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3章 オマジナイ
36.自分らしくと言うのはままならないもの
苛立ち気味の王妃様に準備したお茶は、ラベンダーにカモミールを調合したリラックス効果のあるハーブティ。 それに少しばかり魔力を練り込み効果を高める。
元が人見知りな王妃様。 誰彼構わず暴力を振るう事は無い。 新人いびりなど王妃様にできるはずはなく、力強い拳が向けられるのは女官長、私、それに陛下ぐらい。
「今日のオヤツは、新作ですよ」
ニッコリと微笑み見せるのは、小さな手のひらサイズのパンプキンタルト。 表面をチョコでコーティングする事で、ウリ科の植物を嫌う王妃様を誤魔化している。 一口食べてしまえば、かなり甘いので喜んで食べ続けてくれるだろう。
ストレスのせいか? また食事を拒否して、オヤツばかりを要望するようになっているらしい。 一応対策として食事の時間はなるべく陛下に付き添ってもらうようにと、お願いしてあるため、体調に影響が出るほどにまでに至っていない。
公務(人と会う行為)を拒絶する王妃様であるが、国王陛下への愛情は確実に存在している。 愛され大切にされる王妃様が昔から羨ましかった……。 特に王宮にいれば出自不明の平民と言う扱いの私は、嫌われるばかりだったから。
食べている間、静かになった王妃様。
私は静かに視線を伏せホッとする。
王妃様をストレスから解放するには、じっとこちらを見つめ壁際に並んでいる女騎士達に下がってもらうのが良いのですが……。 王妃様の心労が減る分、陛下の心労が増えると言う悪循環。
世の中、嫌なことも日常となれば、心を守るために精神がマヒを起こす……いわゆる慣れると言われますし、気づかないふりを決め、王妃様が早くなれてくれることを祈ることにしましょう。
それでも専属薬師とはいえ出自不明の平民出身の私に対する不信感が強いのか、睨みつけるような視線が痛い。
「アイザック、あの方々にもお茶とタルトを勧めてきてください」
「僕が……ですか?」
断言的な頼みに疑問で返してくる。 明らかにそこには拒絶があった。 理由は分からないでもない、殺伐とした女性騎士達の中に1人だけ、目をハートにしている女性騎士がいる。
だが!!
反論は受け付けない!!
「平気でしょう?」
ニッコリと笑って言えば、苦笑交じりに笑って返された。
「仕方ありませんね。 僕はできる男ですから」
若い女性を手玉に取るなど、面倒なだけでできない訳ではないのだ。
「護衛の方々の視線がそれれば、王妃様もよりリラックスしてお茶を楽しまれる事でしょう」
と言うが、実際には私がキツイから動かすのですけどね。 了解しましたと、お茶とタルトを持ってその場を去っていった。
「大丈夫なのですか?」
そう心配そうに尋ねるのは女官長。
王妃様に関しては嫉妬深く、用心深い陛下だから下手な護衛はつけてないだろう。 いや、逆に堅苦しい女性騎士達だからこそ女官たちとの間にトラブルを生み出すこともあるらしい。
私は笑う。
「平気ですよ。 幼く見えますが騎士としては一流……と、伺っておりますから」
戦闘実績は知らないけれど、人脈と人当りの良さに関しては一流であり、王宮と言う場においてアイザックほど無難に物を成す有能さを見せるものはないのだと、薬師の弟子としてつけられた数日後には理解した。
香りのよいお茶。
美味しいタルト。
女騎士達も戸惑いながらも、愛想の良いアイザックにぎこちない笑みを向け始めていた。 女官長は、少し穏やかになった女騎士達の様子に安堵の息を吐く。
私達は、王妃様の不満を、愚痴を聞き続ける。
聞き続ければ、大まかな王妃様を取り巻く環境の変化が把握できた。 今更ながら王妃様が王妃としての公務を拒否する理由を、私や女官長のせいにして、少しずつ人員の入れ替えを行おうとしているらしい。
そういう意見は、数年前から出ては居たが今になって強硬されるなんて……。
戦争を終えた事で他国との交流が増えている。 外交的に王妃様にも相応な役割を担ってもらいたいと言う事でしょうか? そんな事を考えながら、視線を周囲に向ければ、女性騎士のお茶と菓子を食べる所作の美しさが目に付いた。
護衛というが、王宮に住まうものの当たり前が王妃様の目に届くようにと言う思惑があるのでしょうかねぇ? お世辞を加えたとしても、王妃様の食事の仕方は綺麗とはいいがたい。 そんな事を考えている間も、王妃様はイライラとした様子を口から漏らす。
「本当! 嫌味たらしいのよ!! 食事なんてのは美味しく食べるのが一番でしょう?! 彼女達は人形な訳? そろいもそろって同じような行動ばかり、歩き方、笑い方、言葉の遣い方、個性って言うものがないのよ!!」
ぶつぶつと不満を述べる。
女性騎士達は、貴族女性としての礼儀に乗った、王妃様の御前に相応しい行動をしているだけなのだが、それが王妃様の癇に障っているらしい。 あくまでもココは王妃様が最も偉い場所であり彼女達は臣下であると言うルールは絶対的なもの。 王妃様は、不満を言葉にできるし、疎外感もない。 自己否定の渦に陥ることのない様子に私はホッとする。
王妃様も礼儀作法を身につけられると良いのですが……という本音を飲み込んだ。
「私はね……庶民出身ですから、朝起きれば欠伸はするし、朝は紅茶よりミルクを飲みたいのよ!! お上品にちびちびとパンを食べるのではなく、こう豪快にかぶりつきたいんですのよ!! でも、そういうのはきっと笑われてしまうわ。 ドレスだって美しいものより動きやすい物が好きだし、シヴィルのように男性の恰好をしたいくらいだわ。 食事も粛々と食べるより、庭先で、むしろ木の上で好きな時に好きなように自由に食べたい。 気分が良ければ歌いたいし、気分が悪ければ布団の中に何日も籠っていないの!!」
タルトを手づかみで食べながら王妃様は言う。
行儀よくはない……ではなく、行儀が悪い。
一般人であってもそこまで行儀悪いものではありませんよ。 と言いたくなる発言もあるが、隔離された世界で生活している王妃様は気づいていないのでしょうか?
