偽りの婚姻

迷い人

文字の大きさ
41 / 65
3章 オマジナイ

40.誰が鬼になっていたか?

「彼女は、何か急ぎの仕事でも?」

 ミランダ侯爵令嬢は尋ねる。

「いえ、ですが普通に考えれば、ここに同席できる立場ではありませんよね?」

 ふふふふとルーカスが笑えば、ミランダは息をついた。

「そんな言葉で、私の機嫌は取れませんわよ?」

「……それは……申し訳ありません」

 ミランダは、もう一度疲れたように息をつき、お茶を飲み小さく唸った。

「美味しい……」

「先生曰く、大抵の飲料には、身体に影響を与える成分、薬事成分が必ず存在しているそうですので、全てが先生の専門分野と言う事になるそうですよ」

「身体に影響ねぇ……例えば、媚薬なども?」

 きらりとミラベルの瞳が光った。

「確かにそのようなものを、求められる方もいるそうですが、医療的に必要がない限りは調合しないとおっしゃっていましたよ。 ミランダ様であれば、そのような薬など必要ないでしょう」

 あけすけな言葉は、侯爵令嬢への問いかけにしてはかなり下品であり、ルーカスの少しばかりの嫌がらせのつもりであったが、ミランダは全く気にすることない様子だった。

「薬草、なかなか面白いですわね」

「ところで、今日はどのような御用でこのような場所へ? 侯爵令嬢がいらっしゃるような場所ではないと思いますが?」

「そうでもありませんわ。 アナタ方は私の婚約者となる方の友人と伺っております。 そして個人的な権力、強い発言力を持っていらっしゃる」

「……」

 ルーカスは考えた、自分の友人の婚約者? 今、ライオネル殿下も合流するということは、3人が共通して友人関係にあるということ、そんな奴いたか? と首を傾げながら問う。

「それは大ニュースですね。 それで、我々に何を望まれているんですか?」

「婚約発表の場の出席、それと警護に騎士団を派遣していただきたいと」

 なるほど……。 ナイジェルの件を考えれば妥当な依頼である。 だが、ライオネル殿下をわざわざ呼び寄せる理由は……

「ぁ……もしや、婚約者とは……」

 そこに照れや、恥じらい、そんなものは何もなかった。 ただ、堂々と侯爵令嬢と言う地位にふさわしい微笑みをたたえるだけで静かに告げる。

「ライオネル殿下ですわ」

「そりやぁ、確かに警備も必要ですね……」

 可能性としては十分に考えられたが、それなりに驚いていた。 陛下の事を考えれば、ライオネル殿下は未婚のまま過ごすのかと思っていたから「良いんですか?」 ソレを聞くのはためらわれ、ルーカスは黙りこんでしまう。 そして忘れていたとばかりに、

「おめでとうございます」

 貴族らしい対外的な笑みを向ける。

「ありがとう」





 シヴィルをおったパーシヴァルは、秒単位でシヴィルにおいついたが、2m後をついて歩くだけで、オロオロしていた。 何かがある訳でもなく、だが明らかに様子がおかしく、そういう時どうすればいいのか等、学園で学ぶことはなかったし、シヴィルと言う妻がいるからと女性関係は避けていたから、適当になだめることもスマートにできない。

「シヴィ?」

 オズオズと声をかければ、シヴィルは足を止める。

「何?」

 返事は短く、そして……泣いているようで……。

「ルーカスに何かされたのか!!」

 慌てながら怒りを乗せた発言に、呆れシヴィルは溜息と共に苦笑し流れるままにしていた涙をぬぐった。

「何もされていませんわ。 むしろパーシィこそ泣く私を慰めようって気はありませんの?」

 どこか拗ねたように見上げてくる顔は、穏やかにすら見えた。

「えっと、抱きしめていいか?」

 シヴィは、小さく笑いパーシヴァルの身体と比べればズイブンと小さな身体で、両手を広げて見せた。

 抱きしめ、抱き上げ、そして窓から庁舎として使っている建物から出たパーシヴァルは、直線ルートで温室で向かえば、10を数える事もなく辿り着く。

「力の無駄遣いでは?」

 観賞用温室のソファにシヴィを座らせ、パーシヴァルは一般的な距離を置きソファに座り、シヴィの方をむき前傾姿勢となりながら問う。

「シヴィのために動くなら、何よりも有効利用だ」

そう言って笑ってみせてから、 涙の跡を指先で撫でる。

「で、どうしたんだ?」

 問うが、返事がもらえる等とは期待していない。 ただ、それでも案じているものがいるということを理解して欲しいと思っての行動だから。 はなから完全拒絶だろうと思っていた。 だから、ためらいがちな表情を見れば驚き。

