偽りの婚姻

迷い人

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2章 薔薇乙女の乱

28.取り調べと、追憶 後編

「それで、私は何を話せばいい?」

「アノ花束を、ドコで手に入れた? シヴィ曰く、王宮内では栽培されていない種らしいが?」

 常日頃から偉そうな態度が身についている……改め、患者に安心感を与えようと、堂々とした態度を心がけている男が視線を背けた。

「……貰った」

「オマエは、人からもらった花束を持って、あんな目立つ場所でプロポーズをするのか!!」

 呆れたように言えば、

「なら、オマエはどうするんだ」

「俺だったら……まぁ……場所は横におくとして、記念になる贈り物は見るたびに、大切な日をお互いを思い出せるようなものがいいし、やっぱり重要なのは……って、教える訳はないだろう……!! 話を脱線させるな」

「脱線させたのは、私ではなくオマエだと思うが……」

 幸せそうな妄想にふけりそうになったことを反省しつつも、誤魔化し咳ばらいをすれば……。

「大丈夫なのかそんなんで? 幾ら丈夫だっていっても不意打ちし放題だぞ?」

 憐れむように言われれば、

「俺のことはいい。 クローゼットの中で落ち込んでいた奴がなんで、バラを抱えていたのかって話だ」

「別に、クローゼットの中で落ち込んでいた訳じゃない。 ロープでグルグル巻きにされ、扉を固定し出れなくされていただけだ……」

「……そういや、逃げ出したとか言われていたな……」

「暗い所にいると色々と冷静に考え事が出来ていい。 最初こそシヴィル君との日々を思い出し……落ち込みもしたが、彼女との思い出は、仕事に連動していて、とりあえず仕事をしようって思ったんだ」

「そ、そうか……それなのに、なぜ?」

「私だって、振られてすぐにプロポーズなど考えてもいなかったさ」

 肌の白さに朱が混ざる様子に苦笑しつつ、パーシヴァルは無言で先を促した。

「医局に行った途端、日ごろ全く会話もしない、近寄りもしない連中が集まってきたかと思うと、こう言ったんだ」

 態度を見ればシヴィルは医局長を好いていた。
 好いていなければ、側で指示に従わない。
 シヴィル君は医局長を待っています。
 はずかしがっていただけですよ。
 是非、迎えにいかないと!

「その助言の相手は、シヴィと仲が良かったのか?」

「まさか、医局なんぞ王族や貴族、それなりの地位を持つ者の集まりだぞ?」

「なら、オマエの応援をするような相手なのか?」

 そう問えば少しだけ、瞳の色が陰る。

「ないな……」

「なら、信用すんなよ」

「一縷の望みって奴だ……」

「シヴィがオマエに近しかったのではなく、他の連中が仕事からオマエから逃げていただけじゃないのか? その場合……」

 少しだけ傷ついた顔をされたが、シヴィを諦めさせるためとパーシヴァルは続ける。 譲れないから容赦もない。

「未熟な癖に指導から逃げていたんだろそいつ等? オマエさえいれば医療に関わらずとも医師としての尊敬を集め、給料は出る訳だからな。 オマエもオマエだ。 指導する側なら、積極的に学ぼうとするやつだけを相手をしていればいいわけではないだろう?」

「そう責めるな。 マリンにも散々言われた。 これを機会に下を育てることに力を入れろと。 今更どうしろと言うんだ。 オマエならどうするんだ。 やる気のない人間に指導するより、やる気のある人間の方が世話のやきがいもある。 それに何より、指示、指導するより、自分で動いた方が早いだろうが」

「そんなもん簡単だ。 ルーカスを使う」

「……なるほど……」

 医局長はかすかに笑った。
 それは既に、妹マリンの出した答えだった。

 兄がいなければ、他の奴らも仕事をせざる得ない。 失敗を恐れるなら学ぶしかない。 万が一、王妃様の治療にあたり下手をすれば、死は免れないと言う事は確かなのだ。

「で、花はどこから出てくる」

「あぁ、そう言う話しをしているうちに、仕事中にプロポーズしたのが悪い、どさくさ紛れが悪い、ロマンが足りない、甘さが足りない、本気にされていないのでは? なんて話になって……せめて花束ぐらいはプレゼントするべきだろう。 花束を持って仕切りなおすべきだろうと」

「で、ソレを準備したのは?」

 少しだけ考え込む。

「ナイジェル・フェネリーだったはずだ」

「聞いたことがないな……」

「ウェイド侯爵家の傍流で、フェネリー家自身には爵位はなかった。 治癒の素質をウェイド家に見込まれ、必修課題とテストを経て医師となり準男爵の地位を得ている」

「ウェイドと言うと……陛下の姉君の嫁ぎ先か?」

「あぁ、そうだ」

「そうか……」

 本来であれば、3日前……王妃に対する態度を改めさせようとするライオネルの供として向かう先であった。 ライオネル曰く少々厄介な相手だから、万全な体制で臨みたいと、アノ日は早々に戻ってきたが結局のところ、あの後から多忙を理由に面談を断られているのだと言う。

 関係があるのか?

「どうした? もういいのか?」

 何処かソワソワしているクライン医局長。

「どうかしたのか?」

「仕事をしていないのが落ち着かない」

 呆れた様子で

「お茶でも入れさせよう」

「お茶は……シヴィル君が淹れたものがいい……」

「熱い奴か?」

 嫌味たらしくいえば、真顔でクライン医局長は返す。

「いや、他の医師を育てるためだから仕事場には来るなと改めて妹にマリンに叱られたし……、この機会に茶を美味しいと思うことを覚えるのもいいだろう」

「そうだな、お前のくれた栄養食の味は最悪だった」

「だが、身体には最高だったはずだ、文句を言うな

 2人は小さく笑いあう。

「わかった……と言ってやりたいが、次はシヴィの取り調べだ。 茶はルーカスに入れてもらうがいい」

「この部屋にシヴィル君を招き入れるのか?
 二人きりになるのか?」

「取り調べだ、取り調べ、いかがわしいことなど……」

「なぜ、黙る!」

「いや、なんとなく? ただの嫌がらせだ。 もう少しまともな部屋で取り調べを行うさ」

「……私にもそうしろよ。」

「ちょっとした嫌がらせだ」

「……オマエなんか、シヴィル君に嫌われてしまえ」

「遠慮する。 本当に大切な子なんだ。 絶対に譲らないから諦めてくれ」

「言われて諦められるもんなら、苦労するか」

 2人は苦笑いをしながら、和やかな様子で取調室を後にした。

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