子供のような我儘ではあるが、彼女はライオネル殿下の母君……。 いい加減上手く裏表を使い分けてくれればよいのですが……。 年齢を考える限り、今から価値観を変えると言うのは難しいことでしょう。
継承権問題は、薔薇乙女の乱を起こしたナイジェルが継承権を得ると同時に、陛下の養子として迎えられた。 それにより陛下と王妃を長年悩ませていた問題は終わりを告げた。
だけど、戦争を終えた事で近隣諸国との交流が活発化してきている。 近隣諸国の地位あるものが来訪すれば両陛下が揃って出迎えなければならない。 だが、私は庶民なのだから!! と、長年貴族のルールを、礼儀を拒否してきた王妃様は、礼儀作法を身に着けておらず、今は『外交上、王妃の代わりをする第二婦人を迎えられるべきでは?』と言う声が影で囁かれているのだと、数日前に聞いたばかりだ……。
ソレを陛下が良しとするわけなどなく……面倒は続く。
愚痴が続いていた。
「もう!! 何とかして!!」
「陛下にお願いごとが一番得意なのは王妃様ですよ」
遠回しに曖昧に無理だと微笑みながら告げる。
「だけど最近は、私のため、私のためって」
そんな様子で1時間近く愚痴を聞き、王妃様の部屋を後にする。 結局、王妃様が礼儀作法から逃げ続けるというのは……陛下が王位を譲らない限りは難しいのだ。 しばらく歩いた先、曖昧を装いアイザックは呟いた。
「よく、付き合っていますね」
私は曖昧に返事を返す。
「お幸せなのですから、聞き流せば良いのですよ」
王妃様の愚痴は「回避が必要なもの」ではなく「幸せ」で「時間を持て余している」からこそのものであると考えている。 だから、ただ私は聞き流すのだ。
元が人見知りな王妃様。 誰彼構わず暴力を振るう事は無い。 新人いびりなど王妃様にできるはずはなく、力強い拳が向けられるのは女官長、私、それに陛下ぐらい。
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ストレスのせいか? また食事を拒否して、オヤツばかりを要望するようになっているらしい。 一応対策として食事の時間はなるべく陛下に付き添ってもらうようにと、お願いしてあるため、体調に影響が出るほどにまでに至っていない。
公務(人と会う行為)を拒絶する王妃様であるが、国王陛下への愛情は確実に存在している。 愛され大切にされる王妃様が昔から羨ましかった……。 特に王宮にいれば出自不明の平民と言う扱いの私は、嫌われるばかりだったから。
食べている間、静かになった王妃様。
私は静かに視線を伏せホッとする。
王妃様をストレスから解放するには、じっとこちらを見つめ壁際に並んでいる女騎士達に下がってもらうのが良いのですが……。 王妃様の心労が減る分、陛下の心労が増えると言う悪循環。
世の中、嫌なことも日常となれば、心を守るために精神がマヒを起こす……いわゆる慣れると言われますし、気づかないふりを決め、王妃様が早くなれてくれることを祈ることにしましょう。
それでも専属薬師とはいえ出自不明の平民出身の私に対する不信感が強いのか、睨みつけるような視線が痛い。
「アイザック、あの方々にもお茶とタルトを勧めてきてください」
「僕が……ですか?」
断言的な頼みに疑問で返してくる。 明らかにそこには拒絶があった。 理由は分からないでもない、殺伐とした女性騎士達の中に1人だけ、目をハートにしている女性騎士がいる。
だが!!
反論は受け付けない!!