「すぐに解決してやる。 だれが、オマエにそんな顔をさせ泣かせたんだ!」

 シヴィはキョトンとして笑う。 次のシヴィの行動は、パーシヴァルにとって不意打ちでしかなかった。

 そっと唇に触れた柔らかな感触。

「えっ……これはどういう意味……いや、それはどうでもいい。 もう1回」

 人差し指をたてて、ヘラリとパーシヴァルはご機嫌に笑って見せる。

「嬉しい?」

 ただ触れるだけの、幼い口づけ。
 恥じらうように照れたような笑と共にシヴィが聞いてくる。

 あぁ、可愛いなぁ~ と、目を細めて微笑み返す。

「あぁ」

 さっき抱きしめていいって……許可はもらったよな? オズオズとシヴィルを抱き寄せ、両膝を広げ右太ももに座らせればジッと見つめてくる。

 良いってことだよな?

 チュッと触れるだけのキスを、拒絶が無いからと幾度となく繰り返しそっと抱きしめた。 何度も続けた。 一歩踏み込もうとするのを必死に抑えながらも……。

「あの……仕事中ですよね?」

 戸惑いためらいがちに言われて思い出す。

「そう、だった。 残念なことに」

「戻らなくていいんですか?」

 耳を済ませれば、ライオネルの足音を察知出来た。

「あと5m分は平気だ」

 不思議そうに首を傾げるシヴィに、微笑みを向けキスをする。

「そういえば、シヴィに買ってきた菓子……」

 シヴィを抱きしめたまま呟けば、

「ルーカス様にも、気になさるだろうと言われたのですが、アノ方にお出しできる菓子が他になくて、すみません」

「いや、いいさ……そうだ、今度一緒に食べにいかないか?」

「……いえ、お断りします」

 真顔で返された。

「そ、そうか……」

「だって、パーシィと出かけると目立ちすぎますもの」

 言われて苦笑するパーシヴァル。 そりゃぁシヴィ一人でも同じだろう。 本人はいつまでも彼女に向けられる視線を気づかない。 あぁ、まぁ、気づかないでくれてよかった。 可哀そうだが一人で良かった。 でなければ……



 パーシヴァルは血に染まる社交の場を想像した。



 ナイジェルになっていたのは、俺だっただろう。


あなたにおすすめの小説

お姉様優先な我が家は、このままでは破産です

編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。 だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!  愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理! 姉の結婚までにこの家から逃げたい! 相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 そう名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  ✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 ✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん
恋愛
   アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。  何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。  何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。  「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。 しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。 英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。 顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。 ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。 誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。 ルークに会いたくて会いたくて。 その願いは。。。。。 とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。 他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。 本編完結しました! 大変お待たせ致しました。番外編も完結いたしました!

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
公爵令嬢として生まれながら、子ども時代からメイドや周囲の陰謀で、次々と濡れ衣を着せられ、「悪女」扱いされてきたミリアム。 第3王子との婚約を聖女に奪われ、聖女への嫌がらせの冤罪で国外追放された後、平民として生き延びる中で、何度も5年前へのロールバック(逆行)を繰り返すことに。 生計をたてる為に、追放後の平民生活で極めた針仕事が、ロールバックが繰り返されることで、針仕事の能力だけは引き継がれ、天才的な実力を手に入れる。 その時女神「アテナ」の加護を得て、2つの力を手にすることに。 「加護縫い」 (縫った布に強力な祝福を込められる) 「嘘のほころびを見抜く力」 (相手の嘘を布のほころびとして視覚的に捉え、引き抜く、または繕うことで、真実を暴いたり修正したりする) を手にしたミリアムは、5歳の幼女時代まで遡り、2つの力で悪評をぬりかえ、仲違いしていた家族も、加護の力を与えることで協力な味方へと変貌。 さらに、女神から可愛いしもべ「アリアドネ」を授かり、元婚約者と聖女にザマァを狙う中、加護縫いの能力が最も高い人間を王太子妃に迎える決まりのある大国、ルーパート王国の王子が近付いて来て……?

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?