偽りの婚姻

迷い人

文字の大きさ
27 / 65
2章 薔薇乙女の乱

27.取り調べと、追憶 前編

 取り調べ用の狭い部屋は、取り調べられる側の精神的な圧迫を高めるために、様々な方法がとられている。

 1つは視覚、深い海を思わせる黒に近い青の壁。
 窓は黒く塗りつぶされ、鉄格子がつけられている。
 そもそも窓等なく、鉄格子をつけたかっただけだが。
 気温は安定させず常に上下させる。
 周囲の音は一切入れないのに、一定間隔で落ちる水音。

 デスクサイズの鉄製の机。
 拷問を想像させる椅子。

「なんて嫌味たらしい部屋なんだ」

 自分を睨むように正面に座るパーシヴァルに、医局長は唾をはくように言う。

「色々と効果的なんだよ」

「だろうな。 神経に来る。
 本気で……私の後にシヴィル君の尋問をするつもりなのか?」

 自分の事は余所におきシヴィルを案じる医局長。 もともと話せる事は全部話すつもりだし、パーシヴァルもまた医局長がシヴィルを害する等とは考えていない。

 シヴィの彼に向けられた尊敬は事実であり、ソレに対して好意を抱いている医局長の思いも疑うところなどない。 ソレに医局長が言った通り、本気でシヴィに何かをするなら俺のいるところで行動を起こすような馬鹿はしないだろう。 あえてその部屋を使うのは、ささやかな嫌がらせというところだ。

「被害者に尋問なんてせんよ」

 そういえば、ホッとした顔を見せる。
 昔から、不器用で素直な奴だった……。



 パーシヴァルが、医局長……いや、この場合はクライン・ダルトンと語るべきだろう。 彼クラインと初めて知り合ったのは、ライオネル殿下の護衛を勤め始めた頃である。

 学園では騎士となるための学業に励むのが常であり、その間は社交の場からも遠ざけられるのが一般的。 幼児期は精神状態が不安定で、少年期は力のコントロールが上手くいかない破壊魔だった。 加えて社交界デビュー時期に母親の病が重なった事で、パーシヴァルは貴族として、伯爵家の跡取りとして、正式な社交界デビューどころか、貴族社会に同年代の知り合いと言うものが存在していなかった。

 仕事でなければ、2度と社交界等に出るものか!!

 そう思う程度の酷い誹謗中傷が浴びせられる。 だが、ライオネルは護衛の任を解くこともなく、連れ歩く。 ソレが続けば令嬢達から好意的な視線を向けられるようになった。

 げんきんな……。
 キモチワルイ……。
 
 パーシヴァルは、視線に敏感だ。 音に敏感だ。 気配に敏感だ。 令嬢達、貴族当主達、さまざまな人間の裏表に吐き気がした。

 コレを終えたら、休みを貰ってシヴィルを見に行こう……。



 そんな事が続いたある日。

 王族とされる者達だけが集まる社交界へと連れていかれた。 そこでクラインと知り合うこととなった。

「ふぅん? オマエが噂の化け物か……」

 第一声からしてクラインは失礼な奴だった。


 陰口なら聞き流せばいいが、これはどうするべきかとジッと見つめれば、相手から向けられる無遠慮な視線に苛立ちながらも……別な思いも持った。

「なんだ、オマエは?」

「オマエとは失礼な奴だな。 これでも私は、将来有望だと期待され、国の一端を担うことになる人物だぞ?」

 さて困ったとパーシヴァルが、ライオネルを見れば笑っていた。 何がオカシイと不満に思うが、学園にいるときのように不満をあらわにして良い訳ではない一応彼は王太子殿下なのだから、体裁は重要である。

「いや悪かったね」

 ライオネルがパーシヴァルに言った後、クラインへと視線を向けて少しばかり厳しい口調で注意する。

「本気で化け物と思っているなら、少しは怯え遠慮してはいかがですか?」

「はっ!! 馬鹿な奴らの口先だけの噂にどれほどの意味がある。 化け物かどうか判断するのは、私自身だ」

 言われてみれば、彼は『噂の化け物か?』と問うたものの、彼自身の意見として化け物とは言っていなかった。

「私は、化け物と呼ばれるオマエが本当に化け物なのか興味がある。 だから、その体を、魔力回路を調べさせてくれないか? 一般の者と、本当に違うのか? 違うなら何が違うんだ? 身体能力的には?」

 矢継ぎ早に言われ、近寄ってきて周囲をじっくりと眺めてくる。

 これは……誹謗中傷を陰ながら言ってくる奴より面倒なのでは? そう思ったのは事実であり、パーシヴァルは逃げた。 過去十数回の社交の場で1度しか会ってないのだから、早々会うことなどないだろうと思っていたのが甘かった。

 クラインは、パーシヴァルに会うために社交の場に訪れ、追い掛け回した挙句、学園を卒業するころには、一通りの検査を彼自身によって行われた。

 そして、戦場に向かう日、味気ない栄養食を手土産に見送りに来たクラインは、自分の出した結論をパーシヴァルに告げる。

「オマエは化け物だよ。 疑いようのない化け物だ」

「そうか……」

「その身体を制御しきったその精神力……呆れたものだ。 普通なら絶対に死んでいる。 精神力で魔力回路を、死を、正気をコントロールし力に変えたというオマエの存在は人の持つ可能性だ。 私はオマエにはなれないが、違った方法で、人の命を救うと言う方法で化け物を目指そう」

「変な奴」

「よく言われるよ」

「だろうな」

「生きて戻れよ化け物」

「立派な化け物になれよ人間」

 パーシヴァルが、化け物と呼ばれる事を一切気にしないのは、クラインの影響が大きいだろう。

 笑いながら別れを告げたときから6年、彼は実際に化け物のような業績を残していたが、評価としては『変人』だった……が、まぁそういう事もあるだろう。

 悪い奴ではない。

 ただ、シヴィルは絶対に譲らないが……。

 パーシヴァルはクライン医局長を睨んだ。

あなたにおすすめの小説

お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。 だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!  愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理! 姉の結婚までにこの家から逃げたい! 相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 そう名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  ✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 ✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん
恋愛
   アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。  何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。  何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。  「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました! 大変お待たせ致しました。番外編も完結いたしました!

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
公爵令嬢として生まれながら、子ども時代からメイドや周囲の陰謀で、次々と濡れ衣を着せられ、「悪女」扱いされてきたミリアム。 第3王子との婚約を聖女に奪われ、聖女への嫌がらせの冤罪で国外追放された後、平民として生き延びる中で、何度も5年前へのロールバック(逆行)を繰り返すことに。 生計をたてる為に、追放後の平民生活で極めた針仕事が、ロールバックが繰り返されることで、針仕事の能力だけは引き継がれ、天才的な実力を手に入れる。 その時女神「アテナ」の加護を得て、2つの力を手にすることに。 「加護縫い」 (縫った布に強力な祝福を込められる) 「嘘のほころびを見抜く力」 (相手の嘘を布のほころびとして視覚的に捉え、引き抜く、または繕うことで、真実を暴いたり修正したりする) を手にしたミリアムは、5歳の幼女時代まで遡り、2つの力で悪評をぬりかえ、仲違いしていた家族も、加護の力を与えることで協力な味方へと変貌。 さらに、女神から可愛いしもべ「アリアドネ」を授かり、元婚約者と聖女にザマァを狙う中、加護縫いの能力が最も高い人間を王太子妃に迎える決まりのある大国、ルーパート王国の王子が近付いて来て……?

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?