「平気でしょう?」
ニッコリと笑って言えば、苦笑交じりに笑って返された。
「仕方ありませんね。 僕はできる男ですから」
若い女性を手玉に取るなど、面倒なだけでできない訳ではないのだ。
「護衛の方々の視線がそれれば、王妃様もよりリラックスしてお茶を楽しまれる事でしょう」
と言うが、実際には私がキツイから動かすのですけどね。 了解しましたと、お茶とタルトを持ってその場を去っていった。
「大丈夫なのですか?」
そう心配そうに尋ねるのは女官長。
王妃様に関しては嫉妬深く、用心深い陛下だから下手な護衛はつけてないだろう。 いや、逆に堅苦しい女性騎士達だからこそ女官たちとの間にトラブルを生み出すこともあるらしい。
私は笑う。
「平気ですよ。 幼く見えますが騎士としては一流……と、伺っておりますから」
戦闘実績は知らないけれど、人脈と人当りの良さに関しては一流であり、王宮と言う場においてアイザックほど無難に物を成す有能さを見せるものはないのだと、薬師の弟子としてつけられた数日後には理解した。
香りのよいお茶。
美味しいタルト。
女騎士達も戸惑いながらも、愛想の良いアイザックにぎこちない笑みを向け始めていた。 女官長は、少し穏やかになった女騎士達の様子に安堵の息を吐く。
私達は、王妃様の不満を、愚痴を聞き続ける。
聞き続ければ、大まかな王妃様を取り巻く環境の変化が把握できた。 今更ながら王妃様が王妃としての公務を拒否する理由を、私や女官長のせいにして、少しずつ人員の入れ替えを行おうとしているらしい。
そういう意見は、数年前から出ては居たが今になって強硬されるなんて……。
戦争を終えた事で他国との交流が増えている。 外交的に王妃様にも相応な役割を担ってもらいたいと言う事でしょうか? そんな事を考えながら、視線を周囲に向ければ、女性騎士のお茶と菓子を食べる所作の美しさが目に付いた。
護衛というが、王宮に住まうものの当たり前が王妃様の目に届くようにと言う思惑があるのでしょうかねぇ? お世辞を加えたとしても、王妃様の食事の仕方は綺麗とはいいがたい。 そんな事を考えている間も、王妃様はイライラとした様子を口から漏らす。
「本当! 嫌味たらしいのよ!! 食事なんてのは美味しく食べるのが一番でしょう?! 彼女達は人形な訳? そろいもそろって同じような行動ばかり、歩き方、笑い方、言葉の遣い方、個性って言うものがないのよ!!」
ぶつぶつと不満を述べる。
女性騎士達は、貴族女性としての礼儀に乗った、王妃様の御前に相応しい行動をしているだけなのだが、それが王妃様の癇に障っているらしい。 あくまでもココは王妃様が最も偉い場所であり彼女達は臣下であると言うルールは絶対的なもの。 王妃様は、不満を言葉にできるし、疎外感もない。 自己否定の渦に陥ることのない様子に私はホッとする。
王妃様も礼儀作法を身につけられると良いのですが……という本音を飲み込んだ。
「私はね……庶民出身ですから、朝起きれば欠伸はするし、朝は紅茶よりミルクを飲みたいのよ!! お上品にちびちびとパンを食べるのではなく、こう豪快にかぶりつきたいんですのよ!! でも、そういうのはきっと笑われてしまうわ。 ドレスだって美しいものより動きやすい物が好きだし、シヴィルのように男性の恰好をしたいくらいだわ。 食事も粛々と食べるより、庭先で、むしろ木の上で好きな時に好きなように自由に食べたい。 気分が良ければ歌いたいし、気分が悪ければ布団の中に何日も籠っていないの!!」
タルトを手づかみで食べながら王妃様は言う。
行儀よくはない……ではなく、行儀が悪い。
一般人であってもそこまで行儀悪いものではありませんよ。 と言いたくなる発言もあるが、隔離された世界で生活している王妃様は気づいていないのでしょうか?
子供のような我儘ではあるが、彼女はライオネル殿下の母君……。 いい加減上手く裏表を使い分けてくれればよいのですが……。 年齢を考える限り、今から価値観を変えると言うのは難しいことでしょう。
継承権問題は、薔薇乙女の乱を起こしたナイジェルが継承権を得ると同時に、陛下の養子として迎えられた。 それにより陛下と王妃を長年悩ませていた問題は終わりを告げた。
だけど、戦争を終えた事で近隣諸国との交流が活発化してきている。 近隣諸国の地位あるものが来訪すれば両陛下が揃って出迎えなければならない。 だが、私は庶民なのだから!! と、長年貴族のルールを、礼儀を拒否してきた王妃様は、礼儀作法を身に着けておらず、今は『外交上、王妃の代わりをする第二婦人を迎えられるべきでは?』と言う声が影で囁かれているのだと、数日前に聞いたばかりだ……。
ソレを陛下が良しとするわけなどなく……面倒は続く。
愚痴が続いていた。
「もう!! 何とかして!!」
「陛下にお願いごとが一番得意なのは王妃様ですよ」
遠回しに曖昧に無理だと微笑みながら告げる。
「だけど最近は、私のため、私のためって」
そんな様子で1時間近く愚痴を聞き、王妃様の部屋を後にする。 結局、王妃様が礼儀作法から逃げ続けるというのは……陛下が王位を譲らない限りは難しいのだ。 しばらく歩いた先、曖昧を装いアイザックは呟いた。
「よく、付き合っていますね」
私は曖昧に返事を返す。
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