはない。 ただし、騎士となり魔法を学ぶことで、得意な属性を攻撃や防御する。

 王族の血には、レア属性の発生頻度が高い。
例えるなら医局の者達が使う『聖属性』 医学的知識をもとに治療魔法を使う事で早期回復を期待できるだけでなく、魔力の使用量を抑制できる。 また薬草もただ煎じるだけでなく『聖属性』をもって強化することで、数倍の効果を期待できる。

 このように魔力関係は、血統に強く左右されるが、魔力回路異常者だけは別格とされている。

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